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38/38

38、天地逆転。美しき絶望の紙吹雪

 真紅の髪を持つ悪女は、とんでもない荒技を見せる。

 ディキマは地上に張り巡らされたパースを全て掴むと、地面を引っ剥がすように引き上げた。

 クロトは瞬間、水中にいるような浮遊体験をすると、無重力にさらされた。


 内蔵が重力の圧を受けたように、重くなると、眼下の街が消えた錯覚に見舞われ、再び真っ逆さまへ、空に落ちて行く。



 そう、空へと――――――――。


 燦々と照りつける太陽は、眼下の彼方にあった。

 クロトは思考が混迷する中、すがる思いで青髪の少女を探した。


 モルタのサファイアのような光沢を放つ青髪を見つける。


 彼女は降下する少年に向けて手をかざし、遠くからパースを掴もうとする。

 しかし、オブジェのない青空では、パースの成約を受けない為、パースは現れない。

 

 モルタは天上となる街と平行になるよう状態を傾ける。

 彼女はこちらへ接近を試みる。


 モルタが人形のように、指紋のない美しい手の平を見せ、クロトを掴もうとすると、2人を影が覆う。


 影を投影した物体の正体が解った。

 車――――ワゴン車が降って来のだ。

 蒼天のモルタは咄嗟に機転をきかせ、クロトを蹴りワゴン車から彼を遠ざけた。

 蹴った反作用でモルタも弾かれ、ワゴン車を避ける。


 クロトはコマのようにクルクルと回り、全身の回転を止めようともがく。


「うわぁぁああ!! 助けてぇぇぇええ!?」


 それは犬かきのように、みっともない姿を見せた。

 犬かきが功を奏したかは解らないが、少年の身体をバランスを取り戻し、空中で安定した。


 背から落ちて行くクロトには、今となっては遠く離れた地上の風景が見える。

 ミニチュアのように見える街が、天井となった世界は、異次元そのものを感じさせた。


 頭上から爪で硝子を引っかくような悲鳴が降り注ぐ。

 天変した世界を落ちて行くのはクロトだけではない。


 落ちていく無数の人々は、まるで溺れた蝶が羽根をバタつかせるように、四肢を必死でかくも、宙に留まることなく空の海へと沈んでいく。

 そう、思わせる光景だった。


 車もバスも電車も自転車も、そして人々も。

 紙吹雪のように絢爛に見える。

 目線を遠くに移すと、ぼたん雪が降るように幻想的な光景が広がった。

 しかし、その1つ1つのぼたん雪は、死の空をさまよい人生の終焉を待つ者達だ。

 

 人々の悲鳴は混じり合い、不快な不協和音を醸し出す。

 広大な空に響く悲鳴は、波長が延びて様々な音階を作り、教会のパイプオルガンのように轟く。

 絶望の賛美歌が虚空の海を伝播する。


 絶望、ぜつぼう、ゼツボウ――――――――。

 

 絶望の最中さなかにこそ感じる美しさは、本当の美なのかもしれない。


 また影がクロトの身体を覆うと、物体が側をかすめる。


 大型バスだ。

 正面から落ちて行く縦長のバスの窓から、乗客1人1人の混沌とした眼差がクロトの目と合うと、流れるように通り過ぎた。


 車体の風圧でクロトの細い身体は弾かれる。


 気流にもて遊ばれるクロトに、身体の自由はない。


 激流に呑まれるように流され、少年の肉体も精神も耐えきれなくなり意識を失いかけた時、鳥の羽のように広がる青く輝く髪が、ぼやける視界をかすめると、あっという間に彼の身体はさらわれた――――――――。

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