炎の獸、水の龍
「あれは・・・・・・ペットですか?」
広間の中央で佇む魔獣を指さした。狼とかフクロウとか蛇が混ざったような生き物だ。こう言ったら失礼だけどどことなくお兄さんに似てる。
答えない先輩に変わって御剣が教えてくれた。
「火野村先輩のお父様とお母様だよ。アモンの伝承は読んだよね? 姿が伝承通りだからすぐにわかると思ったんだけど」
言われて見ればそうだ! フクロウの頭に狼の胴、それに蛇の尻尾。
伝承と何も変わらない・・・・・・アモンの悪魔そのものだ。
「ペットとか言ってごめんなさい! 俺、凄く失礼なこと言って・・・・・・」
「良いのよ。初めてなら誰でもそう思うわ」
先輩の声音は低くて冷たい。敵意を向けてるように感じる。喧嘩別れでもしたのかな?
大きい方の獣がゆっくりとした足取りで近づいてきた。
「久しいな。鬼の子。よく帰った・・・・・・と言った方がいいか?」
喋った! 喋りましたよ! この動物! よく考えたら当たり前か。先輩のお父さんだからな。先輩に言葉を教えてるはずだ。
驚く俺をよそに先輩が答える。
「ただいま帰りました、お父様。本当なら帰ってくるつもりはありませんでしたが」
「ならばここに来た理由は・・・・・・聞かなくともわかるか。和平と英雄兵器のことだろう?」
「英雄兵器を滅し和平に協力しろと? お前が力を使えば容易いことだろうに」
更に近づいてきた小さい獣が続けた。ちなみに小さいって言っても俺と同じくらい大きい。大きい方は俺の2倍くらいある。
やっぱり悪魔ってやばいな。同じ生物とは思えないぞ。
「魔王様に会わせてもらいたいのです。それと私は力を使う気はありません。自分を捨ててまで倒したい敵はいませんから」
「ふん。甘いな。世界を統べる力を持つというのに自我なんぞ不要なものの為に不意にしおって」
「・・・・・・それは貴方達の考えです。私には私の考えがありますから放っておいてください」
ギリッと歯軋りをする先輩に違和感を覚えながら御剣に耳打ちする。
「仲悪いのか?」
「先輩が人間界に来る時に相当揉めたらしいよ。先輩の力は大きいからアモンの家としては大事にしたかったんだって」
「もしかして原始の力ですか?」
話にセラが加わってきた。原始? 時代の話ではなさそうだけど・・・・・・。
「原始の力っていうのはね。一世代目の悪魔の力のことだよ」
「ああ・・・・・・よくわからない。一世代目って1番最初の悪魔のことか?」
「うん。1番最初に名を与えられた悪魔のこと。つまり、本当に伝承に出てくる悪魔のことだね」
「それは幻想体なのんだよな?」
「そうだよ。だから正しくは初めてその名の悪魔として生まれた悪魔のことかな」
・・・・・・とにかく1番最初のアモンの悪魔ってことだな。その人の力を先輩が使える・・・・・・。凄いのかわからねぇ!
『原始の奴らはどれも強ぇぞ。俺達に匹敵するくらいはな』
ヴリトラの声と一緒に頭に変な映像が浮かんできた。戦争・・・・・・? 化け物としか言えないような形状の生き物が暴れてる映像だ。
もしかして・・・・・・これが原始の悪魔か!?
