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それぞれの思惑



勝負から一日経った。

教室に入る俺を出迎えたのはリンとサタナキアだった。


争う雰囲気はなく普通に話してるみたいだ。


「リン、おはよう。勝手にいなくなるのはやめてくれ、怖いから」


リンの肩を叩いて挨拶する。

それにリンは会釈して答えた。


「おはようございます、御主人様。今朝は少し用事がありましたので・・・・・・」

「学校にいるならいいんだけどさ。・・・・・・それよりなんでお前がいるんだ?」


サタナキアに視線を向けて龍の力を纏う。


戦うつもりはないけど牽制の意味を込めて・・・・・・だ。

勝ったとはいえ油断できない相手だからな。


「嫉妬か? さすが人間だ。その悪魔をも超える欲の深さ。そこだけは認めてやる」

「どういう意味だよ。それにその人間の欲から生まれたのが悪魔だろ。人のこと言えないな」

「黙れ、性欲の権化が」

「なっ、なんだと! おい、訂正しろよ! 性慾の権化ではないぞ、俺は!」


「御主人様、静かにしてください。間違っているわけではありませんので」


リンの厳しい言葉が胸に突き刺さる。


基本的に貶められるんですね、俺は。

はあ、昨日はかっこつけられたと思ったんだけどな。


サタナキアも大きな傷は────

あれ? サタナキアの片腕が・・・・・・ないように見える。


切り落とした記憶はないぞ。

じゃあ・・・・・・


俺の視線に気づいたのか、サタナキアが自嘲する。


「これは俺のくだらなり驕りの傷だ。気にするな」

「驕りってなんだよ。まさか・・・・・・昨日の────」

「お前は関係ない。リリィもな。・・・・・・用は済んだ。俺から奪った物、誰にも奪わせるなよ。契約悪魔」


そう残してサタナキアは魔法陣に消えていった。


いなくなったサタナキアに小さく答える。


「当たり前だ。誰にも渡さない。決めたからな」


俺の呟きにリンが反応して言った。


「何か言いましたか?」

「何も言ってない。ほら、そろそろ先生来るから席に着いてな」


そう答えて俺も席に着く。


さてと、今日もいつも通り平和に暮らしますか!







