表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Hoch Wahnsinn  作者: 新生 旧太郎
3/5

3日目

7月16日(月)


あの後、Gは部屋を出、近くのホテルまで嘔吐きながら這い蹲って行き、人──と言っても羽根と腸の塊のような物体に連れられて、部屋まで着き、腐乱死体の宴と羽根と腸の雨の悪夢を繰り返した。


彼は勤務先に行くのが憂鬱だった。

職場が一体どんな変貌を遂げてしまったのかが怖かった。

しかし、真面目さがその憂鬱より優っていたのだろうか。

彼は出勤することにした。

案の定、往路は死体と蟲の腸の行進が行われていた。

吐き気を抑えていつものように勤め先に着く。

道化は顔で笑って心で泣いて、とはよく言うものだ。まさにそれである。すれ違う老若男女は腐臭を放ち、何とも言えぬ色をした粘液を垂らしている。

風船だけは風船として見えており、それは唯一の救いであったろう。寄ってくる異物に救いの風船を渡していく。まるで自分の精神を擦り減らしていくようなものである。そうしてやっと人間味のある影が見えた...臙脂色の和装、大きく蒼白い顔、覚束無い足取り...そう、“あいつ”だ。半笑いでふらふら、ふらふらとやって来るではないか。Gは凍りつく。

またあの歌が来るのだろうか。

また俺は苦しめられるのだろうか。

またあいつはずっと嗤って居るのだろうか。

またあいつは何処にでもやってくるのだろうか。

様々な自問が彼を支配した。

その支配は一瞬彼から力という力を奪った。思考力を奪った。

その一瞬の大いなる狂気から少しの正気に戻したのは腐臭から聞こえたつんざくような声だった。


『風船!風船!』


彼の手から風船が全て抜け出し、虚空へと吸い込まれていった。

『あ...』としか彼は言えず、呆然と立ち尽くすのみだった。

救いが...唯一の救いが...消えていく。

そして、その正気も大いなる狂気は呑み込んでいくのである。


邪神ガ囁ク チャンカチャンチャン 水子ハ這イ這イ

蠅王蠢ク チャンカチャンチャン 混沌ノ宴ジャ

チャンカチャンチャン チャンカチャンカチャンチャン


怪児は祭囃子の様な童謡を小躍りに歌っている。

次はどんな悪夢が待っているかの恐怖でGは震えていた。



奇跡かのように帰り道までは死骸と蟲の腸以外に異変はなかった。



しかしながら、恐怖と狂気の世界は容赦なかった。

部屋の前まで来た時に、何処からともなく何とも分からぬような声が聞こえてくる。

呻き声・・・否、それよりも禍々しい声だ・・・。

何とも分からぬ声と共に道の脇から子どもの腕が何百何千と触手のようにうねうねと生えてきた。そして、その腕と腕の間から蛆やら蝿やらが出てきている。Gの目の前には悍ましい風景が広がっていた。


青い空、白い雲。

羽根と腸の雨。

腐乱し、蟲を集らせているすれ違う人々。

道の脇から生える子どもの腕。

腕の隙間から出てくる蛆、蝿。

理解不能な重低音。


Gは大いなる狂気に呑まれていった。

そして、三日目は幕を閉じていったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