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塀の内側で

 ボロボロになった俺の頭に、名案が浮かび上がった。

 こめかみはもうグチャグチャだが、俺はやはり冴えている。

 

 俺がこの世界で生き延びるには、仲間が必要だ。

 短時間で俺には、主人公としての才覚がないことはもうわかった。

 そこは割り切って、認めてやろう。

 だが俺はあきらめない。


 目指すは、超一流スカウトマン。

 俺は、強そうな奴に声をかけ、共に生き抜くという案を思い浮かべた。

 


 街に着くと、そこは思ったよりも美しかった。

 ヨーロッパの、フィレンツェとかローマとかロンドンとか、そんなのとはまた少し違った雰囲気があった。

 それこそゲームの中の世界のようだ。

 レンガ調の建物、果物を売るおっさん、青い馬が引く馬車。

 この辺は全く持ってイメージ通りだな。


 俺はまず、近くにいた武器を持った男に話しかけた。


「なあ、あんた!」

「ん?」

「俺と一緒にこの世界を生き抜かないか?二人で目指そうぜ、成り上がりの英雄を―――――――」

「死ね」


 その一言で、俺の心は泣いた。

 男は冷たい一言と目線を俺に浴びせて、去っていった。

 だがまあ、まだ落ち込むのは早い。

 スカウトマンというのは、そう簡単に良い相手を見つけられないというのをテレビで見たことがある。

 いいだろう、日が暮れるまでやってやるぜ!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 日が暮れてなお、俺は一人だった。

 あれからたぶん、100人近くに声を掛けたが、そのほとんどに冷たい言葉を浴びせられた。

 「死ね」「キモイ」「頭大丈夫?」「童貞」「殺すぞ」

 なんかこう、悲しいな。


 途中でやけくそになって、子供にも声を掛けた。

 だが、付き添いの親に平手打ちを食らって、逃げられた。

 

 カラスも鳴き声を上げ始める時間帯になっても、俺は街で独り佇んでいた。

 そこに、いかにも屈強そうな男が通りかかった。

 身長は190センチくらいはありそうで、筋肉の付き方もマジ超人並み。

 そしてなにより、イケメン。


「へい、そこの旦那!」

「む?」


 俺は勢いよく話しかける。

 ここで躊躇していては、スカウトマン失格だからな。

 近くで見るとさらに迫力がある。

 もしかしてこいつ、王宮騎士とかなんじゃないか?


「こんなところで何してんだい?」

「今日は非番なんだ」

「非番?旦那、仕事は何してんだい?」

「騎士をやっている」


 キタコレ。

 こんなことあるか?

 やっと俺の期待通りに事が進んだ感じがする。

 後はこの男を上手く口車に乗せ、仲間に加える。

 そうすれば、俺の成り上がり物語はジェットコースターのごとく進んでいく。


「旦那、俺の仲間にならないかい?」

「…仲間?」

「おう!騎士なんかやめて、俺の仲間になった方が給料上がるぜ?もちろん最初は苦労を掛けるかもしれんが」

「…小僧」

「…はい?」


 あれ?なんか雰囲気が変わった。


「私の命は既にコーグニッツ様の元にある。二度と騎士を侮辱するような発言をするな。次侮辱すれば、その時は騎士道を重んじた制裁をお前に下すことになる」


 男はそう言い捨て、去っていた。

 怖すぎて、危うく漏らしそうになった。

 騎士には騎士道があったか…それは失敬失敬。

 戦力も大事だが、そういうところも考慮しないと、マジで殺されるな。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 俺は、とある屋敷のそばにいた。

