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リベンジの前に



気がつくと高野にいた。


前にも来たことがある。

夢だ、これ。


俺は寝てるのか。

そりゃそうか。だって腕をくっつけるために手術してるんだから。

麻酔が打たれてるはずだ。


「またお主か。よく来るな」


目の前にいるお爺さんが話しかけてきた。


今は赤い雨が降ってないからだろう。傘をさしていない。


「俺の夢ですから。俺が来るのは当然だと思いますけど、」

「そうかもなぁ。だが気づいているのだろう? 只の夢ではないことくらい」

「まあ、なんとなくですけど。痛覚とか普通にありますし」


だからと言ってこれが何なのかはわからない。

明晰夢って聞いたことあるけどそれなのか?


「これは龍の夢。人と龍の狭間の世界。お主が扉の前に現れた時わしらは夢を見る」

「それがこの状態ってことですか。っていうか龍も夢見るんですね」


しかも俺を巻き込んで。

なんというか迷惑な話だ。

どうせ見るならハーレムの夢を見たい。

こう・・・・・・女の子に囲まれて、キャッキャウフフな夢がいい。


「だが・・・・・・お主は何故迷う? 何故踏み止まる?」


お爺さんの声が低く冷たくなっていく。


空は黒く染まり黒い蛇がお爺さんの体を包む。

そしてそれは鎧へと姿を変えていった。


「迷う理由は疾うに消えているはずなのに!」


大剣を携えた鎧騎士が叫んだ。


「頭で理解することと実際に行動することは違うんです。誰に支えられても感情が先走って台無しにする。それが・・・・・・俺なんです」


それの例が今朝のことだ。

先輩に作ってもらったリストバンドを壊して教室で暴れようとした。

頭に血が上って優先度なんてどうでもよくなる。


「・・・・・・あなたは俺が扉の前に立ってるって言いましたよね。それは力の扉、龍の力なんですよね?」


だったらまだ戦える。

また強くなれるならまだ守れる。

期待に応えられるかもしれない。


「残念だが時間がきた。お主が戦う理由を忘れるな。それを無くすと只の殺人鬼と同じだからのぅ」


お爺さんは最後にそう告げて大剣を振り下ろした。




腕に柔らかい感触を感じて目が覚めた。

間違いない。おっぱいだ!


先輩や理沙のような大きさはない。

っていうかかなり小さい。

まるで子供のような・・・・・・。

子供・・・・・・。まさか────


おそるおそる目を開けて横を見ると白が寝ていた。

やっぱりか。まさか妹のおっぱい触って喜ぶことになるとは・・・・・・。


「もう人間として駄目だろ・・・・・・」


ため息が出てきた。

カーテン越しに月の光が見えるから夜か。

ずっと寝てたんだ。


枕元に「起きたら下に来い」と書かれた紙が置いてあった。


白を起こさないように気をつけて部屋を出た。




「おはようございます」

「ああ。思ったより遅かったな。昼には起きてる予定だったんだが」


リビングでくつろいでる荒野先生に挨拶をして適当な椅子に座った。


「腕、ありがとうございます」

「お前を傷つけるとクシアがうっせえだけだ。・・・・・・あとオーガスもな」

「すいません、迷惑かけました」

「まったくだ、もう二度とすんじゃねぇぞ」


そして暫くの沈黙。


なんか気まずい。

怒られたからとかじゃなくて話しにくい雰囲気が漂ってる。

こういう時に限ってリンがいないし。


「・・・・・・龍の力ってのはお前の思いに応えるんだ。お前が迷えば力も迷う」


沈黙の空気の中、口を開いたのは荒野先生だった。


そしてその言葉は俺が何度も言われた言葉だ。


「わかってますよ。でも・・・・・・わからないんです。他人を変える力なんて言われて、魔王様から力を見せろって言われて。でも勝てなくて。何も・・・・・・出来なくて・・・・・・」


俺の無力さを知った。

どうしようもなかった。戦えば戦うだけ弱くなったように感じた。

でも強くなりたくて、沼にはまるように戦い続けた。


「焦って勝手に追い詰められてんだよ、お前は。願いをぶつけろって言っただろ。最初からお前になんか誰も期待してねぇよ」

「でもミカエル様は────!」

「あいつはレナを頼むって言っただけだ。和平のことは口にしてねぇよ。サタンは・・・・・・あいつのことは気にすんな。あいつは性格が悪いだけだ」

「でもこのままじゃ人間界が────」

「んな事は偉い俺達が考えることなんだよ。馬鹿がウジウジ考えても答えなんて出ねぇんだからな」


荒野先生の答えは俺の心に突き刺さっていく。

言い方ってものがあると思うんです。もっと優しく言っても良くないですか?

