休息
「また増えるの!? なんか・・・・・・いっぱいだね」
ヒルデ先生を紹介した時の白の反応は予想通りなものだった。
さすがに増えすぎだよね、家の住人。
部屋は改修したおかげで広くなってるけど家事をやらない人が多すぎる。
少しは手伝ってくれ・・・・・・。
「沢山いると楽しくなりそうでワクワクするな」
「私は・・・・・・前みたいに二人の方が良かったけど」
「そうか? 前は二人だけなんてつまんないって言ってだろ」
「それはずっと前の話じゃん! 今は・・・・・・お兄ちゃんと二人でもいいもん」
白が小声で呟いた。
白がそんな風に思ってくれていたなんて・・・・・・。
まあ住人が増えると落ち着けないかもしれないからな。
白の言い分もわかる。家族でゆっくりする時間も欲しい。
白の頭を撫でる。
「じゃあ夏休みは二人でどっか遊びに行こうか。お爺ちゃんの家に挨拶行かなきゃ行けないし」
「うん! えっとね、海行きたい! あと、プールとか!」
「白の授業参観次第だな。ちゃんと勉強してたら好きな所に連れてってやる」
「ほんとに!? 絶対だよ! えへへ、やった」
ああ、絶対だ。
そう心で答えて強く決心する。
英雄兵器を壊して絶対に帰ってくる。
白を一人にはしたくないから・・・・・・。
「じゃあ・・・・・・ご飯食べようぜ。冷めたら豪華にしたご飯が台無しだ」
手を叩いて皆に言う。
そしてジャンヌさんと視線を交わして頷く。
天界への乗り込みまで二週間。
二日後の昼休み。
御剣と俺とジャンヌさんは白い箱の中で戦闘を繰り広げていた。
「英雄模倣。ゲイジャルク」
水平に振るった黒炎の槍を受け止めたジャンヌさんが言う。
「甘いです。踏み込みも・・・・・・頭のイメージも。それと槍の間合いを生かしてください。近すぎます」
槍を消してモラルタを作り出す。
モラルタの一撃がジャンヌさんの剣を砕く!
控えの剣を抜くジャンヌさん。
その隙を御剣のガラティーンが突く。
ジャンヌさんが体を翻してそれを躱す。
そして抜刀共に一撃を与える!
「動きは速く躊躇いがない。ですが無駄が多すぎます。速くても音が場所を伝えます。攻撃のタイミングがわかってしまいますよ」
「第二段階! ゲイ・ボウ」
叫びと共に駆け出して槍を突く。
それを剣で受け止めるジャンヌさん。
そのまま弾き返されて体勢を崩す。
俺の目の前に剣を突きつけてジャンヌさんが言った。
「力強く真っ直ぐな力。ですがヴリトラとの相性はあまり良くありません。少し工夫して戦いましょう」
微笑むジャンヌさんに俺と御剣は口を揃えてこう答えるしかなかった。
「「はい、わかりました」」
一昨日から一日数十分だけジャンヌさんに指導してもらってる。
ほんとはもっとやりたいんだけど。俺の体力がもたない。
あと勉強しなきゃいけないんだ。
ヒルデ先生に赤点取ったら補習するって言われてから必死に勉強してる。
桜と理沙はわかりやすく教えてくれるからなんとかなりそうなんだけど・・・・・・。
ヒルデ先生の目がある以上トレーニングに時間を割くのは難しそうだ。
しょうがない。もう戻るか。
教室に戻って机と向かい合う。
机に置かれてる参考書とプリント。
プリントはわざわざ理沙が作ってくれた期末試験対策だ。
プリントに書いてある問題は昨日理沙に教えてもらったものばかり。
実際頭になんとなく公式が浮かんでくる。
だが・・・・・・だが!
何書いてあるのかわからない・・・・・・。
字は綺麗だ。凄く読みやすい。
だが長い。そして数字がいっぱいだ。
俺の頭が理解するのを拒否している。
プリントとにらめっこしてる俺を見て御剣が微笑む。
「大丈夫? これ、かなり簡単な方だけど」
「公式はわかる。でも・・・・・・なんの数字を使えばいいかわからない」
「しょうがないわね。じゃあ整理して考えましょうか」
俺を見かねた理沙が助けを出してくれた。
その後も教えてもらいながら問題を解いていく。
でも頭の中に解き方が入らない。
だって・・・・・・理沙からいい匂いがするんだ。
あと目の端におっぱいが映ってる。
やっぱり大きいな・・・・・・。触りたい!
