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闇夜の中で



真っ暗な闇の中、冷たくてヌメヌメとした何かが俺の体を包み込んでいるのがわかった。

俺は確か・・・・・・ラーヴァナって悪魔と戦って気を失ったんだっけ? そうだ! そうだった! 流石に銃口に魔法をぶち込むのはまずかったみたいで爆発して吹っ飛ばされたんだ。


それで? このひんやりヌメヌメは何? なんだろう。薯蕷とろろを素肌で触ってるような・・・・・・。

ヌメヌメした物の表面を撫でるともぞもぞとそれが動き出した!

暗闇に光が差し始めて徐々に明るくなっていく。そして俺を包んでいた物の正体が見え始めた。


「レヴィ・・・・・・なのか?」


小さな蛇────って言っても俺の2倍くらい大きいんだが、とにかく小さな蛇が俺を中心にとぐろを巻いていた。

蛇の体が水に変化して地面に溶けていく。そして今度は少ない水量で小さな女の子を形作る。


「ハル、ボロボロ。レヴィ、守る」


いつも通り感情のない声。でも顔は少しだけ誇らしげに笑っていた。

そうか・・・・・・。守ってくれたのか。結局さっきもレヴィがいなかったら俺は手も足も出ずに殺されていただろう。守られてばっかりだ。


「ありがとな。レヴィがいてくれて良かっ────」


レヴィの頭を撫でようと屈んだ瞬間、レヴィの後ろにある歪な山が目に入った。あんな山あったっけ・・・・・・? よく見たらそれだけじゃない。数え切れない程の手や足が転がっている。


「敵、いっぱい。レヴィ、頑張った」

「なんだよ、これ。こんなの・・・・・・おかしいだろ」


思わず口走ってしまった。だって、こんなの。絶対・・・・・・変だ。なんで俺の目の前に血の海が広がってるんだ。そして、なんでこの子はそれを誇らしげに口にできたんだ。

理由なんて簡単に見つかった。レヴィが自分で言ってたから。俺を守っただけ。レヴィが敵だと思った奴を片っ端から殺していっただけなんだ。

でも────


「だからって・・・・・・殺すのか。全員、こんなに無茶苦茶に────」

「ハルは、殺さない? レヴィ、敵、全部殺す、って教えられた。出来ないと、痛い、から」


レヴィの声音は平坦。少しも感情を見せない。

俺は・・・・・・殺さないとは言いきれない。だってもう人を殺した。人だけじゃない。悪魔も殺した。でも殺したいなんて────!


────聖王を殺す!

天界での出来事が頭を過ぎって俺の口を封じる。ジャンヌさんを殺されて俺はアーサーを殺そうとした。俺自身の理性すら捨て去って。


「でも、やっぱり殺すのは駄目だ。もしかしたら分かり合えるかもしれない。友達になれるかもしれないだろ?」

「・・・・・・友達?」

「そう。友達だ。俺とレヴィみたいにさ。こうやって話せるかもしれない。殺し合うより話してた方が楽しいだろ? だったらこっちの方がいいに決まってる」


精一杯笑顔でレヴィの頭を撫でる。そうだ。そっちのがいい。もう早乙女先輩の時みたいな後悔はしたくないから。それに友達は沢山いた方が楽しい。レヴィにはもっと笑っていて欲しい。だから・・・・・・。


「だから無条件に殺すのは禁止だ。敵が来たら俺に殺す許可を取るように。いいな?」


暫くの沈黙。レヴィは真顔で固まっている。これは・・・・・・駄目か。朝の堕天使の時も速攻で殺してたから難しい要求だったかな?

諦めて説得の言葉を探そうとした時、レヴィが口を開いた。


「でも、敵、残す。痛い、いっぱい。レヴィ、死んじゃう」

「確かに戦ってるんだから痛いよな。死ぬかもしれない。でも────」

「違う。敵、じゃない」


気がつけばレヴィの目は右手に移っていた。そこにあったのは刺青だ。真っ黒で変な模様が刻んである。

まったく気づかなかった。結構目立つのに・・・・・・。でもそれが痛い?

