堕天のお使い4、5
どのくらい時間が経ったのか。空は既に暗く夜であることは分かる。
俺とレヴィは血濡れの市場の中で空を見上げて考えていた。
「この後どうしようか。ベヒーモスの牙を取りに行く・・・・・・しかない気がするけどさ」
「やだ。ハル、死ぬ」
俺の膝の上に乗ってるレヴィが首を横に振った。死ぬ・・・・・・か。確かにあの子みたいなのが沢山いるなら勝ち目なんてない。1人でもいたら勝てない。・・・・・・この案は却下だ。
また市場を回るか。ここで売られてたんだから他の市場でも売ってるはずだよな。多分そっちの方が成功率高い。だってあいつに会わなきゃいいんだから。
そんな事を考えているとレヴィが突然空を指指して言った。
「夜」
「うん。夜だな」
「帰る」
「・・・・・・はっ?」
「帰る」
「いや、ちょっと待って! 帰る?」
「ん。人の、世界、帰る」
「しかも俺の家!?」
何言ってるんだ、この子は。帰る。帰るかぁ。確かに何日も家を空けるのは良くないよな。
「まぁ、しょうがないか。ここにいても何も起きないし、動くか」
「ん、遊ぶ」
帰れば何かが変わる。俺の中も、今の状況も。そんな事を考えて魔法陣を描いた。
人間界の時間では午後8時。思ったより時間は経ってない。今度は家のドアも素直に開いてくれた。
「あら、おかえり。春」
「うん。ただいま。────って何でいるの?」
玄関で俺を出迎えたのは金髪の女の人────卯月理沙だった。何処から引っ張り出したか分からないメイド服を着ている。
自慢げにクルクル回ってメイド服をヒラヒラさせてる理沙にレヴィが言う。
「誰?」
「なんて言えばいいんだろう。分からないや」
「彼女って言えばいいじゃない。そっちこそ誰よ。聞いてないんだけど? 小さい彼女なんて」
明らかに不機嫌な顔をする理沙。なんかレヴィを疑ってるらしい。流石におかしいだろ! ロリコンですかね!? 俺は!
「えっと・・・・・・日向の友達?」
「へぇ、日向の? 随分小さいお友達ね。で? なんでその子が春と一緒にいるの?」
「いや、それは・・・・・・何でだろうね? あははは・・・・・・。はぁ」
「レヴィ、ハル、好き。だから、一緒」
レヴィの放った一言で空気が凍りついた。理沙が引きつった笑顔を見せてレヴィに言う。
「そう。春が好きなの。でもね、春には恋人がいるのよ。ね? 春?」
「知ら、ない。ハル、レヴィが、好き。昨日も、一緒に、寝た、もん」
「寝っ────! この・・・・・・犯罪者! 浮気者! 桜にも言ってやるから! 春が知らない女の子抱いたって!」
「はっ!? 何言ってるの!? 違うから! 止めて!」
掃除機を振り回して暴れる理沙! 怖い。怖すぎる! ってかそんな事はどうでも良くて────
「何やってるんですか? あなた達」
「お兄ちゃん。遂に人攫いまで・・・・・・」
騒ぎを聞いて駆けつけてきたヒルデ先生と白が呆れたように呟いた。ヒルデ先生はともかく白はなんだ!? 人攫いっておかしいだろ!
「春が! 春が浮気したのよ!」
「浮気ですか? はあ。ですがその子、悪魔に見えますが」
「悪魔!? お兄ちゃん、悪魔攫ったの!?」
「レヴィ、ハル、好き。ハルも、レヴィ、好き」
「ほら、浮気! 私には好きだって言わないのに!」
「卯月さん。面倒臭い人になってますよ。落ち着いてください」
なにこれ・・・・・・? 皆が好き勝手に騒ぎ出してる中、俺は1人ボーッとそれを眺めていた。
なんか・・・・・・修羅場の予感?
