幼女が食べる虫の味
「魔界にチョコはないのか?」
幼女の力によってアモンから逃げられた俺は、その幼女と一緒にコンビニでチョコを探していた。
この女の子がチョコを知らない時点で無いのはわかってたんだけど・・・・・・。
この子を人間界に連れてくと誘拐に見られそうで怖いんだよな。
「チョコ、食べる」
「分かったからちょっと待っててくれ。・・・・・・ん? あった!」
端に並べられてた板チョコを取った。やっと見つけた。これで食べさせてやれる!
板チョコを買って幼女に渡す。
幼女が嬉々とした様子で封を破る。
「ギャアアアアアアアアア!」
封の中には・・・・・・虫がいた。ていうかチョコ自体が虫だった。
やっぱり魔界の食べ物は気色悪い。ありえねぇだろ、こんなの!
それに躊躇なく齧り付く幼女!
キイイイイイイイィィィ! という悲鳴が上がり血が吹き出てくる。
ほんとに・・・・・・もうやめて欲しい。でかい虫に齧り付く幼女とか見たくないんだけど。
「まずい、あと、死なない」
幼女が頭のなくなった虫をごみ箱に放り投げた。食べ物を粗末に・・・・・・いや、捨てた方がいいか。
カサカサ動いてるチョコ虫に目を逸らしながら次のコンビニへと足を運んだ。
「そういえば名前聞いてなかったな。なんて言うんだ?」
3枚目のチョコ虫を食してる幼女に問うた。よく食べれるな・・・・・・。
「レヴィアタン。次、チョコ、食べる」
「よし、じゃあレヴィ、次のコンビニに向けて出発だ!」
幼女改めレヴィの手を握って走り出す。もう・・・・・・あの虫が出ないことを祈りながら。
「ギャアアアアアアアアア!」
当然のように出てきた虫を踏み潰して呟く。
「この世界のチョコってあんなのしかないのか?」
チロルチョコみたいのがあってくれれば嬉しいんだけど。
この虫に100円とか馬鹿げてるだろ。もう逮捕覚悟で人間界に行った方がいいんじゃないのか?
魔法陣を描こうと指を動かすと指が熱を放った!
指が燃える! 熱くはない。でも俺の魔力じゃないことはわかる。・・・・・・もしかして・・・・・・。
「呪い、アモン、かけられた」
レヴィの言う通りらしい。描く魔法陣が崩壊していくから魔力が使えなくなるのか? よくわからん。
戦闘中によくそんなことする暇があったな。それが普通なのか。強い人って凄い。驚くことばっかりだ。
「まあ呪いは後回しにして。チョコどうしようか。人間界に行けないならチョコ買えないぞ」
あと寝泊りする場所も探さないと。幸いなことに携帯はある。お兄さんに電話して事情を話せば・・・・・・。
駄目だ。あのお父さんたちに捕まる恐れがある。大丈夫だとはおもうけど・・・・・・一応な。
「チョコ、駄目?」
「ん? ああ。何とかするよ。約束だ」
レヴィと指切りをして笑う。お金は使えるんだ。どっかに人間界の品物を売ってる店があるはずだ・・・・・・と思いたい!
ため息をついて周りを見渡してると携帯から着信音が鳴り響いた。シグムントさんからだ。
「もしもし、どうかしましたか?」
「無事か? アモンと戦闘になったと聞いてな。心配になったんだ」
「心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫です。なんかレヴィアタンって幼女に助けられたんで」
少し間が空いてシグムントさんが信じられないと言うように口を開いた。
「それは・・・・・・本当か?」
「はい。本当ですけど何かおかしいですか?」
おかしいこと言ったか? レヴィアタンって悪魔は存在するんだから嘘ってことはないはずだ。
「・・・・・・今、魔界に存在するレヴィアタンの悪魔は1人だけなんだ」
妙に慎重に言葉を紡ぐシグムントさんに違和感を感じて問う。
「1人ってことは絶滅危惧種とか? 保護対象とかですか!?」
だったらやばくないか・・・・・・。だって俺はその保護対象を連れ出して怪しいチョコを食べさせてるんだから・・・・・・。
「いや違う。現存するレヴィアタンは・・・・・・魔王様の隷属だ」
「それもっとやばいじゃないですか!」
シグムントさんに叫んで答えた!
