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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
二章 私たちの選択
23/102

私たちの選択

-1-


丁度ラズリアから借りた分を読み終える頃にメイが帰ってきた、もうそんな時間だったらしい。


本の感想としては今の私と妙に重なる部分があるのが嫌だった。


一旦本を脇に置き、玄関の方に顔を向ける。


「ただいまー、お姉ちゃんにただいまって言うの久しぶりだね」


手に持った荷物を置くとベッドに座っている私の横に座る、何故か嬉しそうだ。


「……おかえり、五年ぶりぐらいかな、メイがダレン爺の所出たのがそれぐらいだった気がするし」


言葉に少し悩んで、結局いつも通りに返してしまった。


十五歳になってすぐメイは組合で働き始めた。


その頃になると私もそれなりに稼げる冒険者になっていたから、二人で一緒に部屋でも借りようかと言ったのだが、いい加減迷惑かけられない、と一人暮らしを始めた。


初めはどうなるかと思ったけど、案外何とかなるものだ。


「いつもは私が見送ってばっかりだもんねー」


「昨日の私、何かしてなかった?」


記憶がないのが少し気掛かりだった。


メイに変なことをしていたら素直に謝ろうと思っていたのだが


「……うん、何にもなかったよ?」


少しの間の後そう答えてくれたが、何かを隠しているように見える。


隠しているようなことをわざわざ掘り返そうとは思わないが、少し気になった。


「あ、着替え持ってきたよ、それとラズリアさんにもうちょっとティルのことお願いって頼んでおいたから」


話を逸らすように置いた荷物に一度視線を向ける。


「ありがと、何か言ってた?」


「んー、特に言ってなかったと思うけど、なんかウルベさんに絡まれてたよ」


「……あんまり絡むなって言っておいたんだけどな」

「適当に助けておいたけど、やっぱり年下好きなのかな、ウルベさん」


「守りたくなるような子とか抜かしてたと思うけど、ウルベの話はいいよ、明日何するかまだ決めてないんだけど、何かしたいことある?」


「うーん……折角だし他の街に出掛けるのとかどうかな、どこで何するかは決めてないんだけど」


「じゃあ、適当にぶらつく感じでいいかな」


話が一段落つくとそれからしばらく沈黙が続く。何を話そうか少し考えて


「メイ」


「お姉ちゃん」


間が悪く声が被ってしまった。お互い顔を見合わせると軽く噴き出してしまった。


「先にどうぞ?」


「うん、あのね、お願いしたいことあるんだけど」


落ち着いたところでメイに先に言うよう促すとさっきまでと違って、突然真剣な様子でそう言い、メイの手が私の手に重ねられる。



「あのね、お姉ちゃんに冒険者辞めてほしいんだ」



-2-


「ほら、私ももう一人で暮らしていけるぐらいにはなったし……それにね、私も私なりにお母さんのこと探してるんだよ?仲の良い冒険者の人にお願いしたり……」


次第に言葉が弱々しくなっていく。母さんの捜査依頼が打ち切られてから極力母さんのことを話さないようにしてきた。


周りの人も気を遣ってそうしてくれていた。お互いに、思い出してしまって辛いから、と。


私の方からは……多分見つかるまで話すつもりはなかったし、メイの方も聞いてくることはなかった。


この十二年でメイと母さんについての話をするのはこれが初めてなように思う。


「たまに遠くの方から依頼の人が来ることがあってね、その人に探してもらうようにお願いしたり……きっといつか見つかるはずだから……」


言葉は変わらず弱々しいまま、重ねられた手が少し強く握られる。


「もう、お姉ちゃんが危ない目に遭わなくてもいいんだよ」


返す言葉が分からなかった、考えをまとめようにも上手く纏まらない。


数瞬の沈黙、意図は理解できる。理由も、何となく察しが付く。


ちゃんと話さないと駄目だ。


「……刻紙のこと、だよね」


確かめるように呟くと驚いたような、困惑しているような、そんな表情を一瞬見せ私の手を両手で握り見上げてくる。


「っ……!私は、お姉ちゃんまでいなくなっちゃうのが嫌なの!お姉ちゃんまでいなくなったら、私、一人ぼっちになっちゃうんだよ?冒険者になるって言われたとき、お姉ちゃんまでいなくなってしまうんじゃないかって、どこかに行ったままお姉ちゃんまで戻ってこないんじゃないかって、ずっと不安だったんだよ?」


私は、私のわがままで冒険者になった。母さんに会いたくて、母さんと一緒にいたくて、メイを一人にしてしまうかも知れない、それでも母さんに会いたかった。


「お姉ちゃんに冒険者なんて危ない仕事やってほしくないよ、でもお母さんを探すためだから……わがままだって分かってる、けど……もう、お姉ちゃんが頑張らなくてもいいんだよ」


次第に言葉が要領を得なくなり、感情が漏れ出してくる。


涙ぐんだ目で私を見上げ、懇願するように両手で私の手を包む。


きっと、十二年前からずっと心配させていたんだろう、と思うと自分が嫌になる。


「そうだね……メイのこと、もっと考えてあげなきゃいけなかった、私はお姉ちゃんなのに……でも、まだ駄目なんだ」


「……なんで?私は、お姉ちゃんが心配で……」


「やっと、見つかったんだ、母さんの手掛かり」


メイの言葉を遮って伝えると嬉しいような、困ったような、何とも言えない表情になっていた。


「アルナイルさんに調べてもらってる、何か分かると思う」


「……でも、また」


口ごもるメイを頬に手を添え、真っ直ぐに見つめると潤んだ赤い瞳がじっと私を見つめ返す。


「だから、これで最後にするよ、お願い」


「……わかった、絶対だよ」


「うん、絶対」


約束を終えるとメイは深く息を吐いて乱暴に目を拭う。


気を取り直すようにもう一度深呼吸すると


「えっと、じゃあ、お姉ちゃんの番だよ?」


いつもの調子に戻ったメイが首を傾げながらそう言ってくる。


「私もお願い……というか、相談したいことがあってね」


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