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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
五章 その手を取って君の名を呼ぶ
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君の名を呼べば

-1-


「さて、何から話そうかな、色々あるけど」


二人並んでベッドに座る、考えなくてはいけないことは多い。


何故シルヴァーグの体を操っているのか、何故あの時のルシアと同じ所作をしているのか、何故私と話をする必要があるのか、こいつの目的は一体何なのか。


「君、他の世界から来たでしょ?」


最初の質問は想定していたものとは全く違ったものだった。


とはいえ何となく、そうではないかと思っていた節はある、技術、文明、私の知る物よりも遥かに進んでいる、私のこれまで見てきた星と同じ物は一つも無かった、完全に別の世界だとすれば辻褄は合う。


「……そんな事を聞いてどうする」


「別にどうもしないけど、単に興味があるから聞いてるだけだし、なんか同類の匂いがするんだよね君、人が死ぬの楽しめるタイプでしょ、それでどんな所だった?」


分からない……事はない、長く生きていく中で自分のために殺す必要のない多くを殺してきた、今の私は……少なくともそうはしないだろう、そうする理由もない、その事を反省する事はあっても、報いを受けるつもりはない。


……シルヴァーグの声で言われると調子が狂う、話す理由も無いが話さない理由もない。


嘆息を一つ吐くとここに来る前に私の見てきた事、体験してきた事をいくつか話す、人に化け、人を唆し、欺き、殺し、殺されそうになった事。


「よくそんなの相手に負けれたね、魔法も何も使えないんでしょ?」


「たまに似たようなのを使える奴もいる、まぁ……そうじゃないのにも何度か殺されかけてる、単に驕ってたんだろうが」


「そりゃそうか、そういうのってやっぱりどこでも誰でも一緒なんだね」


まるで自分が経験してきたようにそう言う、だとすればあの記憶で見たルシアと今のシルヴァーグが同じなら恐らくは……


「体を乗っ取れるのか」


「共存って言ってほしいんだけど、いや今はそうじゃないけどさ、私の力を使えるようになるんなら安いもんでしょ、基本的には何してたっていいんだから」


「基本的には?」


言い回しに少し引っ掛かりを覚えた、それに今は違う?シルヴァーグはこれまでと何か違うのか?


「身の丈に合わない力には試練とか代償が必要だと思わない?前の奴の時は……確か娘二人に見つからない事だったかな、それだけだとあんまりにもつまんなかったから後で色々付け足したんだけど、人助けなんてしてなきゃこうもならなかっただろうに、自分が殺した以上に助けないと気が済まなかったのかな、気休めでしかないのに」


聞いてもないのによく喋る奴だ。


「……今よく喋る奴だって思わなかった?」


「思ってる、こんな話をするために私を浚ったのか?」


ルシアの体を乗っ取……共存していたのなら、私をここに連れてきたのもこいつの意図だろうか、私の質問に一瞬考えるような反応を見せると納得した様子で


「あぁ、それね、順番が逆、君が浚われた理由は前の奴が治そうとしてたから、それ自体はどうでも良かったんだけど、私が話したい理由はこれ」


そう言って手を差し出すといつの間にかそこに小さな石が握られていた、その石からは懐かしい気配がする。


あれは……私の力の断片、ただそこにあるのは懐かしさだけで力はほとんど残っていないように思えた。


私の反応でそれが関係のある物だと分かると、手の上で楽しそうに石を転がし軽く手を払うとそこには何も残っていなかった、何が目的だ?こいつは私に何をさせようとしている?


