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いざ天界へ!




何でこんな時間に?

いやそれは天界への乗り込みに気づいてたってことだ。


「なんで・・・・・・気づいたんだ? そしていつから?」


言葉を紡ぐように問う。

リンは微笑んでいつも通りに答えた。


「私はご主人様の傍にいます。故にご主人様の変化は直ぐに感じ取れます。それにご主人様の性格は理解しているつもりですから」


何もかもお見通しってことか・・・・・・。

近すぎるっていうのも考えものだ。

戦うか、天界まで逃げるか。

どっちも無理だよな・・・・・・。


「私はいつもご主人様のお傍にいます。ですから一緒に戦いますよ」

「・・・・・・はっ? 止めるんじゃないのか!? 俺、てっきり────」

「ご主人様の性格は理解しているって言ったじゃないですか。止めても無駄なことはわかってます。それに────」


リンが駆け寄ってきて腕を絡ませてくる。


「ジャンヌ・ダルクと二人だなんて絶対にいけませんからね」


ただの嫉妬だった・・・・・・。

いや、嬉しいけどね!

女の子の嫉妬は許せるよ。可愛いから!


でもリン、ジャンヌさん相手に嫉妬は違うと思うんだが。

あの人は純粋に協力し合ってるとしか思ってないはずだし。


「味方が増えましたね。行きましょうか、マスター♪」


微笑むジャンヌさんに頷いて答える。


「ああ、行こうか。いざ、天界に!」




ジャンヌさんの魔法陣を通った先に広がってるのは普通の町並みだった。


おい天界・・・・・・。雲とか広がってるんじゃないのか?

俺のイメージは地面が雲で出来てるんだけど。あと綺麗なお姉さんがいっぱいいる。


「なんか・・・・・・拍子抜けだ。俺の緊張を返せよ・・・・・・」

「本当ですね。まさかここまで世界観壊してくるとは思いませんでした」


相槌を打ったリンと周りを見渡す。

ほんとに普通の町並みだ。コンクリの地面と建物。

淡く光る街灯。それに群がる蛾。


しかもラブホらしき建物まである。

これでいいのかよ、天使って・・・・・・。

俺でもなれそうだ。


「ここは半堕はんだ────つまり半分堕天した天使が住まう土地です。ここから熾天使セラフにバレないよう徒歩で移動します」


ジャンヌさんは警戒しつつ言った。


なるほど。なら期待してていいんだよな。

熾天使が住んでる所は雲いっぱいの幻想空間なんだよな!?

よし、待ってろよ。熾天使!


「少しは緊張感を持ってください。バレたら大騒ぎになりますから」

「・・・・・・はい」


ジャンヌさんの後ろを走る。


さすが半堕の天使が住んでる所なだけあって至る所に人の姿を見る。

眠らない町なのか? ここは。

天使のくせにガングロギャルとかいるし。


居酒屋を梯子してるらしい集団を指さしてジャンヌさんが言う。


「あの集団に紛れて進みます。第一の目標は英雄兵器ロンギヌスの研究所です」


真面目な顔して凄いこと言いますね。

酔っ払い集団に混ざって研究所に突っ込むって言ってますよ。

・・・・・・ってもう動いてるし!


酔っ払い集団の千鳥足を真似て、時に居酒屋に入って徘徊してる警察らしき人を避けて歩く。


なんだ、これ。

ただの馬鹿集団だろ。


町の明かりが消え始めた辺りでジャンヌさんが小さく呟いた。


「あそこです。慎重に・・・・・・素早く侵入します」

「わかった。リンも準備いい?」

「はい。ですが警備がいるようですが・・・・・・愚問でした。突破します」


一つだけ周りの雰囲気と違う研究所に駆け込む。


刀型の礼装を取り出して警備へと切りかかる!


力なく倒れる二人の天使。


俺が倒した警備を睨んで言う。


「安心しろよ。峰打ちだ」

「何言ってるんですか。早く入りますよ」


リンに手を引かれて中に入った。


研究所の中は暗くて埃っぽい臭いがする。

電気がつかない。使われてないのか?


