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嵐の予感?




「お前・・・・・・、生徒会長とも知り合いだったのかよ」


流石に走り過ぎたのか、俺と白泉。2人して息を切らしていた。


「まあな。でもそんなに仲良くないぞ。会っても話さないし」

「そういう・・・・・・ごほっ。問題じゃねえよ。あー、疲れた。久しぶりにこんなに走ったー!」

「ほんと疲れたな。でも、すっきりした! 見たか? 聖騎士をぶん殴ったんだぜ」

「あん時は何言ってんだと思ったよ。よりによって聖騎士に喧嘩売るんだからな」

「ムカついたからさ、つい」

「ついじゃねーつうの。俺がどんだけ冷や汗かいたか分かんねぇのか」


2人して馬鹿みたいに笑って過ごす。俺にとって、こんな時間はありえなかった。

俺に投げなれる言葉はいつも嫉妬と嫌悪に塗れていて、いつだって侮蔑の目を向けられていた。だから、今はすっごく楽しい。


「恩人から逃げるなんて失礼じゃないかしら」


この人さえいなければな。いつの間にか追いついてきてた火野村先輩は顔を真っ赤にして頬を膨らませていた。


「すいませんでした。今回ばかりは本当にそう思います」


頭を下げる俺の目の前にに先輩は大きな袋を置いて微笑んだ。


「それはもういいわ。面白い副産物が出来たもの。それよりも────」


先輩の口角が更に大きく釣り上がる。微笑むっていうより、楽しみを抑えきれないっていう邪悪な笑みだ。


「私もさせて貰おうかしら、先行投資」


はい来たあ! 最っ低だこの人! 人の弱みに漬け込んで人殺しのお手伝いってか!


「・・・・・・嫌です」

「なら、20億払える?」

「────うっ。それは・・・・・・」

「ただ、私の願いを一つ叶えてくれればいいの。簡単でしょう?」

「よく分かんねえけどさ、やってやれよ。正義の味方!」


おいこら、白泉! 分かんないなら黙ってろよ! しかも正義の味方は忘れろって言っただろ!

断りたい。そりゃもう、凄くな。でも20億なんて払えるわけないし・・・・・・。それに白泉の前なら無茶な願いは来ないはず。だったら・・・・・・。


「分かりました。それで、何ですか?」

「私を信じて」

「無理です」

「それくらい出来るでしょ! 少しくらいやってみなさい。ね?」


いや無理だろ。悪魔を信じるなんてさ。どう考えても無理だ。だって、この人を信じるってことは。人殺しを黙認しろってことだ。そんなこと許されるわけない。


「嫌です。絶対に、先輩だけは信じません」

「なんでだよ。なんかあるのか?」

「もう白泉は黙ってて。ややこしくなるから」

「はあ!? 勝手に巻き込んどいて黙ってろってか? お前ふざけんなよ」


こいつがいると話が進まない。だからといって説明するのは面倒だし、本当に巻き込みたくない。こんな時に限って邪魔になるとは・・・・・・。予想外だ。


「分かりましたよ。先輩のこと信じます。これでいいですよね」

「ええ。ありがとう。その言葉、私も信じるわ」


先輩は今まで見たことないような笑顔を作った。何なんだよ、この人。普通自分を殺すかもしれない奴を信じるか? しかも信じて欲しいなんて・・・・・・。違う。迷ったら駄目だ。この人は悪魔なんだから。


「じゃあ家に戻りましょうか。お父様達が待っているわ」

「そういうことか! 飯食わせる為に言ったんだな、今の!」

「食べるのは初めから決まっていたじゃない。関係ないわ」

「何!? お前、火野村先輩の家で夕飯食うのか!?」

「白泉はもう黙ってて。マジで」

「ほら、お母様も張り切って作ったって言っていたわ。だから、全部平らげなさい」

「何言ってんだこの人! もう嫌だこんなの!」

「ちょっ! お前聞け! なんで火野村先輩の家で飯食うんだよ!」


すっかり暗くなった空に俺達の声が響く。こんな時間が過ごせるなら悪魔も悪い人じゃないかもしれない・・・・・・。俺の中で変な感情が湧き出てきた。それを否定する様に呟く。


「悪魔は・・・・・・人殺しなんだ」


きっと誰も聞こえない。誰も聞いてない。それでいいんだ。それで・・・・・・。







「ごちそうさまでした。すごく美味しかったです」

「ありがとう。じゃあデザート持ってくるわね。ほら、桜花も手伝って」

「分かったわ。春、楽しみに待ってなさい」


先輩は妙に楽しそうに台所へと駆けていく。そんなに楽しみなのか? デザート。

それは置いといて、お父さんと2人っきりなんですが。何を話していいか全く分からない。

こういう時はとりあえず────


「元気ですね、娘さん」


なんか違う! しっかりしろ! 偽彼氏! もっと何かあるだろ! なんか、こう・・・・・・。駄目だ、なんにも思いつかない。

だが、意外と好感触。お父さんは苦笑いして言う。


「いつもはあんなじゃないんだよ。ずっと困ったような顔をしていてね。久しぶりに見る気がするよ、桜花の笑顔は」

「そうなんですか? てっきり家だとあんなものだと思ってましたけど」

「ははは。そうだと僕も嬉しいけどね。昔から笑うのが苦手な子だったから」

「へぇ、あの先輩が。俺にはいつも笑ってるように見えますよ。学校だと特に」

「うん。それは君がいるからじゃないかな」

「俺が・・・・・・ですか? でもクラスも学年も違いますよ。話すこと自体少なくて・・・・・・」


実際、話したのは昨日が初めてだ。まあ、お父さんは俺を彼氏と思ってるからそう言ってるだけで。実際は違うんだろう。ありえないからな、俺が先輩を笑顔にするなんて。


「桜花は君の話をする時だけはいつも楽しそうなんだ。本当に楽しそうで、聞いてるこっちまで楽しくなってくるくらいにね。多分、恋っていうのはそういうものじゃないのかなって思うんだよ。話したとかじゃなくて見てるだけで楽しいもの・・・・・・と思うんだ」