気付けば時計は9時を指していた。取り敢えず落ち着いた理沙と白を除く皆にレヴィの事を話した。
皆って言っても今はヒルデ先生と御剣だけ。先輩は何処かに出かけてるらしい。
「魔王様の眷属って・・・・・・。桂木くん、何をやってるんだい? しかも無断って・・・・・・」
電話越しに御剣の呆れた声が聞こえた。ヒルデ先生も頭を抱えて何かブツブツ言ってる。
なんか申し訳ない気持ちになる。実際悪いことやってるんだけど。
「やっぱり、魔王様に言うべきだったのか?」
「うん、当たり前だよ。桂木くんは他人の所有物を勝手に持ち出したんだからね。ましては魔王様の物なんて、殺されても文句は言えないよ」
「寧ろ春さんの命だけで済んだら奇跡ですよね。王の眷属に手を出したのですから」
「はい。もしかしたら火野村先輩にまで罰が下るかもしれません」
「なっ! なんでだよ! 先輩は関係ないだろ!」
そう問うた俺に御剣はバツが悪そうに続ける。
「転生だからだよ。眷属が起こした罪は主の罪でもある。「罪を犯す者を選んだ」こと自体が罪になるんだ」
「なっ・・・・・・! なんだよ、それ。そんなの知らない・・・・・・。知ってたらこんな事────」
「────しなかった・・・・・・と? 目の前の女の子があれ程の好意を示していて無視出来るのですか? 今まで私が見てきたあなたは、そんな事しないと思いますが」
確かにヒルデ先生の言う通りだ。絶対無視出来ない。今回とは違う形で外に連れ出しそうだ・・・・・・。甘いっていか、チョロいな俺。
そしてヒルデ先生が顎に手を当てて言う。
「それにアザゼルの行動も気になります。聞いた材料はどれも採取難易度の高い物。特にベヒーモスの牙とユグドラシルの枝なんて春さん1人じゃ見ることすら不可能な物ですから」
「確かにそうですね。いくら龍の力があるとはいえ、今の桂木くんは弱すぎる。どう考えても集め切れるとは思えません」
2人とも言いたい放題だな! もしかしたら出来るかも・・・・・・? みたいな話は無いのかよ! さっきの攫いの話といい信用なさ過ぎだ。
「とにかく火野村さんに報告しましょう。全てはその後。春さんはこれ以上余計な事をしないように」
ヒルデ先生の提案に俺は無言で頷いた。
更に時間が経った。皆が寝静まって、俺は1人リビングで本を読んでいた。今日出会った悪魔。ベヒーモスの事を調べるためだ。
《嫉妬》の悪魔。レヴィアタンと同一視される悪魔って事しか分からない。色々書いてあるんだけど、俺の頭にはそれしか理解出来ないんだ。
「同一────ってことはレヴィとあいつって同じ種族なのか」
『ンなことも知らねぇのかよ。主に勉強しろって言われたろうが』
「悪かったな。こういうのは頭から抜けてっちゃうんだよ。勉強出来ないから」
ヴリトラは答えない。勝手に出てきて勝手に引っ込んだのか。自分勝手な奴だな。俺も人のこと言えないけどさ。
それにしても・・・・・・先輩は何処に行ったんだろう。もう日付も変わる頃だ。いくら何でも遅すぎる。
「まさか・・・・・・彼氏!?」
「そんなわけないでしょう。少し面倒事に巻き込まれただけです」
いつの間にかセラが横にいて声をかけてきた! そしてセラは嘆息して続ける。
「それより、また問題を起こしたらしいですね。何回迷惑かければ気が済むのですか?」
「うっ。・・・・・・はあ。何も言い返せないな。うん、ごめん」
「私に謝っても仕方ないでしょう。オーガス様も呆れてましたよ」
「うん。だよなぁ────って、えっ? 先輩も知ってるのか?」
「ええ。私とオーガス様は今の今まで魔界にいましたから」
俺の本を奪って読んでいるセラが当たり前のように言った。魔界にいた? じゃあもしかして────