そんなことは気にしてないかのように先に進むジャンヌさん。


リンと視線を交わして付いていく。

後ろに人はいない。でも何かの気配は感じる。


つまり・・・・・・


「囲まれてますね」


リンに言われた通りだ。

しかもこの感じ。セラとあった時と同じ。俺より格上の龍の力だ。


『主人様、逃げる準備はした方がいいぜ。量産型の七星龍しちせいりゅうなんて笑えねぇからな』

「うるせっ。女の子置いて逃げられるかよ。ジャンヌさん先行っちゃってるし」


頭に響く声にそう答えて汗を拭う。


ヴリトラの言う七星龍ってのは何だかわからないけど俺より強いことは確実だ。

冷や汗が止まらない。虫の知らせってやつか。


「警備がいたということはここに何かがあるということは確実ですね。問題は────」

「その何かが・・・・・・ああいう化け物かどうか・・・・・・だよな?」


リンの言葉を遮って刀を抜く。


目の前に人のようなものが現れたからだ。

それは片目が抜け落ちていて体から腐臭が立ち込めている。

形は微妙だけど間違いない。人間だ。


姿は見えないけど他にもいるな。

映画で見たゾンビみたいだ。


後ろに逃げるって選択肢はない。

っていうわけで────


駆け出してゾンビの頭を撥ねる。


力を使われる前に倒す。それだけだ!


だがゾンビの動きは止まらない。

俺目掛けて腕を振り上げる。

そして振り下ろされる────


はずだった腕は宙を舞って地面に転がった。


「頭を落としても死にませんね。粉々にしましょうか」


ゾンビはリンの宣言通りに粉々になったらしく形はなくなっていた。


頼もしすぎるな、俺のメイド。

動きは速いし攻撃は的確。見てて惚れ惚れする。


ゾンビが次から次へと出てくる。


「とりあえず首を撥ねていくから。後始末は頼んだ」

「只の二度手間ですね」


リンと共に床を蹴った。


俺の一撃がゾンビの動きを止める。

その隙にリンが魔法陣を使って体を砕いていく。


血がついてるからか切れ味が鈍くなってきた。

いや、違うな。血で鈍くなるならもっと早いはずだ。

もしかして────!


甲高い音と共に刀が動きを止める。

刀を受け止めたのは龍の鱗だ。

それを展開してるのはやはりゾンビみたいな人間。


これが噂の英雄兵器ロンギヌスか。

龍の力を持ってるだけあって硬いな。


第二段階セカンド・ギア


ゾンビの遅い攻撃を避けて顔面に黒炎の拳をぶち込む!

硬いものを砕くような手応えと共にゾンビの体が吹っ飛んでいった。


よし、なんとかなった。

刀を防がれた時は死ぬかと思ったけどな。


「では聖女を探しましょうか」


隣を歩くリンの体は返り血で真っ赤になっていた。




暫くして広い部屋に出た。


中にはホルマリン漬け? って言うのか知らないけど巨大なガラスに閉じ込められてる人間がいる。

気味悪いな。これも英雄兵器なのか?


そして奥には本を広げたジャンヌさんがいた。

横には本が積み上げられていてどれも厚いものだ。


俺たちに気づいたジャンヌさんが言った。


「先程は申し訳ございません。このファイルを探していたもので」


ジャンヌさんが取り出したファイルには「配合種、第三世代研究レポート」と書いてある。


配合種の第三世代。

確か、神崎始かんざきはじめがそれに当てはまる奴なんだよな。

最高傑作だって言ってた気がする・・・・・・。


だがジャンヌさんが言った言葉は俺の記憶とは違うものだ。


「第三世代とは、神と人間との配合種のことを言うんです。これは言わば人の禁忌を記した日記ですね」

「・・・・・・ちょっと待ってください。神と人間? 第三世代って他人の魔法を無力化、吸収出来るようになった奴のことじゃないんですか?」

「それは第二世代の種類の一つでしょう。第二世代は能力に幅がありますからそのような能力を有していても不思議ではありません」


じゃあ・・・・・・あいつはやっぱり勘違いだったのか。

だったら第三世代は誰なんだ?


あいつの言葉が頭に過ぎる。


────お前じゃない。俺を指して────


俺・・・・・・?

