私の選択
-1-
ラズリアにティルの着替えの入った鞄を渡し、明日組合で待っているよう頼んだ後、メイの部屋の前まで来た。
持ってきた荷物はラズリアが貸してくれた本を入れた袋だけだ。部屋に置いてきてもよかったが、戻るのが面倒くさかった。
「メイ、いる?」
扉を叩きメイを呼ぶが反応はない。休んでいるのなら外に出ている、なんてことは無いと思いたい。
もう一度扉を叩こうと思った時、内鍵が外れる音が聞こえ僅かに扉が開いた。
扉の隙間からメイの綺麗な赤い瞳が私を見上げていた。気のせいか少し目の回りが腫れぼったい様に見えた。
「……お姉ちゃん?」
「休んでるって聞いたから様子見に来た、今大丈夫?」
自分の後ろを一瞥すると
「えっと、ちょっと待ってて」
「ん」
扉を閉めると部屋の中が少し騒がしくなった。それから少しして、扉が開けられ
「あんまり掃除できてないけど、どうぞ」
そう言ってわざとらしく中に招くような仕草を取ってみせた。
部屋に入り軽く見渡す。ベッドに机、大きめの棚にクローゼット、キッチンが一つの部屋に纏まっているワンルームの部屋だ。
全体的に清潔感のある白色で纏められているのだが、ベッドの下に押し込んだだろうごちゃごちゃした物がはみ出ている。
「久しぶりに部屋に来た気がする」
「組合で会うことの方が多いもんね、お姉ちゃんの部屋には結構行ってるんだけど」
荷物を机に置き、ベッドに腰掛けながら話すとメイがその隣に座る。
「何かあった?」
「……ううん、何にもないよ、ちょっと調子悪かっただけ」
「ならいいけど、晩御飯は?食べてないんなら何か作るよ」
そう言ってメイの方を見ると何かを考えている様子で視線を少し上に向けていた。
「そういえば、お姉ちゃんとお酒飲んだこと無かったよね?」
自分の記憶を振り返ってみるが、確かにメイと一緒に酒を飲んだことは無かったか。
メイが働きだしてから一緒に何かをする、ということが極端に少なくなってしまったように思う。
組合で話をしたり、組合で一緒に食事をしたり、たまに部屋まで依頼を持ってきたりはするが基本的に仕事中でどちらも休みというのがほとんど無かった。
どちらかが仕事だったり、空いたときに限って急な仕事が入ってきたりする。明後日は大丈夫だと思いたい。
「お姉ちゃんはまだティルの面倒見るから仕事いれないんだよね?」
「一旦ラズリアに面倒見てもらってるけど、まぁそのつもり」
そう伝えると何故か嬉しそうな笑みを浮かべ
「お姉ちゃんが酔ったらどうなるか、私見てみたいなぁ?」
暗に酔うまで飲めと言われた。
「……別にいいけど、後処理とかその辺のこと任せるよ?」
「じゃあ、買い物行こう?」
そう言って勢いよく立ち上がり私の方に手を差し出してきた。
何か、違和感があった。何が違うかは分からないけど、何か違うと思った。
-2-
お姉ちゃんとお酒を飲み始めてから随分経った。
机の上に置けなかった空き瓶が床に散らかっていて、机の上には二人で作った料理が少し残っているのと空けられた瓶がいくつも並んでいる。
普段と違って今のお姉ちゃんはふにゃふにゃしてる。そんな姿を見れるのが少し意外で面白かった。
紅潮した頬に座った目で机に顎を乗せてすぐ横に置いてある小瓶をぐらつかせて遊んでいる。
私がお願いしたっていうのもあるんだけど多分、酔ってる、と思う。
「大丈夫?」
「んー……だいじょぶ」
軽く肩を揺すり声を掛けるとはっきりしない言葉で返事を返してくれた。
私の事を心配して家まで来てくれたのが嬉しかった。久しぶりに一緒に料理出来て楽しかった。
お姉ちゃんがメルヴィアにいない間にあったこととか他の街の事とか、お互いの仕事の愚痴とか、今日あったこととか、ラズリアさんのこととか、いろんな事を話した。
一緒に過ごすなんて本当に久しぶりだったから、たくさん話した。
でも、思い出すだけで苦しくなる。もしかしたらを考えてしまって涙が溢れそうになる。
「……こんな所で、寝ちゃダメだよ、ほら、立って?」
昨日のことを思い出して少し声が震えてしまった。お姉ちゃんの手を引くと姿勢はそのまま、私の方を見上げ
「だいじょぶ?」
「……私は、大丈夫だよ」
一度呼吸を整え、普段通りの声音を作りそう言うとやっと体を起こしゆっくりと立ち上がった。
真っ直ぐ立っているのに体が少しふらついていて、支えてあげないとそのまま倒れてしまいそうだ。
「ほら、こっち、歩ける?」
「んー……」
手を引いて誘導してあげると覚束ない足取りで着いてくる。
後少しでベッドまで着く、そんな所で
「お?」
転がっていた瓶に躓いたお姉ちゃんが倒れ込んできた。
勢いもそのままに、ベッドに押し倒される形になってしまった。
覆い被さるようにお姉ちゃんが私に影を作って、目の前にお姉ちゃんのふにゃふにゃした赤い顔があって、すごくドキドキする。
「あ、ごめん」
遅れて謝るお姉ちゃんがもぞもぞと体を退かそうとしたところに少し力を込める。
今度はお互いがベッドに寝転がったまま向かい会う形になった。
「んん?」
状況がよくわかっていないお姉ちゃんが困った表情で私のことを見ている。
しちゃいけないことなのは分かってる。それでも、私は……
お姉ちゃんの両頬に手を添え、視線を合わせる。深い藍色の綺麗な眼がぼんやりと私を見つめている。
「……メイ?」
こんな近くで私を呼ぶお姉ちゃんの声を聞くとすごいドキドキする。
額同士を触れさせ、目を閉じる。額同士が触れると自分の顔が熱くなっているのが分かる。
こうでもしないと、きっとお姉ちゃんはまた危ない目にあってしまうだろうから。
「ごめんね」




