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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
二章 私たちの選択
15/102

メルヴィア観光 午前の部

-1-


いつもと変わらない時間に目が覚めた。


体を起こし、眠っているティルを起こさないよう静かにキッチンに向かう。


ダレン爺の店を出た後は特に用もないし、ティルもやりたいことがないから家に戻ったのだが、食事の時以外ずっと本を読んでいた。


貰った本を一通り読み終えたのか、今度は私の部屋の本棚を物色し始めた。


見られて困るような本は置いて無いが、冒険者になってから買った子供向けではない小難しい本が多い。


魔物の生態とか植物図鑑とか魔具のカタログとかの仕事に使う本、それから料理の本ばかりだ。


料理の本と魔具のカタログは写真が多いから大丈夫だろう、とその二冊を渡し一緒に読んだ。


読んでいて気になることや分からないことがあったら答えたり、この料理を食べてみたいとかそういうことをして過ごした。クリミナ料理の本じゃなく他の国のを持ってくるべきだった。


今日はラズリアにこの街の案内をする日だ、ティルも増えたがやることに代わりはない。


朝食を食べてから組合の前で合流することになっている。昨日は顔を見れなかったが今日は流石に大丈夫だろう。


ともかく朝食だ、とりあえずパン、それから昨日作ったスープを温め直そう、結局味の好き嫌いは分からなかったが昨日の様子だと好き嫌いは特に無さそうだ。


昨日も私の作った料理を相変わらず表情を変えず、尻尾を大きく揺らしながら残さずに食べてくれた。


「さて、どうしようかな」


パンとスープだけでは物足りない、あと一品、何か欲しい所だ。


冷蔵庫の中身を眺めながらあと一品を考える。


昨日ベーコンのブロックをおまけしてもらったからベーコンを使いたい、そうなるとあと一品が自然と決まってくる。


あと一品が決まった所で冷蔵庫からベーコンのブロック、それから卵を二つ取り出す。


朝食と言えば、というほどではないが、ベーコンエッグを作ることにした。洗い物が増えるのも嫌だしパンに挟んでサンドにしよう。



-2-


今朝の朝食もなかなか美味かった。


軽く炒めた干し肉と焼いた卵をパンに挟んだだけ、という簡単な物だったが美味かった。


調味料が違うのだろうか、それとも食材か、何にしても美味い飯が食えるのは良いことだ。


今は待ち合わせ場所の組合の前まで手を繋いで歩いている。


飯を食べた後、ということで一応自分で歩いている。まだ日が高くないせいか、人通りはまばらだ。


昨日はずっと本を読んでいた。


貰った「魔動機入門」を一通り読んでみたが、何となく仕組みが分かった程度だ。入門の名の通り、浅い知識を知るだけならあれで十分なのだろう。


他にどんな本があるのか物色しているとシルヴァーグが棚から二冊取り出し、私に渡してきた。


いくつか気になる名前の本があったのだが、それはさておきその二冊の表紙を見ると


「冒険者向け最新魔具カタログ」

「簡単美味しいクリミナ料理」


魔具カタログの方は綺麗なのだが、料理本の方は何と言うか年季が入っている様子だった。


しかし二冊とも凄かった。目の前に実物があるのかと思うほどに精巧な絵が描かれてて、しかもそれが表紙も含めてほとんど全ての頁に載っていたのだ。


聞けば写真と言うらしく、書いている訳ではなく見えているものをそのまま写し取っているらしい。これも魔具による物だそうだ。


魔具、と一言に言っても色々あるようで、昨日店で見た装飾品や模様の刻まれた石から筒のようなもの、刀剣や武具の類、何かの布、よく分からない箱状のものと様々だった。


それぞれどういった物なのかという短い説明と何かの数字が横に書かれていた。


それから料理の本なのだがこれは晩飯を食べる前に見るべきだった。そうすればシルヴァーグに作って貰えたかもしれない。


どれも美味そうだったがその中でも一際美味そうだったのが甘辛く味付けした肉で野菜を巻いたというものだ。味を想像するだけで美味そうだったし、何より見た目に食欲をそそられる。

