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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
二章 私たちの選択
16/102

メルヴィア観光 午後の部

-1-


ラズリアに店を紹介するより先に丁度いい時間だしお昼を食べることにした。


特に食べたい物も思い付かなかったらしいので近くにあった丼物の店で三人でそれぞれステーキ丼を頼んだ。一番人気らしい。


「結構量ある感じっすけど大丈夫っすか?」


「だいじょぶ」


自信ありげにそう言うし、昨日のを見ると本当に大丈夫だろうと思う。


「食べ終わったら北の方に行くけど、何か見たいのとかある?」


「やっぱり魔具とか武具っすかね、後は本屋とか」


「私も本見たい」


魔具はダレン爺の所を紹介すればいいとして、武具はどうしようか。


ミスリル製の魔具を持ってきているおかげで武器に不足はない。予備として持ってきていた剣も問題ないだろう。


かなり使いこなしていたから他の武器種をオススメする必要も無さそうだ。


一昨日のラズリアの装備を思い出すが不足らしい不足は無い、身のこなしが軽いからあまり着込むと邪魔になる。


武具に関しては点検と修理をしてくれる所を紹介する程度になるだろうか。


それも結局ダレン爺の店でやってることだ。念のため他に二軒ほど紹介するだけでいいか。


私から誘っておいてなんだが、ラズリアに紹介することがあまりない。上手い飯屋でも紹介しようか。


「ステーキ丼三つね」


「でかっ」


それから少しして料理が運ばれてくるとラズリアが思わず声を漏らした。普通サイズの物を頼んだはずだが確かに丼がかなり大きい。


ティルは相変わらず無表情だが尻尾が忙しない。丼に視線が釘付けになっている。


厚く切られたステーキが敷き詰められていて下のご飯が見えない。一昨日食べた肉尽くしと肉の量で結構いい勝負するんじゃないだろうか。


私はスプーンを、二人は箸を手に取り食事を始めようとした所で


「やっぱりティルって箸の持ち方綺麗っすよね、ほら」


比べるように自分の手とティルの手とを近付け並べる。


普段箸を使わないから基準が分からないが、ティルの持ち方とラズリアの持ち方とに違いは無いように見える。


「違わないように見えるけど」


「私と一緒の持ち方してるんすよ、私の家、親のしつけが厳しかったんでこういうことにうるさかったんすよ」


「……もういい?」


食べるのを止められたからか、不満そうにティルが言った。



-2-


「おぉ」


本屋に着くと嬉しそうにティルが声を漏らした。


メルヴィアにはいくつか本屋はあるが、ここは北の商業区にある小さな本屋だ。


私たちの他に客はいないが、いつもこんなものだ。


部屋を仕切るようにいくつかの大きな本棚が置かれていて、どの棚も本で一杯だ。


本がきちんと陳列されていて目的の本が探しやすいって言うのと店の人が本に詳しいからこんな本があるか聞いてみるとそれに近い本を教えてくれたりする。教えてくれなかったりもする。


他の店では扱っていないような珍しい本を扱っていたりもする。


結構古い店で裏にある蔵を漁ってみると絶版になった古書や販売停止になった教本なんかが見つかったりもする。


なんでこんなにいい加減なのかと言えば、店主の婆さんがかなりいい加減だからだ。


きちんとしてるのは本の陳列だけ、なんて自分で言うぐらいにはいい加減だ。


「なんか、隠れ家みたいでわくわくするっすね!」


「ここは店の人が本に詳しいから、何かあったら気軽に聞いてみるといいよ」


さっきからティルは楽しそうに本棚を眺め、並べられた背表紙を目でなぞっている。


一つの棚を眺め終えると次の棚に、と忙しない。何か探しているんだろうか。


「来る途中にもう一件本屋があったと思うけど、古い本を探すんだったらこっちで、新しいのを探すんだったら向こうって感じで使い分けるといいかな、ここ新しいのなかなか入らないから」


