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悪魔



少しして俺と火野村先輩は屋上にいた。


「昨日見たことを話しなさい」


やっぱりこれか。何かしらのアクションは起こると思ってたけどまさか直接来るとは思わなかったな。


「その前に、先輩は本当に悪魔なんですか?」


俺の問いに先輩は無言で頷いた。隠す必要はないってか。だったらこっちだって────

礼装の柄を手に取った俺に先輩が言う。


「でも、あなた達が知る悪魔とは違うわ。 だって私はこの町で育ったんだもの」

「この町で・・・・・・。そんなの嘘────」

「嘘じゃないわ。母や父と呼べる人間もいる。小さい頃から色々な人と一緒にいたわ」

「でも、悪魔だ」


事件の犯人は悪魔で、この人は悪魔。そして昨日の化け物と関係あるなら・・・・・・。


「だから・・・・・・戦う。そして倒す」

「なら、私も使わせてもらおうかしら」


火野村先輩が手を前に出した。先手必勝! 一気に踏み込んで────


「────その前に」

「えっ?」


発現した刀身は先輩の前ギリギリで止まって消える。ああ、もう! 止めたら駄目だろ! 何やってんだ俺・・・・・・。


「私の両親に会ってくれる?」

「・・・・・・はい?」


殺されそうだったっていうのに先輩の顔はいつもと変わらず微笑んでいた。







「いやー、あの桜花が男の子を連れてくるとはね。母さーん! 今日はお赤飯だ!」

「はいはい、分かってますよ。じゃあ、ごゆっくり」


なんだこれ・・・・・・。結局火野村先輩の家に連れてこられた俺は先輩の御両親に迎えられていた。

はっきり言って両親は先輩に似てない。お世辞にも綺麗とは言えないし、神秘的な雰囲気があるわけでもない。高貴なイメージとはかけ離れすぎてる。ほんと、どこにでもいる親って感じだ。


「えっと、桂木くんだったか? 話は桜花は聞いているよ。いつか会いたいとは思っていたが、こんなに早く来てくれるとはね」

「はあ、そうですか」


先輩のお父さんは会社員をやってるらしい。今日は俺が来ると聞いて有給を使ったと笑ってた。因みにどこが笑えるのか俺には分からない。


「はい、春。ケーキを持ってきたわ。召し上がれ」


火野村先輩がチョコレートケーキを俺の目の前に置いた。さて、俺は今敵地に乗り込んでるって状況だ。いつ攻撃されてもおかしくない。警戒はしておくべきか。


「なぁ、桜花。もうデートはしたのか」

「ぶっ────! ごほっ! えっ?」


先輩のお父さんの言葉に思わず紅茶を吹いてしまった! デート!? さっきのお赤飯といい、何か勘違いしてるんじゃないのか!?


「お、お父さん! 春とはそういうのじゃなくて、ただの友達だってば!」

「ん? あれ? そうだったか? 前言ってた彼氏と同じ名前だからつい」

「先輩、彼氏いたんですね」

「いないわよ! 春までそういうこと言って・・・。」


先輩の素が出てる・・・・・・。なんか普通の女の子みたいに見える。今まで1歩引いてたのが馬鹿みたいだ。


「そうか、彼氏じゃなかったか。そろそろ彼氏の1人でもと思ったんだが、そううまくいかないか」


目に見えるくらい落ち込んでるぞ、お父さん。感情の落差が激しいな。先輩も何とかしようとおわあわしてるし。忙しい家族だ。


「先輩、ごめんなさい」

「えっ?」


火野村先輩に軽く耳打ちして手を握る。そして叫ぶ!


「って言うのは全部嘘で! 実は付き合ってるんですよね、俺達!」


すっげぇ恥ずかしい。何やってんだよ、俺。でも、俺が少し我慢すればこの人は喜んでくれる。だったらやってやる!


「え、ええ! そうなのよ。言い出すのが恥ずかしくて、嘘をついてたの。ごめんなさい」

「おぉ! そうだったのか! うんうん、気持ちは分かるよ。僕もお爺ちゃんに言う時は恥ずかしかったからね」


さっきとは打って変わってお父さんは飛び跳ねるように台所に駆けていった。

お父さんが消えて数分後、俺は勢いよく頭を下げた。


「調子に乗ったこと言ってすいませんでした。もう二度と言わないんで許してください」

「気にしないでいいわ。私の方こそ無茶させてごめんなさい」

「これからどうします? ボロが出る前に退散した方がいいと思うんですけど」

「そうね。そうした方がいいわ。でもお父さんが・・・・・・」


「おーい! 今日はお赤飯だ! 桂木くんも食べていきなさい」


台所からお父さんが顔を出してきた。どうやら逃げ場はないらしい。いやいやいや────


「俺、妹いるんで帰りますよ。ご飯も作らないといけませんし」

「確かに、突然過ぎるわね。ちょっと話してくるわ」


先輩が台所に向かっていって数分。げっそりとした顔で戻ってきた。


「・・・・・・ごめんなさい。妹も一緒に食べなさいって」

「絶対嫌です」

「あなた、はっきり言うのね。少しは遠慮とかしなさいよ!」

「変なことに巻き込んだのは先輩じゃないですか!」

「だから謝ったでしょ! 食べていきなさいよ!」


もう少しも取り繕わなくなったな、この人! しかも言ってることはただのわがままだ!