────天界、熾天使の場(セラフィム)にて。


昨日の呪いの龍王(ヴリトラ)の昇華を見て私────ミカエルは思う。


これはやはり面白い力だ。

呪いの龍王の本来の力は相手を呪い殺すもの。

その魔力を自身の強化として使っている。

用途とは違う力をあそこまで使いこなせる持ち主の才能とそれに応える龍の力。

今まで見てきた龍とは違う。「殺す力」を「守る力」として使用する悪魔。

もたらす結果は「死」という同じものかもしれないが確かに違うものかもしれない。

それでも乗り越えて掴む未来は光に溢れるものだろう。


「だからかもしれませんね。彼に期待してしまうのは・・・・・・」


そう呟く私に答える声があった。


「また悪魔のことか。娘を堕天使に堕とされてよく平気でいられるな。俺なら燃やし尽くすが」


────ウリエルだ。


同じ熾天使セラフとして働いてくれている彼は私と同じ和平派の天使でもある。


それでも堕天のことは良く思ってはいないようですね。

それは私も同じですが。


「今の天界に龍の力を持つ天使として存在するなら堕天した方が良いと私は考えますよ」

英雄兵器ロンギヌスか。お前も大変だな。姉妹で龍持ちとは・・・・・・」

「いえ、彼女達は私の誇りですよ。セラは天界の正義を信じ聖騎士を統べる為に人間界へと、レナは自分の意思で人間界に残ることを決めた。最高の娘達です」


悪魔を信じたレナと天使を信じたセラ

いつかは交わって戦うことになるでしょうが、きっと手を取り合える未来になります。

きっと・・・・・・ね。


「なら・・・・・・いいんだが。それよりどうするんだ? 英雄兵器の件」

「私が何とかします。そうですね・・・・・・折角だから彼の手も借りましょうか」


まさに猫の手も借りたい状況ですし、セラが彼と出会いどう変化するか。

少し興味がありますから。


「セラまで堕天させたら流石に怒りますよ、龍王の子」

「なら会わせない方がいいだろ」


私の呟きにウリエルが答えた。


停戦協定と和平条約。

それは天界にとって確かな利益となった。だがそれは大きな戦いの始まりでもあるらしい。


少しだけ・・・・・・面白そうですね。


映像の消えた液晶画面に私の笑みが映った。





────魔界、魔王城にて。


僕、魔王サタンは昨日の起こったらしい呪いの龍王の戦いを見ていた。


当主でこそ無いが強力な悪魔であるサタナキアを倒した少年────かつらぎはる・・・・・・だったけ? は今後の魔界を揺さぶる可能性がある。


「しかも俺の所に来るはずだった「商品」が盗られたし。どんだけ金払ったと思ってんだよ。あー、めんどくせぇ」


シルフと悪魔イブリースのハーフ。

きっと極上の味だったんだろうな。

やっぱり欲しくなる。でも龍王を殺すのは勿体ないから我慢だ。


僕の前で跪いてる女を撫で呟く。


「まあ、代わりに珍しい幻想体ファンタズマを手に入れられたから良しとしようか」


性交が主になってる今の時代に人間の欲から生まれた悪魔。

しかも海王種レヴィアタンの人型だ。


足音が近づいてきた。

王室に入ってきた女が跪き口を開く。


「サタン様、天界に動きがあるようです。どうやら龍王との接触を図っているらしく────」

「それは僕が判断しなきゃいけないことなのか? 言わなくてもわかるだろ、様子見だ。まだ動かなくていい」


報告を遮って女威圧する。

女は「はい」とだけ言って部屋を出ていく。


そう。まだ・・・・・・動かなくていい。

動く時は英雄兵器ロンギヌスが出てきた時。あれが動けば龍王ヴリトラも動くだろう。


「殺し合え。天界も愚者の楽園(グリゴリ)も人間界も全部潰れるまでな」


喉の奥から笑い声がこみ上げてくる。


和平? 笑える未来?

くだらない、くだらない、くだらない。

欲しいものがあるなら奪えばいい。

気に入らない奴がいるなら殺せばいい。

それを抑える理由はないのだから。


「なあ、レヴィアタン。お前の存在価値はどこにある?」

「わ・・・・・・たしの、・・・・・・価値は・・・・・・」

「無いって答えりゃいいんだよ! お前は俺が生かしてる。いいか、お前の生きる価値は俺だ。俺がお前に飽きたら死ね」


辿々しく言葉を紡ぐ女を蹴って黙らせる。

そして沈黙の暗闇の中叫んだ。


「英雄兵器、龍王、聖杯! 己が欲望の為に存分に殺し合え! 精々俺を楽しませろよ、糞野郎共」





────人間界、鈴鳴学園、校長室にて。


もう飽きるほど見た昨日の戦いがテレビに映し出されている。

呪いの龍王のデータは取り終えた。

もう見る価値なんて一寸も無い。


だが校長室のソファで拳を握ってる男は何度も同じ言葉を呟く。


「弟の初勝利。うんうん、感動した。もう一回見よ」

「もういいだろ。お前がいるせいで仕事出来ねぇんだよ、こっちは」

「どうせシェムハザに全部押し付けるんだろ。いいじゃないか、あと一回くらい」


そう言って笑う赤髪の男────クシア・アモンはリモコンを弄ってテレビに向かい合った。


こいつ、馬鹿だ。

まあ悪魔だしな。既にわかってることだ。

しかもシスコンこじらせてやがるからタチ悪い。

シスコンついでにブラコンにでもなるつもりか、お前は。


「動くとしたらそろそろだな」

「・・・・・・英雄兵器ロンギヌスかい? そうだね、なんとかしないといけない。あれだけには関わらせたくない」


クシアがテレビを消してこっちを向いた。


何度見ても慣れない鳥の目が光る。

人間にも見えなくもないってレベルなのがな。

どうせなら化物に特化してくれた方がマシだろ。


「配合種の失敗作。お前らの責任だろ」

「それを見つけ出して再利用したのは天使と君達堕天使だろ。罪の重さは同じだよ」

「俺達は龍の力のヒントを与えただけだ。それを人形に使うなんて考え出した天使が悪い」


もう・・・・・・二十年前か?

天使が魂を作り出すことに成功したのは。

そしてその五年後に配合種を手に入れた。


空の器に擬似的な魂を入れて体を動かす実験をして兵隊として使用した。

それの完成系が英雄兵器だ。

今は失われた神殺し(ロンギヌス)の名を冠した人形は龍の力を持って神に匹敵する力を得た・・・・・・らしい。


実際、ミカエルは手に負えないって言ってたな。

俺でさえ解析が終わってない龍の力をどうやって再現したのかは謎だ。

あいつらの近くに龍持ちがいたのか?


