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修行の合間に




「素麺流すわよ!」

「ええ! いつでもいいわ!」


バアルとの一戦から2週間。

俺の周りは夏休みに突入して休みを大いに楽しんでいた。

理沙と火野村先輩にいたっては毎日流しそうめんをしてるくらいだ。

しかも朝から・・・・・・。


「じゃあ行ってきます」


流しそうめんに夢中になってる2人に一言言って家を出る。俺は補習がある。期末テストはぎりぎり大丈夫だったんだけど。その後の連続欠席や提出物の未提出。そのおかげで夏休みも勉強の毎日だ。


「よし! 今日も頑張りますか!」


学校に向けて駆け出した。




「春くん、おっはよー! 今日も一緒に補習がんばろー!」

「おう。さっさと終わらせて早く帰ろうぜ」


校門で香那と会った。こいつも結局補習受ける羽目になってんだよな。魔法は大丈夫だったらしいけど。


美奈はいないみたいだ。さすがに毎日付いてくるわけにいかないか。昨日は来てたんだけどな。


「じゃあ競争しよ。どっちが早く教室に行けるか!」

「今かよ! 早く帰れるかとかじゃないんだな」

「それじゃあ面白くないじゃん! 負けた方が帰りにアイスを奢る罰ゲームね」


そう言って駆け出す香那。


「掛け声すら無しかよ! ・・・・・・まったくしょうがないな」


見えなくなった香那を追いかける。当然追いつけるわけもなく・・・・・・。


「いっちばーん! アイス奢ってね」

「100円までならな」

「えー! 200円じゃだめ?」

「フライングしたんだからそれぐらい我慢しろ」


頬を膨らませる香那の頭を軽く叩いて席に着く。ていうか他の生徒もいるのに騒ぎ過ぎた。迷惑だよな。

隣の席に着いた香那が鼻歌混じりに勉強を始める。補習って言っても渡されたプリントをやるだけだから簡単だ。


俺も鞄から小型テレビを出して電源を入れる。映し出されるのは闘技場での戦いの様子。これは荒野先生から出された課題だ。どうやら英雄模倣ヒロイック・コピーのバリエーションを増やすためらしい。

ジークフリートとヘラクレスって英雄の戦いを視界の端に捉えながらプリントにペンを走らせる。この時に龍の力を持続させないと両方をこなせないから龍の力の強化にも繋がる────って荒野先生が言ってた。


テレビからは音が鳴らない。これも修行の一環で動体視力の強化と目から取り入れた情報だけで五感を反応させるっていうのが目的らしい。

正直よくわからないけど、目で追えない敵や音のない動きをする敵に対しての対策って話だ。


実際見えないなら音で反応するしかないし聞こえないなら目に頼るしかない。でもそれなら実践でやった方がいいんじゃないのかな?