これ食べてみたい、というと何故か渋い顔をしていた。



しばらく歩くと組合の前まで着いた。


組合の入口の横で立っていた癖のある短い黒髪、それから頭から獣の耳を生やしたのが一人、小さめの鞄を背負っていて手を振りながらこっちに歩いてくる。


「早いっすね、先輩、おはようございます」


「おはよ、人のこと言えないと思うよ、待たせた?」


「大丈夫っすよ、そんなに待ってないっすから」


今となっては別に何でもないのだが、ラズリアとは初めて会ったときに警戒し過ぎたせいであまり積極的に関われない。


突然理由なく対応が変わるのも不自然だし、嫌っている風な対応を続けるのがいいだろう。


「ティルもおはようっすよ」


腰を曲げ、私の方に挨拶をしてくるが露骨に視線を逸らしシルヴァーグの後ろに隠れる。


残念そうに肩を落とし溜め息を吐くと気を取り直したように体を起こし


「一昨日はお世話になりました……!」


改めてシルヴァーグに深々と頭を下げ、申し訳なさそうに言った。


「別に気にしてないよ、昨日は大丈夫だった?」


「だいじょばなかったっすよ、メイさんに介抱して貰う羽目になるとは思ってなかったっす」


「まぁ、それなら大丈夫かな、ちゃんとエンブレム貰えた?」


シルヴァーグがそう言うとラズリアは首に下げてある首飾りを手に取り見せてくる。


「水筒も返しましたし、ちゃんとエンブレムも貰えたっすよ、先輩のとデザイン違う気がするんすけど、何か違いあるんすか?」


比べる目的でシルヴァーグも首飾りを取り出し、手を並べる。


どちらも翼の意匠なのだが翼の数が違う。ラズリアの首飾りは翼が一つなのに対してシルヴァーグの首飾りは五つだ。


シルヴァーグの物と比べて見ると五つある翼の中から四つ取ったのがラズリアの首飾り、という印象を受けた。


「どれぐらいの実力なのかって奴、五枚が一番上で一枚が一番下、一枚の人って言うのは本当に始めたての人だから、すぐに二枚になれるよ」


「先輩一番上なんすか!?」


驚いた様子で改めてシルヴァーグを見る。


「まぁ、十二年もやってるしね」


「なるほど……それで今日は案内してもらえるんすよね?」


特に偉ぶる訳でもなく短い返答に納得したように頷くと気を取り直して今日の目的に話を移す。


「歩きながら話そうか、地図見ながらの方が説明しやすいし」


シルヴァーグが歩き出そうとした所で軽く袖を引っ張る。シルヴァーグが顔をこっちに向けると私が両手を広げる。いい加減慣れた様子で私を抱き上げると


「やっぱり手慣れてるっすね……」


私に嫌われていると思われているのを引き摺っているのか、羨ましそうにラズリアがそう言った。



-3-


一昨日の朝と同じ狭い路地を通って東門の前まで来た。


「すみません、観光用の地図貰えますか?」


門の横に立っていた衛兵に声を掛けると同じように「こちらへ」と言われ歩き始める。


門の横の詰所まで案内されると少し待つように言われた。


少しの沈黙、何か話し掛けようと思った所で


「あ、そうだ、言ってた本持ってきたっすよ!」


後ろに背負った鞄の横を二度叩き主張するように背を向けてくる。

そういえばそんな話をしていたんだった。


「そんなに長くないんでサクサク読めると思うっす」


「……まぁ、帰るときに預かるよ」


「お待たせしました、観光用の地図です、返却は結構です、では失礼します」


そう言って何枚かに畳まれた紙を受付に置くと一礼した後足早に持ち場に戻っていった。


「あの人っていつもあんな感じなんすか?」


一昨日も見たからだろうか、ラズリアからそんな質問が飛んできた。


「衛兵は堅物すぎるぐらいでないとダメ、って言われるらしいよ、あの人は普段からあんな感じだけど」


置かれた紙を受け取り、辺りを見渡す。少し歩いた所にベンチがあったからそこを目指す。


ティルを抱えたまま座り、ラズリアも隣に座る。お互いが見やすいように地図を広げると二人が覗き込んでくる。


「今居るのがここ、東門前」


指を差すと二人の視線がそこに向けられる。


メルヴィアには入口が四つある。東門、西門、北門、そして港だ。


今居る東門の方には冒険者関係の店が多い。


組合の本部もここにある。それ以外では宿もかなりの数がある。観光客や他国の冒険者などはとりあえず東門の近くで宿を探すことが多い。


それ以外だと酒場がかなり多い、他の多くの店は深夜になると閉まるが、この辺りの店は深夜になってからが本番で、夜とは思えないほど賑やかで、活気がある。


続いて西門、居住区と言われる区域が主でこの街に住んでいる人の多くが暮らしている。


公園や広場などは他の区域にはあまり無い。昨日行った孤児院もここにある。