我慢だ、我慢。ここで我慢すれば後で触れるかもしれない・・・・・・。
「駄目だ。ヒルデ先生いるよ」
机に突っ伏してため息をつく。
やっぱりやる気起きないよな。
体を動かして気分転換でもしたい。
家に帰ってもヒルデ先生がいるから触れないんだよな。
目の前にあるのに遠い・・・・・・。
・・・・・・そういえば!
「あの、お兄さんは英雄兵器のこと知ってるんじゃないですか? 協力してもらえると思うんですけど!」
俺の言葉に先輩が首を横に振る。
「私も言ったけど無理だって言われたわ。七月に行われる予定の闘技場イベントで忙しいらしいわ」
・・・・・・無理か。あの人が味方になってくれたなら百人力なんだけどな。
闘技場のイベントっていうのも気になるけど今は英雄兵器だ。
それにどうせ俺は関係ないから気にしてもしょうがない。
「そうですか。じゃあ堕天使とかに増援してもらうとか!」
「もうやってるわ。堕天使が人間界に潜んで英雄兵器を探してるって聞いてるもの」
これはやってるのか・・・・・・。
あとは・・・・・・あとは────
「聖騎士教会に乗り込むとか? 意味なさそうですけど」
「確かに意味ねぇな。でも考えとけよ、いつかやるつもりだからな」
教室に入ってきた荒野先生が答えた。
手には小型のテレビを持っている。
確か・・・・・・闘技場の戦いを見れるやつだ。
戦闘鑑賞が好きなのかな?
荒野先生が嬉々とした様子で言った。
「そんなことより和平のおかげで闘技場の解説役に抜擢されたぜ! しかも賭博試合のだ!」
「やっぱりイベントってそれだったのね・・・・・・。相変わらず好きものが多いわ、魔界って」
先輩のため息をついた。
「でも僕も結構好きですよ。人間界でも偶に見ますし下の方で」
御剣は微笑む。
リンは何も言わずに苦い顔をしている。
ジャンヌさんたち悪魔以外の人は何を言ってるのかわからないって感じだ。
俺もそうだけど・・・・・・。
「今回の賭博試合は和平として意味のあるものにしたいんだとさ。他にもミカエルとか熾天使も誘われてるらしいぜ!」
何が楽しいのか子供みたいに騒ぐ荒野先生。
言ってることはよくわからないけど、これだけはわかる。
絶対に関わることになる。
和平って単語が出た時点で何か手伝わされることは決定したようなものだ。
しかもお兄さんが関わってるなら尚更だ。
「あの、賭博試合ってなんですか? 名前からして賭け事なのはわかるのですが」
ヒルデ先生が疑問を口にした。
空気を読まないで聞くあたりさすがとしか言えない。
せめて荒野先生がいなくなったら聞きましょうよ、先生。
その質問には先輩が答えた。
「魔界のトップの人達の娯楽よ。闘技場での戦いを賭け事として楽しむ。それを魔界全体で行うのが賭博試合。簡単に言うとお金持ちの娯楽を国民全員に押し付けたお祭り事」
それ、最低じゃないですか。
言いそうになる言葉を飲み込む。
強制で賭けなくちゃいけないのかな?
だったら嫌だぞ。賭け事なんてしたくないし。
「でも戦争から意識を逸らさせるって意味もあるんですよ。戦いの他にも屋台も出て本当にお祭りみたいになりますから」
そう御剣が補足した。
それを聞いて思うことといえば。なるほど、荒野先生が好きそうだ。
それくらいしかない。
だって強い人の戦いを見れるなら嬉しいけど金を払わないといけないし、絶対事件起きるイベントだよね。
乱闘騒ぎとかあるよな。
出来ることなら関わりたくないイベントだ。
「つうわけで戦う奴の発表がそろそろなんだ。自慢ついでに見せてやろうと思ってな」
荒野先生がテレビを俺の机に置いて笑う。
画面には折りたたまれた紙が舞ってる映像が流れてる。
あれ・・・・・・あの紙どっかで見たことある。
しかも名前書いたような気がするぞ。
その中の一枚の紙が開かれて悪魔の名前が呼ばれる。
「シグムント・バアル! シグムント・バアルが選ばれました。今期の期待の新人ですね。名前を継いだばかりで成長が見込める天才だと聞いています」
画面に男の姿が映し出された。
2mはありそうな巨体に膨れ上がった筋肉。
期待の新人だって言われてるだけのことはある。
「ほお、バアルか。戦好きのバアルを選ぶとはセンスあるぜ」
荒野先生のテンションはどんどん上がっていく。
そんなに嬉しかったんですか? 解説役。
また紙が舞う画面に切り替わって紙が開かれる。
そこに映し出されたのは見たことある名前・・・・・・。
「俺の名前だ・・・・・・」
桂木春────正真正銘俺の名前だった。
闘技場エントリー用紙。それは和平会談の翌日に魔王様に書かされた紙だ。
結局意味の無い紙だと思ってたけど。まさかこんな所で使われるとは・・・・・・。
「かつらぎ・・・・・・はる? これは契約悪魔でしょうか? 聞いたことのない名前ですが」
「これは僕が説明しようと思う。僕が用意した映像を見て欲しい」
画面に出てきたのは魔王様だ!