それから放たれる魔法は海を蒸発させて山を砕く。空を裂いて地面を断つ。たった一体で国一つ壊せるくらい強い。
「こんな力を持ってるんだ。先輩って凄く強いんだな」
「当たり前だよ。先輩が本気を出せばお兄様より強いんだからね」
御剣が何故か自慢気に言った。お前が自慢する意味はわからないけど先輩が強いってことは分かった。それこそここにいる誰よりも・・・・・・。
「話は分かった。だが手を貸すをする気はない」
1通りの説明は終わったらしい。大きな獣が頷いた気がした。
でも・・・・・・協力してくれないのか。まあ簡単にいかないことくらいはわかってたことだ。
俺は1歩前に出て獸たちに頭を下げた。
「お願いします! 和平の為にどうしても必要なことなんです。これからの魔界のために。悪魔や天使、皆が安心して暮らせる未来のために! だから・・・・・・」
「くだらんな。和平? 安心して暮らせる未来? 悪魔がそれを願ってどうする。悪魔は悪であり続ける事こそが正しい。破壊を愉しみ、苦を嘲笑う。悪魔はそうでなくてはならない」
「希望という名の幻に縋ことは弱さの証。闇に潜み光を飲む。それこそ我ら悪魔の役割。それは和平があろうと変わらない。我らは夢を壊し続ける」
俺の言葉を遮った2人の言葉は・・・・・・これ以上何を言っても無駄だということを示していた。
悪魔の役割ってなんだよ・・・・・・。悪魔は悪であり続ける? そんなの・・・・・・馬鹿げてる。
そう叫ぼうとした俺の口をヒルデ先生とセラが塞いだ。
「桜花さん、諦めましょう。他の方法を探すべきです」
「私も先生の意見に賛成します。これ以上はこの身の程知らずが何かしでかします」
「・・・・・・そうね。帰りましょう。アザゼルには悪いけど失敗ね」
俺の口を塞ぐ手を振り切って叫ぶ。
「そんなのおかしいだろ! 悪魔が平和を望んじゃいけないのか!? 誰かと一緒に笑いたいって思っちゃ駄目なのか───」
また手で口を塞がれた。今度は首も押さえつけられて暴れられないようにされている。
「黙ってください。貴方の気持ちはわかりますから」
「・・・・・・また繰り返すつもりですか? 貴方の自分勝手で暴れてまた誰かを殺すつもりですか?」
セラの言葉に体が止まった。そして天界での出来事が頭に浮かぶ。
あの時と・・・・・・同じことが。それは・・・・・・嫌だ。
「落ち着いたね。じゃあ一言言ってやろうか。僕も言ってやりたいんだよね」
御剣がそう言ってヒルデ先生の手を俺の口から離した。言ってやる・・・・・・? ああ、なるほどな。
家から1歩外に出て振り返って叫ぶ。
「俺は和平を守る! お前たちが何を考えて、何をしようとも・・・・・・全てを砕いて守りきってみせる!」
「忘れないでください。貴方達の娘が選んだ人間は・・・・・・貴方達の喉を掻っ切ることが出来るんですよ。問題を起こすなら躊躇することなく貴方達を殺す」
閉められたドアに背を向けて歩き出した。はあ。すっきりした! 言ってやったぜ!
御剣と目が合った。なんとなくサムズアップ交わして笑う。御剣も同じ思いみたいだ。
あとはこの後のことだな。どうやって魔王様と会うか。そしてサナって悪魔。なんか遠回りしてるように思える。アモンに断られたからか?
「じゃあ────頑張りますか!」
俺の気合いを入れる声は後ろで響いた轟音でかき消された。
振り返ると壊れた扉と中から出てくる2体のアモンの悪魔。炎を纏って赤い双眸を光らせている。
なんか・・・・・・怒ってる? もしかして・・・・・・俺たちのせい?
「逃げるわよ! 早く!」
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアア!」
先輩の叫びは獸の方向に消されて聞こえない。こういう時は・・・・・・どうすればいい?
放たれる炎弾を躱して逃げる。先輩たちは獸に警戒しつつ魔法陣を描いている。あれで逃げるのか! よし・・・・・・!
「俺が時間を稼ぎます! だから早く魔法陣を!」
いくぜ・・・・・・ヴリトラ!
第二段階を纏って獸の爪を両腕で受け止める。重い! 簡単に破られそうになるくらいに!
