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処刑、当日



響き渡る歓声。空高くそびえる搭。そしてその上に立つ先輩とヒルデ先生とセラ。それは全て俺────桂木春のせいで反逆者の汚名を着せられた人達だ。

そして俺はその搭を遠く離れた丘から眺めていた。


「ざっと5キロくらい離れてる。どうやって攻めようか?」

「搭、を、攻撃、して、怯ませる。その隙に────」

「いやいやいや。搭を攻撃するってことは崩すってことだろ? 先輩達の身が危ない。はい、却下」

「でも、敵、多い、から。普通、に、戦、っても、勝てない、よ?」


確かに、レヴィの言う通り。普通に戦っても勝てない。相手は魔王様の護衛なんだ。普通よりちょっとだけ強いだけの俺が戦ったって相手になるはずない。

戦うより助けることに集中する。だったら意識を別の何かに逸らす必要があるってことだ。そう考えると、レヴィは正しい。でも────


『何の為に修行した? 崩れる前に枷を壊せばいいだけだろ。簡単な仕事だ』


いつも通り、ヴリトラの声が頭に響いた。何の為に修行したのか。確かにその通りだ。何の為に神の力を使えるようになったのか。何の為にオーディン様から武器を受け取ったのか。答えは簡単────先輩達を助ける為だ。


『それでいい。インドラの奴も言っていた。てめぇは愚直だ。だが、それは長所であり誇るものだとな』


インドラ神────。なんか感動したぞ! あの人がそんなこと言ってくれるなんて────。


『それに・・・・・・だ。ここにはあいつがいる。勝てる可能性なんていくらでもあるぜ』


あいつ? この圧倒的な戦力差をひっくり返すような人が手を貸してくれる────


『────なんてことはねぇ。運勝負だ。なにせ鍵を持ってるのはベヒーモスの奴なんだからな』

「あいつかよ! それってやばいだろ!」

「あいつ?」


思わず声に出してしまった・・・・・・。首を傾げるレヴィに手を振って何でもないと合図してヴリトラに言う。


ベヒーモスってあの強い奴だろ? 確かに助けてくれれば心強いけど・・・・・・。


『まず無理だろうな。あいつは俺と組むことを良しとしねぇ。ぜってぇ邪魔にし来る』

それ、駄目だろ! 敵増えてるじゃん・・・・・・。あのベヒーモスをくぐり抜けながら魔王様の護衛と処刑人を倒して先輩を助けなきゃいけない。


「迷ってる時間なんてない。何の為にこの力を受け取ったんだ。先輩達を助ける為だろ。なら、迷ってる暇なんてない」


腰に差した白銀の刀を撫でて俺自身を鼓舞するように力を纏う。かつて無い程に黒く、そして力強く鱗が作り出された。

俺が今からすることは只のワガママだ。そう、俺自身の身勝手な行動。だから先輩達は関係ない。そしてこの先に俺に起こることも先輩には関係ない。だから・・・・・・全力で暴れよう。


「よし────行こう。最後の恩返しだ」


覚悟は出来た。神衣かむいに誓う。俺は────魔王を殺す。


『面白くなってきたな。反逆者・・・・・・これこそ俺に合った生き方だ』

「レヴィ、ハル、の、役に、立つ、から。守、る。皆」


たった2人の小さな反逆が始まった────。






人混みの中を駆ける。そろそろレヴィの攻撃が始まる。3、2、1────

空に鳴り響く爆発音! 先輩達のいる搭に穴が開き煙を立てている! 来た────


第二段階セカンド・ギア────二重起動ツインドライブ! そしてBooster(ブースター)!」


背中に生まれた鋼の翼を羽ばたかせて飛翔する。目指すは崩れ始めた搭の頂上!

そして────来た! 魔王様の護衛。ざっと五百人! 怯まなくていい。その為の修行だろ!


「ヴリトラ! 使うぞ────!」

『分かってる! 死を覚悟しろよ! ここじゃ死ぬんだからな!』

「おう! いくぜ! 神玉スフィア────偽神オーディン!」


その言葉と共に俺の鱗は消えていき人の肌に変化する。鋼の翼は神の力が織り成す光の翼へと────。そして俺が着込む着物はより、漆黒を纏う。

腰に差した漆黒の刀を抜いて構える。


神衣かむい太刀たち。秘剣────黒炎こくえん


黒い刀を纏った刀を横薙に払う! 放った黒炎は大きく広がって護衛の半数を飲み込んだ!

よし! 先手必勝! これで道は開け────

────たはずだったのに・・・・・・。目の前いっぱいに広がる悪魔。今の黒炎じゃ誰も倒せてない・・・・・・?


『チッ! 意地でこいつらの隙間を抜けろ! もう時間がねぇ!』


ヴリトラの声が聞こえて搭が倒れ始めてるのに気付いた! こいつらの相手をしてたら先輩達が死んでしまう。────なら!


BoosterⅡ(ブースター・セカンド)!」


翼が一際強く輝く。神の力を乗せた翼に触れた悪魔は全て浄化される。つまり、俺の邪魔をした瞬間に死ぬってことだ!

悪魔の群れに突っ込んで人の波を抜ける! 何人か殺したけど気にしてる暇はない!


四方から迫ってきた闇の魔法を躱して更に飛翔する。この際追ってくる悪魔は無視だ。今はこの搭を何とかする。

襲い来る魔法の雨は止むことは無い。四方八方息付く暇なく飛んでくる! このままじゃ埒が明かない。こうなったら────


「秘剣────」


白銀の刀を抜き神の力を流す。使い方は魔力と同じ。ならこういうことも出来る!