ぶつかり合う両者の剣。

光速とも言えるくらい速い剣戟を頭に叩き込む。

二人の動きを。全て・・・・・・。頭の中に鋼の音を響かせて何度も動きをリピートする。


それに俺の動きを重ねて・・・・・・。頭の中で戦闘を繰り広げる。


「・・・・・・無理。この二人は絶対に無理」


机に突っ伏して呟いた。

他の英雄は頑張れば再現できる。実際バリエーションはかなり増えた。鍛えたおかげで体への負担も減った。

なのに・・・・・・強くなってるはずなのにこの二人の動きは真似出来ない。

バルムンクを作ることすら不可能ってなんだよ。この時点でもう駄目じゃん。

やっぱり俺が弱すぎるのか・・・・・・。もっと強くなってこの二人を真似ることが出来るくらいに・・・・・・。


そんなことを考えてると隣から肩を叩かれた。


「赤ペン持ってる? 忘れてきちゃって」

「ほら。ちゃんと返せよ」

「うん、ありがと」


香那にペンを渡してプリントを眺める。俺もそろそろ終わりそうだ。さすが龍の力だな。並行作業が簡単にできる。

帰ったらまたトレーニングだな。英雄模倣と俺自身の動きを混ぜてトレーニングだ。結構無茶なトレーニング方法だけどこれが一番早い。疲労感が凄いけど・・・・・・。


よし、プリントは終わり。

しょうがないからこの二人は諦めて他のことの質を高めようか。この二人は人間じゃないって考えとこう。


「先生がいないな」

「机の上にプリントを置いとけばいいんだって。さっき言ってたよ」

「そうだっけ? じゃあ置いといて帰ろうか」

「うん! アイスだね!」


そう頷く香那に苦笑しながらプリントを提出して教室を出た。




「いらっしゃませ────って桂木か」

「あれ? 今日シフト入ってたんだ」


コンビニには白泉がいた。

正直に言うとバイトしてる白泉に香那の分まで奢ってもらおうって考えなんだけど・・・・・・。


「今日は奢らねぇからな」

「はいはい、分かったよ。しょうがない。自分で出すか」


俺の考えを見透かしたかのように言った白泉に頷きながら財布を開く。うわっ、小銭がない。


アイスを選んでる香那を横目で見る。絶対100円の上限を忘れてるな。


「はあ。もういいや。なあ白泉、生きてて楽しいか?」

「それはなんだ? 俺に死ねって言ってるのか?」

「違う。最近思うんだよ。俺は沢山殺したなって」


早乙女先輩とかアークって聖騎士とか、ほんとに沢山。

もしその人たちが生きてて楽しいって感じてて、それを俺が邪魔をしたなら何か嫌だなって。

割り切ってることなんだけど、少し気になる。


そんな俺を笑い飛ばすように白泉が言った。


「そりゃ楽しいと思うぜ。適当な仲間とバカやって怒られて、くだらない毎日を過ごしてる。それは俺にとって当たり前の出来事だけど今のお前からしたら貴重な時間に見えるんだろうな。そう考えたら楽しまずにはいられないだろ」

「要するに・・・・・・忙しい俺への嫌味か」

「ちげえよ。俺はお前の為に何も出来ないから。せめて守られてる人生を謳歌すんだよ。お前と一緒にな。っつうわけで今度遊びに行こうぜ、水無月とかも誘って」


本命は桜たちだろ。

そう言いたくなる気持ちを抑えて香那から受け取ったアイスをレジに置いた。


「ありがとう。遊びに行くのは・・・・・・考えとくよ。でも桜に手を出したら怒るからな」

「桂木相手に浮気とか殺されるからやらねぇよ。でも水着くらい拝ませてくれてもいいだろ? あと300円な」

「高っ! はい300円。あと・・・・・・桜の水着なんて誰が見せるかよ。特にお前みたいな奴には絶対にな」


それだけ言ってコンビニにを出る。

300円・・・・・・。高かった。でも、まあ充分か。帰ってくる理由が出来たから。


「海行くの? なら私も行きたいな。美奈ちゃんは・・・・・・行かないと思うけど。でも由紀ちゃんなら行くよ! 多分!」


香那が棒アイスを割って片方を渡してきた。

コンビニにこんなのあったのか! 最近見ないタイプのアイスだ。

あと海に行くのかは知らないけど。


「行けたらいいな、海。由紀は絶対来ないけど」

「そうなの? 誘えば来るよ。きっと」

「あいつは家で本読んでた方がいいって言うと思う。運動好きじゃないし」


棒アイスをかじりながら話す。

魔界の調査が終わったら誘ってみようか。理沙とか桜とか。先輩も皆で行きたいな。


補習が終わるまであと・・・・・・2日のことだった。




「「お邪魔します」」


補習が終了した次の日。

家に白の友達が遊びに来た。


「いらっしゃい。おやつは適当にあるやつ食べてくれ。じゃあ俺は出掛けるから」


それだけ伝えて外に出る。俺は魔界でトレーニングだ。

御剣とお互いの修行の成果を見せ合う約束してる。御剣は師匠の元で一からやり直すって言ってたからどんな風に変わってるか楽しみだ。


魔法陣を描いて闘技場に飛ぶ。

受付には既に御剣の名前が書いてあった。


「すいません。この御剣って悪魔と戦いたいです」


御剣の名前を指して受付のお姉さんに言う。


「かしこまりました。では控え室でお待ちください」


お姉さんの言葉に従って控え室に入る。

やっぱり中には悪魔が何人もいた。久しぶりだな、この感じ。


龍の力を纏って俺の名前を呼ぶアナウンスと共に競技場へと飛び出した。


バアルやサタナキアとの戦いでそれなりに注目を集めたのか俺の登場に歓声が上がった。

アナウンスにも気合いが入ってるように聞こえる。


「久しぶりだね、桂木君」


先に競技場に出ていた御剣が微笑んだ。


「ああ。久しぶり。話は・・・・・・後でいいよな?」

「うん。じゃあ・・・・・・いくよ!」


戦闘開始の鐘と共に御剣の姿が消えた。あいつ! また速くなったのか!

