2日目
7月15日(日)
Gの休みの日。昨日が昨日だった故、彼は疲労困憊していた。
きっと自分は疲れているのだ...休養が必要なだけだ、と考えた彼はコンビニエンスストアで何か食べるものでも買って、1日寝て過ごそう、と決めた。そう、あの悪夢の所為で何度も何度も同じように寝ては起きて、寝ては起きて、を繰り返していた。
そして、いつもならこんなに重くはないはずなのに重く感じる玄関の扉を開けて、7月の厭な暑さへと足を踏み入れた。
結局、家に居ようと外に居ようと不快なのには変わりないのだ。暑いか、悪夢に囚われるか。...どちらも厭なモノだ。
強いて言うなれば、暑さには何とか対策は打てるが...悪夢はどうしようもないのだ。いくら幸せそうな愛玩動物の動画を見ても、最近の流行の曲を聴いてみても、関係なく悪夢は見てしまうのである。
『...はあ...』
彼からは絶望の嘆息のみが先程から出ている。
いつもどおりではない路地。電柱には乾いた犬の尿、遊んでいる小学生たちの喧騒、普段は会社でカタカタとキーボードを打っている平社員と思われる男性のランナー姿。平日とはイレギュラーな風景はいつ見ても新鮮でGは少しだけホッとした。
そして、曲がり角。そこには想定外の『いつもどおりではない曲がり角』があった。和装。大きな顔。半笑い。手には鳳蝶の残骸。
────何て事だろうか。例の子ども...である。
一瞬にしてGの頭は思考を停止した。そして現れる疑問。
『何故だ』
それはGの口からも漏れていた。お構いなく子どもはイヒヒ、イヒヒと嗤って居る。彼の目の前に夢の様に羽根がひいらりひらりと舞い降りる。羽根の吹雪の中に子どもが地面の蛾を踏んでいるのが見える。いつしか羽根の吹雪は、あの時と同じ...腸の雨へと変貌を遂げていく。そして容赦なくGにへばりついてくる。べちゃり、べちゃり、と音を立てていく。その風景にGは堪らず嘔吐した。
しかし、腸の匂いと吐瀉物の匂いは更なる嘔吐を呼ぶだけであった。
『大丈夫ですか?』
Gは大丈夫です、と気丈に言おうとした。だが、その声の主を見ると
腸と羽根の塊ではないか。それを見て彼は戦慄した、と同時に胃の中から全てを出し切るかのように嘔吐した。それでもなお、嘔吐は続き、胃液すらも出し切っていった。
それを半笑いの怪児は悪意のみの眼で愉快そうに見ていた。
地面が腸でぬめぬめと滑っていく中、Gは怪児の所へと歩んでいく。
嗚呼、神よ。居るのならばこの哀れな青年Gを助け給え...
怪児は口を開き、再び歌を口ずさみ始めたではないか。
黄泉ガ開イタ 死屍ノ宴ダ 世ニ罷リ出ヅ 宴ニ入ル僕ガ居タ
チャンカチャンカチャンチャン 踊レヤ踊レヤ 宴ジャ宴ジャ
軽快なリズムを刻みながら不快な歌詞は呼吸するように怪児の口から流れ出てくる。怯えながらGは自らの家へ、自らの家へ、と這って行った。
そして安堵の溜息をつき、家に入った時だった。
彼は衝撃を受けていた。
『嗚呼....』
例の子どもが何故か腐乱死体数体と共に我が家に居座っていたのである。
悪夢はどうやら終わらない様であるのだった。