「なあ! 先輩は何処に────!」
何処にいるんだ────そう言おうとした俺をセラが指を向けて遮った。
「オーガス様から伝言です。春、貴方は間違いを犯した。でも間違えることは悪いことじゃない。次に生かしなさい」
セラは声色まで先輩そっくりに変えて言う。次に生かしなさい・・・・・・? どういう意味だ? いや、そのままの意味だろう。でも、死ぬかもしれない俺に言う言葉じゃないだろ。今の俺に次は無いんだから。
「先輩は何処にいるんだ?」
「さあ? 知りません。魔界で買い物をしたいって言ってましたけど?」
俺の質問にセラは曖昧に答える。そんな事は嘘だってことくらい、俺にだって分かる。セラは知ってる。先輩が何処にいるか。先輩が何をしてるのか。
「先輩は何処にいるんだよ。もしかして面倒事って────」
「少し、昔話をします」
「はっ!? 今はそんな事聞いてる場合じゃ────」
「聞いてください。貴方は知っておくべきです。昔の転生悪魔の話ですから」
セラの目は真剣そのものだ。多分何を言っても昔話とやらを話す気でいるんだろう。それに俺自身も気にならないわけじゃない。転生悪魔。契約してその後も上手く関係を持った人は少ないって聞くから。
黙る俺を見たセラは本を閉じて語りだした。
昔昔、あるところに1人の人間がいました。そしてその人間は悪魔と出会い恋に落ちたのです。そして幾らか時が過ぎて人間が言いました。
「俺を悪魔にしてくれ」
突然の人間の言葉に悩む悪魔はこう問いかけました。
「悪魔になっても私は貴方の物にはなれないわ。それでもいいの?」
「ああ。君の傍にいられるだけで幸せだ」
頷いて答える人間を信じて悪魔は人間と契約したのです。それ以来、人間は片時として悪魔の側を離れませんでした。
ですが、周りの目は人間をよく思いません。自分の世界に異物が入ってきたのですから。
周りの悪魔達から苛められる人間を見かねて悪魔が言いました。
「もういいわ。人間界に戻りなさい。人間には戻せないけど、ここにいるよりマシな人生を送れるわ」
ですが人間は笑いながら返しました。
「大丈夫。気にしてないから。僕は君と過ごせる毎日が幸せなんだ。君が側にいない日々の方が今よりずっと辛い。それに何時か君が誇れるような悪魔になってみせるよ」
それを聞いた悪魔は人間と共に生きることに心に決めました。
「さて、どう思います?」
セラが突然問いかけてきた。どう思う・・・・・・?
「って、まあ。いい話なんじゃないかな? ダダ甘のラブコメって感じだけど。俺も先輩とこんな感じに・・・・・・」
「なりませんから安心してください。気持ち悪い」
「おい、今なんて言った!? キモい? キモいって言ったよな!?」
聞いておいてそれかよ! 酷すぎる! 前々からセラからは嫌われてる気がする。レナの事もあるから無理も無いんだけど。俺だってあの事は忘れてない。忘れられるはずないんだから。
しんみりする俺にセラは真剣な顔で言う。
「話を戻しますが。貴方の言う通り、ここまではラブコメです。魔界でもおとぎ話として使われるくらいに甘くて美しい話です。当然ですよね。人を捨てられる程一途な愛と世間体を捨てて寄り添う悪魔。誰にも真似出来ない恋愛です。・・・・・・ですが、この話には続きがあるんです」
そしてセラはまた語りだす。
悪魔と人間が結婚して数年が経ちました。もう人間を馬鹿にする悪魔は世界のどこにも存在しません。
何故なら人間は最強の悪魔として魔界に君臨しているからです。人間は悪魔と結婚してから沢山体を鍛えました。沢山世界を救いました。沢山の死体を作りました。
周りの悪魔達は彼を英雄と称えました。世界を救ったのです。当たり前でしょう?