あの人、確信犯じゃねぇか! わざわざサタナキアとの戦いを映して選ばせてもらったって!
ランダムじゃねぇのかよ、あれ!
「────というものと、彼は和平に大きく関わっている悪魔でもある。和平を推す彼と戦争の過激派であるバアル。この二人が戦い新しい魔界の未来を見せてくれると信じようと思う」
画面の中の魔王様に荒野先生が一言。
「やっぱ性格悪いな、あいつ。なにが新しい魔界の未来を・・・・・・だ。仕組んでるのを認めた挙句春を殺すって言ってるようなもんだろ」
一言じゃなかった。
それはどうでもいいとして、物騒な言葉が聞こえましたが。
殺すってなんですか? 仕組んでるのはわかりましたけど俺殺されるんですか!?
俺に気づいた荒野先生が説明してくれる。
「闘技場での死は全て不慮の事故として扱われる。そこでお前を殺せばバアルは罪に問われねぇし龍王の力も封じれる。過激派には万々歳の結果だ」
なるほど。
つまり・・・・・・逃げた方がいいってことだな!
はあ、別に和平を推してるわけじゃないのに・・・・・・。
そりゃ平和の方が嬉しいけどさ。
戦争は嫌だけど・・・・・・あのサタナキアとの戦いは気持ち良かったな。
なんか互いの全てをぶつけ合ったって言えばいいのかな。
一発ごとに思いを感じて、思いを込めて殴って。
ああいう戦いは良かったと思う。
「キャンセルは────」
「出来ねぇよ。お偉いさんがお前に文句言ってんだろ。これは魔王っていうより他の最上級が仕組んだことだ。あいつも絡んでるだろうがな」
俺の言葉を遮って言われた言葉は残酷なものだった。
「っていうか英雄兵器はどうするんですか!? 放っといて戦えって言うんですか?」
「戦争したい奴らにしちゃどうでもいいんだよ、あれは。あれが出てきた時点で天界に攻め入る理由が出たんだから。あいつらにとって一番邪魔なのは和平を謳う龍王、つまりお前なんだよ」
・・・・・・嘘だろ。
魔王様や最上級悪魔が仕組んだことなら俺に拒否権はない。
まともに戦ったら死ぬ。逃げる手段はない。
つまり・・・・・・俺の未来は死しかない。
「私から言うわ。私からならサタナキア様に話が通るはずだわ!」
先輩が胸に手を当てて叫んだ。
多分、それは無理だ。
だって先輩の意見が通るならとっくにお兄さんがやってるから。
それは先輩もわかってるはずだ。
それでも言ってくれる先輩に少しだけ感動する。
やっぱりいつも支えてもらってる。
ありがとうございます、先輩。
でもすいません。俺がこれからしようしてることは先輩を裏切ることになるんです。
答える必要がないと判断したのか荒野先生は答えない。
その代わり────
「俺が勝たせてやる。機械仕掛けの龍を強化してな」
強く俺の背中を叩いてくれた。
二重起動と第二段階。 この二つを同時に使えれば対抗できるかもしれない。
少なくとも・・・・・・シグムントって悪魔には対抗しなくちゃいけない。
俺の課題がまた増えた。
天界への乗り込みまであと12日。
更に数日が経って、白の授業参観の日だ。
普通に平日な為、俺とジャンヌさんが小学校に来ている。
ちなみに俺は仮病を使って休んだ。
多分バレてるから後で怒られる。
「今日は英雄兵器のことを忘れてゆっくりするぞ!」
「はい、承知致しました。マスター♪ 手を繋ぐのですね」
