表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/38

5、パース線。蜘蛛の糸と戯れる者

 10年前、母親の命は理不尽に奪われた。

 事故の原因は他の車による割り込み。

 加害者は気が立っていたことで、乱暴な運転が事故に繋がったとされた。


 その後、父と一緒に加害者の裁判の行くえを見守が、事故をお越し、平穏な家族の幸せを奪った加害者の刑罰は過失致死。

 2年から3年ほどでで刑期を終える。


 クロトには信じがたい現実だった。

 母の命を奪い、自分達家族の人生を変えた罪が、たったの2年から3年で消えてしまうなんて。


 それ以来、クロトは事故のことを思い出すと、何故、自分は生きているかのを考える。


 死の縁で救いを差し伸べた天使は、誰にでも優しく笑顔で周りを明るく照らす母ではなく、非力で世間知らずな幼きクロトを助けた。


 一体、この世界において自分が、どんな役割を持ち、誰の役に立つのか?


 その疑問が頭をかすめると、心が押しつぶされそうになる。


 ✡✡✡✡


 身体を酷使するコンビニバイトを終えたクロトは、帰路に着こうと夜道を歩いていた。


 中野駅の西、武蔵野市。

 吉祥寺駅、三鷹駅より先で立川駅の通過点となる武蔵境駅は、開発が進み夜のネオンは眩い輝きを放ち活気づく。


 本当は専門校近くの中野に住みたいが、新宿、渋谷に近い立地は、バイト学生には一等地に感じられる。

 かと言って、歓楽街として栄えた吉祥寺は、若者が住みたい街ナンバー1ということもあり、高嶺の花だ。


 身の丈に合う条件を探すと、都心から背を向けたこの土地。

 苦学生、西へ、となった。


 クロトは改札口を出て、葉っぱで覆われた出入口のモニュメントを抜け、南口のロータリーへ進む。

 客待ちのタクシーや出発まで停車するバスを診て、少しでも歩く労力を減らそうかと考えたが、苦学生には、そこまでの贅沢をする財力がない為、諦める。


 バイトが終わり家でだらだら過ごしたいところだが、クロトの頭の片隅にチラつくことがある。


           課題だ。


 最近は時間に追われているせいか、寝ている時の夢にまで課題が出て来る。


 今出されている課題は、背景を作る際のパース。

 

 プロのデザイナーになると、見える風景にパースの線が重なるって聞くけど…………。  

 

 気の沈んだ専門学生は、ロータリーの中央にある巨木を何気なく見た。


 えーと、まずは……アメリカならアイと名乗るのが見本。でも人間には愛が必要…………アイレベルだ!


 次が…………イカを数える時は1杯、2杯。神は1柱、2柱。パースなら…………一点、二点の二点透視!


 クロトは目を凝らし巨木を見た。


          み――――――――見えない。


 クロトはすぐに飽きて帰ることを決意する。


 現実に線が見えるわけないか……。


 家路を急ごうと足を運ぶと、顔に何かがかかる。

 それは、とても細く、光の加減で現れたり消えたりする1本の糸のようだった。

 目線の高さにある糸を注意深く見た。

 

 何だよこれ? こんなとこに蜘蛛の糸? 気持ち悪いなぁ。


 彼が真横の糸を払うと、視界の片隅が変化する。

 思わずクロトは視線を移した。

 中央の巨木が視界に入る。


           気のせい……だよね?


 初めは、バイト疲れからくる錯覚だと考えた。

 クロトはそのまま、巨木を捉えつつ糸を引く。

 引っ張った糸に合わせ、巨木がお辞儀するように湾曲した。


           うわぁ!? 


 クロトが慌てて糸を離すと、巨木に命が宿ったように、すぐに起き上がり、元の体制に戻る。

 気のせいでないことを確認すると、再度、糸を引く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