7、鏡面の天使。鏡の中のマリオネット
少年はガラス窓に映る虚像に、触れようと手を当てると、向こうも手を近づけてる。
現実のクロトと対象に映る天使と手を重ねる。
そこには人の温もりはなく、ただ鏡面の冷たい温度だけが伝わり、現実と虚像の境界を引く。
天使の女性は懸命に何かを訴えている。
彼女はルージュのように輝く唇を開き懸命に叫ぶ。
――――――――ダメ!
気づけば、いつもの教室に腰掛けていた。
あまりにも唐突に意識が飛んでしまい、記憶の混濁が不安をあおり自分が過去、現在、未来のどの世界にいるのか確認せずにはいられなかった。
三点透視のパースを移したパソコン画面の隅に目をやり日時を知ると、次の日の昼だということに冷や汗が滲む。
隣に座る小太りオカメ顔の城門寺が声をかける。
「クロト、どうした? 顔色悪いぞ?」
何とか冷静さを取り戻そうとするクロトには、この言葉が精一杯だった。
「何でも……ない」
クロトは時々、記憶がトリップする瞬間がある。
事故に合った際、頭を打ち、その後遺症が残ってしまった為だ。
だが流石に、これは理解しきれない。
どうして? 今まで家の近くの駅にいたのに?
何がどうなってるんだ? 僕は昨日の夜…………昨日の夜……何をしていたんだ?
クロトは夢みごごちだった。