「ははは・・・・・・。そうですか」


そんなこと言われても俺には分からない。初恋なんていつのことやら忘れたし。それ以来恋なんてしたことないしな。

お父さんは照れくさそうに頭を掻いている。結構くさい事言ってたからな。気持ちは分かる。でも見てるだけで楽しいか・・・・・・。やっぱり分からない。


「何の話をしてるの?」


火野村先輩が台所から戻ってきた。手に持ってるのは市販のヨーグルト。それ、デザートか? ケーキとか期待してたんだけど・・・・・・。そこら辺は庶民的なのか?


「恋ってどんなのだろうねって話です。先輩には関係ないみたいですけど」

「そうかもしれないわね。春がいてくれるもの」

「そういう話をしてるわけじゃないんですけどね。見てるだけで楽しくなるとかそういう話をしてたんです」

「ふーん。そう」


興味無し!? 案外素っ気ない返事が返ってきた! 聞いといてそれはひどくないですかね!?


「私は違うと思うわ。楽しいだけじゃつまらないでしょう。どっちかって言うと安心するって方が近い気がするのよ」


先輩はそう続けた。今の間は真面目に考えてただけらしい。一緒にいると安心する・・・・・・。なら分かるかもしれない。だとしたら────


「なんであいつなんだよ・・・・・・。」


何度やってみても頭に思い浮かぶのは日向だ。何かが違う。俺のイメージしてたものと何かが違うんだ。違う。違う。違ーう! 今更あいつが好きなんて言えるわけないし。そもそもまだ好きかどうかなんて分からないし!


「あいつ?」

「先輩のことですよ。一応彼女なんですから」


なんかどうでもよくなってきた。惚れた腫れたの話は俺にはまだ早いみたいだ。

空になったヨーグルトの容器を目の前に手を合わせる。


「ごちそうさまでした。じゃあ、お邪魔しました」

「もう帰るのかい? もっとゆっくりしていけばいいのに。母さんも話したいと言っていたよ」

「流石に、もう外も暗いわ。今日はこれくらいにして、次の機会にゆっくり話をしましょうか。ね、春?」


また来いってことですか。まあ、不思議と悪い気はしない。いつか・・・・・・。そう、いつか、白も連れこれたらいいかもしれない。

なんて変なこと、絶対ありえない。そう・・・・・・絶対に。








夜は更けていく。俺は真上まで登っている月を見上げて日向の家の前にいた。

流石に時間がやばい。結局あの後、火野村先輩と話してて遅くなってしまった! もう皆寝てるよな。家に帰ろうにも日向の事だからお父さん達に俺が来るって言ってるだろうし・・・・・・。

帰っても迷惑かけるし、このまま家に入っても迷惑かける。八方塞がりってやつか。

先輩に出された宿題もある。早く決めないと・・・・・・。


「帰るか」


家から背を向けた瞬間に玄関のドアが開けられて、日向が出てきた。俺を見つけた日向はいつも通りの笑顔で言う。


「おかえりなさい」

「うん。ただいま」


逃げ場のなくなった俺は日向の家に招かれたのだった。


そして暫く時間が経って先輩から貰った壊れた礼装と最新式の礼装を広げていた。時間はもう2時を回っている。今日は徹夜になりそうだ。


「えへへ。懐かしいね。昔はこうやって一緒のベッドで寝てたよね」

「だからって、今も連れこられても困るけどな。寝るとこないし」

「また一緒に寝ようよー。ベッド空いてるよ?」

「今日は遠慮しとく。やることあるから」


空いてると言いながらベッドのど真ん中を陣取ってる日向に言った。寝かせる気なんて初めからないだろ。


「なあ、日向」

「んー?」

「ありがとな。昔から色々と」

「んー」


変わらない返事。・・・・・・寝たな、あいつ。もう二度と言わねぇ。まったく・・・・・・。

次は・・・・・・白泉か。

携帯を取り出して白泉にかける。


「もしもし?」

「おー、桂木か。今何時だと思ってたんだ。俺じゃなかったら迷惑だぞ」

「わかってるよ。だからお前にしたんだ」

「んで? 珍しいな。お前がこんな時間まで起きてるなんて。しかも電話してくるなんてよ」

「ちょっとさ、相談があるんだ」

「相談? なになに? 好きな奴でも出来たのか?」

「んー。分かんないけどさ。もしかしたら・・・・・・俺、日向のことが好きかもしれない」


更に夜は更ける。明日からまた、一波乱ありそうな予感がひしひしと俺の頭を過ぎっていた。

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