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あなたへ

作者: 石川 梅

 今日はセックスしないで。

 今日は私に話させて。


 ベッドで話そう。

 私のことちゃんと抱いてて。

 私のことちゃんと見てて。


 あのね、前にも話したかもだけど、あなたのこと好きなの。

 どのくらい好きかっていうと、あなたの子どもが欲しいって思うくらい。

 こういう関係だから、それはダメだってこともわかってる。そもそも私、子宮ないし、年だからもう産めないけどね。

 もちろんお互いの家族の関係を壊そうとは思ってないよ。別れて結婚してあなたの子どもが欲しいっていうのとは違うよ。

 ただあなたの子どもを産んでみたかった。あなたとつながった証をこの世界に残したかった。あなたも私もいなくなって、それでも残っていく何かが欲しかった。


 カッコウの子育て方法って知ってる?たく卵っていうの。他の鳥の巣の卵に混ぜて、自分の卵を産んで他の鳥に育てさせるの。

 あれみたいにあなたと別れた後も、なに食わぬ顔で家の子として育てるの。どう?

 嫌だよね。

 わかってる。そんなことされたら、あなたは、迷惑。怖いって思われちゃう。


 あなたは、私のこと愛してないから。


 最初、どういうつもりで、私のこと誘ったのかはわからない。

 大方、いつも一人で口が固そうで、ダンナの影もなく、たぶんダンナとはセックスレスで、不満を持ってて、誘えばついてくるなって思われたんだと思ってる。ダブル不倫ならお互い様で結婚しようとか迫られないしね。


 私もあなたについていったんだから、さびしかったんだと思う。

 あなたがあなたの家庭に何が足りないと思ってるのかは、話してくれないからわからないけど、私を誘ったってことは、何かが足りないって感じてたのは確かだと思う。


 あなたといると楽しかった。


 最初に話したの覚えてる?

 私、身体の関係ができたらそれだけじゃなくて多分気持ちも好きになっちゃうって。

 やっぱり好きになっちゃった。


 あの時は、それも受け止めてくれるって言ってたけど、無理だよね。

 あなたは、足りないものの穴埋めをしたいだけで、私のこと愛してないから。

 多分あなたに足りなかったのは、刺激的なセックス。

 あなたはミチコさんのことは大切に思っているよね。

 私のことは愛してないけど、ミチコさんのことは愛していると思う。

 臆測でしかないけど、多分あなたたちは2人目の子どもが欲しかった。子作り目的のセックスをしたけど、できなかった。本当に愛しているから、欲望を満足するようなセックスができなくなっちゃったというあたりなのではないかなって思ってる。


 その穴埋めに私がひっかかっただけ。

 そんな相手に、いい加減おばさんな私をなんで選んだのか未だによくわからないけど、私はあなたとセックスできてよかったと思ってるよ。

 でも、同時に、とっても辛い。

 刺激って薄れていくものだよね。私も年をとる。あなたと初めてセックスしてから3歳も年をとっちゃった。だんだんお婆ちゃんになっちゃう。

 好きな人が求めているものが自分からだんだん薄れていくってわかってるのって辛いよ。

 刺激を求めるなら、相手をかえるのが一番だよ。

 でも、あなたは意外にやさしいから、私のことはとりかえずに「楽しくすごそう」っていう。


 私が欲しかったのは、あなたの愛情。

 欲しくても欲しくても手にいれられないから、焦れる。

 私を愛してないあなたに苛立つ。


 一緒にいればいるほど、私は苛立つ。

 楽しくなんか過ごせないよ。

 だって私は、私と同じだけ、あなたに私のこと愛して欲しいんだもの。

 でも、多分それは無理なんだね。

 最近になってやっとわかったよ。


 だから、今日は話したい。

 私はあなたのこと、諦める。

 あなたが望むから、諦めて楽しく過ごすだけの関係に戻るよ。

 もうあなたのことは愛さない。さようなら。


 私は、全てのことばを飲み込み、2人で少しワインを飲んでから、いつもの手順で抱きあい、セックスして別れた。



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