改めてティルの方に視線を向けると早くも奥のカウンターに座っている婆さんに何かを聞いている様子だった。


私たちの横にあった棚を眺めるとお目当ての本が見つかったのか、手近な本を一冊手に取ると両手で抱えてまた奥に行ってしまった。


ティルの見ていた棚の本を見てみると


「美味い肉が食いたい」

「お鍋一つで作れちゃう!?お手軽簡単レシピ!」

「あると便利なキッチングッズカタログ」


すぐ横は料理の棚だったみたいで他にも料理関係の本が並んでいる。……食い意地が強い、次からは料理本見ながら何作るか決めようか。


「それと、奥に本読めるスペースあるから、さっきティルがしてたけど気になる本あったらそこに持っていっていいよ、あんまり買わないでいると婆さんが拗ねるけど」


「了解っす、先輩って普段どんな本読んでるんすか?」


「私は……仕事で使いそうな事の本と、それから料理関係の本が多いかな、料理好きだし」


近くにあったカタログを例えの一つとして手に取り、ラズリアに見せる。


「ラズリアは?」


「私は冒険譚とか大好きっすよ!そういうのに憧れて冒険者になったみたいな所あるっすから!」


とりあえず同じ質問を返すと嬉しそうに答えた。何となく話すと長くなりそうなのが分かった。


ラズリアの冒険譚談義を軽く流しつつ、婆さんに挨拶だけして早くティルと合流しよう。


「『ずっと昔の冒険譚』って本知ってるっすか?あれ大好きなんすよ!」


結構有名な本で何度かリメイクされたり、演劇になって上演されたりしている。


確か最後はみんなが平和に暮らせる街を作る話だったはずだ。


「演劇は見たことあるけど、本は読んだことないな」


「それは勿体無いっすよ!今度持ってくるんで是非読んでほしいっす!」


まだ本を借りてないのに次の本を借りるのが決まってしまった。


それ以上答えを返さず、足早にカウンターに向かう。


「おぉ、シュミルかい、さっき来たのはお前の娘かい?大きくなったねぇ」


「違うしあの子とは初対面だしシュミルまだ結婚してないし色々間違えてるよ、婆さん」


「分かっとるよ、まだそこまでボケちゃいないさ、そっちの嬢ちゃん共々ゆっくりしていきな、冒険譚ならそこの棚だよ」


そう言って手で棚を指差すとニカッと笑い白い歯を見せつけてくる。


ラズリアはというとさっきまでの勢いが嘘だったように萎んでいて


「……あざっす」


小さく一礼するだけだった。相変わらずよく分からない人見知りだ。


婆さんとのいつものやり取りを終え店の奥に改めて進み、椅子に座って本を読んでいたティルの隣に座る。


ラズリアはさっき言われた棚を眺めているようだ。少し待てばこっちに来るだろう。


「どんな本?」


本を開きながらそう聞くと態勢はそのままに本の表紙を見せてくれた。


「料理から見る国の文化」


分厚い古めかしい本だ。中身を少し覗いてみたが、昨日見たのとは違って写真は少なく、ほとんど文字だけの本のようだ。


少し見ただけでも作られる料理の違いから文化やら何やらを研究したとか小難しいことが書いてある。


「他の奴の方が良かったんじゃない?」


「これでいい」


何か意図があるらしいがよく分からない。子供特有のよくわからない意地だろうか。


「それは?」


私がしたように視線を本に向け質問を繰り返す。こっちも同じように表紙を見せ


「キッチン用具のカタログ」


それはそれで興味があるのか、ずいっと顔を寄せてきた。



-3-


ここでの買い物はラズリアが本を買ったのみ、となった。


前から探していた本が全巻見つかったとかで本人はご満悦の様子だ。


かなり古い本のようで、どんな本なのか聞いてみると魔動機で変身して戦う本、らしい。よくわからない。


今度はダレン爺の店を紹介する予定だったのだが


「なんでお前がいるんだよ」


店に入って最初に言ったのがそれだった。


「悪いこたぁねぇだろ、今日は客だぜ?」


店の戸を開けてすぐの所で武器の棚を眺めているウルベがいた。休みなのかやたら目立つミスリル鎧は着ていない。


「いらっしゃーい、二日連続とは珍しい」


私たちが入ってくるとカウンターにいるベルが軽く背筋を伸ばす。


ウルベは無視して手早く紹介を済ませてしまおうか。


入り口で固まっている訳にもいかないので、とりあえず奥の方へ二人を連れてくると


「ここが私が普段お世話になってる魔具屋、場所が分かりづらい以外は良い店だよ、仕事で使いそうな魔具は大体取り扱ってるかな、魔具店って看板出してるけど武具の点検とかもしてるから」