次に北門、この北門だけ西と東よりかなり大きな作りになっている。主要な物流が北門を通っていくからだ。


商業区が近いだけあってメルヴィアでは盛んな場所だ。


この商業区も東に寄ると 冒険者関係の店が、西に寄ると日用品や嗜好品と分かりやすく偏っている。


東側の方だと荒れた連中がいることがあるから、絡まれても無視するように。


食べ物通りと呼ばれる場所は食べ歩きスポットとしてそれなりに有名で、自炊してるんならこの辺りで大体の食材は買える。


最後に港、定期便が出ていて他の国に行くことがあればお世話になることがある。


港の近くにも商業区がありこっちでは輸入品が主に取り扱われている。


そして街の中央、この辺りには病院や学校、教会などの公共施設が纏められている。有事の際には避難場所になっていたりもする。


「大雑把な説明はこんな所かな」


「めちゃくちゃしっかり説明してなかったっすか?」


ラズリアの突っ込みはさておき、おおよその説明が済んだ所で


「どこか行きたい所ある?」


「北の商業区っすかね、お店とか紹介してもらいたいっす」


「ティルは行ってみたい所ある?」


ラズリアよりも熱心に地図を見ていたティルに話を振ると地図の下の方を指差し


「南のお店」


「じゃあ、そっちから行こう、ラズリアもそれでいい?」


二人の行きたい所が正反対だが、たまにはゆっくり街をぶらつくのも悪くないか。



-4-


南の商業区に入ってからティルが自分で歩くように言ってきたから少し驚いた。今ははぐれないように手を繋いでいる。


それと、ティルの視線が忙しない。昨日見たものとは毛色がかなり違うからだろうか。


北と南で商業区の作りに大差はない。港へ向かって道の両脇に隙間なく店が立ち並んでいる。


扱っている品物がごちゃごちゃしているせいで見ていて飽きない。


「着物があるっすよ!先輩!」


地元の物が見れて少しテンションの上がった様子でラズリアが展示された服を指差して言う。


華やかで、なかなか手の込んだ衣装だ。上下一繋ぎで羽織った衣装を帯で締めて着るエスリックの民族衣装で祭の時や祝いの場で着るらしく、これを着て演舞している所を見たことがある。


エスリックでなくても祭の時にこれを着ている人を見掛ける事があるから、それぐらいには人気なのだろう。


そう言えば、ティルと初めて会った時に着ていた白い服、あれも確かこんな感じだったように思う。


店の方を見てみると椅子に座ったおっとりした様子の獣人のおばあさんがカウンターで何か作業している。


「ちょっと聞きたいことあるから待ってて」


「了解っす、ティルー」


ティルの手を離すと渋々といった様子で差し出されたラズリアの手を握った。握ると言うよりは指先を掴んでいる感じだ。


二人を置いて店の中に入る、外からも見えていたが落ち着いた雰囲気の店だ。壁に備え付けられた棚には様々な色の着物が畳まれて仕舞われている。


「すみません、聞きたいことがあるんですけどいいですか?」


「えぇ、構いませんよ、私に分かることならお答えしますよ」


「着物の柄って色々ありますけど、柄の無い真っ白な着物ってありますか?」


ティルのことを少しでも調べられるかもしれない、そう思って質問してみたのだが、困ったような表情を浮かべると


「真っ白な着物ですか……見たことが無いですねぇ……」


申し訳なさそうにそう言うと続けて


「着物っていうのはね、おめでたいことやお祝い事があった時に着る物なんですよ、だからこんな風に綺麗で華やかなんです、無地で白い着物なんてなんだか寂しいわねぇ……」


例える様に店の中に飾られてある着物に視線を移しながらそう言う。確かに、この店の中にある着物はどれも明るい色の物ばかりだ。


なら、ティルの着ていたあの服は一体どういう理由で作られたんだろうか。


「……わかりました、ありがとうございます」


「いえいえ、どういたしまして」


思案も程ほどに一礼、店を後にし二人の所に戻る。


二人と別れてすぐに戻ってきたはずだが、私が戻ってくるとティルはラズリアの手を離し私の手を握りに来た。


「……それで何聞いてきたんすか?」


一瞬肩を落とすがいい加減慣れてきたのか、すぐに立ち直りそう聞いてきた。


「仕事のこと、気にしなくていいよ」


今一ピンと来てないラズリアが首を傾げるが考えても仕方ないからかそれ以上は食い付いてこなかった。



それからはいくつかの店を見て回った。


買い物もせずに見るだけ、と言うのは気が引けたが、ラズリアもティルも楽しそうだったから良しとしよう。


ラズリアは見ての通り、ティルは相変わらず表情は変わらないのだが、何度もあれは何とかこれは何と聞いてきたから楽しめていたのだろう。ラズリアとの距離感は相変わらずだったが。