「どうしたんだい? もしかして桂木くん、用事があるとか?」

「そんなことないわ。春はいつだって暇だから。一緒に食べるわよね、春?」


先輩からの威圧混じりの問い。しかも、お父さんに見えない様に腕を抓ってきてる!


「・・・・・・はい。食べてきます」


だから放してください、先輩。涙目になって答えた。







先輩の家でご飯を食べることになったから白を迎えにいく────なんてことをするわけもなく、それを言い訳に外を出歩いていた。

実は、白を日向の家に預けるために家に向かってるって訳だ。火野村先輩のおまけ付きで。


「じゃあ頼んだ」

「うん! 任せといて」

「ごめんな、こういうことばっかり頼って」

「ううん。実はね・・・・・・」


日向が口に手を当てて小さく言う。


「春くん達が来るとご飯が豪華になるんだよ。だからむしろ嬉しいくらいなんだ」

「ははは・・・・・・。そっすか」


涎を垂らす日向に引き気味で答えた。いくら幼馴染みとはいえ、涎を垂らして笑う女の子なんて見たくなかったんだが・・・・・・。


「じゃあな。また明日」

「うん! じゃあね。また後で」


お互いに手を振り合って日向の家を出た。後でって、終わったら来いってことか。

外にいた先輩は少しだけ厳しい顔をして待っている。さっきのことをまだ怒ってるらしい。


「せっかくなんで、もう少し付き合ってください」

「今度は何? また別の女の子の所?」

「どういう意味ですか! 新しい礼装を見に行くんです。どっかの誰かさんに壊されたので」

「あなたが見回りに充ててた魔獣と戦ったからじゃない。自業自得よ」

「はあ? そもそも先輩が人殺しなんてするから!」

「だからあれは私じゃないって言ってるでしょ! このわからず屋」

「じゃあ誰がやったんですか! 言ってみてくださいよ!」

「それは・・・・・・」

「ほら、言えないじゃないですか。あなた以外に悪魔なんていないんです。だから犯人は────」


「桂木? 何やってんだ? こんなところで」


俺の声を遮って横から出てきたのは白泉だった。そして俺と火野村先輩を交互に見て目を見開いて俺の肩を掴んできた!


「なんでお前・・・・・・火野村先輩と一緒にいるの?」

「あ、あー、えっと・・・・・・。そこであったんだよ。で、ついでに新しい礼装を一緒に買いに行こうって話になっただけ。ね? 先輩」

「ええ。デートの途中よ」


何余計なこと言ってくれてるの、この人!そんなこと言ったら白泉が────!


「そうか、気をつけろよ。昨日みたいに無茶したら本当に怒るからな」


あれ? 普通だ。いつもなら「なんでお前ばっかり!」みたいなこと言うと思ったんだけど・・・・・・。

不思議そうな顔をしてる俺に気付いたのか白泉が続ける。


「なんだよ、妬んで欲しいのか?」

「いや、違うけど。そういう反応されるとそれはそれで困る。変なものでも食ったか?」

「うっせーよ。つうかさ、そろそろうんざりしてんだろ? だからやめてやっただけ」

「そっか、ありがとな。気を使ってくれてさ」

「おう。ところで何だけど────」


白泉がガシッと俺の肩を引き寄せて耳打ちしてくる。


「お前、好きな人とかいんの?」

「はあ!? 何言ってんだお前! いきなりおかしいだろ!」

「やっぱり嘘だ」

「あ? ああ、そういうことか。驚かせるなよ、マジで」

「お前が火野村先輩と付き合えるとは思えねえからな────痛っ!」


カラカラと笑う白泉を軽く小突いて黙らせる。さすがに今のはムカついた。俺だって告白ぐらいは出来る。悪魔相手になんて絶対やらないけど。


「よし、決めた。お前も付いて来い」

「はっ!? お前何言ってんの? デートなんだろ? だったら俺は邪魔じゃん」

「デートじゃないし。あと馬鹿にした罰だ。俺に付き合え」


嫌そうな顔をしてる先輩は無視だ。こいつがいた方が色々便利だし、連れていっても損はない。そして────


「3秒後に走るぞ」

「はっ? さっきからお前なんか変だぞ。走るって────」

「3、2────」

「無視かよ! ったく、しょうがないな!」

「1、走れ!」


俺と白泉は火野村先輩から逃げ出した。

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