1週回って?
目を覚ますと真っ白の部屋にいた。
薬の匂いがする。・・・・・・病院か?
確か俺は・・・・・・そうだ! 勝ったんだ! シグムントさんを気絶させたんだった!
今日は火曜日だ。学校に行こう。そして先輩に改めてお礼を言わなきゃ。先輩が励ましてくれなきゃ勝てなかったんだから。
悲鳴を上げる体に鞭打って魔法陣を描く。まずは着替えよう。というわけで・・・・・・家だ!
暫くして学校に着いた俺を出迎えたのは荒野先生の怒号だった。
「昨日どんだけ無茶したと思ってんだ! 大人しく寝てらんねえのかお前は!」
「でもほら、大丈夫ですよ。ジャンプも出来ます」
その場で軽く飛び跳ねてみせる。
軽い痛みは走るけど耐えられる。筋肉痛みたいな感じだ。
それを見て荒野先生は頭を抱えた。
「なんなんだよお前は・・・・・・。死んでもおかしくなかったんだぞ。なんでそんなに元気なんだよ・・・・・・」
「それは知りませんけど。そんなことより今昼休みですよね? 先輩と理沙の所に行ってきますから荒野先生の話は後でってことで」
「はあ? ちょっと待て!」
荒野先生の声を背中で聞いて教室を駆け出した。
「りーさ! おはよう!」
理沙の背中に飛びついて挨拶する。もう二度とこんなことはしない。恥ずかしすぎる。
理沙は驚いた声を上げて体を跳ね上がらせた。
「私のお弁当が・・・・・・。流石に怒るわよ。私のお弁────」
振り向いた理沙をキスをして黙らせる。これももう二度としない。やっぱり恥ずかしい。
「はい、終わり。あとは・・・・・・先輩と話すだけだ」
「ちょっと待ちなさい。今の何? キスの意味を教えなさい。あとお弁当を落としたことを謝りなさい」
「先輩、お願いします。俺を・・・・・・強くしてくれませんか」
「えっ? 無視? 私のお弁当・・・・・・」
理沙は無視だ。今はこっちの方が大事だからな。
「強くしてほしいって言われても・・・・・・。もう貴方は私より強いじゃない」
先輩はそう言って困ったように微笑んだ。
「龍の力とかそういうの無しで俺自身が強くなりたいんです」
「はあ。アザゼルに聞いてみないとわからないわ。彼も何か考えてるから」
「じゃあ荒野先生次第で付き合ってくれるんですか?」
「ええ。早くアザゼルに聞いてきなさい」
「はい!」
よし、次は荒野先生だ!
「ああ? 強くなりたい? それは勝手にしろ。じゃあ話を戻すが・・・・・・」
「わかりました。じゃあ先輩に伝えてきますね」
「おい、待て! 話を聞け。これからのことの話だから」
走ろうとした俺の肩を掴んで荒野先生が止める。
これからのこと・・・・・・。予定通り勝ったってことは順調なんだよな。じゃあ次の作戦の話をするのか。
「既に聞いてると思うが。昨日の戦いは引き分けに終わった」
「えっ? ・・・・・・すいません、もう1回お願いします」
「引き分けだ。互いの魔力切れによる気絶により試合続行不可能な状態だったからな」
・・・・・・えっ? 引き分け? 俺、結構舞い上がってたけど・・・・・・引き分けですか!?
固まる俺を見て荒野先生が嘆息した。
「お前、勝ったと思ってたのか?」
「・・・・・・思ってました。だって・・・・・・ヴリトラが気絶してるって言ったから勝てたものだと」
「本当は最後まで立ってたバアルの勝ちだ。だが俺が引き分けまで押し上げてやったんだ。感謝しろよ」
できるかボケ! 完全に水指しただけじゃん!