ですが、彼はそれを嫌いました。
「何が英雄だ。ただの人殺しじゃないか」
英雄と呼ばれる度にそう訴えました。それでも悪魔は称えるのを止めません。どんなに否定しても彼が英雄である事は変わらないのですから。
いつしか人間は否定するのを止めて、英雄として動くことを決めました。否定するより、認められた物になるという方が簡単で早いと気付いたのです。
それからというもの、戦争にはいつも勝利を齎す英雄として。そしてどんな大罪人をも裁く抑止力として。英雄は働き続けました。
そして人間は悪魔に称えられ続け、今でも言われるそうですよ。
「悪いことをすると「英雄」が殺しに来る・・・・・・って。どうですか? 結構掻い摘んで話しましたけどこんな感じです」
低い声が突然いつものトーンに変わったからか、体の力が一気に抜けた。なんかおとぎ話っていうより怪談だよな、これ。
「正直な話、不気味としか思わないけどな。その「人間」はいつの間にか好きな「悪魔」の事なんか忘れてるんだから」
「いえ、忘れてる訳では無いんです。ただ、勝手に思い込んでしまってるんですよ。「皆に認められる悪魔が好きだ」ってことに。悪魔さんは一言も言ってないのに」
「ふーん。なるほど。でもさ、悪魔も悪魔じゃないのか? 結婚したなら一緒に人間界に行けば良かったのに」
「実際に行ったんですよ。時間的にはこの話の後になりますが、英雄は悪魔と共に姿を消したとありますから。読者からは魔界から逃げたと考えられてます」
なるほど・・・・・・ね。それにしても「英雄」か。なんか聞いたことある気がするような・・・・・・? 気の所為だと思うけど。それよりも────
「この話が俺と先輩に関係あるのか? 確かに関係は似てるけど、気にする程でもないだろ」
「はい。関係自体は気にするほどでもありません。私が気になるのは貴方と「人間」の類似です」
「はい? 何言ってるんだ? 俺と似てる? 今の話の「人間」と?」
いやいやいや、全然似てないだろ。だって、契約なんて俺から望んだわけじゃない。それに俺はそんなに強くない。身体も心も・・・・・・。
だが、セラは確信があるかのように言う。
「まず、自分より主、つまり他人を優先する所です。彼の場合は悪魔の世間体。貴方の場合は守るという行為に囚われてるように感じます」
「悪魔の世間体って。確かに今の魔界を考えれば分からなくもないけどさ。「人間」が世間体の為に強くなったって言いたいのか?」
「そうですよ。人間は悪魔が自分と同じような思いをさせない為に強くなった」
「なんで分かるんだよ。所詮はおとぎ話だろ」
「実話だからです」
「はい? 実話? こんな甘甘なラブコメが?」
「はい。実話です。英雄は魔界でも有名な転生悪魔のことを指す言葉で、天使達からは絶対的な強者を指す言葉です」
マジかよ・・・・・・。なんて羨ま────しくはないかな、これは。少なくとも戦争をするのはゴメンだ。まあ、それは置いといて。えっと、この場合人間は世間体を、俺は他人を、「守る」という行為に囚われてるってことか? いや、でも────
「俺の場合は、お兄さん達に言われたから決めただけで俺自身は・・・・・・」
「言われただけ? なら、貴方は自分の命を擲ってまで奴隷を助け出したのは言われたからと言うのですか?」
「それは・・・・・・違うけど。でもリンの時は違うだろ。魔界のルールも知らなかったし」
「だとしても普通なら死を覚悟してまで他人を助けたいなんて言いませんよ」
セラは何か言いたそうに俺を見てる。あー。もう! 分からない! 何が言いたいんだよ。似てるからなんだ? 英雄か? 抑止力? 何をすればいいんだよ!
セラから目を離して頭を抱える俺にセラがため息をついた。
「転生悪魔という立場である以上、他の悪魔からよく思われないのは分かるでしょう?」
「ああ。分かるよ。何回も言われてるから。転生のくせにって」
「はい。ですが貴方には自分を見失って欲しくないのです。「人間」は最後には「英雄」として振る舞ってしまった。それは間違い。心に嘘をついているだけですから」
「・・・・・・分かんないよ。何が言いたいんだ? 先輩は俺に何をして欲しいの?」
「簡単です」
セラの手が俺の顎へと動いて顔を上げる。顔を上げた俺の目に映ったのは見たことないくらい明るい笑顔だった。
「貴方は貴方のやり方で強くなりなさい。誰かに言われて動くことは決して間違いじゃない。ですが正しくもない。貴方には貴方の正解があるそれを信じればいいの」
「でも、そのせいでレヴィを攫ったことになったんだ。俺の正しさは間違ったんだ。それだけじゃない前だってジャンヌさんを殺した。俺の独りよがりが、俺の────!」
何も・・・・・・言えなくなった。口が塞がれた? 何で? 柔らかい感触。目の前で揺れる紫色の髪。そして整った顔。なんで・・・・・・キスされてるんだ?
