メイの魔法教室
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「じゃあ基礎から行こっか、理屈とか原理とか所謂座学ってところだね、魔法って言うのは魔力を別の形に変えて何かを起こすこと、例えば火を起こしたり、水を作ったり、怪我を治したりだね」
「魔法基礎」と書かれた本を私たちの前に広げ、指を立てながらいくつかの例を挙げる。
「魔動機入門」にも似たようなことが書いてあったか。確か道具を使う必要があるかどうかの違いだ。
「魔具を使えばいいじゃないか、って人もいるんだけどね、魔具と違って魔法は基本的に道具を必要としないから、簡単なのだけでも使えるようになってると便利だよ」
話を一度区切ると何か聞きたいことが無いか、と言った様子で私たち二人の顔を交互に見る。
「道具を使う魔法もあるの?」
基本的に、と付け加えられた説明が気になった。
「えっと、魔法を補助するために使うって言い方のが正しいかな?魔具のことは分かる?」
頷くと話を続け
「魔具だと作ったときに刻まれた魔法陣の魔法しか使えない代わりに効果が安定してて、判子みたいな物って言えば分かりやすいかな」
本を捲り、図の書かれた頁を開けた。見覚えのある図が載っているが細部が少し違う。
「魔具が判子だとしたら魔法は手書きって感じかな、少し手間がかかるけど判子と違って何でも自由に書ける感じ、道具を使う魔法は例えば真っ直ぐに線を引きたいから定規を使う、みたいに何かの魔法を使いやすくするために使われるんだよ」
魔具や魔動機のことを教えてもらう時にも同じような事を言われたがなかなか分かりやすい例えだ。
「それから、これが一番大事なことなんだけど魔力の形を変える、って言ったけどこれに必要なのが思い浮かべること、イメージって奴だね」
念押しするように再度指を立て
「例えば火を起こしたいって時には火を思い浮かべながら、水を出したいって時には水を思い浮かべながらって感じに、細かいことを説明すると長くなるんだけど、基本的にはこれで大丈夫だよ」
そう言いながら指先に小さな火が灯ったかと思えばその火が水球に代わり、指を小さく振るうと消えた。
「まぁ結局大事なのは慣れなんだけどね、ちょっとずつ慣れていったらいいよ」
試しに私もメイのやっていたように指を立て、指先に意識を集中させる。想像するのは火、さっき見たような小さな火。
しかし、少し指先を睨んでみても変化はない、そもそも今は力が無いのだから当然といえば当然なのだが。
「ティルにはまだ早いかなぁ、昨日見てみたけどまだ使えるぐらい魔力発達してなかったみたいだし」
見てみた、と言われたが昨日傷を治してもらった時だろうか。傷の消えた手を一度眺める。
「魔力が発達するのも個人差あるから、私はティルぐらいの時にはあったけどラズリアさんはいつぐらいだった?」
「私は12とかっすよ」
「やっぱり個人差あるなぁ、あんまり実感湧かないかも知れないけど、良かったら覚えていってね」
-2-
「……座学はこんな所かな、一気に説明しちゃったけど分かんないところとかなかった?」
お互い、メイが話終えるまで特に質問することもなく終わった。
よくわからないということがよくわかったと言うか、それに近いものを感覚的に使っていたから丁寧に説明されても理解し難い。
「えーっと、自分以外の誰かに魔法を使うにはその人に魔力の波長?を合わせてやらないと魔法が効きにくくて……」
ラズリアは本を睨みながら、さっき教わったことを確認するように繰り返している。
ラズリアが繰り返しているのは魔力を火や水に変えるものでなく、治療などに使う場合についての話だ。
自分に使う場合には、自分の魔力だから特に問題なく魔法の効果を受けられるが、他人に使う場合はそのまま使うとその人の魔力と反発してしまい効果が出にくいらしい。
だから魔力の波長とやらを合わせてやる必要がある、波長の合わせ方も言っていたがやはり実感が湧かない。
合わせるのが苦手なら相手に自分の魔力を分け与えてそれを利用するというのも言っていた。軟膏のような感じだろうか。
また害意のある魔法……その時は具体的な例を出さなかったが、それを受けたときには意識を保つのが大事なのだと言う。
魔法とは精神的な物なのだろうか。
「……害意のある魔法ってどんなの?」
ラズリアがしているように教わったことを再確認しつつ、気になったところをメイに聞いてみる。
「えーっと……ティル、ちょっと手出して?説明するよりは早いだろうから」
少し悩んでから私の方に手を差し出す。一昨日したように怪訝な表情を浮かべ手を置く。あの時は確か手の甲が暖かいような感覚だったが。
「……私からこういうことされたって言わないでね?ちょっと気持ち悪いだろうけど」
そう言ってメイが手を軽く握ると何か強烈な違和感が指先から流れ込んでくるのが分かった。それと同時に突然強烈な眠気が襲ってきた。
瞼が重い、意識が霞む、ぼんやりして体を起こすだけの力が入らなくなった、机に肘をつき腕を枕にする。
体の中にある異物感が気持ち悪い、眠ってしまえば体が楽になるような気がする。
「治すね」
メイがそう言うと少しずつ意識がはっきりしていくのが分かった。
指先から心地よい暖かさが体の中にある異物感を消していく。それが少し続くとさっきまでの眠気が嘘だったように無くなっていた。
「こんな感じ、気持ち悪くない?大丈夫?」
体を起こし小さく頷く。
「むー……要は慣れなんすよね?」
本からメイに視線を移し、一連のやり取りを横で見ていたラズリアがそう言う。声音から僅かに理解を諦めたのを感じた。
「まぁそうなんだけど、基礎が出来てないと応用も効かないから覚えておいた方がいいかな」
「なかなか、難しいっすね……」
「今度時間出来たときは実際にやってみよっか、やってみたら案外楽だったなんてこと結構あるし」
苦い顔でそう言うラズリアを宥めるようにメイが言い本を手に取ると
「丁度いいし今日はここまでってことで、お疲れ様」
軽く手を振りながら受付の奥に歩いていった。
「おつかれっしたー、ティルはメイさんの言ってたことわかったっすか?」
「あんまり」
見栄を張る理由もないし事実を伝えると何故か嬉しそうだった。
「やることなくなったっすけど、何かやりたいこととかあるっすか?無かったら買い物してから帰るっすけど」
やること、思い返してみれば昨日一昨日とでこの街の大体の場所を見て回ったことになるのか。
一先ず見識を広げたい、幸いラズリアは魔動機や魔具について詳しいらしいし、その辺りのことを聞いてみるのでもいい。
魔具は魔法を簡単に使うための道具、だったか。ラズリアはそうではなかったが、魔具に詳しいなら魔法にも詳しいのだろうか。
「昨日の魔具の店行きたい」
「じゃあお昼からはベルさんの所っすね、先に買い物済ませるっすよー」
立ち上がるラズリアを見上げ、両手を広げてみたが不思議そうに首を傾げるだけだった。




