<処刑前夜〜勇者視点〜>
勇者になってはや二年が経つ。この大陸の、汚い貧民街でパンに飢えていた時がつい昨日のように思い返される。
国の正式な教会に声をかけられて勇者になってから、各地のダンジョンを巡り魔物を斬る毎日。今思えば、もっと女らしい事もしてみたかったと後悔する。
…でも、ようやく成し遂げた……この私、<第十三代目ユーステティ王国勇者アリス・ルシアーノ・セラス・ロードレオン>はとうとうこの地に巣食う魔族の王を捕らえた。
だがしかしあの魔王の態度、一抹の不安が残る。勇者と魔王の関係をまるで知らないような素振り、戦うための装備を全く身につけていない余裕さ、初対面の相手、それも勇者に対してお茶を出すというあからさまに好印象を見せつける態度は何か力を隠しているように感じられる。
私は訳あって貧民だった頃から魔族を酷く憎んでいる。魔物なんてみんな死んでしまえばいいとさえ思う。そんなこともあって、勇者に選ばれた時は運命的なものを感じたし、喜んで力を振るった。魔物はどれもやはり粗暴で、私を見るとすぐに襲いかかり、街や国を襲撃していた。だからこそ私は徹底的に魔物を殺し、一切の妥協さえも捨て、自身の躊躇を殺してきた。同時に、魔物達も私達に同じ意思を抱いていると思っていた。
…だったばすなのに…
この魔王、なぜこの状況になっても喜んでいるんだ……