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番外編、夏休み


気分転換に書き上げましたイチャイチャしてるだけのお話です。





時は高三の夏。夏休み中に起きる推薦入試やら会社訪問に向けて俺達は勤しんでいた。

そんな中、白泉しらいずみが言う。


「なあ、桂木。お前デートとかしないの?」

「はっ? 何言ってんの? そんなの入試が終わってからでいいだろ」

「いやいや。入試があるからこそだろ。お前達バラバラに進学するんだろ? だったら今の内に遊びに行けよ」


ヤケに強くデートを強調する白泉。

俺も遊びに行きたくないわけじゃない。寧ろ行きたいよ、すっごく! だってさ、やっと戦いも終わって遊びに行ける時間が増えたんだ。

勉強なんて放ってデートに行けたら・・・・・・なんて何回も考えた。でも簡単には行かないんだよ。残念ながら。


「一応推薦は取れたけど色々危ないんだよ。特に俺と日向は。遊んでる暇なんてないの。日向なんて毎日桜の家に泊まって猛勉強なんだからな。邪魔なんて出来ない」

「でも息抜きも大切だろ? 後輩達も寂しがってんぜ。夏休みくらい羽伸ばせよ。推薦は確定したんだからさ、少しくらい遊んだって大丈夫だよ、きっと」


まあ確かに、白泉の言うことも一理ある。詰め込み過ぎてもパンクするだけだ。

ちょっとだけ。ちょっとだけならいいよな。

こうして夏休みの予定が少し埋まっていった。






夏休み初日。

まずは日向と遊ぶことにした。理由は簡単。初日なら勉強への影響が少ないと思ったからだ。


「悪い。遅れた?」


約束の場所に先に来ていた日向は少し照れたような笑顔で答える。


「ううん。私も今来たんだ。グッドタイミングだよ」

「そっか。なら良かった。じゃあ早速行こうぜ。息抜きの時間がなくなっちまう」


日向の手を引いて歩き出す。まずは何処に行こうか?

はっきり言って俺はデートが苦手だ。だって前日とかに予定を立てるんだろ? 俺はそういうのが出来ないから。そして予定通りに動けないから。


「おっ、あそこに入ろうぜ。喫茶店」


たまたま目に入った喫茶店を指さす。なかなかおしゃれな外見でデートにはもってこいな感じ。

時間は朝の八時。おそらく朝飯を食べてない日向にもぴったりだ。

日向も頷いて同意を示した。やっぱり朝飯食ってなかったのかよ・・・・・・。


喫茶店に入って目立たないよう端の席をキープする俺達。そして軽食を頼んで朝食を取る。


「春くんは大学行けそう?」


やっぱりというか、日向の問いは進学のことだった。

そのまま話したら羽休めの意味がない。日向の口にパンを放り込んで黙らせる。


「今日は勉強関係禁止だぞ。普通にデートをするんだろ」

「・・・・・・うん。ごめんね」

「別に。謝ることはないよ。気になるのは分かるし。でも、今はとことん遊ぼうぜ! 折角の休みなんだからさ」


拳を握って笑う俺に日向も笑って返す。


「・・・・・・うん、うん! そうだよね! 明日から桜ちゃんに扱かれるし、今日はいっぱい遊ぶぞー!」

「よし! じゃあ早く食べて動こうぜ。行く場所なんていつもと同じでいいだろ?」

「うん。ゲームセンターだ!」


勢いよくパンにかぶりつく日向。一応とはいえ彼氏の前でそんな姿を見せるのはどうなんだ?

でも、そこが日向らしいというか。少し微笑ましく思いながらそれを見ていた。


さて、ゲームセンターでデートといえば・・・・・・まずはこれ! クレーンゲームだ!

日向が好きそうな小さなぬいぐるみに目を付けて金を入れる。

俺の指示通りに動いたクレーンアームはぬいぐるみに引っかかって吊り上げた。そして────


「ああ! 落ちた!」

「惜しいよ、春くん! 頑張って」


虚しく帰ってくるアーム。しょうがない、リベンジだ!

二回、三回と数だけが増していく。隣で見てる日向も遂に苦笑気味になってしまった

もう日向のことなんて忘れて数だけ増やす。スカ、スカ、スカァ!

何度やっても取れない・・・・・・。ちっくしょう! こんなに下手だったか?


