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26、崩れる倫理

「ひぃ!?」


 クロトが小さく悲鳴を上げると、モルタは指先を動かし、クロトの指を操る。


 パースに繋がれた蛇は、クロトの鼻先の手前でピタリと止まり、小刻みに細い身体を震わせると、骨が砕ける鈍い音と共に、首が90度に折れ曲がった。


 空中に吊されたおもちゃが、糸を切られ落下するように、生命を失った蛇は、重力に逆らうことなく地面に落ちた。

 

 背後にいるモルタに突然抱き寄せられ、始めはときめきを感じたが、今は彼女の柔らかな肌から温度を感じない。


 クロトは彼女に掴まれた、腕を振りほどこうとするが、両手は凍ったように動かないでいる。

 モルタが耳元で悪魔のように囁く。


「主の思い人。主が会いたい者を甦らすことなど造作もない」


 クロトはまるで自分が、彼女の糸に吊られたマリオネットのように思えた。

 モルタの手で自身の手を操作されると、指先のパースが蛇の亡骸をくすぐるように動く。


 パースにつられ、蛇はのたうち回ると、鞠のような球形に身体を縮めて、チーズのように溶け、またスライム状に戻る。


 スライムの表面が波打ち金平糖のように凹凸が現れては沈むと、次第に形を成して行く。

 三つの三角形を形成する窪みの中心が山のように盛り上がると、人の目、鼻、口をつくる。

 綺麗な顔立ちの女性、両目に亀裂が入りまぶたを見開く。

 

 女性の顔はクロトと目が合うと、微笑むと、その暖か身のある笑顔に見覚えがあった。


「お母さん!?」


 クロトは、手の内で行われる神をも恐れぬ行為に、己の倫理観が崩壊することを恐れ、背後のモルタを振り払い彼女の拘束を解いた。


 母親の顔は、パースの力を維持することが出来なくなり、元の空き缶に形を戻し地面に落ちる。


 クロトは地面に転がる空き缶を見つめ、静かに狼狽した。

 頬を伝う汗がべっとりと流れ、背中から吹き出た汗は洋服に張り付き、とても不快に感じる。


 後少しで1人の人間を、しかも自分の親を生み出すところだった。


 自然の摂理に逆らう身技。  

 子が親を生み出すという異業。

 黄泉の国から死者を回帰させる。


 クロトは、震える自身の両手を見つめる。


 い、今、神と同じことをしようとした。

 粘土をこねるのと、変わらないくらいの感覚で命を作ろうとした。

 いや、死んだ人間を蘇らせるわけだ――――――――神以上の力。


 尊いと信じてきた命への倫理観が、確実に崩れていく。


 相変わらず心電図のように、モルタは一定の音調で語りかけた。


「線の力で作られる物は、その者の心が具現化される」


「心?」


「主が今しがた、具現化しようとしたのは、母親なのだろう?」


 クロトは口籠るが、反射的に目で返事した。

 モルタは注意を促す。


「その力は未熟だ。今、死人を蘇らせても、ただの亡者。生きる屍にしかならん」


 クロトは息を飲む。


「主が持つノーナの力をワシに貸せ。その代価として、力の使い方を教えやろう」


 少年は女神の顔色を伺う。


「それって、異次元の戦争で戦えってことだよね?」


「無論、そうなる」


「殺すんだよね? いっぱい」


「さよう」


 クロトがうつむくと、彼女は付け加える。


「ディキマ以外にも、主の力を狙うドミネーターは現れる。だか、力の使い方を知れば、身を守る術は見につく」


「力の使い方が解ると…………さっきみたいに空き缶から人を作れるの?」


「主が望む人間を蘇らせられる」 


 クロトは、美しくも蝋人形のような冷たい表情から、彼女の真意を読み解こうとする。


 本当にモルタを信用していいの?

 モルタと悪魔みたいなディキマは、姉妹で同じ神様だ。


 それに、異次元って言ったて、戦争することには変わらない。

 日本に普通に住んでるのに、戦争に出ろなんてありえないよ。

 相手はディキマみたいな怪物だ。

 でも、戦わないとドミネーターは追いかけ続ける。 

 

 もし、もしも、お母さんを生き返らせられたら、今まで一緒に、暮らして行けるはずだった時間を、取り戻せるかもしれない。


 代価を得た未来だけが、少年の頭を先行し、それ以外の不都合な事実は、見ないふりをした。

 


「解った…………君に力を貸す」

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