第二段階
決戦の日────当日。
俺は・・・・・・教室にいた。
「あの・・・・・・あと30分程で行かなきゃいけないんですけど」
俺は目の前にいる人物、荒野先生に文句を垂れていた。
「うっせぇんだよ。少し質問に答えてくれりゃいい」
相変わらず強引だ。
時間がないから早くして欲しい。
「勝つ算段はあるのか?」
「気合で勝ちます!」
「お前の目的は?」
「リンを取り返す。あと殴って勝つ!」
「やる気は?」
「土日に溜めました」
「女を抱いたのか?」
「はい! ────って何言わせるんですか! いや、抱いてないです。何もしてないですよ!」
「最後に・・・・・・オーガスは知ってるのか?」
「教えてません。これは・・・・・・俺のわがままですから」
「そうか。じゃあ・・・・・・死ぬ気で勝てよ」
「はい!」
荒野先生に勢い良く返答して龍の力を纏う。
そして魔方陣を描いて闘技場へと移動した。
戦闘開始二分前。
競技場に出る扉の前で俺は立っていた。
あとは呼び出しのアナウンスを待つだけ。
突っ走って勝つだけだ!
『対戦の準備が整いましたので予定を早め、対戦を開始します』
そのアナウンスと共に扉が開いた。
よし、行こう。
競技場に出ると周りからは非難の嵐が飛んできた。
俺は負け続けてるからこうなるのは当たり前のことだ。
ヴリトラ、準備出来てるか?
『ああ。あとはお前次第だ』
なら頑張らなきゃな。今日は見てる奴らを驚かせてやるんだ。
向かい側の扉が開いて中からサタナキアとリンが出てきた。
やっぱりリンがいた。
文句を言うつもりはない。
でもやっぱり悲しいな。
俺と対峙したサタナキアが口を開いた。
「余計なことさえしなければ黙っていようと思ったんだが、どうやら死にたいらしいな」
「勝手にいなくなったお馬鹿さんを探しに来たんだ。まったく変な奴に拾われたな」
「人間が! 調子に乗った口をきくな!」
「どっちが! 人の女寝取って我が物顔すんなよ!」
競技場内にチャイムが響き渡る。
それと同時に刀と魔法がぶつかり合う!
視界の端にリンの魔法陣が映る。
体を逸らしてそれを躱す。そしてサタナキアの顔面に刀を投げつける!
上体を逸らして避けたサタナキアの魔法が体に直撃して吹っ飛ばされる。
追撃をするサタナキアの腕を掴んで地面に叩きつける!
鋼の翼を羽ばたかせて加速した一撃とサタナキアの拳が重なり合って互いの体へと衝撃を加え合った。
「貴様・・・・・・何をした!」
サタナキアの叫びが魔法の槍と共に響く。
それを刀で受け止めながら答える。
「目を見ればわかるだろ。龍と二人三脚で戦ってんだよ」
「契約か。ふっ、馬鹿かお前は!」
刀が弾かれて視界が魔法陣で埋まる。
体を丸めてそれを受け切る。
拳を黒炎で包んでサタナキアの顔面に一発ぶち込んで叫ぶ!
「契約なんかじゃない。俺は・・・・・・龍を従えてんだよ!」
金曜日の夜。荒野先生と話した後にヴリトラと力の話をした。
そして龍の力の意味を知ったんだ。
力に形なんて無くて俺のイメージ次第でいくらでも変化する。
それは五感すら例外じゃない。
つまりだ、龍の力による五感強化。それが俺の得た力。
そして機械仕掛けの龍による身体強化と五感強化を合わせた────
英雄の戦闘スキルの再現。
「リリィ・・・・・・やれ!」
サタナキアの命令で俺に剣閃の雨が降り注いでくる。
まずは・・・・・・ゲイ・ジャルグ!
ディルムッドの持つ赤槍に似た黒炎の槍を振るって雨を弾く。
弾ききれない雨が俺の体へと突き刺さる!
痛てぇ。でも耐えられる!
サタナキアの体から出てきた魔物に駆け出して槍を突き刺す!
この槍の呪いは魔法を無力化する。
いくら強力な魔物でも無力だ!
次、ゲイ・ボウ!
黄槍に似た黒炎の槍を作り出して次々と湧く魔物を切り裂く!
癒えることのない傷を与えるこの槍は魔物を屠りサタナキアへの道を作っていく。
「来い、プルフラス!」
サタナキアの腹からフクロウの頭を持つ人間が出てくる。
なら・・・・・・モラルタ!
大きな激情の名を冠する剣を作りフクロウの頭を撥ねる!
どんな能力があるのかは知らないけど英雄の力の前じゃ無意味なんだよ!
「最後に・・・・・・ベガルタ!」
小さな激情の名を冠する剣をサタナキアの腕へと突き刺す!
サタナキアの魔法による抵抗も虚しく深々と入り込んだベガルタは黒炎の呪いとなってサタナキアの体内に消えていった。
「どうだ? 俺の集中モードとヴリトラの呪いの複合技は? 効いただろ?」
自分の腕を見て怪訝そうな顔をしてるサタナキアに笑ってみせる。
これが俺の修行の成果だ。
龍の力を合わせた集中モードでディルムッドの動きを見てコピーした。
まあ一日一回が限界かな。
体が痛いうえに疲労も一気に来る。
だが威嚇にはぴったりだ。
サタナキアの顔が憤怒の色に染まっていく。
「お前ぇ!」
闇の魔法が撃ち出される。
それをガードして刀を────
腹にサタナキアの拳が突き刺さった。
その後の蹴りの追撃。
それを腕を交差させて守る!
距離を取りつつ立ち上がる俺に闇の魔法が迫ってくる!