でも・・・・・・俺の中の焦燥感が消えていく。


「お前は一つ。たった一つでいい。絶対に忘れちゃいけないものを作れ」


そして荒野先生はそう続けた。


「絶対に忘れちゃいけないもの・・・・・・ですか?」

「ああ。どんなくだらないものでもいい。お前にとって大事なものを胸に秘めてろ。絶対に無くさないようにな」


荒野先生が少しうれいを帯びたように俯いた。


「荒野先生ってなんで堕天したんですか?」


少し気になった。だって荒野先生は悪い人じゃないから。

口は悪いと思うけど悪いこと考えてるように思えない。

だから堕天はしないと思うんだ。


荒野先生がため息をついて、こう答えた。


「女だよ。人間の女に手を出した。アザゼルの伝承を読んだだろ。それと同じだ」

「それが荒野先生の忘れちゃいけないものですか?」

「・・・・・・まあな。もう二千年近く前の話だ。悪魔との戦争中に人間に恋をした。だが天界にバレて堕天だ。しかも女は天使に処罰された」


処罰・・・・・・。つまり死だ。

人間に恋をした天使は追放されて、天使に恋した人間は殺された。

そんなのって・・・・・・。


荒野先生は自嘲するように笑って続ける。


「そん時に約束したんだ。こんなくだらない戦争終わらせて、種族間に囚われねぇ世界を作ってやるってな。・・・・・・くだらねぇだろ。勝手に規則破って、勝手に恨んで決めたんだ」

「俺は・・・・・・凄いと思います。だって俺だったら復讐してたかもしれませんから」


例えば理沙が殺されたら、俺はそいつを殺すと思う。

御剣も復讐をしようとして悪魔になったんだし。

多分俺もこの力を使って戦うと思う。


「俺だって殺してやりたいって考えてるぜ。でもそいつに誓った約束だけはぜってぇ守りてぇんだ────って何泣いてんだ? いきなりきめぇな」


荒野先生に言われて気づいた。

俺、泣いてる。

なんでかわからないけど止まらない。


でも綺麗だって思った。

ずっと頑張ってきて、やっと身を結んだんだから。

ほんとに良かったと思ったんだ。


「ありがとうございます。俺、決めました。俺のたった一つの願い。俺は────」

「言わなくていい。月曜日、サタナキアと戦え。そこで見せてみろ。お前の答え、お前の未来を」

「はい!」


そう言って部屋を飛び出した。


サタナキア・・・・・・。

絶対に勝つからな!