顔を離したセラの顔は少しだけ紅くて、心底・・・・・・不愉快そうな顔をしていた。
「あー。最悪です。変態と口付なんて死にたくなります。ていうか死んでください、貴方が」
「なんでさ! キスしたのそっちだろ! てか今の何? ど、ど、どういうこと?」
「オーガス様がこうすれば不愉快な声が止むと言っていたので実行しただけです」
「不愉快って何!? 先輩にも言われてるの!? マジで!」
「そんな事より、落ち着きましたか?」
「そんな事!? けっこう大事だぞ! 先輩に不愉快って思われてるなんて・・・・・・」
両手で顔を覆う。これからは先輩の前では黙っておくか。少なくとも声で不愉快にはさせないだろう。
「黙ってくれませんか? 眠気を訴えてる頭に響きます」
わざとらしく欠伸をするセラ。絶対嘘だ。でも騒ぎ過ぎたのは本当らしい。誰かが階段から降りてきている。
「最後です。貴方はどんな力が欲しいのですか?」
セラからの問いかけ。俺の答えは決まってる。でも手段が分からない。
「守りたい。大切な人がいるから。守らなくちゃ行けない人がいるから。でも出来れば・・・・・・殺したくない」
「無理ですね。殺さなきゃ守れない物も沢山ありますから」
「分かってる! でもさ、それじゃ何も変わらない。殺し合いが続くだけだ・・・・・・」
「例えばの話ですが、殺すという行為が誰かの救いになる場合もあります」
「何・・・・・・言ってるんだよ? 殺したら────」
「例えば、貴方が守る為に殺したなら守られた者は救われたことになりますよね? 他にも痛みから解放されるとか。考え方によっては色々あります」
俺の言葉を遮ってセラは続ける。
「貴方が出来るだけ殺したくないと言うならそれでいいのでは? ただ、殺さなきゃいけない敵が現れたり、殺したくないと言って貴方自身が手を抜いて死ぬことさえ無ければ・・・・・・の話ですが」
「なんだよ、それ。無責任なんじゃないのか? そんな軽い気持ちで」
「軽いかどうかは貴方が決める事です。力は貴方が振るうものなんですよ。貴方の思いによって姿を変えるのです」
なんか・・・・・・おかしい。いつものセラじゃないみたいだ。すごく優しくて。すごく甘い。
そして気付けば俺はセラに抱きしめられていた。
「1人が辛いなら私が支えます。1人では迷うなら私が一緒に歩きます。ですから貴方は貴方の心に従って動いてください」
なんだ? この状況。意味が分からない。いつもは毒舌を吐くセラが俺を抱きしめてる? なんでこうなった? 分からない。でも少しだけ安心する。ずっと分からなかった事の答えが少し見えた気がした。
「なあ、セラ」
「なんですか?」
「殺すことって駄目なことだよな」
「はい」
「じゃあさ、俺は罪人・・・・・・なんだよな」
「はい」
「あのさ・・・・・・」
「はい」
「俺、死にたくないんだ。守りたい人がいるから。もっと生きてさ。もっと笑っていたい」
「はい」
「多分、もっと人を殺すと思う」
「はい」
「それでも一緒にいるのか?」
「はい。貴方1人では何も成せませんからね。私が何とかしてあげます」
「はっ、はは。うん、ありがとう」
「はい。では、もう休みましょう。明日から、忙しくなりますよ」
「ああ、そうだな」
今の俺に出来る精一杯の笑顔で答えた。腹は括れた。大丈夫。戦う理由が出来た。誰に言われたわけじゃない。俺が決めたんだ。だから────
翌日、ヒルデ先生とセラ。そして電話越しの御剣に言った。
「魔王様に会って、レヴィを奪う。その為に材料集めを続けたい」
皆からの反応はない。あれ? 驚かれると思ったんだけど・・・・・・?
諦めたように嘆息したヒルデ先生が魔方陣を展開して言う。
「なら、行きますよ。ユグドラシルの枝を貰いに」
「────はい!」
俺はヒルデ先生とセラと一緒に魔方陣へと飛び込んだ。