「……ウルベさんがさっきからずっと見てるけど」


説明の途中だが、ベルが割り込んできた。


ベルの指摘を受けて視線を向けるとウルベは私に向けて小さく手招きしてくる。


「ごめん、ちょっと待ってて」


内心面倒くさく思いつつもウルベの方へ歩く。わざわざこのタイミングで私を呼ぶ理由がわからない、多分大したことじゃないんだろう。


近くまで来ると店の隅に体を向け、何か隠し事をする様子で再度手招きをしてくる。


仕方なくその隅に体を寄せると私にだけ聞こえるような小さな声で 


「どういうあれだよ、あの黒髪の可愛い子」


話の内容が分かった所でこの場を去ろうとしたが肩を掴まれ、引き戻された。


「またそういう話か、いい加減懲りろよ」


釣られて、と言うわけではないが私も自然と声が小さくなっていた。あまりラズリアに聞かせるべき話ではないだろう。


「教えないつもりだな?なら情報交換と行こうぜ、俺はお前が知っておきたい情報を知っている」


「誰基準だよ、納得したら教えてやる」


「何だかんだで教えてくれるかもしれない辺り優しいよな、メイちゃんのことなんだが、昨日早退して今日も休んでるらしいぜ」


ウルベの言う情報は確かに私が知っておきたい情報だった。昨日朝会った後に体調でも崩したのだろうか。


「……新しく入った子だよ、あんまり絡むなよ、人見知りする子だから」


「見覚えがあると思ったら新人ちゃんか!ありがとよ!」


約束通り教えてやると納得した様子で背筋を伸ばし、無駄に私の背中を一度叩くと何故かすっきりした様子で店から出ていった。


「……何しに来たんだ、あいつ」


訝しげにウルベの後ろ姿を眺めながら二人の方に戻るとベルとラズリアが仲良さげに話していた。相変わらず打ち解けるのが早い。


カウンターの上にはラズリアが買っていた本が一冊置かれていて、その本について二人で話していたようだ。


話に興味が無かったのか、ティルは話に混ざらず近くの棚を眺めている。


私が戻ってきたことに気付いたラズリアが視線を一瞬向けてくると本を仕舞い


「おかえりっす、ベルさんから聞いたんすけどさっきの人先輩だったんすね!挨拶とかした方が良かったっすかね?」


「ただいま、別にいいよ、そういうの気にしないだろうし、あんまり関わらせたくないし」


「なんかあるんすか?」


ベルの方に視線を向けてみると


「いやいや、流石にそこまでは言わないよ」


そういう説明まではしてないらしい。他の人になら別に言わなくてもいいだろうが、念のためラズリアには教えておこう。


「紹介状持ってくる奴は大体ろくでなし、って話覚えてる?」


「あれっすよね、厄介払いみたいな使われ方してるって奴っすよね」


「その時に上司の嫁に手出した奴って言ったと思うんだけど、あれのことだから」


「おおぅ……」


ラズリアの表情が一瞬で曇った。店の扉の方を一瞥すると確認するようにベルの方に顔を向ける。


それに対して何も言わず、肯定するように無言で親指を立てた。


「それからちょっと用事出来たから、ティルのことお願いしてもいい?無理なら孤児院で預かってもらうけど」


「……私は別に大丈夫っすけど、ティルは大丈夫っすか?」


「別にいい」


少し不安げにティルを見たラズリアに構わず、ティルはやや食い気味にそう答えた。


仲直りというか、不仲が解消されてるようで良かった。


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