次の日の朝。

当然のように朝ごはんを食べてる荒野先生は置いといて、リンの姿が見えない。

携帯に連絡しても反応がない。


皆に聞いても知らないって言ってる。

白に聞いた話だと昨晩は家にいたらしい。


昨日俺が起きたのが午前三時だからその前に家を出たってことか。

でも荒野先生も知らないって言ってるのはおかしいな。


「転移魔法陣だろ。どこ行ったか知らねぇが痕跡なく消えたならそれしかねぇ」


白に聞こえないように荒野先生が呟いた。


転移魔法陣・・・・・・。

あれは確か一回行った場所にしか行けないはずだ。

厳密には頭の中のイメージと噛み合う場所にしか行けない。

だから本などで得た知識は役に立たないはずだ。


「だとしたら魔界に行った。ということは・・・・・・」


サタナキアに会ってる。

今までサタナキアの奴隷として生きてきたリンに他の選択肢はない。


俺のせいだ・・・・・・。

昨日俺が感情的になって暴れようとしたから。


「春、落着きなさい。あなたがまた感情的になって乗り込んだらリンの考えまで無駄になるわ」

「わかってます。すいません、ちょっと部屋にいるんで食べ終わったら教えてください。洗い物しなきゃいけないんで」


先輩にそう答えて部屋を出る。


どうせ月曜日戦うんだ。

その時に負けないように・・・・・・今は耐えよう。

教えてもらっただろ。たった一つでいいから忘れるなって。

感情的になって全部終わらせるのは駄目だ。


『少しは大人になれたな、主人様』


頭の中に声が響いた。ヴリトラだ。


あんな話聞いてそれでも馬鹿やるわけにいかないだろ。

それよりわかってるだろ? 月曜日のこと。


『力の扉。第二段階セカンド・ギアか。どうだろうな、本当に力が昇華するかは謎だぞ』


それでもサタナキアに勝つにはそれしかないんだ。

明後日までにどれだけ強くなれるか。

それが勝負だ。


『くくく、わかってきたな。血が上ってるくせにクールに考えてやがる』


うるせっ。とにかく強くなるんだ。

今はそれだけ考えればいい。

絶対にしくじるなよ。


『お前こそな。見て覚えるなんて無茶を成功させろよ。じゃなきゃ勝てないからな』


お互いに無茶をしなくちゃ勝てないのか。

なんか面白いな。「俺」の最後の戦いにぴったりだ。


『俺は主人様のせいで力が出ないんだ。俺が弱いわけじゃない』


鏡を見ると少しだけ昨日の話し合いの成果が出ていた。


ヴリトラの言葉を受け止める俺の顔は笑みを浮かべている。

その目に龍を宿しながら・・・・・・。


「じゃあ・・・・・・早速やろうか。俺の新しい力の形を試そうぜ」




闘技場ではジークフリートとディルムッドが戦っていた。


「すげぇな。剣と槍を二つずつ操ってる」


ディルムッドの戦いを見て思わず声が漏れた。だって二本の槍を巧みに操って龍宝の聖剣(バルムンク)と打ち合ってるんだから。


集中モードでもぎりぎりでしか見えないレベルの戦い。

音が遅れて聞こえるレベルだ。

これが・・・・・・人間界の英雄同士の戦い。

こんなの・・・・・・追いつけるわけないだろ。


一瞬の閃光。

そうとしか言えない槍の連撃。

遅れて聞こえる鋼の音が複数の攻撃であることと龍宝の聖剣が防いだことを教えてくれる。


ディルムッドの剣。確かモラルタとベガルタといったやつだ。

それがジークフリートの腕を切り裂く。


槍を囮に使ったのか!?

あの一瞬の攻防でそんなこと思いついたのかよ。

すげぇ、凄すぎる!


瞬時に回復するジークフリートの腕。

それと共に振られる龍宝の聖剣。


ベガルタが折られディルムッドの体に叩きつけられる。


その後も激しい鍔競り合いを繰り広げる2人。


俺はそれを脳に焼き付けるように見続けた。




家に帰ると白がニュースを見ていた。

少し子供らしくないな。

もっと外で遊ぶとかして欲しい。


「あっ、お兄ちゃんだ。おかえりなさい」

「ただいま。レナたちは?」

「まだ学校だよ。お昼は理沙さんが作ってくれるって」

「えっ、マジで? 適当に断っといて。荒野先生から貰った材料が余ってるからそれで作る」

「うん、わかった」


昨日の夜ごはんは荒野先生が作ってくれたらしい。

冷蔵庫に沢山の野菜と肉が入ってるからわかる。


これもお礼言わないといけないな。

お世話になりっぱなしだ。


「ねぇ、お兄ちゃん」

「どうした? 腹減ったならすぐ作るから待ってて欲しいんだけど」

「そうじゃなくて・・・・・・。痛いところある?」


白の言葉に心臓が跳ね上がった気がした。


「ないけど・・・・・・どうかしたのか?」

「ううん。もしかしたら・・・・・・また我慢してるのかなって思ったから」


バレたかと思った・・・・・・。

白に悪魔のことを知られたら終わりだ。

白は人間のままで何も知らなくていいんだから。


「夢・・・・・・見たんだ。お兄ちゃんがいっぱい怪我してるの。でも大丈夫だって笑ってる夢」


白が語った夢は少し前の俺のことみたいだ。


てか話に聞くと怖いな。傷だらけで笑ってるって。

周りの人にもそんな思いをさせてたのかな。

だったら気をつけないと。


「そっか。そういうお兄ちゃんは嫌か?」

「うん。お兄ちゃんは家族だから嫌なことは嫌だって言って欲しい。隠し事ばっかりの関係は家族じゃないもん」


可愛い! さすが妹だ!

ちょっと抱きしめたくなったぞ。

今の俺の唯一の癒し。

最高だ!


「お兄ちゃんニヤけてる。気持ち悪い・・・・・・」

「マジで!? ちょっと待って、すぐに戻す! だから気持ち悪いなんて言わないで!」


「ただいま────って春? なんで口を押さえてるの?」


ドアが開けられて理沙が入ってきた。


「白に嫌われないため」

「その考え方が嫌われる原因じゃないかしら。春も少しは大人にならないとね。ねぇ白ちゃん?」

「はい! お兄ちゃんも理沙さんを見習った方がいいよ」

「余計なお世話だよ。じゃあ昼ごはん作るから白はテレビでも見て待っててくれ」


白を台所から追い出して息を吐く。


家族・・・・・・か。

何でもお見通しみたいだ。

昨日隣で寝てたのもそういうことだったのかもしれないな。

だったら・・・・・・もっと強くなって、もっと頑張らないと。


「なあ理沙」

「何? レナさん達ならまだ帰ってきてないわよ」

「そんなことわかってる。今日・・・・・・泊まるの?」

「えっ? 泊まる? 珍しいわね、春から聞いてくるなんて」

「別に・・・・・・いいだろ。泊まるなら準備しなきゃいけないことあるし」

「準備・・・・・・? はあ、そういうことね。わかった、泊まるわ」


ため息をついた理沙の顔が少しだけ赤くなった。

察してくれたんだ・・・・・・。

理沙には悪いけど少しだけ魔力を貰う。

すぐに回復するし問題はないはずだ。


今夜の実験が終われば・・・・・・あとは本番だけ。

緊張してきた。今からしてどうすんだよ! 落ち着け、俺!


「よし、じゃあ昼ごはん作っちゃおうぜ。そして夜に備える!」


そして・・・・・・絶対勝つ!



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