「春くん。交代しようか?」


ずっと隣で見てた日向が言った。正直、意地というものがあるから変わりたくはない。でもこのまま醜態を晒し続けるのも嫌だ。

二人で失敗して難しいねって話した方がいいんじゃないのか?


「うん。結構難しいぜ、これ」


俺の完璧な展開を繰り広げる為に交代した。そして日向の指示によって動くアームはいとも簡単にぬいぐるみを拾って持ってくる!

なん・・・・・・だと・・・・・・? 俺の理想は!? 難しいね、は!?


「ははは・・・・・・。取れちゃった」

「むぅ。次行こう! 次は取るから!」


そしてその後もクレーンゲームに挑戦しては撃沈していく。何故だ、何故できない!? 不調か!? 今日に限ってか!?

折角のデートなのに・・・・・・。今のところかっこいい所ゼロだぞ。大丈夫、俺。


「次はこれだ!」


クレーンゲームを諦めた俺は格ゲーへと足を運んだ。これは白泉とやりまくった。そして中学の時も無駄に金を注ぎ込んだ。自信はある!


「よっしゃあああ! 勝った。あ? またチャレンジャー? よし、返り討ちにしてやる」


ははは! 連勝記録達成中だぜ! このまま店の記録も・・・・・・。あれ?

ここで俺は気付いた。デートとしてこれは正しいのか。いや、断じて違う。

だって日向は格ゲーなんて知らないんだ。だから勝敗くらいしか分からないだろう。それだけで楽しめるだろうか。


「おー! また勝った! 凄い、凄いよ! 春くん強いね!」


案外楽しめてた!? そうだ。日向はそういう奴だった。でも、デートってそういうもんじゃないよな。

日向の手を取ってコントローラーに置く。


「ちょっと!? 私やり方分からないよ!」

「俺が教えるよ。ほら、集中して」

「でも、負けちゃうかも・・・・・・」

「それならそれで楽しいだろ? このまま一人でゲームやってても面白くないんだよ」

「うん。ありがと」

「何が?」

「ううん。何でもない! えへへ・・・・・・」


気持ち悪い笑みを浮かべる日向は置いといてゲーム画面に集中する。

あくまでも日向のサポートとして。基本的に声で何をするかを教えてやる。ヤバい時は実際に手を重ねて動かして。

日向はどうか分からない。でも、俺個人としては楽しい時間だった。


「あー、負けたぁ! でも────」

「楽しかった! またやろうね、春くん!」


そう笑顔で言う日向を見てると嬉しくなってくる。見慣れた一挙一動も愛しくて、可愛いくて。

血に塗れた俺とは大違いで、抱きしめたくなる。


「ああ。またやろうな。そして次は半分くらいは削ろうな、HP」

「あれは春くんは邪魔したからー」

「日向がガードもしないで突っ込むからだ。敵が攻撃してたらジャンプするかガードしろ。てか主にガード」

「攻撃あるのみだよ! ほら、最大の防御って言うし」

「格ゲーにそれは当てはまらねえよ」


日向と話しながら歩いてるとリズムゲームが目に入った。

リズムに合わせて足でマットを踏むやつだ。二人でやれるようで対戦式らしい。


「よし、やろうか」

「うん。負けないからね」


二人で百円ずつ入れて開始する。

難易度はそこまで高くないようで簡単にリズムが取れる。終わってから気付いたが難易度は「普通」で難しくないのは当たり前だった。

当たり前のように「難しい」を選択してコインを入れる俺達。

おお? なかなか難しい。速度も早いけど、アイコンが多い。同時に踏まなきゃいけないのもあって油断出来ないぞ。

