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処刑当日、2



繰り出した斬撃は魔王体から発せられてる黒い魔力によってかき消された! 違う。消されたのは刀身の方────?


「────って、なああああ!? 折れた!?」

『ちげぇよ! 周りをよく見ろ!』


ヴリトラに言われて周りを見渡しても何も分からない。頂上故か瓦礫一つない綺麗な地面だ。何も無い。なんだ? 何がおかしい?

とにかく折れた刀身を何とかして・・・・・・。そういえば!


「もう片方。折れた方の刀身が見つからない。落ちたのか?」

「そんなこと気にしてる暇────あるの?」


魔王様が一瞬で詰め寄って来て乱打を繰り出してきた! 両腕を交差してその全てを防ぐ────。


「ぐっ! ────がっ!」


重い。そして痛い! まるでヴリトラが機能してないみたいに痛みが襲ってくる。力の差があり過ぎる。こうなったら────


「黒炎!」


折れた刀身を振り上げて炎の魔法を放つ! 現れた黒い帯は魔王様を焼き尽く────


「この程度で、この僕を殺せるとでも思ったのか? 心外だ────」


黒炎の中で笑う魔王様の姿が消えた! そして────

腹に拳がめり込んだ! 暗転する意識。込み上げてくる血反吐。腹から来る衝撃と痛み。その全てが同時に襲ってきた!


「なんだよ、これ。何が起こってるんだ・・・・・・」


血反吐を吐いて魔王様を睨む。殴られた所を撫でればすぐに分かる。ヴリトラの力が解けてやがる。さっきの刀身もそうだけど、魔王様に触れた瞬間に消えた。これが魔王様の力か。


「そろそろ察しがついたか。僕の力は「無」だ。魔力を霧散させて無力化する。それが僕の力だ」

「無力化・・・・・・。じゃあ」

「ああ。お前の扱うヴリトラの力は全て────俺には効かない」


効かない? じゃあ俺は勝てないじゃないか。だって俺の力の大半はヴリトラによるものなんだから。こいつの力が使えないなら俺は人間と変わらないくらいに弱い。今の俺じゃどうしようもない。それくらいの戦力差。

目の前に振りかざされる魔法。より暗く、より深くなっていく闇。先輩、ごめんなさい。俺、もう────。


「さて、処刑のお時間だ」


放たれた闇の魔法。俺はそれを無防備に受け入れる、はずだった。俺に当たる直前に魔法が爆発した! 助かったのか・・・・・・?

爆炎の中俺を見つけた魔王様が舌打ちをした。


「チッ! アモンの力か。やはり、あれを生かしておくことは出来ない。お前の後で殺してやる」


魔王様の視線の先には先輩がいた! アモンの悪魔を圧倒しながら俺を見ている。やっぱり強い。あの魔王様が焦ってるんだから相当だ。

もしかしたらいけるかも・・・・・・。


「それは、違うだろ。」


俺は何の為にここに来た。

────先輩を助ける為だ。

じゃあ何で助けられてるんだ。

────弱いから? 無力だから?

俺は弱い。だから勝てない。

────違う。俺は・・・・・・。


「勝ちたいなら諦めるなよ・・・・・・。俺ぇ!」


立ち上がり、地面を蹴った。そして拳を握る。目標は魔王様の顔面。例え魔力が無くなってダメージが入るはず!

乾いた音と共に魔王様の顔に俺のパンチが炸裂した! 一瞬だけ、魔王様の動きが止まる。この一瞬を逃がす手はない!

追撃の連打! 拳を、蹴りを、頭突きを、体全身で魔王様へと突貫する!


「御剣が来てくれた。レヴィが助けてくれた。先輩が一緒に戦ってくれた。ここまで来たんだ! 色んな人に支えられて、ここまで来た! だから俺が諦めてたまるかぁ!」

「支えられた? 助けてくれた? くだらない。この世界は力で動く!」


魔王様と俺のパンチが交錯して互いの顔面にぶち当たる! まだ倒れない! 次は互いの拳をぶつけ合う! 骨が砕ける音が聞こえた。それでも止める気なんてない!


「例えそうだとしても────。それだけじゃ人は生きていけないんだ! 助け合って、優しさを学んで、誰かと一緒に生きていくんだよ!」


俺の右手が光輝いて神の力を解き放つ。魔王様は真っ黒な魔法を右手に宿して振りかぶっている! もう・・・・・・終わらせる!

衝突する互いの力! 魔力と神の力じゃこっちの方が分がある。俺の神の力は魔王様の手を溶かす!

右手を押さえて浄化に耐える魔王様に言う。


「俺の・・・・・・勝ちです。それはあなたの体を蝕んで溶かしますから」

「くっ、はははは。本当にそっくりだ。その言葉。その力。感情で魔力が跳ね上がるところもな」


気持ち悪いくらいに笑う魔王様。何を言ってるのか分からないけど、もう動けないはずだ。先輩の援護に行こう!

