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暴走



町に爆音が響いた。

それと共に大きな火柱が上がった。


それを見て頭に嫌な場面が浮かぶ。


「レナ!」

「待ってください! ご主人様!」


リンの静止を振り切って高速で飛ぶ。


大丈夫だよな、レナ。




建物の間を縫ってレナの所へ向かう。


いた・・・・・・。

光と炎が舞ってる空間の中心にレナが立っていた。


「レナ! 早く・・・・・・逃げろ!」

「・・・・・・春。来ちゃ・・・・・・だめ!」


レナの声をかき消すように炎の渦がレナを飲み込んだ。


発現者の姿は見えない。

でも・・・・・・近くにいる。

とりあえずレナを助けて逃げなきゃ!


突っ込もうとする俺に光の剣が降り注いぐ。

それを黒炎の壁で防いで上を見る。


六対の羽を持ち白い髪に金色のメッシュを入れた男────メタトロンが俺を見ていた。


生きてやがったのか!

今度こそ・・・・・・何度だって倒してやる!


英雄模倣ヒロイック・コピー────ゲイ・ジャルク」


黒炎が作り出した槍と光の剣が衝突して爆発する。

その煙の中で俺とメタトロンは激しく衝突し火花を散らす。


黒炎で殴りつけ光が体に掠る。

激情の剣(モラルタ)で光を砕き腕を折る。

光の渦が俺を飲み込んで体を溶かしていく。


「ぐっ。負けるかあぁぁぁぁ!」


叫びと共に上がる炎が渦を燃やし尽くす。


「はぁ・・・・・・はぁ。ふぅ、どうだ」


乱れる息を整えてメタトロンを睨む。

だがメタトロンは笑みを崩さずにこう言った。


「流石「感情」と呪いの龍王(ヴリトラ)を手懐けるだけある。諦めが悪くしぶとい。だが・・・・・・私の勝ちだ」


三度目の火柱が俺の後ろで上がる。

地面に倒れ込むレナとそれを見ている姉のセラ。

セラがやったのか・・・・・・?


違う。セラも戸惑ってる。

じゃあ誰がやったんだ・・・・・・。


「ふざけないでください。話が違います。お姉さまは傷つけないはずではないのですか!? ウ────」

「流石お嬢様です。自らの姉にサンプルとしての価値を求めるとは」


セラの叫びを遮って出てきたアーサーがレナを抱いて俺を睨む。


「お前だけは・・・・・・絶対に倒す! アーサー!」


高速で距離を詰めて顔面に1発ぶち込む!


レナを離してガードするアーサーに追撃の一撃!

剣で防ぐアーサーの後ろに回って蹴り込む!


俺の攻撃が直撃したアーサーは吹っ飛んで建物に突っ込んでいく。


「お前がいるってことは・・・・・・ジャンヌさんは・・・・・・。絶対にお前だけは!」


より猛々しく、より獰猛に、俺の鎧が黒炎を帯びる。

感情の力。憎しみの・・・・・・怒りに身を任せた力。

俺はこんなにも・・・・・・強くなれる!


「強者同士の戦いは一撃で決まる。目で測り剣で悟る。俺にとってジャンヌとは剣の錆でしかない」

「くっ・・・・・・。てめえ!」

「それはお前も同様だ」


腕が飛んだ。腕だけじゃない、足が落ちて片目が消える。

バランスを崩した俺の体が地面に倒れて血を流す。


何を・・・・・・されたんだ?

俺が優勢だった。あいつが剣を振るった様子はなかったのに。


アーサーに頭を踏みつけられた。


「お前は直に死ぬ。これ以上手を下すまでもない。精精無力を痛感して死ね」


霞む視界に映ったのはジャンヌさんの腕。


「────ぁ、ぁか!」


声が出ない。

喉も斬られたのか。

でも・・・・・・魔力なら使えるはずだ。


羽を広げて無理矢理立ち上がる。


聖王アーサー・・・・・・。

お前だけは・・・・・・お前だけは!


モラルタとエクスカリバーがぶつかり合い火花を散らす。


もっと・・・・・・もっと・・・・・・もっと!

強く、速く、あいつを・・・・・・倒す為に!


激しくなっていく剣戟。

俺の意識が加速して・・・・・・アーサーの体の動きを先読みしていく。


モラルタが砕けて隙ができた俺に聖剣が振り下ろされる。


まだだ! まだ手はある!