────と言っても悪魔である俺には集中すれば簡単に見えるレベルだ。そもそも人間と悪魔じゃ身体能力が違い過ぎる。

余裕が出てきたその時、隣の息遣いが聞こえてきた。

小刻みに吐かれる息。そっと横を見ると日向の顔に汗が浮かんでいてキラキラと光っている。

彼女になったらアイドルよりも可愛く見えるって話は知ってるだろうか。今は正しくそれだ。

日向はそこそこ可愛い。それは認める。でも今は、今だけは世界で一番可愛く見えてしまう。


「ミス! ミス! ミス!」

「えっ? あ、やっべ!」


機械が無機質な声を上げた。いつの間にか動きが止まってたんだ! ああ! くそ! これが惚れた弱みってやつか? 笑えねぇぞ、おい。

結局、このミスが足を引っ張って日向には勝てなかった。膝に手を当てて息を整える日向が妙に艶っぽく見えたのは内緒だ。


「えへへ。勝った」

「はあ。こんなの勝てねぇよ」

「ん? 珍しいね、負けを認めるなんて」

「まあな。別のやろうぜ。メダルゲームとかさ」

「えー! もう一回やろ? ね、もう一回!」

「嫌だ。これはもう嫌だ。絶対やらねぇ」

「意地悪。いいもん。桜ちゃんとやるから」


日向はむくれながらも隣を歩いてくれる。今はそれが毒なんだけど、言えるわけがない。

なんか少しだけやってもいいかなって思えた。今日はもういいけど。


次はメダルゲームだ。

軽く千枚ほど買って適当なゲームに座る。って二人で出来るメダルゲームなんて入れて落とすやつしか無いんだけどさ。


「馬鹿! 入れるタイミング考えろ!」

「え? 今違うの?」

「今入れたら台が引っ込むだろ!」


速攻でなくなったメダルケースを返してゲームを変えることにした。日向にはまだ早いらしい。

あとはレースゲームくらいか? でも俺も日向も経験はない。

時間もそろそろ頃合だ。帰ろうか。


「日向、行きたいところあるか?」

「うーん。春くんと一緒ならどこでも・・・・・・。ちょっと恥ずかしいね、これ。うん。どこでもいいよ」


少しだけ顔を染める日向の手を握ってゲームセンターを出た。

空は紅く染まって沈む日がよく見える。もう少し一緒にいてもいい。でも、どうしても勉強の不安が残る。今日は・・・・・・我慢だ。


「なあ、日向」

「うん? なに? もしかして・・・・・・またゲームセンター?」

「んなわけないだろ。そろそろ帰ろうかって思ってさ。息抜きし過ぎてもアレだろ?」

「あ・・・・・・うん。そうだね。えへへ、楽しかったよ。春くんに沢山勝てたからね」

「はいはい。次は勝ちますよー。全勝して泣かせてやるからな。覚悟してろよ」

「ふふふ。春くんには負けないよ。泣いちゃうのはどっちかな?」


他愛ない会話を繰り返して歩く。少しでも長く続けばいいのに。そんな願いは叶うことは無い。願いを叶える方法はないんだから。

日向の家についてしまった。ずっと変わらなかった日向の笑顔。それが少しだけ曇ったように見える。


「じゃあ、また・・・・・・いつだろうね?」

「あー。夏祭りか花火大会か」

「でもその日はデートでしょ? モテモテだねー」

「そうだけど。会えないわけじゃないだろ。いや、絶対会う」


日向の手を離す。

今思えば、普通のデートなんて本当に久しぶりだ。そして、これは初めてかもしれない。

日向の顔に軽く手を当てて、引き寄せる。近づいていく日向と・・・・・・唇を重ねた。


「じゃあ、また明日!」


それだけ言ってその場から逃げ出した。なにこれ! 超恥ずかしい!

世の中のカップル凄いな! こんなことポンポンやってんのかよ!


