忠告の先に
「久しぶりっスね。悪魔」
次の日、チョコを探しにスーパーへと出掛けた俺は白い服を着た男────聖騎士と出会ってしまった!
確か・・・・・・菊白仁。巨人の神剣を操る強敵だった。
腰に手を当てて刀を作り出す俺を見て仁は戦う意思はないと言いたそうに両手を上げた。
「戦闘許可が出てないんで暴れるのは勘弁して欲しいっス。それでもあんたが暴れるなら────」
容赦はしない────と凄む仁。
俺もここで戦う理由はない。そもそも1人で戦っても勝てるとは思えないしな。
ていうか────
「聖騎士に戦闘許可とか必要だったのか・・・・・・。適当に悪魔を見つけて殺す仕事だと思ってたぞ」
「んな簡単なわけないっしょ・・・・・・。悪魔は人間に紛れてるから殺すと捕まるんスよ」
「はーん。なるほど。だから偉い人に許可を取らなきゃいけないのか」
聖騎士も大変なんだな。だからといって俺達にしたことを許すわけじゃないけどさ。
悪魔である俺や先輩はしょうがないにしても他の生徒を巻き込む必要はなかったはずだからな。
あの時の戦いを思い出して目を伏せる俺に仁が問うてきた。
「そういえば・・・・・・聖杯って知ってるっスか?」
「せい・・・・・・はい? なんだそれ?」
聞いたことあるような・・・・・・無いような? うーん、駄目だ。思い出せない。
仁は首を傾げる俺に見て驚いたように声を上げた。
「あの有名な聖杯を知らないンスか!? 奇跡をもたらす聖遺物っスよ!」
「有名って言われてもなぁ。俺は悪魔になる前は神話とかには興味なかったし」
今もそんなに詳しいわけじゃないんだけどさ。ヴリトラの力を知るためにインド神話を少しかじったくらいだ。
「・・・・・・ならイイんスけど。いや、むしろ知らない方がいいっスね」
「なんかあるのか? その・・・・・・聖杯っていうのに?」
「別に。なんか最近悪魔や天使の動きがおかしいから気になっただけっス」
動きがおかしい? 英雄兵器のことか? でも聖杯って関係あるのか?
「あー。よくわかんない!」
「わからなくていいって言ってるっしょ。「人間」のままでいたいなら関わらなくていいっス。んじゃ、俺は帰るんで」
「ちょっと待って! もう少し聞かせて────むぐっ!」
顔に柔らかい何かを押し付けられて言葉が遮られた。
俺の顔から剥がれて床に落ちたのは潰れて中身が飛び出てるクリームパンだった。
「これ・・・・・・戻したら駄目だよな・・・・・・」
潰れたパンを片手に持ちながら消えた仁に呟いた。
「聖杯伝説くらい自分で調べなさい」
家に帰った後、先輩に聖杯について聞くとそう答えが返ってきた。
ていうか当たり前のように買い物袋を漁るのは止めてください。
「調べましたよ、一応。でもガラハッド? って人とかよくわかんないですよね」
そう。スーパーで買い物を済ました後、携帯を使って調べたんだ。その結果わかったことは・・・・・・特にない!
病気とかを治したって話があるってわかった。それが奇跡ってことならはっきり言って少しショボい。
なんか、こう・・・・・・世界を救った! みたいな話があれば信じられるんだけどなぁ。
「ガラハッドは円卓の騎士の1人よ。聖杯探索に成功した凄い人って覚えなさい」
先輩がクリームパンを食べながら説明してくれた。
円卓の騎士か・・・・・・。あんまり良い思い出はないな。ってそうじゃない! あくまでも伝説は伝説。今とは違うんだ。
「ガラハッドより聖杯ですよ! 奇跡をもたらすって言ってもそんな凄い感じじゃないですよね?」
「はぁ。春、1回落ち着いて考えてみなさい」
呆れたようにため息を吐く先輩に頷いて目を瞑る。
真っ暗な視界に先輩の声が響いてきた。
「そもそも聖杯は聖遺物。神の力が宿った物質なの。神の力がどんなものかは貴方自身が体験してるはずよ」
神の力・・・・・・。
そうだ。俺は神の力を使った。そして死にかけたんだ。
あれと同じ力を持った物なのか? だとしたら・・・・・・奇跡だって簡単に起こせるかもしれない。
聖杯を求める悪魔がいるかもしれない。
仁はそう言ってたんだ。
もしその悪魔が変な事を考えてるなら止めなきゃいけない。
「すいません。ちょっと行ってきます」
買い物袋から1枚の板チョコを取り出して家を飛び出した。
レヴィのことも・・・・・・聖杯のことも全部・・・・・・。
「聞いてみよう。いや────」
聞いてみるしか・・・・・・ないんだから!