 あたりはすっかり暗くなり、人通りも減ってきた。

 適当にブラブラ歩いていると、塀に囲まれた巨大な屋敷を発見した。

 通りすがる人の話を盗み聞きしたところ、ここは有名な貴族の家の一つらしい。

 貴族と言えば、金持ち、魔力強め、礼儀正しい。

 それが俺のイメージだ。

 貴族を仲間につけることが出来れば、俺はマジで最強になれる。


 屋敷を囲む塀を見て回ると、屋敷の真裏側に着いた。

 ここなら死角にもなるし、侵入してもバレにくいだろう。

 もちろん今すぐにスカウトする気はない。

 今日は良さげな人材探しのため視察と言ったところだ。


 塀を登り、壁に沿ってしゃがむ。

 塀の内側はもちろん、外側にも気を配らなくてはならない。

 さて、まずは窓を探そう。



 すると、何やら語気を荒げた声が聞こえてきた。


「あんたみたいな子を受け入れる気はないって言ってるでしょ!?」


 激しい女の怒声の直後、平手打ちをかます音が聞こえた。

 恐る恐る覗いてみると、屋敷から少し離れた所に、一人の女と少女がいた。

 少女は顔を抑え、地面に蹲っている。


「さっさと出て行きなさいよ!」

「あ、あの……少しでいいから、食べ物を――――」

「汚いから寄ってこないで!」


 再び平手打ちを噛ます。

 ひどい。

 キレてる女の方は、服装、髪型から察するにたぶん、この屋敷に住む貴族だ。

 何様のつもりで、少女を殴っているのだろうか。

 青い髪の少女は涙ぐんでいたが、声を上げなかった。


「た、……食べ物を――――――――」

「いい加減にして!」


 女は遂に足で少女の顔を蹴り上げた。


「いい加減にするのはお前の方だろうが!!」


 俺は思わず声を上げながら、女の前に立ちはだかった。

 しまった。


「何あんた、誰よ!」

「通りすがりのスカウトマンだが、お前みたいなクズ野郎はスカウトする気にはなれませんなぁ!」

「何わけわかんないこと…、ああもう!今日はほんとに最悪な日!」


 女は俺に向かって手をかざした。

 そして何やらブツブツ唱え始めた。


「なんだ?小声で俺のことを愚痴り始めたか?」

「…ドグウォール」


 女が唱え終わると、女の掌から巨大な岩が、俺目がけて飛んできた。

 俺はそれを体全体で激しく食らう。

 吹き飛ばされ、塀に叩き付けられる。


「ま、魔法かよ…」

「ドグウォール!」


 再び岩が飛んでくるが、今度はギリギリで避ける。


「平民がちょこまかと…」

「へへっ、平民は動きだけは速いんだよ」

「ロズフレイム」


 初めて聞く声の直後、俺の背中は急に熱くなった。

 俺はその勢いで吹き飛ばされた。

 火だ、俺は背中に火の玉を食らった。

 女の魔法とは明らかにレベルが違う。


「ぐぅ……あぁっ…」


 背中が痛い。

 こめかみの痛みや、岩での痛みなど比ではない。


「母さん。母さんはこんな奴ら相手に魔法なんか使わなくていいんだよ」

「メリー、よく来てくれたわ!」


 こいつら、嫌味な貴族親子ってところか。

 女は息子の背後に隠れた。


「君はなんだ?なぜ塀の内側にいるんだい?」

「スカウトのための視察だよ…だが、悪いけど塀の内側にはクズしかいないようだなぁ」

「そうか、君は死にに来たんだね」

「あぁ?」

「塀の内側に入ることが、何を意味するか知っているかい?」

「なんだ?クズと喋ってイライラが募るってことか?」

「死を意味するのさ」


 男の一言に、空気が変わったのは明らかだった。

 俺は嫌な予感を感じ取り、立ち上がって、少女を抱き抱えた。

 やばい、本当に殺される。


「ジオ・ロズフレイム」


 その瞬間、巨大な火が俺たちを襲った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「母さん、もういいだろ?」


 メリーは、騎士の前で怒号を上げる母親を窘める。

 メリーは騎士に、勘違いだったと告げると、騎士たちは帰っていった。


「それより母さん、庭の植物を燃やしてごめんよ」

「いいのよメリー、それよりあの小僧と小娘は…」

「僕の魔法で灰になったのさ」


 メリーは母親を肩で抱きながら、腑に落ちない表情を浮かべていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 クソ、どいつもこいつも腹が立つな。

 何もうまくいかない、本当にここは異世界なのかも疑ってしまう。

 これでは俺が元いた世界の連中と同じじゃないか。


「はぁ、はぁ…」


 俺は街を出て、草原を駆け、小さな林の中で座り込んだ。

 最後の一撃は本当に危なかった。

 もう少し判断が遅れていたら、間違いなく焼き焦げていただろう。

 少女も無事のようだ。

 もちろん二人とも、多少の火傷は負っているが。


「おい、大丈夫か?」

「お…お腹……空いた…」


 意識が朦朧としているような声と表情で少女は言った。

 その一言で、俺は自分の空腹を初めて意識した。

 よく考えたら俺、こっちの世界に来てからまだ何も食べていない。

 意識をすると、勢いよく空腹が襲ってきた。


 少女を抱えたまま立ち上がり、林の木に成っている果実をむしりとった。

 リンゴとミカンを足して割ったような色と見た目をしている。

 適当に剥く。

 まずは一齧り。

 ちょっと渋みはあるが、まあ、美味いっちゃ美味い。


「ほら、食えるか?」


 少女の口元に果実を当てると、少女は力なくそれを齧る。

 そして、小さな口でシャクシャクと噛み砕き、咀嚼する。

 心なしか、少女の顔が少しだけ晴れたような気がした。


「…名前、なんて言うんだ?」

「………」


 少女は果実を見つめている。

 俺はそれを少女に渡し、再び木に成る果実をもぎ取った。

 全部で5個ほどもぎ取ると、座り込んだ。

 

 少女は果実を頬張る。

 女の子のわりに、周りの目を気にせずに豪快に貪っている。

 子供っぽいと言えば子供っぽいか。


「腹減ってたのか?」

「……うん」

「名前なんていうんだ?」

「分からない……名前……」


 うぬ、記憶喪失か。

 はたまた赤ん坊の頃に親に捨てられたのか…。

 どっちにしても、これまた異世界っぽい展開だな。


「俺は赤月拓郎だ。拓郎って呼んでいいぜ」

「お兄ちゃん……」

「ははっ、まあなんでもいいけど」



 その後、俺たちは一心不乱に果実を齧り続けた。

 その日の星は、驚くほどきれいだった。


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