二重起ツインドラ────」


吹き荒れる風と光に呪文を阻まれる。

目の前に迫る光と化した剣────


横から加わった衝撃と共に見えたのはリンが光に飲まれる瞬間だった。


吹き上がる鮮血と共に倒れ込むリン。

体から煙が上がって溶けだしてるのがわかる。


「ふん、見ないと思ったら主人を庇うためだけに出てきたか。主人の怒りに賭けたのか知らんが勝率なぞありはしない」


アーサーが鼻を鳴らして言った。


リンは何かを伝えようと口を開く。

だがか細い息の音が聞こえるだけでわからない。


『逃げろ。そう言ってるぜ。どうする? 主人様』


ヴリトラの声が暗く響く。

それには答えずに視界に広がる光景を眺めていた。


────また会いましょう。そして今度はゆっくり話しましょう。


そう微笑んだ人は死んだ。

こんなどうしようもない状況を作り出した俺を逃がすために死んだ。


「返せ・・・・・・。ジャンヌさんを返せ・・・・・・」


体を黒炎が包む。

無くなったはずの片目が再生していく。


────私はいつも御主人様の傍にいます。


そう言ってくれた人も死んだ。

無理にでも止めておくべきだったのかもしれない。

そうすれば死ぬのは俺だったのに・・・・・・。


「リンを返せ!」


体は深い闇のように黒く変色し禍々しく鱗を纏う。


アーサーは俺を無視してセラに命令を下した。


「レナ様とハーフの悪魔を連れていけ。こっちも少しは役に立つだろう」

「・・・・・・はい。わかりました」


そもそも天界に来なければこんなことにならなかったのに。

全部・・・・・・俺のせいだ。


「あああああああああああああ!」


俺の全てを黒炎が喰らっていった。




「それ」はアーサーに突っ込んで建物に叩きつけた。


黒炎に包まれる翼竜。

その全ては魔力で構成されている。

そう・・・・・・暴走だ。


仲間が殺され自責の念に囚われたのだろう。

あれじゃ戻るのは難しいな。

自爆してくれて邪魔な英雄も死ぬ。

最高の結果だ。


咆吼ほうこうを上げて暴れる龍と互角に打ち合うアーサー。 空は黒い炎と光に包まれている。

空を切り裂くように光が振るわれて、それすら砕くように黒炎の一撃が舞う。


黒と白の軌跡となってぶつかり合う。

最強と呼ばれた英雄は龍の羽を切り裂き腕を貫く。

呪いの龍王と呼ばれる化物は全身から魔力弾を放ち英雄を消し炭にしようとする。


それを避けた英雄が龍王の目に聖剣を刺した!

だがそんなことは気にせず炎を放つ龍王。


「すげぇな。まるで大怪獣バトルだ」


町を壊して巨大な二つの力がぶつかり合う!


地面は抉れ、空は割れる。

周りから聞こえる悲鳴と助けを乞う声。

その全てが俺を絶頂へと導いていく。


「最高だ。お前らは」


そう呟く声は龍王の咆吼にかき消された。




聖王を殺す!


アーサーの剣撃なんて気にせずに腹をぶん殴る!


「ガアアァァアアアァア!」


滅茶苦茶な叫びと共に出たブレスがアーサーの身を焼いていく。


ははっ、死ね! 死ねよ!


アーサーの頭を掴んで地面へと叩きつけて、黒炎の追撃を与える。


アーサーの攻撃は全て鱗が防ぐ。

あはっ、もう死ねよ。


高速でアーサーに連撃を与える。

腕を噛みちぎり、足を捥ぐ!

そして顔面にブレスをお見舞いする!


ブレスを剣で防いだアーサーが俺の顔に聖剣を突き立てる。

効かねぇんだよ! そんなの!


残った腕を掴んで引きちぎる。

これで・・・・・・腕は使えナい。

あとは殺すだけ!


力なく地面に落ちたアーサーに急降下の力を加えたとどめの一撃を与える。


だがそれはアーサーのものではない柔らかい感触によって阻まれた。

残った理性で感じる匂い・・・・・・感触・・・・・・それは────


「ジャンヌ・・・・・・ダルク。生きていたのか」


アーサーが驚いたような声を上げた。


俺の攻撃を防いだ女の人────ジャンヌさんは全身が血の赤と呪いの黒で染まっていた。


止まれ、止まれ、止まれ!


