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前夜



「まだ・・・・・・終わって、ない!」


体から溢れる血を押さえて立ち上がる。力なんて入らない。ヴリトラの力も発動出来ない。それでも意識を繋ぎ止めて歩く。


「守・・・・・・る。って、決め・・・・・・たん、だ! 強く・・・・・・なる、って」

「ほう。立ったか。だが、耐えたわけではないか。ここ、死を忘れた土地(ヴァルハラ)でなければ死んでいるのだから」


そんなこと・・・・・・知ったことか。崩れる体を支えながら言葉を紡ぐ。


「もう・・・・・・二度、と・・・・・・。あんなこと・・・・・・」


柔らかい物体に当たって俺の動きが止まった。それは俺の体が溶けそうなくらい熱い。それでも続ける。


「さ、おと・・・・・・せんぱ・・・・・・。ごめ・・・・・・。今度、こそ・・・・・・守、る。から」

「なあ、オーディン。俺はこいつに賭けてやろうと思う。まだ弱いが、こいつは強くなれる」

「チッ! 分かってる。どうせ時間もない。好きにすればいい」

「だってよ。人間」

「は、い・・・・・・、でも、もう・・・・・・駄目」


そして俺の意識は闇に落ちた。





次の日からの修行は熾烈を極めた。基本的な魔力の使い方から、戦い方。とにかく俺に出来ることをひたすら磨き続けた。

そして5日後。処刑が明日に迫る日。俺達は下界。つまり、魔界に降りた。


「ね、ハル」


一緒に降りてきたレヴィが俺に言う。


「ハル、まだ、弱い。だか、ら、勝て、ない、かも」

「それでも行くよ。先輩を助けないといけないからね」

「死ぬ、かも」

「あー。確かに死ぬかもな。でも、先輩達を見捨てたら、俺は別に意味で死ぬ。だから助けるよ。全員な」


少しの無言。その後レヴィは頷いた。

さあ、行こう。俺達の主を助けに行くんだ。






────処刑は明日。あの馬鹿にんげんが何かしてくると思ったんだけど、何もしてこない。馬鹿にも考えられる頭はあるらしい。


「ところで、アザゼル? 聖杯の在処は分かったのか?」

「さあな。俺は知らん」


携帯から聞こえるアザゼルの声は酷く無愛想だ。答える気は・・・・・・ないか。

だが、それはいい。明日にならば聞き出せることだ。


「明日を楽しみにしてるといい。きっと最高のショーが見れるから」

「ああ。でもな、一つ忠告だ。あいつは奇跡を味方にしているぜ」


楽しそうに笑うアザゼル。ならばそれを僕は一蹴しよう。


「奇跡が敵になるならば、僕はそれを奪い取ろう。そして僕は「悪」となり、「英雄」となる」


夜が更ける。3人を裁く準備は整った。


「さあ、来るがいい。英雄の子。君が僕の悪を断ち切るか。俺がお前の正義を砕くか。────勝負だ」


通話の切れた携帯を耳に当てたまま、空を見上げる。今日も月は白い。きっと明日の月は紅くなる。






────魔王あいつ、切りやがった。俺、アザゼルはもう見馴れた人間界の学校を見上げて嘆息した。


「シェムハザ。人間界と魔界を繋げろ」

「・・・・・・彼の手助けをするのですか?」


俺の横にいる女────シェムハザは気味の悪い薄笑いを浮かべ言った。


「興味ねぇ。ただ、あいつが魔王とぶつかるなら聖杯の力が使われる可能性が高い」

「つまり、明日の戦いに人間界を巻き込む・・・・・・と?」

「違う。多分明日は成功する。その後だ。攻め込んで来る道を作ってやるんだよ」

「なるほど。ここを戦場にする・・・・・・ということですか」

「ああ。聖杯を成すのなら犠牲が必要だ。幸い、ここには無駄な生き物が沢山いるからな。全て残らず贄にする」

「・・・・・・分かりました」


シェムハザの姿が消えた。残された俺は1人ほくそ笑む。

────確かに明日は楽しみだ。神と出会った人間はると英雄と出会った悪魔サタン。互いにそれから得た力をぶつけ合う。


「もう1歩。近づいたぜ。────知楓ちか


丸い月を見上げ、今は亡き人間の名を呟いた。

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