どういうことか聞こうとした時、また携帯が震えだした。またアザゼルさんだ。


「もしも────」

「どこで何やってんだ、お前!」


アザゼルさんの声は酷く荒れていて朝のような酔っぱらいの雰囲気もない。


「アザゼルさんに頼まれてた材料集めの途中ですよ。今はグリム鉱山? って所にいます」

「チッ! んなこと早く切り上げて魔王の城に行け! 面倒なことになってやがる!」


アザゼルさん自身もそうだけど、背後が妙にうるさい。緊急事態が発生している感じだ。そして魔王様の城に? まさか・・・・・・。


「何かあったんですか? もしかして────」

「奴の眷属が脱走したらしい。そしてお前に共犯の疑いがかかってる」

「はい? 眷属が脱走・・・・・・? 俺が共犯・・・・・・。もしかして・・・・・・」


俺の隣で右手を押さえてるレヴィを見る。これってそういうことだよね・・・・・・。


「すいません。マジで・・・・・・共犯です」

「はっ? 何があったか聞かせろ。まず、一昨日からだ」

「一昨日? ・・・・・・今朝じゃなく?」


背中にヒヤッと何かが走った気がした。アザゼルさんとの話し合いが始まった。





二時間くらい経って通話は終わった。

そして判明したことが2つ。まず、俺は2日間寝てたってこと。次に、これはまあ予想してたことだけどレヴィが何の連絡もなしにその2日間を過ごしていたこと。

この2つのおかげでレヴィは魔王様の元から脱走したことになって俺はその共犯ってか協力者ってことになってるらしい。


「ああ・・・・・・。馬鹿野郎」


誰に言うわけでもなく呟いた。レヴィは悪くない。俺を守ってくれたんだから。そう。悪いとしたら俺だ。ちゃんと許可を取るべきだった・・・・・・。


「何か、あった?」


レヴィが怪訝そうな声を上げる。これは言いたくない。でも言わなくちゃいけないよな・・・・・・。


「実はな────」


アザゼルさんから聞いたことをそのままレヴィに伝えた。最初は大人しく聞いていたレヴィだったが、最後の方────今すぐ帰らないとやばいってことを聞いた瞬間体を震わせて丸くなった。


「やだ。やだ、やだ、やだやだやだ!」


レヴィが子供のように騒ぎ始める。こんなに感情を剥き出しにするのは珍しい。────ってそんなこと言ってる場合じゃない。明らかにおかしい。

歯をガチガチと鳴らして自分を守るかのように自分を抱きしめている。

これを見て思うことがあるとすれば恐怖だ。レヴィは魔王様が怖いのか? 確かに今日は機嫌悪かったけど怖いって程でもなかった。だとすれば・・・・・・。


「レヴィ、大丈夫。大丈夫だから。俺と一緒に人間界に行こう。そうすれば怖くないだろ?」


体を丸めるレヴィに出来るだけ優しく語りかける。事情をアザゼルさんに説明して適当に言い繕ってもらおう。とにかく今はレヴィを何とかするのが先だ。


震えるレヴィを抱きしめて携帯の画面を通話へと切り替えた。これが間違いなのは分かってる。下手したらマジで殺される。でもこんなになってる友達レヴィを放っておくなんて出来ないから。


「アザゼルさん。話があります」


どんな反応されるかなんて分かってる。でも引き下がれない。守るって決めたから。










「はあ!? 魔王の眷属を匿うだあ? 何言ってんだ、お前」


また馬鹿なことを言い出した馬鹿野郎が携帯の先で何やら吠えている。それを俺────アザゼルは額を押さえて聞いていた。

魔王の奴隷と黙って出掛けた挙句人間界に匿うって頭に蛆湧いてるんじゃねぇのか。そんなことしたらどうなるかくらい分かるだろ。


「とにかく理由は分からないですけど城に帰ると痛いらしいんです。だから少しの間人間界で休んでもらおうって────」

「だから意味わかんねぇよ! そもそも奴隷を痛めつけることなんて普通だからな。お前の価値観で勝手に動くな。めんどくせぇから」


返答が無いところを見ると聞いてねぇな、こいつ。どうせ怯えてる奴隷を必死に落ち着かせてんだろう。んな無駄に甘いところもあいつらしいんだが、いい加減他の世界のルールってやつを学んで欲しいぜ。


「分かってますよ。だからある程度割り切ろうと思ってます。でも! こんなに小さな女の子が泣いてるのに放っておきたくないんです! まだ子供なんだから笑っていて欲しいんです!」

「ならお前は魔界の餓鬼を全員助けてぇって言うのか? それは違うだろ。綺麗事を語るな。お前はお前に出来る最善を尽くせ」

「・・・・・・確かに全員を助けるのは無理です。俺にはそんなことを出来る力も権限もない。でも、目の前の女の子を助けることくらいは出来る! 魔王を殴ってレヴィが助かるなら俺は死んでも魔王を倒す!」