頭の中で命令しても呪いは止まらない。

ジャンヌさんの体を蝕んで散らしていく。


それでもジャンヌさんは微笑む。


「貴方が私を信じると言ってくれた時、本当に嬉しかった。だから私は貴方を信じます。貴方は強い人です。真っ直ぐで眩しい人」


体の制御が出来ない。


ジャンヌさんに刺さった俺の腕が引き抜かれて血が吹き出てくる。

血を吐くジャンヌさんの顔を龍の腕が殴りつける。


やめろ、やめてくれ・・・・・・。


『無理だな。主人様が望んだ力だ。全てを壊すまで止まらない』


ヴリトラの声は聞いたことのないくらい低い。


止まらない・・・・・・。

そんなの・・・・・・嫌だ。

なんとかしろよ! なんでこんな時に全部使えないんだよ。

神は!? くそっ! なんで起動しないんだ。


グチャッ! という音と共にジャンヌさんの体に穴が空いた。


それでもジャンヌさんは微笑むことをやめない。

それどころか俺を抱きしめて囁いた。


「大丈夫。大丈夫ですから落ち着いて。貴方は私が守ります。約束・・・・・・しましたから。何度だって守ります。貴方もそうすると思いますから。私が信じたマスターはそういう方ですよ」


そっとジャンヌさんの唇が重ねられた。


『無駄だ。何をしても主人様は感じない。どんなに願っても────』

「黙れ」


ヴリトラの声を遮って叫ぶ。


「黙れ! ここまでしてもらって俺は・・・・・・何も出来ないのか? 違うだろ! 守るって決めたんだ。だから────!」


視界が光に包まれて目が覚めた。


「だから・・・・・・俺は何度だって戦うって決めたんだ」

「マスター・・・・・・。少し寝坊ですよ」

「ごめん。でも・・・・・・戻れたから」


ジャンヌさんの体から黒い呪いが消えていく。

うん、ちゃんと制御できる。

元通りだ。


「暴走から戻っただと・・・・・・。面白い、これも「感情」の力か」


両腕を失って尚も笑うアーサー。


今なら・・・・・・勝てるかもしれない。


だがジャンヌさんは俺の前に立って魔法陣を描き始めた。


「マスター、命令をお願いします。私に二人を連れ戻せと・・・・・・お願いします」

「逃げろって言いたいのか? 俺は────」


最後まで言えずに膝をつく。


疲労・・・・・・っていうより副作用か。

死にそうなくらい体が痛いうえに酷い眠気だ。

また・・・・・・足でまといか。


「マスター、私を信じてください。必ず応えてみせます」


やめろ・・・・・・。無理にでも連れ帰るべきだ。

そう言う頭を黙らせてジャンヌさんに命令する。


「あの二人を連れて俺の所に帰って来い・・・・・・」

「承知致しました! マスター!」


ジャンヌさんに描かれた魔法陣が俺の体を包み教室へと転移させた。


「春! 大丈夫ですか? 酷い傷・・・・・・。すぐに病院へ!」


桜の声と共に色んな人の騒ぎ声が聞こえてきた。


もう・・・・・・駄目だ。

大丈夫・・・・・・かな、ジャンヌさん。


騒ぎ声が次第に小さくなって聞こえなくなった。




「ふん、無茶な約束だな。ジャンヌ・ダルク」

「そうでしょうか? 今の貴方になら勝機は見えると思いますが」


依然として余裕を見せるアーサーに微笑んで返す。


レナ様とリンさんの姿は既に消えている。

もう攫われてしまってる・・・・・・。でも大丈夫です。

私を信じてくれる人がいますから。


英雄兵器ロンギヌス────白龍」


そう呟いたアーサーの体を光が包み傷を癒していく。


「英雄兵器とは・・・・・・人間のものではないのですか!? 何故貴方が力を持っているのですか!?」

「答える必要はない。最後まで主を信じ散っていくか。儚くも美しい女だ。ジャンヌ・ダルク」

「貴方はマスターには勝てません。マスターは────」

「耳障りだ。悪魔の名を口にするな」


光の剣が私の首に迫って視界を黒く覆った。


マスター・・・・・・申し訳ございません。

約束・・・・・・守れませんでした。



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