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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
二章 私たちの選択
11/102

いつもとほんの少しだけ違う一日

-1-


いつもと変わらない時間に目が覚めた。


まだ仕事も入れてないし二度寝でもしようかと思ってシーツを被り直したが普段と違う寝床の感触にすぐに体を起こした。


仕事を入れてはいないがやることが増えたんだった。普段使っているベッドに目をやれば穏やかな表情で金色の髪をした獣人の女の子が眠っている。


テイルス……ティルは昨日森で保護した女の子だ、自分の名前以外のことを覚えていないらしく一時的に私の家で預かることになった。


昨日はラズリアに風呂に入れさせて、ホビット・ドワーフ用の服を借りて、尻尾が気になるからと尻尾穴を開けてもらった。替えの分も二つ返事でやってくれた。サンダルも鼻緒が切れかけているからと替えの靴を用意してもらった。


昨日の出来事を思い出しつつ起こさないよう静かにキッチンに向かう。


今日は組合に顔出して、病院にいってティルの体とついでに私の傷見てもらって、孤児院に手続きに行って……


「……そういえば好き嫌いとか気にしてなかったけど」


色々考えながら冷蔵庫の扉に手をかけた時そんな疑問が浮かんだ。簡単なものを作るつもりだが食べてくれるだろうか?


とりあえず、パンとスープ、味付けの好みはあるかも知れないが薄味にしておけば食べられないということはない、と思いたい。


目標が決まった所で冷蔵庫を開けた、のだが


「あぁ、そうだった……」


冷蔵庫の中を見て深い溜め息を吐いた。昨日買い出しに行くの忘れてた。つまり冷蔵庫は空だ。



-2-


「ティル、起きて、朝だよ」


「んー……んん……?」


体を揺すられて目が覚めた、薄目を開けて視線を向けるが気にせず掛けていた布を頭から被り直す。


この布団の寝心地は最高だ、これまでで一番気持ちよく眠れたと言ってもいい。それぐらい良い物だ。


昨日からずっと驚くことばかりだ、鉄の塊が何もないところから現れたりその塊が馬よりも速く走るのだから訳が分からない。


人の大きさのトカゲが二本足で歩いているのを見た、獣の頭を持った人間も見た。獣の耳を持った人間も他にたくさん見た。都合がいいことにこの姿はありふれているようだった。