「そんな目で見ないでよ、探すの手伝ってあげようかってだけなんだから」


「何が目的だ」


「別にないよ、私たち似た者同士みたいだしさ、仲良くできると思うんだよね」


その言葉に嘘はないように思えた。


もう諦めていた事、力のない今の状況を受け入れていた、必要無かったから、力があれば……アカメを失う事もなかったのだろうか。


このまま付いていけば、私はかつての力を取り戻せるかもしれない、力があれば今のような気持ちを感じなくて済む、失いたくない物を守る事が出来る。


…………あぁ、そうか。


力を失くして誰かと共に過ごすなんて事が無ければ、こうも思わなかっただろう。


きっと、そうだったのだろう。


なんて事の無い日々を一緒に過ごして、下らない事で笑って、それから……失った事を、失いたくなかったと悔やみ続けている。


きっと、そうなのだろう。


なんて事の無い日々を一緒に過ごしていたい、下らない事で笑って、共に歩んでいきたい、失いたくないと、失わせたくないとそう思う。


「悪い話じゃないと思うんだけど、どうかな」


手が差し出される、知っているけど知らない手。


どうすればいいかは分からない、分からないがそうあれと思えばきっと応えてくれる、そういう物だと教わった。


私に出来るかは分からない、やらなければきっと後悔する、あの気持ちを二度と味わいたくはない。

取り戻すために手を伸ばす。


「シルヴァーグを、返せ!!」



-2-


辺りを包んでいた暗闇が突然吹き飛ばされるように掻き消えた。


体の感覚が少しずつ戻っていく、眠りから目覚めるように意識が少しずつはっきりしてくる。


誰かが私の手を握っている、目を開けようとすると


『……誰かの為に、などと珍しい事もある物だな?』


そう声が聞こえ、目を開けた先ではティルが私の手を握っている。


「ティル?」


「何?」


何となくだけどいつもより言葉が柔らかい気がする、何が柔らかいのかって聞かれると説明に困るけど、とにかく柔らかい感じだ、自分が今いるのはどうやら寝室らしい。


机の上に私の魔具はない、だからここはティルのいた寝室……なんだけどどうしてここにいるのか思い出せない、確か母さんと話をしていて、母さんを、殺そうとしてその後は……誰かが手を握ってくれたのは覚えている、夢でも見ていたようで思い出そうとしてもどうにもはっきりしない。


ただ、それでも本当に何となく、だけど


「……ありがとう」


そう言わないといけない気がした。


体を起こすとティルは手を握ったまま私をじっと見つめ


「シルバ、私に両親はいない、だから探さなくていい、それから……何?」


記憶が戻ったんだろうか、ティルの話した事も大事なことだけど、別の事に気を取られてしまった。


「いや、初めて名前呼ばれたなって思って」


「……私の体の事、もう大丈夫だから」


指摘すると少し恥ずかしかったのか、話を強引に戻した。


やっぱり気付かれてたにしても、大丈夫なのは……母さんが治してくれてた、って事だろうか。


「これからどうするの?」


「とりあえずは……」


いくつか謎が残ったままではあるけど、考える必要はない。


母さんが見つかって、ティルも助けられた、ただ竜人の子……アカメちゃんを助けられなかった事が心残りだ。


過ぎてしまった事を引き摺るべきじゃないのは分かってる、そうなってしまった以上はもうどうにもならない。


………


……



「……どういう状況か説明してくれる?今までどこで何してたのかとかなんでルシアを背負ってるのかとか説明が必要そうなの全部」


「無理です、諦めてください」


「じゃあいいや、とりあえずこっちの話ね、被害状況の確認とか今後の事とかの話は終わってるよ、人を手配するから情報の共有と話を通してくれって、まぁその辺りの事はリベットさん……あの衛兵のおじさんが上手くまとめてくれたよ、それなりに身を削ったのが効いたみたい」


ビバさんがどこにいるのか、全く分からなかったから駄目元で近くにいた衛兵に聞いてみるとすんなり案内してくれた。


場所は北門近くの衛兵詰所の仮眠室みたいな部屋で入り口には連絡役らしい衛兵が立っていた、四人部屋のようで最低限の家具はあって居心地は悪くはなさそうだ、ビバさんも無事だったみたいだけどやることはもう終わっているのか忙しそうな様子はない、宿に置いていた荷物もここに持ってきているみたいだ。


「いきなりですけど、母さんの事診てもらってもいいですか?」


母さんはリビングで倒れていた、怪我はないし容態も落ち着いているみたいだけど目を覚まさないまま、簡単な怪我なら私にも治せるけどこういうのは専門外だ。


ベッドに母さんを寝かせるとビバさんは母さんの手に触れ目を閉じた、しばらくそのままでいると


「……何だろう、安定はしてるんだけど変な魔力に影響されてる感じがあるね、道具があれば治せると思う、それなりに信用してくれたみたいだからここの人に頼めば協力してくれるかな」


よく分からない、といった様子で頬を搔いた。


母さんの事は心配だけど、ビバさんがいるなら大丈夫だろう。


「後は私に任せて大丈夫だから、シルバは戻って報告ね、その子をここに置いとく訳にも行かないし、メイちゃんにも早く伝えてあげないとね」


「……母さんをお願いします」


「絶対、メルヴィアまで送り届けるから、で、その子がテイルスちゃん?」


ビバさんと話している間もティルは相変わらず、私のすぐ横で手持ち無沙汰そうにしていた。


ビバさんが何故かティルの事を凝視してるけどそれが気になったのか、不満そうな様子で


「……何?」


「ごめんごめん、綺麗な魔力だなって思って、あー、そうだこれ、特別通行許可証と今回の支援についての依頼書、ディブニハールが通行止めされてるかもってのと、依頼書の方は手続き上で必要になったから一応ね」


話を逸らすように机の方に駆け寄り置いてあった封筒を私に差し出す。


「出発は明日だろうけど忘れないうちに言っとこうか、お疲れ様、シルバ、ありがとね」


ただの別れの挨拶……にしては少し湿っぽいように感じた。


ビバさんは私が冒険者になった理由を知ってる、だから私がもう冒険者をする理由が無くなったのも察してるのかもしれない。


冒険者を辞める事をビバさんに直接話した訳じゃない、だから特別そういう意図は無いのかも知れない、ただ一段落ついての別れの挨拶なだけなのかもしれない。


「こちらこそ、ありがとうございました」


これまでの総括にしては簡素すぎる気もするけど、言葉を選ぶのも変な感じがするからこれでいい。

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