先輩の所に向かおうと魔王様に背を向ける。その瞬間────


「あれ?」


全身の力が抜けて地面に倒れた。魔力切れ? なんか違う気が・・・・・・。あっ、そうか。ヴリトラ無しに神の力を使ったから・・・・・・。

浄化が俺にも働いた・・・・・・。ってことは死ぬ?


搭の崩壊は止まらない。土煙を上げて地面に崩れ始めてきている。こっちも時間切れ。あと1歩。あと、帰るだけなのに・・・・・・。

諦めかけた俺の胸で、何かが震えた。携帯のバイブレーションだ。その後────


「────新しいメッセージが1件です」


まさかの留守電! こんな時に役に立たないな、ほんとに! だが、携帯から聞こえた声は俺のそんな思いを全部かき消した。


「もしもし? 春くん? 私、日向だよ。えっとね、理沙ちゃんが怒ってたよ。全然帰ってこないって。それでね、白ちゃんはうちに泊まって、理沙ちゃんには帰ってもらったから。あと、皆で海に行く約束のことなんだけど。来週の土曜日に決まったんだ。だからね、それまでには帰ってきてほしいな。あっ! でも、新しい水着買わないと! じゃあ、早く帰ってこなきゃ駄目だよ! 皆で一緒に行く────」


留守電はそこで途切れた。なんというか・・・・・・忙しい奴だ。でも、うん。


「そう、だな。皆で、帰るんだ」


煙を上げる右手。こうなったらあれだ。仕方ない。折れた刀で右手を切り落とす! 吹き出した鮮血を今は気にしてる場合じゃない。早く・・・・・・帰るんだ。

残った左手で魔法陣を描く。後は・・・・・・皆を探すだけ。本当に後少しだ。


「もう少しで、全部・・・・・・終わる」


揺らぐ視界を押さえて静まり返った野次馬の中を歩き出した。







どうやら春の方は決着がついたらしい。魔王様は右手を押さえて顔を歪めていて、春はどこかへと歩いて行ってしまった。奇跡とも呼べる勝利。それでも生きてくれるなら良かった・・・・・・と私────オーガス・アモンは安堵した。

私の目の前にいる2体の獣。父と母と呼ぶべき悪魔は息も途絶え途絶えに言う。


「我が愛した子よ。何故、己が主を裏切る。 大魔王サタン様は我らに救いを与える救世の王だというのに」

「魔王様のお考えは私には分かりません。故にお父様の言葉の真偽も私には分かりません。────ですが、私の愛した眷属が私の為に戦うと言ったのです。ならば私は眷属────春の為に戦います。例え魔王様と敵対することになったとしても。この私の思いだけは変わることは無いでしょう」

「あの小僧の為に与えられる救いを捨てると? 我ら一族全てを捨ててでもあれと生きると言うのか!」


声を荒らげる父。それと同時に母が駆け出した! 炎を身に纏い突貫してくる。それを私は右手で母の頭を受け止める。

春と同じ漆黒の肌。でも春の力とは性質が違う。私の力は正真正銘の能力強化。魔力も身体機能も全て強くなれる。


「ええ。名を背負うオーガスとしてではなく1人の悪魔として────火野村桜花として春達と共にいます。その為に・・・・・・あなたに勝つ!」


母の顎に掌底を放つ。それと同時に炎の魔法を撃って母の体を空へ吹き飛ばした! そして────


「終わりです。お母様────今までお世話になりました」


巻き上がった火の粉の全てが爆発して母の体を跡形もなく消し去った。これがアモンの力。爆発の魔法。炎の魔力からの派生して出せる高威力の上級魔法。それが私の・・・・・・アモンのオリジナル。


もう一人。父の腹に飛び込んで一撃。高熱の魔法を叩き込んで、爆発! 下半身が無くなった父にトドメを刺して終わらせる。


「さようなら。昔からあなた達の考え方には付いていけない所がありましたが、私も愛していましたわ」


母と同じくこの世から消えた父を思い呟いた。でも、これで悪魔も、アモンも変われる。戦うだけが全てではない。他の誰かと笑い合える未来に1歩近づけた気がするから。


「終わらない。終わらせない。この魔王が、「悪」の王が神に、人間に敗れるなど、あってはならない!」


魔王様の雄叫び。それは魔界へと響き渡り、他の悪魔へと共鳴した。

春が危ない。急がないと────。春の歩いた方向には大勢の悪魔がいて、追いかけることが出来ない!

春・・・・・・無事よね。今の私には赤い空を見上げて祈ることしか出来なかった。



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