湯浴びの時だって突然温かい水が出てくる管のような物があったし、新しくもらった服はつるつるしているがなかなか着心地が良い。


少し尾の位置が気になっていたが穴を開けてもらってからは気にならなくなった。


草履も新しくなった、少し窮屈だがなかなか歩きやすい。


そして何より飯が美味かった。これまで食べたどの料理よりも、とまでは言わないが指折りに美味かった。


箸があったから箸を使って食べていたのだが持ち方が綺麗だと褒められた。


酒もあるようだった。飲もうとしたところを止められ、それから何度か勧められたがその度に止められた。この姿では飲ませてくれないらしい。


それから飲み物に氷が入っていた。他の卓の飲み物にも当たり前のように氷が入っているのが不思議だった。


日は沈んでいるのに昼と間違えるほど明るかった。明かりに満ちていて、それが当たり前のようだった。


しかし、空を見上げても見知った星は一つも無かった。それが少し不気味で、ここが何なのか、分からなくなった。


以前までとは大きく異なった世界。少なくとも知らない事が多くばかりで退屈はしなさそうだ。


「……よっ」


昨日のことを思い返していると不意に浮遊感があった、布ごと体が持ち上がるとぼふんと布団に体が沈んだ。


流石にここまでされて一度寝ようとするほどの根気はない、仕方なく起こされてやるとする。


不満そうな顔で眠たげに目を擦り名残惜しいながら布団から這い出るとぼんやりと見上げる。


「おはよう、ティル」


「……おはよ」


肩までかかる銀色の髪の人間だ。暗い色味の服を着てしゃがみこんで私を見ている。


シルヴァーグというらしい。昨日私を助けてくれて一時的に私を預かってくれている。何をする仕事なのかはよく分からないが、冒険者という仕事をしているらしい。


「着替えはそこの鞄に入ってるから、とりあえず着替えておいで」


「……ん」


何も言わず見つめていると察したように短く息を吐くと私を抱き上げ布団の縁に座らせると替えの服を取り出し


「はい、手あげて」


言われるまま手を上げていると慣れた手つきで私の服を着替えさせた。着替えたと言ってもさっき着ていたのと同じような黒いつるつるした服だ。


「はい、おしまい、髪は……自分で出来る?」


服の下に入り込んだ髪を外に下ろすとそういって櫛らしいものを見せてくる。そこまでしてもらうのは気が引ける。


眠たげに髪を整えていると横に座り一瞬後ろに視線を向け


「今日はやることが色々あるけど……髪整え終わったら顔洗っておいで、ご飯食べに行こう」


水の出し方は昨日見て何となく分かった。捻れば出てくるのだろう、簡単なものだ。



-3-


組合に来たが人が少なくがらんとしていた。今は朝の九時頃、朝の依頼張り出しが終わった後にしてももう少し人がいるものだが何かあったか。


入り口で少し考えていると不機嫌そうなティルが急かすように腕を引いた。


ティルが不機嫌な理由は顔を洗おうとしてずぶ濡れになったからだ。いきなり全開にしたんだろう、派手に跳ね返ったみたいだ。


悲鳴を聞いて慌てて来てみればとずぶ濡れのティルが恨めしそうにこっちを見上げていて


「まぁ……次からは気を付けよう?」


何とか捻り出した慰めの言葉と共にタオルを渡すとぶんどるようにして顔を拭いていた。もう一度着替えさせて今に至る。


角の席に座り注文を取りに来たウェイターに日替わりサンドを二つ注文する。そのついでにメイの姿を探してみたが見当たらなかった、裏にいるのか外に出ているのだろうか。


「結局何するの?」


隣に座ったティルが私を見上げながら聞いてきた。


「昨日も話したけど孤児院に手続きに行こう、それからは病院に行って昨日の傷の痕治してもらおう」


「ん」


ティルが小さく頷いた時、皿とコップを乗せたお盆を持った白金の長髪を後ろでまとめたウェイター……メイが正面に座った。


「おはよ、日替わりサンドでよかったんだよね?」


そう言って私とティルの前に皿とコップを並べ終えるがそれでも皿が余っている。他の客の分という様子ではないらしく自分の前に並べた。


挨拶を返し仕事中じゃないのか?と怪訝な視線を向けると


「暇なんだしいいんじゃない?ピーク時以外は今日ずっとこんな感じだろうし」


気にした様子もなくパスタにソースを絡め始めた。それを見て、という訳ではないが私もティルも食べ始める。


私たちに持ってこられたのはバターを塗っただけのトーストとピザトースト、それぞれ半分に切られて朝食にちょうどいい分量だ。


日替わりサンドなのに何もサンドしてない、なんて言ってはいけない、ここの日替わりサンドなんてそんなものだ。作る基準を聞いたことがあるが最低限パンを使っていれば何でもいいらしい。


メイが食べているのは私たちと違ってパスタだ。ソースの名前は思い出せないが美味しそうな匂いがこっちまでしてきている。朝食とも昼食とも取りがたい、小腹でも空いたんだろうか。


「今日何かあったっけ?」


「医療団来てるんだよ」


「……病院混んでるな」


「今日は人でいっぱいだろうね、怪我したの?」


「うん、ティルがね、一応私が治したけどまだ痕が残ってて、どうする?」


ティルに顔を向けるとピザトーストを食べていた。表情こそ変わらないが、楽しそうに尻尾が忙しなく揺れている。


自分に話を振られているのにやっと気付いたのか、私とメイの顔を交互に見上げると


「出来るなら治したい」


そう短く伝えると食事に戻った。


「ふっふっふっ、ここは私の出番かな、ティル、ちょっと手出して?」


わざとらしい声をあげると少し体を乗り出しティルに向けて手を差し出す。怪訝な顔をしたティルが片手でトーストを食べながら手を置いた。


そのまま目を閉じて数秒。


「いたいのいたいのとんでけーっと」


そう言ってそれっぽく手を動かし淡い光が手を包んだ、そうして少し経つと光が収まる。食べるのを止めて傷の痕が消えた自分の手を不思議そうに見ていた。


「上達してない?」


「日々鍛練しております故、医療資格も取ったしね」


グッと親指を立てると体を戻し席についた。しばらく会わないうちにまた色々とやっているようだ。ともかくこれで今日やることの一つが終わった。


「ありがと、お礼はまた今度」


「期待しないで待ってるから!」


不意に裾を引っ張られた。引っ張らなくても言えばいいのに、と思うが手っ取り早いか。


「どうかした?」


「医療団って何?」


さっきの話で出てきて分からなかったからだろうか、私を見上げながらそんな質問。


そういえば記憶がない、と言っているがどこまで分からない物なのだろうか、と思ったがさておき


「医療団っていうのは、病気の予防薬や治療薬を配ってたり、治療法とか新しい技術を教えて回ってる団体……であってるよね?」


自分の認識で合ってるか少し不安になってメイに話を振る。


「ティルがどこまで知りたいのかわかんないけど、大体そんな感じだと思うよ?」


今の説明で問題なかったようだ。これ以上詳しく説明しろ、と言われても私には出来ないが満足してくれたらしい。


「ん、わかった」


ピザトーストを食べ終えたようで今はバタートーストを食べている。表情こそ変わらないが相変わらず尻尾が忙しなく揺れている。


「そういえばラズリアさん、魔法習いたいって書いてたけどどうするか聞いてる?」


話は変わってラズリアの話になった。


「簡単なのって言ってたからメイに頼むつもりだったんだけど大丈夫?」


「時間あるときでいいんだよね?だったら大丈夫だよ、そのこと聞こうと思ってたんだけど今日まだ来てないみたいでさ、昨日大丈夫だった?かなり飲んでたみたいだけど」


「……多分ダメじゃないかな」


昨日報告書の書き方を教えているとラズリアが私に奢るよう頼んできた。


約束もあったし初依頼達成ということで快諾したのだが、まぁ飲んだ。私は飲まなかったがラズリアはやたらと飲んでやたらと食ったしついでにティルも結構食べていた。


絡み酒というか、やたらとティルに酒を飲ませようとしていてその度に止めに入るのは面倒くさかった。他の席の連中に絡まなかったのは一応人見知りだからだろうか。


最後には宿の場所を聞いて酔っ払ったラズリアを送って帰ったのだが今頃二日酔いで唸っている頃だろうか。


「うーん、水筒返してもらってないしエンブレムも渡せてないんだけどなぁ、後で行ってこないと」


手についたパンくずを皿の上に落とすのを待って空になったコップと食器をお盆に乗せると立ち上がりお盆を近づけてくる。


きっちり二人分の料金を乗せると


「そろそろ働けって視線が辛いからまたね!」


と言ってカウンターの奥へ足早に歩いていった。カウンターから視線を感じていたが、そういう視線だったらしい。


後は孤児院に行って手続きすればいいか、思ったより時間が空きそうだ。


そういえばダレン爺に呼ばれていたか、午後からでも顔を出そうか。


「じゃあ行こうか」


これからの予定を決めたところで立ち上がってティルを見ると両手を広げてこっちを見上げていた。


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