ぎりぎりで刀で弾く。
そして反撃────
リンの魔法陣が立ち上がる。
そしてそれから撃ち出される剣閃。
逃げるように後退した俺にサタナキアの腕が突き刺さる。
「リリィ、やれ! お前が殺せ! 信頼を置いた奴に裏切られ殺される。それが俺を傷つけたことへの罰だ」
追撃を命じるサタナキア。
だがリンは応えない。
魔法陣も使わないし動く気配もない。
どうかしたのか? でも少しだけ休める。
「すみません。やはり私には・・・・・・できません。御主人様、今までの御無礼お許しください。せめて・・・・・・私の命をもって償わせていただきます」
・・・・・・? 何を言ってるんだ?
なんでそうなる!? 御主人様────俺を攻撃したからか!?
だったら────
「だったら生きろ! 俺を傷つけたから? ふざけんな! 勝手にどっか行って、傷つけたから死にます? そんなんで許されると思うな!」
悲鳴を上げる体に鞭を打ってリンに近づく。
金曜日にリンは嫌だって言ったんだ。戻るのは嫌だって。
でも・・・・・・戻った。それは俺のせい。
そして今は勝手な償いで死のうとしてる。
リンの肩を掴んで叫ぶ。
「なんで勝手に決める! リンが死ねば収まるのか!? 全部、終わるのかよ! それは違う。・・・・・・違うだろ。だから一緒に生きる。俺はリンと一緒にいたい。少しでも悪いと思ってるなら、一生俺から離れるな」
「何故・・・・・・そのようなことが言えるのですか? 私のせいでそんなに傷ついたのに。学校では死にかけたんですよ! それなのに・・・・・・」
「決まってるだろ。それは────」
何かがおかしい。
心臓の鼓動が早くなってる。
そっか。そういうことか。
俺の戦う理由。
確かに迷う理由なんてなかったわけだ。
「それはハーレムを作るためだ! その為に俺は強くなる! 俺の周りの人は絶対に死なせない。だから・・・・・・答えろ!」
俺の叫びに呼応するように黒炎の火柱が上がる。
それは俺の体を包んで消えていった。
「第二段階。これが俺の進化の形だ」
龍の鱗はより猛々しく体を覆っている。
刀は消えて俺の拳を強く、そして硬く変化させた。
誰かを殺す剣じゃなくて守る拳ってか。
なるほど、結構好きだぜ。そういうの!
地面を蹴ってサタナキアとの距離を詰める。
サタナキアの攻撃を避けて腹に打撃を与える!
「誰かと殺し合うより────!」
背中に回り込んで更に一撃!
「女の子に囲まれて────!」
最後に黒炎を纏わせて顔面に拳をぶち込む!
「キャッキャウフフなピンク色人生を送る! それが俺の目標だ!」
俺の叫びにサタナキアが笑いだした。
「くっ、はははは! そんなくだらない理由で昇華するのか、龍の力は。まったく、低俗的で吐き気がする。来い、アモン! お前の力で全て焼き尽くせ!」
サタナキアの叫びに応えるようにサタナキアの腹から炎が舞い上がる。
そしてお兄さんに似た・・・・・・いや、それ以上の化け物が出てきた。
「己が主を討ち俺を倒すか! 人間!」
叫ぶサタナキアとアモンを目の前に笑う。
そして後ろを向いてリンに言う。
「リン、見ててくれ。絶対に勝つから」
「・・・・・・了解しました。御主人様のご武運を願っています」
リンが頭を下げて俺を見送った。
ご武運を願ってるってさ。
負けられないよな、ヴリトラ!
『思う存分・・・・・・暴れてやるぜ、主人様!』
俺の黒炎がアモンとぶつかる。そして俺とサタナキアの拳が重なり合う!
空中、地上。所構わずぶつかり合う三つの魔力は闘技場全体を巻き込んで爆発していく!
「うらああぁぁ!」
叫びと共にサタナキアに突き刺さる拳!
「お前なんぞに負けるかぁぁ!」
俺に放たれる拳と闇の魔法。
サタナキアの肉を抉り、俺の鱗が砕かれる。
そしてアモンとの魔法戦。
ヴリトラが放つ黒炎とアモンの放つ炎がぶつかり合い渦を描く。
絶対に・・・・・・勝つ!
アモンが俺とサタナキアの間に立ち上がって炎を纏い始める。
「これを避けてリンを殺すか。お前が受け止め死ぬか。どちらか選べ!」
「俺は死なない。そして・・・・・・殺させない!」
突っ込んでくるアモンの悪魔に刀の形に変化させた黒炎をぶつける!
「所詮は雑魚悪魔。俺達最上級には勝てないんだよ!」
「俺は・・・・・・まだ負けてねぇ!」
アモンを弾く。
だが俺にデカすぎる隙ができた。
無防備に開かれた体。
目の前に広がる大量の魔法陣。
それは俺の体を包むように大きく展開されている。
まだ・・・・・・飛べる!
龍の羽を広げて空を翔ける。
起動する魔法陣を鱗で受けて突き進む!
「しつこいんだよ! 糞人間が!」
「これで・・・・・・終わらせる!」
黒炎の刀と槍の槍がぶつかり合う!
くっ! 力が足らない。
このままじゃ押し負ける。
『俺の力を使って押し負ける? 有り得ねぇよ、そんなことは!』
刀が砕けて再結成される。
より大きく、より鋭利に。
その刀を振り上げて叫ぶ!
「これで・・・・・・俺の勝ちだ!」
ガードに使われた槍ごとサタナキアの体をぶった斬る!
サタナキアが地面に落ちて倒れた。
その近くに降り立って顔を覗く。
気絶してるみたいだ。
ってことは────
「勝ったぁぁぉあ! よっしゃぁぁ!」
俺の叫びと共に試合の終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。