一撃受けるごとに鱗が剥がれていく。それを貼り直す時間なんてない。体全体で耐え続けるしかない。
至近距離で撃ち出された炎弾に血反吐を吐きながら防御する。
「春! 出来たわ! 急いで来なさい!」
先輩が大きな円の中から手を伸ばしている。だが2体の獸に阻まれて先輩の元まで行くことが出来ない。どうする? どうすれば・・・・・・。
「英雄模倣────アタランテェェ!」
俺の外装が軽鎧に変化する。足に魔力が集中して段違いに早く動けるようになった・・・・・・はずだ!
思いっきり地面を蹴ってその場から離れる。飛距離はさっきまでの比じゃない! やっぱり足腰が強くなってる。
元々英雄の動きを重ねる英雄模倣に俺の意思を挟んだ新技。これで力の入れ具合や動きの強弱。その他諸々を俺の意思で調節出来る。
獸を突き放して先輩の手を取────ろうした時、視界の端に不思議な少女が映った。
「・・・・・・水?」
「えっ?」
その少女は水の龍を発現させて撃ち出してきた!
「先輩! 早く行ってください!」
「春! 早く来なさい!」
先輩の手を払って水の龍をガードする! それの衝撃で後ろの木まで吹っ飛んで体を引きずる。
先輩は・・・・・・消えてる。良かった。あんなの生身に掠ったら只じゃ済まなそうだから。
立ち上がる俺に少女が近づいてきた。
「契約悪魔、ヴリトラ。私、玩具?」
・・・・・・何を言ってるかわからない。でもヴリトラの知り合いだってことは分かったぞ。
『そんなわけあるか。俺はお前の中にいたんだぞ。こんなチビの悪魔を知ってるわけないだろ』
悪魔って何千年も生きるんだろ? この女の子も俺の中にいる前からの知り合いかもしれないじゃん。
『ありえねぇ。こんな強ぇ奴をもし知ってたら俺はお前に逃げることを勧めてたな。絶対に』
あくまでも知らないとシラを切るヴリトラ。正直今はそんなことどうでもいいんだけど。とにかくピンチだ。
炎の悪魔2体に水の龍を操る悪魔1人。どうやって逃げるか。
じりじりと迫る獸。一層強くなる炎に耐えながら考える。どうやったら生きて帰れるか。そして目の前の幼女は誰なのか。
「啖呵をきった割に弱い。やはり希望なんぞに縋るのは弱者か。私を愚弄した罪、なぶり殺しにして償ってもらおうか」
それは償うっていうよりお仕置き的なやつなのでは・・・・・・? そんなことどうでもいいんだけどさ。ていうか愚弄した覚えもないし。
こうなったら・・・・・・一か八かの最終手段!
「チョコ買ってやるから助けてくれ!」
幼女の服を握しめて懇願する!
すると幼女は可愛く首を傾げて反応した。
「チョコ、何?」
魔界にはチョコがないのか? そういえば先輩も俺の馴染みのない食べ物を持ってくるような・・・・・・。ってとにかく今は説得だ。
「甘いお菓子。 死んじゃうくらい美味しいぞ」
適当で尚且オーバーなくらいに手を動かして説明する。興味を持ってくれないと交渉できない。なんとかしてこの子の龍に助けてもらわなくては!
「死んじゃう、ほんと?」
「ん? ああ! ほんとだ! 甘すぎて死ぬんだぞ、人間は」
食べすぎると・・・・・・だけどな。
・・・・・・あれ? 死ぬって言ったら駄目じゃないか?
俺の馬鹿・・・・・・。
落胆し、振り上げられた爪を見つめる。俺の最後は幼女に抱き着いてるのか・・・・・・。それも・・・・・・いいかもしれないな。
振り下ろされた爪は────俺の頭の上で止まった。 水の魔法によって受け止められている。
チョコで幼女が釣れた。
幼女が水の龍でアモンを突っ飛ばして俺に言った。
「チョコ、甘くて、死ぬ。食べる」
たどたどしく言葉を紡ぐ幼女の姿はなんとなく・・・・・・悲しそうだった。