手を絡ませてくるジャンヌさん。
正直よく分からないけど役得だから黙っておく。
教室には既に何人か親がいた。
教室の後ろで熱心にメモしてる人もいれば興味なさげにボーッとしてる人もいる。
教卓には白い服を着た人が礼装らしき物を持って魔法を発現させている。
「あれ・・・・・・聖騎士じゃないのか?」
「おそらくそうでしょう。これは聞いた話ですが人間界の授業参観では魔法の授業が選ばれることが多いらしいですよ」
小声で呟く俺にジャンヌさんが答えた。
とりあえず気づかれてないみたいだ。
安心した。このまま何食わぬ顔で居座ってればバレないかな。
それより────
「そうなんだ。確かに言われてみれば多いような・・・・・・。なんでだ?」
「人間界で魔法が公になったのは二年前。今でも魔法が使えない大人が多いですから教えようとしてるのでは?。特に小学校の授業参観は親の参加率が高いですから魔法の授業をして親にも意識させようという考えなのかと思います」
なるほどな。思ったより考えられてるんだ。
それで暴走対策に聖騎士か。あと講師として。
聖騎士が棒のような礼装を配り始める。
一列に配る数が多い。
親にも回せってことだな。
ジャンヌさんの話から察するに。
俺に気づいたのか聖騎士が目を見開いて近づいてきた。
逃げ道を塞ぐかのように先生がドアに立つ。
バレた・・・・・・?
俺、何もやってないのに!?
「夫婦ですか? 随分とお若いように見えますが」
「・・・・・・えっ? 夫婦? ・・・・・・そ、そうなんだ。ちょっと同年代より早く結婚してね。誤解されたなら謝るよ」
「そうですか。こちらこそ申し訳ございません」
聖騎士と頭を下げ合う。
なんとか誤魔化せた。
まさか変質者と間違われるとは思わなかったぞ。
それを見た一部の生徒がクスクスと笑う。
白の友達だ。俺のことを知ってるからおかしいんだろう。
当の本人は顔を赤くして俯いてる。
可愛いぞ、白。
ジャンヌさんに脇腹をつつかれて囁かれた。
「なんとか誤魔化せましたね。それより・・・・・・天使がいます。あそこの・・・・・・」
ジャンヌさんが小さく指さした方にいたのは犬耳が生えた女の子だ。
耳はぺたんと垂れていて俯きがちになっている。
あれが噂のアルマロスか。
・・・・・・可愛い。ああ、可愛い!
触りたい! もふもふしたいな!
でも触るとほんとに変質者だ。
我慢我慢。後で理沙にでも猫耳カチューシャを付けてもらおう。
「人間界に一人だけか。なんか可哀想だな」
「おそらくですが、試験的に送られた天使だと思います。天使や悪魔がどれ程人間界に馴染めるか。それを確かめるための・・・・・・」
そんなこともやってるのか。
意外と色々やってるんだ。
じゃあ他のクラスには悪魔がいるのかな?
それも見てみたいな。
悪魔の幼女。
小悪魔的な感じなのかな?
凄く気になる!
「じゃあ親御さん達もご一緒にお願いします」
聖騎士が何かを叫んだ。
やべぇ、話聞いてなかった。
何やるんだ? 属性魔法だよな?
ジャンヌさんも周りの様子を伺っている。
聞いてなかったのか・・・・・・。
とりあえず適当に魔法を出せば・・・・・・。
俺の棒に炎が灯る。
他の人の礼装は全く反応がない。
もしかして・・・・・・間違えた?
