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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
二章 私たちの選択
18/102

狐と猫と

-1-


用事が出来たというシルヴァーグと別れた。何か心配している様子だったが、まぁ気にしても仕方ない。


ラズリアに少しの間面倒を見て貰うことになったのだが、別にいいと答えると何故か嬉しそうだった。


それからは店の中にあった魔具をいくつか説明してもらった。


展示されていた石は魔力を込めてやると傷の治療が出来たり、爆発が起きたり、火を起こせたり、色々だった。


使い捨てなのが欠点なのだが、単純な構造で作りやすいのが利点だそうだ。


初めて魔具を作るってなった時に最初に作らされるのがこれらしい。単純だが奥が深いとか何とか。


それからは特にすることも無いので晩飯の買い物をしてラズリアの部屋に戻ることになった。


昨日来たことのある店で買い物をしたとき、店員のほとんどが私のことをラズリアに聞いてくるのだが、話し掛けられると思っていなかったのか要領を得ない説明をしていた。


二回目からは少し慣れたのか、落ち着いていたがそれを数回繰り返し、やっと買い物を終えるとひどく疲れた様子だったが人付き合いが苦手なのだろうか。


「大丈夫?」


「だいじょばねえっす……普段使わない力使ってるっすよ……」


労い代わりに軽めの荷物を一つ持ってやった。


ラズリアの宿は東門の側、大通りから少し離れた場所にある小綺麗な家の二階の角部屋だ。


入ってすぐに部屋を物色するのは自分でもどうかと思ったが、まぁ気にはしないだろう。


寝床に厨房に廁と一通り揃っている。それから湯の出る管とそれを使う部屋があるようだ。戸が他と違うからすぐに分かる。


部屋の隅の方にはシルヴァーグの部屋で見た氷を作れる魔動機やかなり大きめの収納棚などが置かれているが、棚の中身は入っていなさそうだ。


それから部屋がごちゃごちゃしている。いくつもの箱が雑に置かれていて移動するために開けられた所が道のようになっていた。


いくつかの箱は上側が開けられていて、中身を覗いてみると服や本が入っているようだった。


この部屋を一言でまとめるなら


「汚い」


「そこは言わないでほしいっすよ、こっちに来たばっかりなんすから」


私から荷物を受け取ると慣れた様子で箱を飛び越え、背負っていた鞄を部屋の中央にある机に置く。


「とりあえず晩御飯っすかね、ティルはのんびりしてていいっすよ、暇ならそこの本持っていっていいっすから」


買い物した袋を片手に抱え、私の近くにあった箱を顎で指す。どうやら中身は本のようだ。


先に片付けじゃないのか、と思ったがまぁいい。言われた通りのんびりしていよう。


「発掘魔動機傾向調査録」


「大型魔動機・大型魔具解説」


「何故魔動機技術は衰退したのか?」


いくつか気になった物を脇に避けているが、ここに入っている本はほとんどが魔具や魔動機に関する本のようだ。


その中から数冊抱え、一度部屋を見渡す。落ち着いて本を読めるのは寝床ぐらいだろうか。一先ずそこに向かおう。真っ直ぐに向かえないせいで少し遠回りをすることになる。


まぁ、何にしてもラズリアと普通に会話を出来る程度には近付けて良かった。まだ少し距離があるが、大して問題にはならないだろう。


「あだっ……!」


考えながら歩いていると箱の角に派手に足をぶつけた。



-2-


「ん……」


目が覚めた、ラズリアと同じ寝床で寝ているせいで少し窮屈だ。ラズリアの寝相が良くて助かった。


日はそれほど高くないらしく、帳を抜けて窓から差し込む日はそれほど明るいものではない。


昨日は不味くはない晩飯を食べた後片付けを手伝った。


ラズリアの料理は店で食べたものやシルヴァーグの作った物には劣るが、まぁ不味くはなかった。


野菜と卵と肉を炒めて味付けしたものとパン、決して不味くはない。重ねて言うが不味くはない。シルヴァーグは料理が上手かったのだな、と思っただけだ。


薄暗がりの中、体を起こし多少は綺麗になった部屋を見渡してみる。


部屋の中にあった箱で出来た道はもうない。平たく潰された空箱が壁際に寄せて積まれてる。


箱の中身を棚に入れては空いた箱を壁に寄せを繰り返すだけだったのだが随分と時間が掛かった。


本を片付けようとする度に中身を少し読んでいたのが原因だ、一緒になって読んでいたがなかなか面白かった。


私が気になった本について聞くと片付ける際にどういう本なのか簡単に説明してくれた。


しかし改めて見ると凄い本の量だ。箱の中身のほとんどが本だったように思うし、壁際に置かれている棚には本が敷き詰められている。


本以外だと卓について使う遊戯用の道具、賽を使うものや何枚もの札を使う物などがいくつかあった。


何人かで出来るものや、一人で遊べるものなど様々だった。


部屋の中で暇を潰す道具が充実しているのが気になった。理由を聞いてみると


「今はこんなっすけど昔は体弱かったんすよ、外に出れなかったっすから買ってきてもらった本を読むとかゲームで遊ぶとか、それぐらいしかやることなかったんすよ」


とのことだった。自分の持ち物はほとんど持ってきたらしい。それにしたって随分と多いように思う。


ラズリアはまだ寝ている。起こすのも手間だし、起きるまでの間本でも読んでいよう。