その日の夜。

日向からメールが届いていた。


「今日は楽しかったよ。あと、嬉しかった。それと恥ずかしかったかな。次は心の準備しておくね・・・・・・って恥ずかしいのは俺も同じだ、バカアアアア!」


誰もいない家に俺の叫びが木霊した。






何日か日にちが過ぎて、花火大会当日。

今日は桜との約束だ。

腕時計を確認する。午後六時半。空はまだ明るい。そして待ち合わせ三十分前。

席取りは完璧。穴場で人が少ない所をキープしてる。着物とはいかなかったけど服も変なところはない。


予定を確認しよう。

花火開始は八時半。それまでは屋台を回る。出来れば祭りらしくヨーヨー釣りなんかは回っておきたい。

五分前になったらキープしてある場所に行って花火を見て・・・・・・。後は日向と同じで勇気を出すだけ。

よし、確認もできた。あとは待つだけ────


「なにをしてるんですか?」

「ひゃあああああああ! 桜!?」


いつの間にか前にいた桜が俺をのぞき込んでいた! 緊張も相まって死にそうな程叫んだぞ。

桜の格好は藍色の浴衣に身を包んでいて、髪は後ろで結ってあって桜の雰囲気と凄く合ってる。


「あの、そんなに見られると恥ずかしいのですが・・・・・・」

「ごめん。見とれてた」

「へ? 見とれ────!」

「いや、違う! 違うわけじゃないけど!」


顔を真っ赤にする桜に両手を振って言う。戦いが終わってから何かおかしい。

命の危険がなくなったからか? そこで感じた桜達の大切さだけが残ってて頭がおかしくなりそうだ。

意識しすぎちゃう。こいつらの前だと変になる。


「えっと、とにかく行こうぜ! もう人がいっぱいいてさ。早くしないと遊べないぜ」


恥ずかしさを紛らすように手を引いて祭りの人混みに突っ込む。

最初に挑むのは定番の金魚掬いだ。これは俺にだけ出来る裏技があってアピールするには絶好の獲物になる。


「おっちゃん。二回分頼む」

「はいよ。四百円ね」


高っ! だが文句は言ってられない。金を払ってポイを貰う。


「桜もはい。やろうぜ」

「ですが・・・・・・。いいのですか? お金は・・・・・・」

「気にすんなって。一緒にやった方が楽しいだろ」

「はあ。そうですか? なら────」


桜の目が真剣なものに変わった。その瞬間、二匹の金魚が桜のカップの中に入っていく。

あれ? これはもしかして・・・・・・。

その後もどんどん掬われていく金魚達。ポイが切れる気配は一切ない。

桜のスペックが高いのは知ってたけど、金魚掬いまで出来るとは聞いてねぇ!

このままだとカッコつかないぜ、俺!


ポイを水の中に入れて意識を集中させる。そして水の魔法を交えつつ金魚を掬いあげた!

ふふふ、負けないぜ。桜。そして少しは彼氏っぽいところを見せてやる!


「もうやめてくれ・・・・・・」


おっちゃんが弱音を吐いたところで俺達の勝負は終わった。

結果は俺の惨敗。二十は超えてるだろう金魚を水槽の中に返して桜が笑う。


「春の前だと気合いが入ってしまいやりすぎてしまいます・・・・・・。恥ずかしいところをお見せしました」

「いや、凄いと思うよ。うん」


それしか言えなかった。ズルして十匹しか取れない俺の方が恥ずかしいからだ。なんでこんなに俺の彼女はスペック高いんだ?

他にもヨーヨー釣りや、くじ引き。ビンゴ大会を楽しんだ。

どれも桜の本気が炸裂して店主を土下座させる結果に落ち着いたが当の俺としては何とも言えない。

桜が俺の腕時計を指さして言う。


「春。そろそろ時間はいいのですか?」

「え? げっ! もう二十五分じゃん! 急がなきゃ!」


桜の手を握って走る! ほら、予定通りに行動できない!

飯も食べたかったのに! ちくしょう、ちくしょう!


「間に合った!」


開始一分前。何とか取った場所に着いた俺は振り返って苦笑する。だが、その苦笑は更に苦いものへと変貌した。

俺の手の先にいるのは知らない女の人だ。桜とは似ても似つかない。焦って間違えた? ふっざけんなよ、俺!


すぐに引き返して桜を探す! だがどこにもいない。別れたであろう場所にも、待ち合わせ場所にも。

空には花火が上がってしまっている。桜と見たかったのに。くそっ! 俺の・・・・・・馬鹿野郎!

祭りの中を駆け回った。見つからない。見つからない。どんどん焦って、時間だけが過ぎていく。

そして遂に・・・・・・花火終了まで五分前になってしまった。あと打ち上げられるのは二発。

何で・・・・・・こうなるんだ。何度も確認したのに。準備までしたのに・・・・・・。

諦めかけた瞬間、声が過ぎった。それは去年の夏のことだ。

誤魔化した告白。桜の言葉。そして・・・・・・約束の場所。

走った。ただ、一心不乱に。

花火が打ち上がる。残り一発。まだ間に合う!