この子が!? 魔王様の奴隷・・・・・・だと。
魔王様ってロリコンだったのか・・・・・・。もしかしたら仲良くなれるかもしれない。って違うだろ!
マジで殺されるかもしれない。妙に魔法が強かったのはそういうことか。
魔王様の奴隷ってことは護衛みたいな働きをするかもしれないからな。特殊な訓練とか受けてるのかも。
「どうすればいいんですか!? 俺、まだ死にたくないです!」
思いっきり動揺する俺にシグムントさんが冷静に答えた。
「城に返せばいい。事情を説明して謝罪をすれば許してもらえる」
「アモンに襲われたところを助けてもらったと? そして怪しいチョコを食べさせまくったって言えばいいんですか!? 俺、死にませんか? 大丈ですか?」
俺の目がぐるぐるする。あんな虫チョコを食べさせたんだ。それなりの罰は下るはず・・・・・・。まだ死にたくないよ、俺。
「とにかく行け。いいチャンスだ、サナという幻想体のことも聞いておいた方がいいだろう」
それを最後に通話が終わった。抵抗なんてさせない気なのか。
確かにアモンを通さずに魔王様に会うチャンスだ。
でも俺の記憶が正しいならアモンに会う理由って仲間に引き込むためだったような・・・・・・。
気にしたら負けな気がする。とにかく今は魔王様に返しに行こう。
「レヴィ、帰ろう」
「えっ?」
手を引く俺にレヴィが困惑したような顔を見せる。そして足を止めて抵抗し始めた。
「やっ、まだ、チョコ、食べる」
「魔王様に頼んで今度持ってきてあげるから。今は帰ろう。魔王様の奴隷を誘拐なんてシャレにならないから」
「人間、行けば、平気」
「人間? ああ、人間界ってことか。駄目だ。そんなことしたら魔王様に迷惑がかかるだろ。あと今は俺が魔法使えないから無理だ」
抵抗を続けるレヴィを抱き上げて魔王の城へと歩き出した。
駅を見つけるまでに1時間。電車で2時間。更にその後バスで3時間の移動を経てようやく魔王様の城へとたどり着いた。
遠すぎるだろ・・・・・・。バスで3時間って何? 運転する方も嫌になると思うぞ。
着いたら着いたでどう入っていいかわからないし。
ゲームみたいに直接行っていいのか?
「許可がない者は通せません」
門の前の守護兵って言えばいいのか? 門番みたいな人が槍を交差させて道を塞いできた。どうやら直接行くのは無理らしい。
ここで事情を話すか。それしかないよな。
「えっと・・・・・・奴隷? を連れてきたんですけど。魔王様に会わせてもらうことって出来ますか?」
最後の抵抗として首筋に噛み付いてくるレヴィを指さして言った。正直・・・・・・同情する。こんな小さいのに奴隷なんて。未来が無いのと一緒だから。
でも俺が何を言っても無駄なんだ。サタナキアの時とは違う。馬鹿な俺でも理解できるほどに相手がデカすぎる。
だから・・・・・・我慢だ。和平の後に少しずつでもいいから改善していこう。
一番最初は・・・・・・英雄兵器だ。
「僕に用か? 駆け出し悪魔くん」
城の中から魔王様が出てきた。連絡してくれたのか。それにしても直接会いに来てくれるとは・・・・・・。てっきりメイドさんが引き取りに来るのかと思ってた。
会わせてくれって言ったけど。
「ほらレヴィ。帰りな。チョコはまた今度な」
レヴィの背中を軽く叩いて言う。マジで首が痛いんで離してくれませんか。
「レヴィアタン、離れなさい。桂木くんが困ってるだろ」
サタン様の声を聞いてレヴィの体が跳ねた。
俺から離れたレヴィがおずおずと城の中に戻っていく。奴隷生活に戻るのは嫌だろうな。我慢・・・・・・。そう我慢だ。
そう俺自身に言い聞かせて俺の目的を問う。
「サタン様、サナって悪魔を知ってますか?」
「ふむ。サナ・・・・・・か? 初耳だね。力になれなくて済まない」
知らない・・・・・・。嘘だ。少なくとも名前は聞いてるはずだから。
話す気がない? なんで? 予想するとしたら・・・・・・和平派に知られたらやばいから。悪い方向に考えすぎだな。
「サナ────」
「そのサナという悪魔については僕も調べておくよ。何か分かったら君に教える。それでいいかな?」
「ありがとうございます! 魔王様に協力してもらえるなんて光栄です!」
レヴィの言葉を遮った魔王様に頭を下げた。
今・・・・・・レヴィは自分を指さしてた。ていうことは・・・・・・?