でも雷の音が俺に位置を教えてくれる! 刀で御剣の剣を受け止める。


「へぇ。まだ第一段階なのに僕が見えるんだ」

「とりあえず・・・・・・力の使い方は覚えたからな」


剣を弾いて激しく打ち合う。御剣の体を囲む雷が炎へと変化して一撃が重くなっていく。

刀が手からこぼれ落ちる。その隙を御剣が見逃すはずもなく・・・・・・。


第二段階セカンド・ギア


第二段階の発動を余儀なくされた。

御剣の剣と俺の拳の応酬は熾烈を極めて互いの体を削り合う。御剣は速さで撹乱して的確に隙を突いてくる。それを耐えて反撃を加える!


じゃあ・・・・・・こっちから見せてやるよ!

まずは・・・・・・モラルタ!


黒炎の剣を作り出して御剣の剣とつば競り合う!

高速で動く御剣に真正面から剣で戦うのは無謀すぎる! だったら・・・・・・新技────ゲイ・ボルグ。


長槍を作り出して水平に薙ぎ払う。

御剣には避けられたけど警戒をさせられた。これで充分だ。


「魔力の使い方も巧くなってる。流石だね、桂木君」

「先輩と荒野先生とヒルデ先生に教えてもらったからな。当然だ。それより御剣の成果を見てないんだけど」

「僕のは桂木君と違って見せびらかすものじゃないんだよ!」


迫ってくる御剣を槍で迎え撃つ。

それを弾いて、躱して、加速していく御剣を目と耳で追いながら次のイメージへと移る。

これが俺の最後の成果だ。


名付けて二重の魔法(デュアル・マジック)だ。

モラルタを作り出して剣と打ち合う。それだけでモラルタは砕け散ってしまう。

御剣の追撃の一撃!

それをモラルタの欠片で防ぐ。そして────黒い欠片が収束してモラルタを作り直した!

また打ち合い、砕ける。そして直る。それを何度も繰り返す。

直っていくモラルタは固く鋭利に変化していき御剣の剣にヒビを入れ始める。


それに気づいた御剣が距離を取る。もう遅いんだよ!

即座に距離を詰めて剣を構える。


二重起動ツインドライブ────第二段階」


黒き龍の鱗を包み力を増す俺の剣は御剣の体を切り裂いた────はずだった。

何故か俺の体に傷がついている。御剣のカウンターを受けた覚えはない。だとすると・・・・・・。


幻王の寛容(ファントム・ソウル)。氷と光の複合形態。僕の存在を誤認させて意識させないままカウンターを打ち込む技だよ」


膝を着く俺の前に御剣が姿を現した。反射だと思ったんだけど・・・・・・違うのか。氷と光で御剣の姿を反射させたってのか。

氷なんて見えなかったのに・・・・・・。


「いかにバレずに仕込むか。これが一番大切なことなんだよね。少し心配だったんだけど、今の桂木君に通じるなら十分実用範囲内かな」


御剣の言葉が途絶えて試合の終了を知らせる鐘が鳴り響いた。




「お兄ちゃん、何か不機嫌だね」


家に帰ったら家に帰ったで小学生の相手をしなくちゃいけない。なんでこんなに忙しいんだ。

傷は闘技場で治してもらったからバレる心配はない。


「血の匂いがします。やはり悪魔・・・・・・」


バレる心配はないはずなんだけど・・・・・・。天使にはわかるらしい。アルマロスが鼻を押さえている。

仲良くなったんだな。まずそこに驚くよ。


「俺は人間だ。それより菓子ばっか食べてると太るぞ。昔の理沙みたいになっていいのか?」

「なんで私が出てくるのよ」


ちょうどリビングに入ってきた理沙が口を引きつらせて微笑んだ。もう少し流しそうめんやってて良かったのに。


「実際太ってただろ」

「そういう問題じゃないわ。この子達に教える必要がないってことを言ってるの。優しくて綺麗なお姉さんってイメージが台無しじゃない」


自分で言った時点で台無しだろ。言わない方がいいと思うけど。


「優しくて綺麗なお姉さんねぇ。まあ大体合ってるけど・・・・・・」

「えっ? 直接言われると恥ずかしいわ。しかも彼氏に────」

「でもやっぱりデブだよな。朝からずっとそうめん食べてるんだから腹も出てくるし」


顔を赤くした理沙の顔が一瞬で青くなった。今はまだセーフなだけだ。まだ・・・・・・な。その内絶対デブになる。


「ちょ、ちょっと部屋で休んでくるわ」


理沙がふらふらと部屋を出ていった。そんなにショックだったのか。

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