雷神VS龍王
「すいません。途中参加で」
「気にするな。大した傷は負っていない」
軽く頭を下げる俺にシグムントさんは笑って言った。
「じゃあ・・・・・・早速!」
黒炎を纏う拳でシグムントさんの顔面を殴りつける!
だがシグムントさんはびくともしない。
やっぱり無理か。実際戦うとこの人の強さがわかる。
放たれる拳を両腕で受け止める!
痛い、そして重い。でも・・・・・・
「これなら・・・・・・勝てる!」
「あ?」
高速で背中へと回り込んで掌底を放つ!
衝撃で浮かぶ体に追撃の蹴りをぶち込んで吹っ飛ばす。
更に追撃!
高速で突っ込む俺にシグムントさんの拳がめり込む!
地面に転がった俺にシグムントさんが言い放つ。
「勝てる? 無理だな、勝つのは俺だ」
「負けませんよ。だってあなたの拳は軽いんですから!」
再度突貫する俺にパンチが重ねられる。
それを横に飛んで避ける。そして反撃の一撃を脇腹にぶち込んだ!
「ぐっ!」
体をくの字に曲げるシグムントさんの頭を掴んで地面に叩きつける!
「思いの篭ってない拳で殴られたって怖くないんです。だから負けない」
そう言って闘技場の上階を睨む。そこにいるのは熾天使の面々。俺をほくそ笑むメタトロンに向かって高らかに叫ぶ。
「お前は・・・・・・お前だけは! 俺が倒す! 今は無理かもしれない。でも! いつか絶対に強くなってお前をぶん殴る!」
「そうか・・・・・・。やっとわかった。俺とお前の拳の違い。お前は一打に込める思いが強い。故に俺の芯に強く響く」
シグムントさんに足を掴まれる。その手には今までに無いほど力が込められていた。
「だが俺とて俺の家の誇りを継いだ身。バアルの名を継いだ者として下の者からの願いを背負うと決めた。貴様に負けることなぞ許されない!」
そう叫び壁へと投げつけられる。衝撃で跳ね上がる俺の体に殴打の一撃が加わって再度壁に叩きつけられた。
龍の力が解けて無防備を晒す体に腕が振り下ろされる。
それを転がりながら避けて聖剣の破片を拾う。
「第二段階」
地面を蹴りそのままの勢いでシグムントさんの腹を打ち抜いた!
シグムントさんの体は煙を上げ溶けていく。
笑みを作るシグムントさんと殴り合う。互いの拳が衝突し、頭突きを繰り出す! 俺の鎧は砕けシグムントさんの肉を削る。負けねぇ、俺は絶対に!
腕に纏う魔法の密度が跳ね上がった。
黒炎が肉厚の鎧へと姿を変える。
それにより放たれる一撃は空間を裂いてシグムントさんのガードを吹き飛ばす!
開いた体にもう一発!
シグムントさんが空高く吹っ飛んで地面を転がる。
「お前の力は・・・・・・素晴らしい。初めてだ、こんなにも本気で勝ちたいと思えたのは!」
凄まじい音を立ててシグムントさんの体を黒い雷が包んでいく。
あれは・・・・・・御剣と同じ力だ。
「これがバアルの力。いくぞ・・・・・・龍王!」
激しい雷音と共に駆け出してくるシグムントさんに合わせて拳を突き出す! それは交差して互いの顔面に直撃する。
間髪入れずにもう一撃! また交錯して腹に食い込む!
魔力を込めた拳が衝突し爆発する。
煙を切り裂くように雷が襲ってくる。それを最小限の動きで避けて反撃を行う!────はずだった俺の腕が雷によって穿たれた!