「おお! 巧く発現した親御さんに拍手を」
どうやら間違いじゃないらしく拍手が疎らに上がる。
もう白の友達は隠そうとしないで笑ってる。
爆笑しないでくれ。俺が恥ずかしいから。
聖騎士は気づいてないけどアルマロスの礼装も発現してる。
見えないくらい小さいけど。
「えっと・・・・・・いや、あの天使の子も発現してますから。あはは・・・・・・」
愛想笑いで誤魔化しつつアルマロスに視線を集める。
だが誰も気にしない。
まるで・・・・・・いない人みたいだ。
「じゃあ皆ももう一回やろうか」
聖騎士が何事もないかのように話を戻す。
「ちょっと行ってくる」
「えっ? 待ってください、マスター。近づいてはいけません」
ジャンヌさんの制止を無視してアルマロスの横に座る。
「初めまして。桂木春って言うんだけど君の名前は?」
「あなた・・・・・・悪魔の匂いがする」
「えっ?」
「マスター! とりあえずこちらへ!」
ジャンヌさんに引っ張れて教室を飛び出た。
トイレの個室に隠れた俺とジャンヌさんは互いの息が整ったのを確認して話す。
「アルマロスは魔力を感知する力を持ちます。下手に近づいては正体が露見してしまいます」
「もう遅くないか? 聖騎士の目が凄いことになってたけど」
「戻ることは不可能ですね」
「白に誤解されたまま!? 嫌だよ、そんなの! 戻る、絶対戻る!」
戻ろうとする俺の腕を掴んでジャンヌさんが止める。
「戻ったら戦うことになりますよ」
「とある聖騎士が言ってた。力は力だ。それだけじゃ意味をなさないって。話すだけでなんとかする」
「・・・・・・仕方ありませんね。但し、私が無理だと判断したら逃げますよ」
「ああ、わかった」
教室に戻った俺たちを出迎えたのは聖騎士の礼装の刃だった。
話す気ゼロみたいです、ジャンヌさん。
「悪魔、何故ここにいる?」
「悪いんだけど、俺は人間だ。出来れば普通に話したいんだけど」
って言っても信じてもらえないのは充分にわかってる。
一応聖騎士と戦ったことあるからな。
しかたないか・・・・・・。
「ジャンヌさん、少し頼んだ」
ジャンヌさんは答えずに聖騎士の前に立ちはだかった。
それを横切ってアルマロスに近づく。
「もう一度言おうか。俺は人間だよ、天使さん」
「嘘。悪魔の匂いがするから。それにあの人を従えてるなんて人間が出来ることじゃない」
後ろで聖騎士を羽交い締めにしてるジャンヌさんを指さして言う。
いつのまにあんなことしてるんだ?
やっぱり強いな、ジャンヌさん。
「えっとさ、なんて言えばいいんだろうな・・・・・・」
「兄ちゃんは悪魔みたいな人間だぜ!」
「そうそうそんな感じ────って何言わせんだ!」
横にいる短髪の女の子の頭を握る。
白の友達とはいえ容赦はしない。
悪魔みたいな人間ってなんだ!? 褒め言葉じゃないことはわかるけど。
「お兄ちゃん、ほんとにやめて。恥ずかしいから」
白が小声で言いながら顔を隠す。
やっぱり可愛い。
「お兄さんはシスコンでロリコンなだけだな。うん、それだけだ」
「それだけで済まさそうだよね、それ」
白の友達からのフォローが入る。
おお! これがクッキーの餌付けの力か!?
来る度にお菓子あげといて良かった。
アルマロスが不満そうに頬を膨らませる。
「本当に悪魔なのに・・・・・・」
犬耳と尻尾が逆立ち始めた。
凄いな。神経通ってるんだ。
あと普通に人間の耳もある。
アルマロスの頭を撫でて人間の方の耳に囁く。
「契約悪魔なんだ。・・・・・・だから見逃してくれ。ほら、この通り」
手を合わせて笑う。
よし、バレたからさっさと退散しよう。
ジャンヌさんが聖騎士を殺してしまう前に・・・・・・。
もう関節入ってるよ。
羽交い締めのままで良かったのになんで余計なことをしてるんだ。
「じゃあ白のことよろしくな。家に来たらまた適当なお菓子あげるから」
「ほんとか!? なら仲良くするぞ!」
「いや、普通に仲良くしような」
「でも・・・・・・お兄さんの手作りお菓子美味しいよね」
また騒ぎ出す子供たちを尻目に教室を出ていく。
後ろに付いて来てるジャンヌさんが不思議そうに言った。
「そういえば妹さんも魔法が発現していましたね。マスターと一緒で才能があるのでしょうか?」
「ん? そうかもな。俺の妹だし、可愛いし」
「・・・・・・そうですね。そういうことにしておきましょう」
何かを飲み込んだように言ったジャンヌさんにまた手を引っ張られる。
後ろには白い服の聖騎士が沢山いる。
うわぁ、逃げなきゃな。
天界への乗り込みまであと一週間の出来事だった。
そして一週間後。
午前二時、寝静まった家の中を俺とジャンヌさんは出ていった。
そして一つの人影が見えた。
「何しているのですか? ご主人様」
その影は俺がよく知る人物────リンのものだった。