嫌な予感がする。

あれは見ない方がいいかもしれない。


でも・・・・・・


「すいません。見せてくれませんか」

「いいですけど。途中ですよ?」

「大丈夫です。少し見れればいいんで」


ジャンヌさんからファイルを受け取って開く。


研究レポート19。

人形に神を植え付けた。だが体が耐えられずに破裂してしまう。次は龍の力を試してみようか。


研究レポート20。

龍の力は神を食らう可能性がある。人形に適しても神を消しては意味がない。このままでは聖杯の降霊に間に合わない。神は諦めて龍の力を植え付けよう。


レポートの内容はわからないことばかりだ。

まず人形。

人じゃないことは明らかだとは思うけどそれ以外はわからない。

次は力を植え付けるって言い方だ。

荒野先生みたいに人工的に作れるならともかく、普通なら龍の力を自由に与えることは不可能だ。

龍の力は「無意識の魔力」と同じだから人の意志に左右されないから。


現時点でわかることは俺ではないことくらいか。

ヴリトラは普通の龍王だし一応神の力も持ってる。

この研究は俺に当てはまらない。


あとは・・・・・・虫食いがあったりインクが掠れてて見えないな。

いや、最後のページは見える。


研究レポート35。

遂に完成した龍の力を持つ人形。

これを母体とすれば龍の力を持った子が生まれる可能性が高い。

精子は・・・・・・あの人形を使おう。

最高の兵器が産まれるぞ。

聖杯の降霊まであと10年。

なんとか間に合いそうだ。


書きなぐりで赤い文字。

言えることと言えば最低だってことくらい。

これが人間がやることなのかよ。


「それは序の口ですよ。その後に続くのは体内にできた子の調整と改造。父となる男への洗脳による支配。両親が逃げるまで延々と続きます」

「ふざけんな・・・・・・。人間ってこんな奴がいるのかよ」


ジャンヌさんの言葉に胸の奥から何かが込み上げてくる。


怒り。そんなものより激しく俺の中で暴れ回るそれを抑えつけるように息を吐いた。


今は我慢だ。

時と場合を弁えるんだ、俺。

ここで暴れたら天使が来るだろう。

そしたら全部が台無しだ。


ジャンヌさんは俺が落ち着いたのを確認して安心したように微笑えんだ。


「少し休みましょうか。交代で見張りをして二人で仮眠を取りましょう。明日は熾天使の場(セラフィム)に行きますから体力を回復させるべきです」

「じゃあ・・・・・・俺が最初に見張るよ。ドアの前に立ってればいいんだよね?」

「はい。よろしくおねがいします」


頭を下げるジャンヌさんを尻目に部屋を出た。




悟られないようにしたけどやっぱり収まるわけがない。


徘徊してるゾンビの群れを切り裂いていく。

同情と八つ当たり。

俺が今行動してる理由はそれしかない。


あんな奴に巻き込まれた人たちへの同情。

だから手早く首を落とす。

とどめに心臓を貫いてゾンビの動きが止まったことを確認する。


次に奴への八つ当たりだ。

動かないゾンビの体を抉る。

血が飛び散って肉が出てくる。

その景色が、臭いが更に俺を激昴させる。


・・・・・・どれくらい暴れたのか。

もう頭は冷えて体は悲鳴を上げている。


よく考えればここにいる人たちは第二世代の失敗作だ。

第三世代のレポートは関係ないはずだ。


「・・・・・・俺は馬鹿だな。もっと落ち着かなきゃいけないのに・・・・・・」


なんとなく呟いて暗い天井を見る。


ボーッと眺めてると部屋の中の会話が聞こえてきた。


「リンさんはマスターのこと好きなんですか?」


なんて会話をしてるんだ・・・・・・。

気になるけどね! こんな所にまで付いてきてくれたリンが俺のことを好きかどうか。

もし、主従関係なので付いてきただけです・・・・・・なんて言われたら・・・・・・。

嫌だ! そんなの絶対に嫌だ!


一人頭を抱える俺。


だがそんな心配をリンは吹き飛ばして────


「私は好きという感情を知りません。ですから答えられないんです」


くれなかった。

せめて嫌いじゃないとか言ってくれても良かったのに・・・・・・。


まあ、しょうがないよな。

ずっと奴隷生活だったんだから誰が好きとか言えないし考えられないか。


「私もです。生前は恋愛をしてる暇はありませんでしたから」


ジャンヌさんの微笑した声が聞こえた。


なんか切ない・・・・・・。

そしてさらっと振られたよな、俺。


っていうかなんでこんなドキドキしてるんだ!?