しん────」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアア!」


突然聞こえてきた咆哮。その咆哮は全ての者の動きを止めた。舞い降りてきたその持ち主は俺のよく知ってる人────


「御剣!」

「うん。久しぶりだね、桂木くん」


そう。御剣だ。でも見た事無い格好してる。あれは・・・・・・鎧だ。全身を真っ白な鎧で包んでる。でも軽鎧って言うのか? スリムなタイプの鎧だ。つーか、超かっこいい。後ろには半透明な竜がいて、マジで竜騎士って感じがする。


「とりあえず話は後にしようか。桜花先輩を頼むよ、桂木くん」

「えっ、御剣は? 行かないのか?」

「僕はこの人達を足止めするよ。だから早く行って」


御剣が剣を構えて笑う。やっぱり・・・・・・イケメンだ。やることが一々かっこいいんだよ、ちくしょう!

こうなったら俺だって────


「ありがとな」

「うん。それと日向さん達が君のことを探してたよ。早く帰らないとね」

「・・・・・・ああ。そうだな」


御剣に背を向けて羽を広げる。もう邪魔してくる奴はいない! 先輩の元へ────


「行かせるか」


魔王様の声。それと同時に空に広がる暗い・・・・・・真っ黒な闇の魔法。幾万という数の闇の刺。その全てが俺を狙っている。

魔王様はどこに? いや、見つからない。・・・・・・搭の上か! とにかくあれを何とかしないと進めない。真正面からぶつかるしかない!


「あはは! ほんっと君は面白いね! あの魔法を消す方法を考えるなんてさ!」


耳元から聞こえた声! それはベヒーモスによるものだ。いつの間にか横にいたベヒーモスは満面の笑みを浮かべていた!


「僕と遊ぼうよ。今の君なら少しは楽しそうだ!」

「そんなことしてる暇なんて・・・・・・あるか!」


翼を羽ばたかせて全力で逃げる。だが、神の力の維持が難しくなってきた。もう・・・・・・時間が来たのか。

元々人間である俺が神の力を使うのは無理がある。犬が二足歩行で歩き続けるようなものだ。だから時間制限もあるし、デメリットもある。この力を使ったら寿命が減るとかな。まあ、そんなことはどうでもいいんだ。今勝てないなら死んでるのと同じだから。


「まあまあ。待ってって! 僕は協力してあげるって言ってるんだよ」


先回りしてきたベヒーモスが両手を前に出して「待て」のポーズをとっている。俺は犬か何かかよ。っていうのは置いといて────


「協力!? はっ!? なんで!?」

「ん? 面白そうだからだけど? 魔王と戦うのって凄く楽しそうだよね!」


あっ・・・・・・駄目だわ、こいつ。何が正しいかじゃなくてどうすれば楽しくなるかを考えてる。言うならどうしようもなく子供だ。自分本意。自分勝手とも言うけど。でもそれが今はありがたい。


「ああ! 頼む! あれをなんとかしたいんだ!」

「じゃあ一つアドバイス。幻想種ファンタズマっていうのはね、魔法と一緒なんだ。想えば強くなれる。だから信じてあげようよ────この子をね」


ベヒーモスの後ろからレヴィが出てきた。嬉しい助っ人だ。それにベヒーモスの言葉。あの時レヴィが言った信じての意味がやっと分かった。


「ああ。ありがとう。やっと分かったよ。そしていつだって信じてる。だから全力でやれよ、レヴィ!」

「うん。ハル、が、言うなら!」

「あはっ! じゃあやろうか!」


足が何かに触れた。下を見るとベヒーモスが俺の足を押している! なるほど。そういうこと!


「一気に行くよ!」

「ああ! レヴィ、行くぜ」

「うん。準備、おーけー」


ベヒーモスの手に力が入った。その瞬間に手を蹴って空を飛ぶ!

襲い来る闇の魔法。その全てをレヴィの水の魔法が弾く。


「ハル、レヴィ、を、蹴って。一気に、行く」

「レヴィ・・・・・・。でも────」

「時間、ない、から。帰って、から、遊ぶ。約束」

「ああ。ありがとう。絶対に約束だ────」


蛇に変わったレヴィを蹴って搭の頂上へ一気に飛んだ! 目の前には先輩達と魔王様。残った神の力を全て使って────

────刹那。先輩を縛る処刑台を切り裂いた。


「春・・・・・・。あなた────」

「先輩。俺には英雄とか抑止力とか分からないです。だから魔界の昔話も、それを通して先輩が伝えたかったことも分かりません。でも、俺は先輩を守りたい。だから、世界を敵に回しても俺は・・・・・・先輩を助けます」


「世界を敵に回しても・・・・・・か。いいだろう、反逆者。この魔王直々にお前達全てを殺してやろう」


殺意を含む声。そして笑っている魔王と対峙して刀を構える。


「オーガス、我ら一族の恥さらしが。破門だけでは足らん。我が自ら消し去ってやろう」


後から低い声が聞こえた。この声は・・・・・・お父様か。処刑台から解放されて座っていた先輩が立ち上がり、問う。


「ねぇ、春。あなたの言葉は本気なの? 本気で、魔界を敵に回してまで私を生かす必要があるのかしら?」

「そんなこと、当たり前じゃないですか。約束したんです。皆で海に行こうって。だから、先輩だけじゃない。誰1人として欠けちゃいけないんです」

「そう・・・・・・。皆、ね。分かったわ。あなたが決めたのなら。私も腹を括るしかないわね」


そう言った先輩が背中を預けてきた。


「後ろ、任せたわよ」

「・・・・・・はい! 絶対に守ります!」


龍の刀を構えて魔王へと駆け出した!


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