それにしても・・・・・・負けたのか。まだまだ俺は弱いな。
もっと強くなる。そして今度こそ勝ってみせる。
「笑ってるぞ。そんなに楽しかったか?」
「えっ? ほんとだ。楽しくはなかったと思いますけど。なんでしょうね。気持ちいいです。あの人の思いとぶつかって負けたならしょうがないと思えるくらいに」
口角が上がる口を押さえて言う。
それを見た荒野先生が笑って携帯を弄り出した。
「じゃあ作戦会議だ。お前らの次の仕事を話す前に・・・・・・スペシャルゲストのお出ましだ」
荒野先生の言葉に応えるように魔法陣が現れた。
そしてその中から出てきたのは────
「昨日ぶりだな。桂木春」
「シグムントさん。なんで・・・・・・」
そう、シグムントさんだ。どうやって来たんだ? だって転移魔法陣は・・・・・・。
「私が連れてきました。お話がしたいと聞いたので」
シグムントさんの後ろからセラが現れた。
なんでセラ? 確か聖騎士だった気がするんだけど。
「英雄兵器の一件が落ち着くまで和平派に付くんだとさ」
荒野先生が俺の心を読んだかのように説明してくれた。
なるほど。つまり一時休戦ってやつだな。
「それで話したいことってなんですか?」
「一つ聞きたいことがある。和平を謳う悪魔。それは素晴らしいと思う。だがお前の力を妬む者もいる。それはお前の周りの者を傷つけるだろう。それでもお前は戦うのか?」
そんなの、答えは・・・・・・決まってる。
シグムントさんを真っ直ぐ見据えて答える。
「確かに少し前に龍の力のせいで大切な人を失いました。でもそれは俺が弱かったんです。だから俺は強くなる。そして守りたいんです。たとえ妬まれても蔑まれても・・・・・・それでも俺は戦います」
これが俺の出した答え。守りたい。大切な人を、未来を守りたいんだ。その為に和平を目指す。その為に龍を使う。そして熾天使を倒す。
先長いな・・・・・・。
「そうか。お前の理由は変わらないか。それでいいのかもしれないな」
「馬鹿は馬鹿らしく1回りして同じ答えに辿りつきゃいい。どうせ考えたってわかんねえんだからな」
シグムントさんの言葉に相槌を打つ荒野先生。 はっきり言って余計なお世話だ。
「どうせ俺は馬鹿ですよ。その馬鹿にもわかるように次の作戦を教えてください」
「不貞腐れてんじゃねぇよ。まあいい。じゃあ話すぞ。まずは情報を提供してくれたシグムントからだ」
荒野先生が文句を言いつつシグムントに場を譲った。この人も不貞腐れてんじゃん。
「いいのか? 全員いないが」
「春の口から伝えさせる。過激派のお前が言うよりは冷静に考えられるだろ」
「分かった。じゃあ本題に入るぞ。昨日の一戦の後のことだ。ルーファスの親、つまり現在のサタナキアの当主と俺の親、前バアル家の当主、そして魔王様が話していた。内容は・・・・・・ヴリトラの死と英雄兵器。そしてリンという悪魔とサナという幻想体。盗み聞きした限りだとこの言葉が何度も飛び交っていた」
シグムントさんの話から出てくる単語はどれも聞いたことあることばかりだった。
ヴリトラの死。これは俺を殺すこと・・・・・・かな。元々負けたら死ぬって言われてたし。それと英雄兵器。対策とか考えてたのか? じゃあ天界の情報が漏れてるってことになる。
最後にリンとサナ・・・・・・? リンは知ってるけどサナって? 友達かな? それは無いと思うけど・・・・・・。
「二つは予想が出来るな。春を殺すことを考えてたのか、それを防ぐのかは知らねぇが勝敗関係のことだろう。英雄兵器はバレて当然だと考えてたから問題ねえな。最後のサナってのが気になる。あの魔王クラスの悪魔と四大精霊のハーフと並ぶ幻想体か。また面倒なことになる気がするぜ」
サナのことは荒野先生も知らないみたいだ。ブツブツ言って考え事をしている。
でも実際気になるよな。リンは強い。俺が足を引っ張らなきゃ天界から生きて帰ってこれたと思えるくらいに。それと同じくらいに強い悪魔か・・・・・・。
「ところで・・・・・・幻想体ってなんですか?」
俺の質問に荒野先生が驚いたように口を開いた。
「はっ? お前・・・・・・知らないのか? 幻想体ってのは純粋な人間の魔力で作られた悪魔や天使のことだ。最近は繁殖して個体数を増やしてるから発見自体珍しいことなんだぜ」
「それに人型に近いほど強い力を有する私達の特性により、人型同士で繁殖行為をして人型を増やすという目的もあります」
セラが荒野先生の説明に付け足した。
へー。そんな目的が・・・・・・。
確かにランダムで生まれてくるのに弱い悪魔だったら嫌だよな。普通に悪魔の子を成すなら力も受け継ぐ。しかも確実だ。
これは俺でも同じ方法を取る。
「じゃあ・・・・・・次の目的は・・・・・・」
「ああ。魔界で謎の幻想体、サナの調査。及び俺ら和平派の仲間を増やす。その為にまずは・・・・・・アモン家に接触だ」
「はい!」
波乱の夏休みの幕開けだった。