「更なる俺の拳。軽いと笑えるか?」
横から聞こえてくる声。それに反応した時には遅く雷を纏う一撃が俺の腹を射抜いて壁に叩きつけた。
「終わりだな・・・・・・。だがお前は俺にとって大きな成長の糧となった」
血を垂れ流して倒れる俺を見てシグムントさんが言った。
確かに痛い。意識が遠のいて死にそうだ。
でも・・・・・・
「それでも勝つ」
だって・・・・・・あの人に届けたい。
「俺は・・・・・・大丈夫だって言いたいから」
俺はもう・・・・・・迷わない。
「二重起動────第二段階」
イメージするのはあの人。だから高らかに叫ぼう。
「咲き誇れ、黒炎の華! 永遠に誓うあの日の夢!」
猛々しく変化する鱗の鎧。だが鮮やかに儚さを感じさせる。
白と黒が混ざりあう混沌の龍。言葉で表すならそういう感じだ。
傷は治ってる。力の変化に伴って再生したんだろう。
今度は俺の番だ・・・・・・。
「じゃあ今度は・・・・・・俺が見せますよ!」
聖と闇の両翼を広げて高速で距離を詰める。
光を纏い・・・・・・闇を従える。
二種類の魔法が腕を包み鎧へと変化する。
「俺の拳を・・・・・・俺の力を!」
雷の鎧を貫いて肉体をぶん殴る!
壁まで吹っ飛んだシグムントさんは笑い雷の鎧を強く発現させる。
もう・・・・・・防御なんていらない。ひたすらに攻撃する!
地面を、空を縦横無尽に駆け回りぶつかり合う。腕を、体を、足を、ひたすらに殴り、蹴り、衝突させる!
魔力を抑えることなんてしない。ただ全力でシグムントさんを迎え撃つ!
雷と呪いが互いの体を蝕んで溶かしていく。これ以上長い戦いは出来ない。なら・・・・・・!
「一気に決める!」
俺の魔力を全てかけて!
右拳に黒炎を宿らせる。強く燃え上がる黒炎は次第に小さくなり力を凝縮させた。
「負けん! 俺は・・・・・・お前を超える!」
同じように雷を宿らせたシグムントさんが叫ぶ。
「うらああああああぁぁああああぁぁ!」
「うおおおおおおおおおおおおぉおぉ!」
咆哮と共にぶつかり合う魔力。それは闘技場全体を包み爆発した。
「まだ・・・・・・まだいける」
血を吐きながら立ち上がる。
シグムントさんもまだやれるらしい。雷を纏い立っている。
俺は・・・・・・もう力を使えない。
「力がなくなったとしても油断はしない。これでトドメだ」
激しい音を立てて近づてきたシグムントさんが腕を振り上げた。
これが俺の・・・・・・最後の抵抗。
振り下ろされる腕に足元に落ちている聖剣を広い突き刺す。
そして俺の魔力の残りカスを流し込む。
聖剣は淡く炎を灯しシグムントさんの体を溶かしていく。
「神の力を纏う俺の体を浄化しているだと!?」
シグムントさんが驚くのも無理はない。
バアルは堕ちた雷神と呼ばれる悪魔だ。だから力を纏ったこの人に本来なら光の魔法は通じない。
でも・・・・・・今は違う。
「今のあなたは力を含めて悪魔だ。相手の存在を書き換える。それが永遠に誓うあの日の夢の力。神の声を聞く聖女と呪いを司る龍王の力だ」
腕から剣を引き抜いて体へと突き刺す!
一回でいい。あと一回。俺に力をくれ。
「これで・・・・・・終わりだ!」
シグムントさんの体を剣ごとぶん殴る!
剣は深くまで突き刺さり聖剣としての力を発揮する!
「ぐっ! まだだ! こんなもので! やられるわけにいかん!」
煙を上げながら立ち上がり続けるシグムントさん。
なら・・・・・・俺が死ぬまで。とことん付き合ってやるよ!
震える足を押さえ込んで走る。
シグムントさんの体に力なく入り込んでいく俺の拳。
やっぱり・・・・・・もう駄目だ。力が入らない。
動かないシグムントさんに更に連続攻撃を仕掛ける。
そのどれもが鋼の肉体には届かない。
投げやりに放たれる裏拳体を吹っ飛ばされて吐血する。
まだ・・・・・・まだいける!
『もうやめておけ。死ぬぞ』
ヴリトラの声が頭に響く。
なんで!? だってまだシグムントさんは・・・・・・!
『気絶している。聖剣と俺の呪いを受けたんだ。さっきの叫びが精一杯だよ』
気絶・・・・・・?
あれが・・・・・・じゃあ・・・・・・俺は・・・・・・勝っ・・・・・・。