起こさないよう静かに降り、椅子を抱え本棚に向かう。


魔動機や魔具の本はどこに仕舞っていただろうか、昨日読んでいた本とは別の本を読みたいのだが見当たらない。


探すのも手間だし仕方なく、という程ではないが目についた昨日ラズリアが好きだと言っていた本を取り出す。


実話を元にした本らしい、この本を片付ける時に嬉しそうにそう説明してきた。


実話が元となっているのなら読めば少しは見識が深まるだろうか、これにしよう。


ラズリアが起きたのは本を読み始めてしばらく経ってからだった。具体的に言えば本を一冊読み終え、次の巻を取りに行こうとした所で起きた。


帳から差し込む日は明るくなっていて、明かりをつけなくても部屋全体が明るい。


それからは私がラズリアの好きな本を読んでいるのを喜んだ後、朝食を作るのを面倒くさがったラズリアが組合で食べようと言い出した。


ラズリアが作るより店の飯の方が美味いからそれで構わないのだが、あまり高いものを頼まないように念押ししてきた。


-3-


「魚串と日替わりサンドですねー」


注文を終えるとラズリアが短く息を吐いた。何を緊張することがあるのか知らないが緊張している様子だった。


昨日の買い物中もそうだったが人付き合いが苦手なのだろうか、シルヴァーグとメイに対しては普通に接していたように思うし、初対面らしいベルに対しても普通に話していたはずだが。


私が日替わりサンドを待っていると正面の椅子に誰かが座った。


目立つ薄緑の鎧を纏った赤黒い髪の男、確かウルベとか言ったか、シルヴァーグが嫌っている冒険者だ。


「え。あ、おはようございます、えっと、ウルベさん、っすよね?」


まさか誰かが話しかけてくると思っていなかったのだろう、不意を突かれた様子で戸惑いつつも挨拶を返した。


「おう、おはよう、名前を知られてるとは思わなかったわ、新しい子だよな?仕事のことで何か分からないこととかあったら聞くぜ?」


初対面の癖に距離感を無理に詰めようとしている様に感じる。先輩風を吹かせたいのか、それとも他の理由か。


「ラズリアっす、えっと、大丈夫っすよ、せんぱ……シルヴァーグさん見てないっすか?」


シルヴァーグの名前が出てくると座ったまま店内を見回し


「……いや、今日は見てねえけど、なんか用?」


「待ち合わせしてるんすよ、組合で待っててって言われたんすけど」


「おっまたせー、魚串と、日替わりサンドね、珍しい組み合わせだね」


話の途中だが、メイが頼んでいた料理を持ってきた。料理の名前を言いながらどっちが頼んだのか確認するように私とラズリアの顔を見る。


魚串の時にはラズリアが小さく手をあげ、皿をラズリアの前に置き、残った日替わりサンドを私の前に置き、水の入った杯を二つ並べた。


魚串は名前の通り、焼き魚が串に刺さっているだけの単純な見た目だ。見たこともない魚だが美味いのだろうか。


日替わりサンドの方は一昨日とは違い、何か平たい揚げ物と野菜らしい物が一緒に挟まれている。見た目の時点で既に美味そうだ。


「おう、メイちゃん、シルバ見てねえ?」


「あ、そうだ、伝言頼まれてるんだった、急な仕事ができたからもうしばらく預かってて、だって」


……嘘を吐いている、そう感じた。


日替わりサンドを食べながら視線を向けてみる。何かを隠しているか、取り繕った様に見える、別にどうだって構わないが。


「なるほど、了解っす」


「あーなるほどなー新人の子の面倒を誰かが見ないといけないなー」


「それは大丈夫かな、この子の面倒見ないと行けないから仕事も入れないし、街の案内もしてもらった筈だし」


わざとらしいウルベの発言に対して、一度私に視線を向け次いでラズリアを見た後ウルベに視線を戻すと腰を曲げ、笑みを浮かべると


「そんなことよりウルベさん、頼みたい依頼があるんだけど、大丈夫かな?」


「おう、任せとけ」


メイが姿勢を戻すとウルベは立ち上がり


「何かあったら遠慮せず言ってくれよ、じゃあな、ラズリアちゃん、メイちゃん、それと……」


そう言えば名乗っていなかったか、食べるのを一度止め水で押し流す。


「テイルス」


「あん?いやいいか、じゃあな、ティルちゃん」


何か引っ掛かる様子だったがすぐに気にせず、受付の方へ上機嫌な様子で歩いていった。


ウルベが席を離れるとさっきまでウルベが座っていた場所にメイが座ると同時。


「一昨日はお世話になりました……!」


机に手をつきラズリアが深々と頭を下げた。


「気にしなくていいよ、あのまま帰るわけにも行かなかったし」


手を軽く振り、頭を上げるよう手で促す。


「ご飯食べた後って時間大丈夫かな?魔法教えようと思ってたんだけど」


「大丈夫っすよ、お願いします!」


魔法、何度か耳にしているが結局何なのかはっきりしていない。失った力と同じような物、という程度の認識だ。


これまて読んだ魔具や魔動機の本には魔法についての詳細な記述はなかった。分野が別なのだろうか。


「私も」


「うん、いいよ、ラズリアさんもいいよね?」


「大丈夫っすよ、とりあえずさっさとご飯を……ってティル食べるの早くないっすか?」


話している間もずっと食べていたんだから当たり前だろうに。


特に言葉も返さず、杯を傾けた。


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