・・・・・・なんだ、こいつは。なんつーか、土壇場思い切りがいいのか? 先のことを考えてないだけだな、馬鹿だから。


「貴方の負けですね。アザゼル」

「言ってることが無茶苦茶なだけだ。なんで魔王を倒すって話になるんだ。ったくよ」


夜の闇の中から現れた10枚の羽を持つ堕天使に言い返す。あいつはそれぐらいの覚悟だってことが言いたいだけなんだろうな。こうなったら絶対折れねぇぞ。あいつ。


「あー。分かったよ。もう好きにしろ。その代わり礼装の材料はちゃんと集めろよ」

「はい! ありがとうございます!」


勢いのよい答えと共に通話画面が終わった。はぁ。なんで俺の仕事が増えるんだか。

即座に魔王の携帯へと電話をかける。言い訳なんて簡単だ。


「あー。もしもし。桂木春のことなんだが、一昨日は真っ直ぐ人間界に戻ったらしい。本人とその主、オーガス・アモンに確認をとったから間違いねぇ」

「そうか。ご苦労。まだ調教が足りないか、あいつは。今度は軽く殺してみるか」


電話から聞こえてくる物騒な声は聞かないフリだ。巻き込まれたくないからな。ついでに俺もやることが無駄に沢山ある。さっさと退散させてもらおうかね。


「ところでアザゼル。聖杯せいはいは見つかったか?」


魔王からの問いかけに俺の動きが止まる。これだから古い知り合いは嫌いだ。


「何のことかわかんねぇな。俺はそんな物を求めた覚えはないが」

「何を言う。千年前はことある事に聖杯と言っていたじゃないか。まあ、その様子だと進展はないみたいだがね」


どいつもこいつもむかつくぜ。ったく、少しは放っとけての。

魔王は余裕のある様子で続ける。


「僕は聖杯の情報を掴んだよ。君の持つ情報と交換したいんだが。いいかな?」


魔王の話の本題はここかららしい。万能の願望機────聖杯。それは誰もが欲する聖遺物。そう、悪魔でさえも・・・・・・だ。こいつの言う通り俺も例外じゃない。

聖杯を手に入れる情報。欲しいところだが、リスクが高いか・・・・・・? いや、そんなことは無いな。俺が持ってる情報はあいつらとは比べ物にならないくらいに多い。一つくらい知られても問題は無い。


「ああ、分かった。だが、お前から持ちかけたんだ。わかってんだろうな?」

「わかってるよ。僕から言う。────聖杯を最後に使ったのは現聖王ガンスロッド卿だ。そして日本という国で使われたらしい」

「時期は?」

「約10年前。終末大戦の時だね。その時に人間界で強い魔力を観測したって部下から報告があった」


10年前。ってことは、ずっと隠してたってことかよ。ここで出してきた理由は聖杯の在処に目処がたったのか。それとも単純に交渉の材料として使えなくなってきたか・・・・・・。まあいい、人間界といえば都合がいいからな。


「じゃあ次は俺の番だな。────聖杯には面倒なお供が付いてるらしい。龍と神に慕われた最強の人間らしいぜ」

「龍と神・・・・・・」

「そう。お前らの大好きな「英雄」志紀と同じ力だ」

「くっ、はははは。なるほど。うん、分かったよ。君があの転生悪魔を気にかける理由が。そのお供への対抗手段ってことか」


まっ、これはすぐに分かるだろうな。普通なら種族のトップが転生悪魔なんかに肩入れしねぇ。裏があることは明白だ。しかも相手は俺のことを古くから知ってる奴だ。故にバレる。だが、それでいい。


「ああ。龍には竜をぶつけてやるんだよ。────っと次の実験が整ったみたいだ。行かなきゃならねぇ」

「うん? そうか。頑張ってくれ。「和平」の礎の為にね」

「心にも無ぇこと言いやがって。じゃあな」


そう言って携帯の通話画面を乱暴に切る。

実際のところ、魔王の言っていた情報はとっくに掴んでいたことだ。知らなかったことと言えばガンスロッドが聖王の座についていたこと。それと聖杯を使用したことだ。


「まっ。お前達には絶対見つけられねぇだろうがな」


俺の調べたことが全て事実ならば今度の聖杯は物じゃない。人だ。物を探してる悪魔や天使には絶対見つからねぇよ。


「アザゼル。また竜を作るのですか?」

「ああ。俺には全てを捨てても叶えなきゃなんねぇ願いがある。その為なら仲間だって殺してやるさ」


そう言った俺の視線の先には春にやった機械仕掛けの竜が鎮座していた。

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