教室の女子の恋バナ聞いても何も思わないのになんであの二人だとこんなに緊張するんだよ!


「でも・・・・・・不思議な人ではありますよね。真っ直ぐで綺麗な人です」

「ご主人様はそれしか取り柄がありませんから」


どういう意味ですかね!?

毒吐くのやめて! 傷つくから!


二人の会話は続いていく。


「私は好きという感情はわかりませんが、マスターが信じると言ってくれた時は嬉しかったです。死に方に後悔はないつもりでしたが、あの言葉で救われたような気持ちになりました」

「それは・・・・・・好きというものだと思いますが違うんですか? 難しいですね、好きは」

「はい。まだまだ勉強しなくてはいけません」


いたって真面目な口調で話してる女子二人。


喧嘩するよりはマシだけど、俺をダシにするのはやめてくれ。

なんか恥ずかしいから・・・・・・。


「ではご主人様を呼んできます。そろそろ交代ですから」


足音が近づいてきた。

会話からしてリンだ。

急いで離れなくては!


距離をとって見張りをするフリをしてる俺にリンが近づいてきた。


「お疲れ様です。ゆっくりお休みください」

「ん? ああ、もうなんだ。リンは休めたのか?」

「はい、お陰様で戦える状態には戻りました」


それは休めたとは言わないぞ。

所詮一時間か。限界があるよな。


「じゃあ、頑張れよ」


そう言い残して部屋に入った。




「おっぱいが触りたい」


ジャンヌさんに膝枕をしてもらながら呟いた。


ゆっくり休む為にと膝を貸してくれたジャンヌさん。

遠慮なく頭を乗せて仮眠を取ったのはいいんだけど・・・・・・。


夢でおっぱい洗脳を見た。

あれは悪夢だった・・・・・・。でも目覚めたら触りたくなるから不思議だ。


ジャンヌさんは咳払いをして言った。


「マスターは何故そこまで女性の胸部に興味を示しているのですか? 流石に異常だと思うのですが」


俺がおっぱいを好きな理由・・・・・・?

そんなの決まってる!


「夢が詰まってるからだ。大きくても小さくてもおっぱいには男の夢が詰まってる。揉んで! 吸って! 挟んで! 飽きない夢がそこにある!」


拳を握って叫ぶ俺にジャンヌさんが微笑んだ。


「リンさんの言う通り、頭がおかしいですね」

「ジャンヌさん? いきなり毒吐くのやめてください。精神的に来るんで」

「・・・・・・少しだけですよ?」


・・・・・・えっ?

目の前に顔を赤らめて服をたくし上げたジャンヌさんがいる。


白いブラジャーが露出していてこぼれ落ちそうなおっぱいも見える。


触っていいんだよな? 許可貰ったよな?


「えっと、ほんとにいいんですか? なんでこうなったのか理解出来ないんですけど」

「触りたいと言ったのはマスターですよ。もう時間がありませんよ」


いえ、触らせていただきます!