「そう言えばマーチェス産の魔具ってこっちだと評判どうなんすか?」


マーチェス産の魔具を見ているときにそんなことを聞かれた。


今見ているのは野営向けのコーナーだ。湯沸かし用のポットとか携帯用コンロとか、野営であると便利な物が並べられている。


「知ってるかも知れないけど、トラビスタって所のは使いやすくて安定してるって評判良いよ、私も同じような魔具で迷ったらそこの奴買ってるし」


「……そうっすよね!他のところのも悪い訳じゃないんすけど、やっぱりそういうのあるっすよね!」


地元が褒められたからか嬉しそうなのだが、何故か照れているように見える。地元が褒められるのでも照れ臭いのだろうか?


不意に袖を引っ張られた。視線を向けるとティルが見上げていて


「これ、どこに魔方陣あるの?」


そう言うと湯沸しポットを私の方に差し出す。昨日魔具の本を読んでいたから気になるのだろうか。


私もそこまでは理解してない。水を入れて、魔力を加えて少し待つとお湯が沸く。そういう物だと言う認識しかない。


私がどう答えようか一瞬迷っていると


「内側にあるはずっす、確か三つぐらいあるはずっすよ」


ラズリアが代わりに答えてくれた。


ラズリアの指摘を受けるとティルはポッドの蓋を開け、中を覗き込むと目を細めてみたり、ポッドから顔を近付けたり遠ざけたりしている。


それをしばらく繰り返すと今度はポッドを開けたまま、中を見せるようにラズリアの方に差し出し


「どれ?」


「えーっと、底にある奴と取っ手の内側にある奴っすね、取っ手のが保温用と魔力伝達用で底にあるのが温める用……っすかね、取っ手の奴と底の奴とで模様が微妙に違うんで比べてみると面白いっすよ」


指でそれぞれの場所を指差すと改めて中を覗き込む。


「おぉ」


ようやく見付けられたのか嬉しそうに声を漏らした。ラズリアの方も見つけてもらえたからか満足げだ。


「ティルって魔具好きなんすか?」


「うん、昨日も魔動機のこと教えてもらった」


珍しく二人が仲良さげに話をしている。


初対面の印象が悪かっただけで、共通の話題があれば仲良くもなれるか。


「折角こっちまで来たんだし、海見ていく?」


そう言うと二人ともかなり乗り気だった。


-5-


「おぉーメルヴィアの港って流石にでかいっすねー」


南の商業区を抜けて港に出ると案内しているはずの私より少し先行して歩くラズリアが辺りを見渡しながら言った。


港に来るのも随分と久しぶりのように思う。


行くとしてもその手前の商業区までだから少し新鮮だ。


海が好きとか嫌いとかそう言うのではないのだが、行く理由が無いから行かない、そんな所だ。


さっきのやり取りで少し仲良くなったからか、ティルはラズリアの横を少し急ぎ足で着いていっている。


見えるのはいくつもの大小様々な船、建物に沿って並べられた木箱や樽、まだ医療団が滞在しているからだろうか人は多くない、何人かが桟橋の辺りで話をしている。


潮の匂いを嗅ぐのも随分久しぶりのように思う。港に打ち付ける波の音は穏やかで聞くと少し安心する。


波打ち際で海を眺めている二人に追い付くと


「海見るの初めて?」


「……わかんない」


顔も向けずに短くそう答えてくれた。


ティルの記憶を思い出す切っ掛けになればいいと思ったが、そう上手くはいかないらしい。


「でも、綺麗だから好き」


顔をこっちに向けるが変わらず無表情、だが尻尾が揺れているから楽しんでいるのだろう。


綺麗な金色の髪が風に流される。澄んだ空色の海に並んだティルの姿が何故だか年不相応に大人びて見えた。


そのまましばらく遠くを見つめていると私の方に歩み寄り


「ん」


満足したのか、両手を広げて私を見上げてくるのだった。


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