また考えすぎかも。でも・・・・・・可能性はあるか。
「あと1つ頼みたいんですが宜しいですか?」
俺は頭を上げてレヴィに微笑む。魔王様を見ないと失礼だな。
「奴隷を解放してくれ・・・・・・というのは無理だが、他のことなら検討しよう。なんだ?」
「レヴィ・・・・・・じゃなかったレヴィアタンに人間界のチョコを食べさせてあげて欲しいんです。1枚でいいんでお願いします」
再度頭を下げた俺に魔王様が答える。
「まあそれぐらいならいいだろう。レヴィアタンも世話になったからね。前向きに考えさせてもらうよ」
「ありがとうございます!」
何度も頭を下げる俺に魔王様が苦笑して言った。
「恥ずかしいからやめてくれ。同じ和平を目指す仲間・・・・・・だろう? 助け合いは大事だとアザゼルから言われてるんだ。気にしないでほしい」
「・・・・・・はい! お忙しいところ失礼しました!」
最後にそう頭を下げて魔法陣を使って人間界に戻った。光の中で見えたのは涙を堪らえるレヴィの姿だった。
「あっ! 帰ってきた!」
家に戻ると白が叫びながら駆け寄ってきた。レヴィに同情したせいかいつもより愛しく思えてくる。
「白、今日は一緒にお風呂入ろうか」
「嫌。1人で入って」
一瞬で嫌悪感丸出しの顔になる白。少しくらい悩んでくれても・・・・・・。
「お兄ちゃんのこと皆待ってたんだよ。はぐれた場所にいないって騒いでたんだから」
「ごめん。ちょっと幼女と遊んでた」
「警察行こうか、お兄ちゃん」
なんでこんなに厳しいんだ、妹は。高校生が幼女と遊んでたら駄目なのか? 駄目だな・・・・・・。
「じゃあご飯食べよ。今日はね、私も手伝ったんだよ」
「はっ? 包丁握ったの?」
「ううん。キャベツを剥いたんだ」
「そっか。ならいいや。でも気をつけろよ。女の子の傷は一生モノだからな」
楽しそうに語る白に軽く注意して家に上がる。その時に感じる違和感。
あれ? そういえば・・・・・・魔力が使える? てことは呪いが消えてる?
ヴリトラがやったのか?
『そんなわけないだろ。俺はかける専門だ。解くことは出来ねぇよ』
そう答えるヴリトラに呆れながら考える。
ヴリトラじゃないとしたらレヴィだ。いつの間に? ていうか解呪とか出来るのか!?
『例えばの話だが。魔力を一体化させれば簡単に対象を変化させられるぞ』
魔力の一体化・・・・・・って確かエッチとかすると起きる魔力の同化現象のことだよな? そんなこと起こってな────いわけじゃないかもしれない。
エッチに起きる同化現象は体の接触と体液に含まれる大量の魔力によって発生するものだ。だから効率さえ考えなければ血液でも魔力の同化現象起きる。
つまり、レヴィが食べた虫の魔力とレヴィが噛み付いた俺の魔力が同化現象を起こして呪いを虫に移したのか。
『そんなわけあるか。あの女の唾液とお前の血で起こったんだよ。そんぐらい思い付くだろ』
思い付いても認めたくないんだよ、その答えは。悪魔にとって魔法が使えないってのは致命的すぎることだ。
しかも奴隷が・・・・・・だぞ? 殺されるかもしれない。
「大丈夫・・・・・・だよな?」
誰にも聞こえないように呟いた。
明日・・・・・・魔王様にチョコを届けよう。念のため・・・・・・。うん、念のために。