まずは・・・・・・邪魔してるブラジャーをずらす。

外さないでずらすことに意味があるんだ。


その後に撫でるように二つの山を包み────


目の前にレイピアが振り下ろされた。


「交代ですよ。聖女さん?」

「はい、わかりました。では失礼します。マスター♪」


ジャンヌさんは笑顔でその場を去っていった。




ジャンヌさんが見張りに行った後俺とリンの間に気まずい空気が流れた。


こんな時におっぱいって騒いでる奴がいれば当たり前だ。

騒ぐなら家にしよう。じゃないとチームワークが乱れる。


「そういえばリンはまだ回復してないんだよな? 少し寝たら?」

「私よりご主人様は大丈夫ですか? 見張りをしていた時にかなり暴れたようですが」


やっぱりお見通しか・・・・・・。

でもジャンヌさんの膝枕でかなり回復した。

元々体力が多い方じゃないから回復も早いんだよな。


「俺は大丈夫だ。だからリンが休んでいいぞ。肝心な時に動けないのは一番困るからな」

「・・・・・・はい。では少しだけ失礼します」


リンが少し体を預けてきた。

頭が俺の肩に乗ってシャンプーの匂いが微かにする。


リンがこんなことをするなんて珍しいな。

いつもなら床でも寝れます! とか言うんだけど。


電車とかでよく見るんだけどやっぱり動きにくいよな、これ。

リンはいい匂いするし、なんか手を握られてるし、ドキドキするんだけど。


リンの手は柔らかくて暖かい。

そういうところは女の子みたいだな・・・・・・なんて考える頭を今すぐ殴りたくなる。


リンにだけは手を出したくない。

出したらサタナキアと同じになる気がするから。

もっと仲を深めて、完全に信頼し合えたら・・・・・・。


「そしたら誘ってみようかな。ハーレムに」

「それでは遅いです」


リンが薄目で答えた。

結構小声にしたつもりだったんだけど起こしちゃったか。


「ごめん、もう少し寝てていいからな」

「ご主人様も寝ていいんですよ。私は座ったまま寝れますから・・・・・・同じこと出来ますよ?」


リンに握られた手がリンの太ももに触れる。


同じこと・・・・・・。それって膝枕か!?

やってもらいたい! ・・・・・・でも、今はリンに休んでもらいたいなら我慢だ。


「座ったままだと疲れとれないだろ。ほら、寝転んでいいんだぞ。なんなら俺の膝を使ってもいいし」


男の膝なんて使っても寝にくくなるだけだよな。

一応筋肉付いてるから硬いし。


だがリンは頭を置いて服の裾を握った。

そのまま寝息を立てるリンの頭を撫でて俺も眠りについた。




朝の日差しで目が覚めた。


天井に空いてる穴から日差しが漏れてるのか?

とにかく眩しい。


目を擦って体を伸ばす。

リンはまだ寝てるみたいだ。

安心したように寝息を立ててる。


何故かジャンヌさんも隣で寝てる。

起こさないで一緒に寝たのか。

見張りしようぜ・・・・・・。


「今日が勝負か。・・・・・・絶対に皆で帰ろうな」


誰にも聞こえないように呟いた。

だがその声に気づいて起き上がる人がいた。


「はい、承知致しました。マスター」

「なんで起きるんですか。はあ、ゆっくり休めましたか?」

「はい。充分すぎるくらいです」


微笑むジャンヌさんとリンを見る。

まだ寝てる。

よっぽど疲れてたんだな。


「この二週間。リンさんはマスターのことをずっと見ていたんですよ」

「そうなのか? ああでも、傍にいるから見てるのは当たり前か」

「マスターは意外と鈍いですね。たとえ主従関係を結んでも寝る間も惜しんで主を見守り続ける人はいませんよ」


ジャンヌさんが言ってるのは見守ってるっていうより見張ってるって表現が正しいと思う。

多分いつ出てもいいように昨夜みたいなことを毎日してたんだろう。

俺が一言言えばそんなことしなくても良かったのにな。

仲間一人の気持ちすら汲み取れないのか、俺は。


俺はため息をつきながら言った。


「なんか駄目ですね。俺、何も出来ない。昨日だってリンの足を引っ張ってましたし」

「そんなことありませんよ。リンさんは言っていました。ご主人様は私を闇の中から引っ張り出してくれた・・・・・・と」


それがほんとなら嬉しいんだけどな。

俺の力は感情で左右させるから力のムラが大きい。

前みたいにサタナキアと戦えるくらい強くなれる時もあれば力を使ってない御剣に一方的にやられる時もある。


なんとかしたいけどすぐに解決するような問題じゃない。


「俺、守れますかね? 大切な人たちのことを」

「大丈夫です。私が保証しますから。胸を張って戦いましょう」


微笑むジャンヌさんに微笑み返して叫ぶ。


「聖女に言われたらやらないわけにいきませんね。じゃあ、行きましょうか! 英雄兵器ロンギヌスを倒しに!」


「ほう・・・・・・それは面白い。悪魔が英雄を倒すのか」


男の声と共に部屋の扉が開かれた。


リンが目覚めて勢いよく飛び起きた。


「ご主人様、強い魔力を感じます。注意してください」


中に入ってきたのは金髪の男。

金色の西洋剣を握っている。


それを見てジャンヌさんが驚愕の声を上げる。


「まさか・・・・・・聖王アーサー! 何故このような場所に!? それよりマスター逃げてください! 後ろの壁を壊して外へ!」

「それは無駄だ。逃げられない。この統制の聖剣(エクスカリバー)からはな」


そう言って金髪の男────アーサーは剣を構えた。

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