「わっかんねぇ。っても人間界こっちに来たら追い返すだけだけどな。他人のケツなんて誰が拭くかっつうの」

「アザゼルらしいね。でも・・・・・・人間界に来たなら僕も協力するよ。大切な家族が傷つくのは許せないからね」


クシアの髪が揺らいで燃える。

こいつの戦闘態勢は怖すぎるな。流石アモンの次期当主だってか。


「そん時はよろしく頼むぜ。まっ来ないのが一番だけどな」

「本当にそれがいいね。・・・・・・ふぅ、じゃあ僕は初めから見直そうかな」


そう言ってテレビに向かい合うクシアに俺はこう告げた。


「もう帰れよ、お前」




────人間界、二年教室にて。


昼休み。

俺────桂木春は弁当を広げていた。


今日も崩れてない。

うん、良かった良かった。崩れてたら何か食欲なくなるんだよな。

ぐちゃぐちゃの弁当は嫌だ。


「いただきます」

「いやちょっと待てよ! 火野村先輩は!? 卯月先輩は!? なんで俺は桂木と二人で食ってんの!?」


そう叫ぶ白泉しらいずみは既に俺の弁当へと手を伸ばしている。


こいつもなかなか頭おかしい。

あの二人を待って俺だけ我慢しろって言ってるんだから。

しかも俺の弁当を食べながら。


白泉の手を掴んで力を込める。


「勝手に食うな。あと先輩たちからは先に食べていいって言われてるから」

「わかった。わかったから! 痛い、痛い! 痛いです!」


白泉から手を離して弁当を一口食べる。

まあいつも通りだな。

特別美味いわけでもなく、不味いわけでもない。


「なあ桂木。お前、水無月と付き合ってんだよな?」


白泉の質問に卵焼きを一つ落としそうになった。


危なっ! 弁当の上に落ちたからいいけど。床だったら終わってたぞ。


えっと・・・・・・それよりなんだっけ?

桜と付き合ってるか・・・・・・か。


「うん、まあ一応。俺はそのつもりだけど。どうかしたのか?」

「いや、お前ら恋人らしいことしてないから気になったんだ。最近二人で話してすらいないだろ」


ああ、言われてみれば話してない気がする。

俺は忙しかったからな。しょうがないよな。

確か、無茶はしないようにって内容のメールが何回か来てたけど。

それくらいか。話したの。


「まあ、理沙との約束があるしな。五月中は恋人らしいことはしないことにしてるんだ。って言ってもあと二日だけどな」


付き合ってから1ヶ月誰とも付き合わない。

これが理沙が出したハーレムの条件だ。

速攻で破って桜と付き合ったんだけど、多分バレてないし大丈夫だ。


しかも次は六月だ。

梅雨の時期。それは────


「そろそろ透けブラの時期だな! もうこれが楽しみ過ぎて夜も寝られねぇよ」


そう! 雨が降るということはワイシャツが透ける可能性があるということ。

しかもジメジメして暑い梅雨のならば自然とワイシャツ姿の女子が増える。


白いワイシャツの中に見えるブラジャー。

そして短いスカート。

今の俺にとって最高の時期かもしれない。


だが白泉はため息をついて言った。


「雨降ったらカッパ着るだろ、普通。そうじゃなくてもインナー着てる奴が多くなるだろ」


確かに白泉の言う通りだ。

だが────


「それはそれでいいだろ。壁が大きい程見えた時の喜びが大きくなるんだから!」


それにTシャツっていうのも結構好きだぜ、俺は。

見えないから感じるエロっていうのもあると思うんだ!


「さすがについていけない。俺は一生裸に興奮する初心者でいい」


白泉にはわからないみたいだ。

残念だ、わかってくれると思ったんだが。


「俺の目標は理沙にチャイナ服とニーソックスを履かせることだからな。舐めるなよ」

「お前、そろそろ気持ち悪いぞ。そういうの頭の中だけにしとけ。本気で女子から嫌われるからな」

「既に俺の人気は地に落ちてるんだよ、先輩たちのせいで」


「悪かったわね、あなたが嫌われる原因で」


隣に来た先輩が嫌味な声を上げた。


理沙と御剣もいる。

珍しいな、御剣がいるなんて。

いつもは来ないのに。

どうやら御剣はエロトークは苦手らしいからな。

俺たちのエロトークは小学生並のレベルだから嫌がられるのは当たり前かもしれないけど。


「私はチャイナ服は遠慮しとくわ。ニーソックスなら履けるけど」

「充分です! ついでにガーターベルトもお願いします」


理沙にそう答える。


また楽しみが増えた気がする。

もう最近はいい事が沢山起こる。

最高の気分だ。


「あと先輩が原因で嫌われてるって言うのは嘘ですから。俺が悪いところもありますし」


そう火野村先輩に言うが先輩は頬を膨らませたままだ。


この学校で人気がある二人と知り合いで片方と付き合ってるなら目の敵にされるのは当然のことだ。

しかも桜とも付き合ってるんだから尚更だな。


「そうだ、春。あなた、サタナキア様と戦ったらしいわね」


先輩の言葉でハンバーグが喉に詰まった。


なんでそれを!?

昨日まで知らなかったはずなのに・・・・・・。


「お兄様が喜んでたわ。義弟おとうとの初勝利だと」


あの人のせいか!

まったくほんとにやめて欲しいな、あの人。

しかも弟ってなんだ?

あの人の家族になったつもりはないぞ。


「すいません。迷惑をかけました。でも間違ったことをしたつもりはありません」

「ええ、わかってるわ。正直、怒りたいけど我慢してあげる。無事に連れ戻せたから。でも・・・・・・もう二度としちゃ駄目よ」

「はい、わかりました」


そう先輩に答えて笑う。


こんな日常がずっと続けばいいのに。

そう思えてしかたがなかった。


そう・・・・・・この時はそう思ってた。




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