人混みを抜けて人気のない公園へと入る。そこのベンチに桜と日向は座っていた。


「あ! 春くんだ」


俺に気付いた日向が指さしてきた。

桜は俺を見て微笑むだけ。最初からここで見る予定だったかのように。遅いとも言わず、ただ微笑んでいた。

桜の横に座って小さく問う。


「何でここに?」

「ここは三人で花火を見た場所です。ですから、私にとって花火を見る所はここ以外にありえないんです」


最後の花火が打ち上げられた。

大きく、広く弾ける火花。その花は大きく広がって幾重にも花を作り上げる。

その光に照らされた桜の顔は少しだけ昔の子供の頃のものに見えたのは多分見間違いじゃないと思う。


日向と別れてまた二人っきりになった。


「帰りましょうか」

「うん。ごめんな、花火」

「いえ。例え一つでも三人で見れた。それだけで十分です」


二人で見たかった俺と幼馴染み三人で見ることを望む桜。

それは好き合ってるとかじゃなくて、そういうものだと思ってるんだろう。

イベントは三人で遊ぶもの。それは誰が誰と付き合っても変わらない。

桜にとって幼馴染みってそんなもので。俺達は変わることなく桜の幼馴染みを描いていくんだろう。


「やっぱ適わないな、桜には」

「なんですか? いきなり。私より春が優れてることの方が多いと思いますけど」

「ははは、絶対それはない。桜は謙虚すぎるんだよ。少しは自分を誇るべきだと思うぞ」

「それは春も同じじゃないですか。あなたは世界を救ったんです。もっと自信を持つべきだと思いますが」

「そういうことじゃないよ」


少し足を早くして桜の前に出る。そして向かい合って軽く手を伸ばす。

焦らしても恥ずかしいだけ。一気にキスをする。

桜の体が小さく震えた。でもすぐに受け入れてくれる。

桜の手が俺の胸を撫でた。俺の手も自然と桜の髪を撫でるように移動する。

ゆっくりと唇を離す。紅く紅潮した顔に言う。


「でも、いつか絶対また桜から好きだって言わせてみせるから。覚悟してろよ」

「・・・・・・はい」


小さく答えた桜。

やっぱり恥ずかしいな。でも、嬉しくもある。

まだ小さなことしか出来ない。キスをするのにも勢いに助けてもらわなきゃ出来ない。

でも、いつか普通に出来るになったら・・・・・・。また何か変われる気がするんだ。

世界を救った英雄の悪魔としてでも、ただの殺人鬼としてでも無くて・・・・・・普通の人間として。

その為には大学に行かないとな。


「あの、春」

「ん? どうした?」


桜の家に送っていく途中。未だ顔の紅い桜が言う。


「その、ですね。大学生になったら・・・・・・ですね。その、春の家に・・・・・・住まわせてもらってもいいでしょうか?」

「は? はあああああ!?」

「嫌ならいいんです! でも、その一人暮らしとか憧れがありまして。でもお金もありませんし。その、春の家なら安心できますから・・・・・・」


桜の衝撃的なお誘い? に開いた口が塞がらなくなった。だって桜だぜ? 桜が同棲してくれって・・・・・・。最高じゃないか!


「うん。しよう! すぐにしよう! 荷物を纏めるの手伝うぜ」

「だから大学生になったらと言ったでしょう!」

「あ、うん。ごめん。ちょっとテンション上がって」

「いえ、こちらこそ。無理を言ってしまいましたので」

「じゃあ桜が合格したら少しずつ荷物を移せばいいのか?」

「はい。まだ受かるかわかりませんが」

「桜なら絶対受かるだろ。問題は俺だな。これで俺が浪人なんて笑えないからな」

「春も受かりますよ。頑張ってますから。それでは────」


いきなり口が塞がれた。

桜の突然の行動に頭が真っ白になる。何とも言えない柔らかい感触。それが桜の甘い匂いと混ざって頭がくらくらしてきた。


「約束ですよ。守らなかったら・・・・・・怒りますから」


顔を真っ赤にして舌をベーっと出す桜。そしてパタパタと走って帰ってしまった。

よっぽど恥ずかしかったんだろうな。そういうのに無神経な俺でさえ恥ずかしいんだから桜じゃ相当たまろう。

それにしても同棲か・・・・・・。

期待と不安が織り交ざった感覚が襲ってきた。次は水奈と火奈か。めいっぱい楽しんで勉強しようか。


家に帰ると携帯が光っていた。

何件も入ってる不在着信と一通のメール。

はぐれた時に電話してくれたんだ。家に忘れてたおかげで出れなかったけど。

そしてメールだ。


「羽を伸ばすのは結構ですが程々に。勉強も大事ですよ。今日はありがとうございました・・・・・・って業務連絡かよ」


これを顔真っ赤にして打ってたって思うと面白いな。まだお互い慣れないけど、目指せ同棲ってことで。

色々なことを知って、思い出して。大切な目標が出来た一日だった。


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