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紅の悪魔


「なら良かった。じゃあ────あいつを何とかしないとね」


漆黒の獣は俺達から距離をとって唸り声を上げていた。まだまだ余裕ですってことかよ。ほんとムカつくやつだ。

俺の足元に落ちてる礼装を見た女の人が驚いたように手を口に当てる。


「うっそ! こんな安物であれと戦ってたの!? 君・・・・・・勇気と無謀を履き違えてない?」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ! 早くあれを何とかしないと!」


目を離した隙に狼が迫ってきていた! この人が来たところで絶体絶命なのは変わらない。それどころかやばくなってるかも可能性すらある。


「ああいうのは────」


女の人が背中から何かを取り出した瞬間────

────狼が八つ裂きになった! 何が起きたのか全く分からなかった・・・・・・。あの人が手に持ってる鞭がやったのか? でも鞭で体が切れるのかよ・・・・・・。


「高い礼装を使わないと駄目なんだよね、これが」


女の人が鞭をしならせて笑う。マジかよ。確かに俺の礼装は学校で配られた支給品だ。でもここまで差がつくものなのか・・・・・・?

目の前に散らばった肉片。いとも簡単に粉々になったそれを呆然と見つめる俺に女の人が言う。


「じゃあ、少し移動して休もうか。ここだと見つかるし」

「動くんすか。今死にそうな程痛いんですけど・・・・・・」


はっきり言って体中ズタズタだ。移動するなんて出来そうにない。


「なら尚更だよ。速く逃げないとあいつの親玉が来るからね」


親玉? 何言ってるんだ、この人は。だって悪魔は倒した。だったらもう何も来ないはず。なのにこの人は、まるでこれが悪魔じゃないかのように話してる。

俺の考えを見通したかのように女の人は続けた。


「桂木くん、よく考えてみて。あの能力のないただの獣が人間を跡形もなく消すことが出来ると思う?」

「それは────」


無理だ。あの爪で殺したとしても必ず出血する。血の一滴も流さずに殺すことは出来ない。ってことは────ここには他の悪魔がいるかもってことか! そしてあいつはその悪魔の手下で、こいつが殺されたなんて知ったら・・・・・・。


「じゃあ、早く逃げま────」

「しっ! こっち来て」


俺の手を掴んだ女の人は電柱の裏へ入って身を隠した。これで何とかなるのか? 俺の体半分近く出てるけど・・・・・・。

獣の作った血溜まりに誰かが降りてくる。悪魔って空を飛べるってのは本当なんだな。バレたら逃げるのは一苦労だ。それだけじゃない戦うのだって難しい。


「誰がこんなことを・・・・・・」


悪魔が何か呟いた。女みたいな声だ。女なら勝てるか・・・・・・? 今は隠れて様子を見て・・・・・・後で探し出して倒す。その為に姿を見ないと。

電柱から少し顔を出して悪魔を見る。そこにいたのは────


「────そこにいるのは誰!?」


真紅の長髪。スタイルが良くて、性別を問わず魅力するくらい綺麗で・・・・・・


「火野村・・・・・・先輩?」

「嘘・・・・・・。あなた・・・・・・、春?」


血溜まりの中、火野村先輩が俺を見ていた。







次の朝、俺は自室のベッドで目を覚ました。昨日、火野村先輩と会った後のことは何も覚えてない。多分、何もなかった。俺は生きてるし横に半裸の男もいる。・・・・・・いる?


「うわあああああああああああああ!」


なんだこれ! なんだこれ! なんだこれ!? なんで半裸の男が俺の横に!? しかも知らない奴! こんなのと会った覚えないし家に上げた覚えもない!


「んー? おー、起きたか」

「いや誰だよお前!」

「忘れたのか? 一生を誓った仲だぞ」

「んなわけあるかぁ! 誰が男と誓いなんて立てるかつーの!」

「なんだよ、忘れちまったのか。ったく、めんどくせ」

「無視かよ! もう、なんなのお前・・・・・・」


何で半裸で俺の横で寝てるの・・・・・・。しかも俺も半裸だし。もう嫌。なんで俺の家で、俺の横で、俺の知らない男が寝てるんだよ。


「あー。俺は2度も名乗る趣味はねぇんでな。思い出してくれ」

「いや名乗れよ! 思い出すまで教えろよ! お前馬っ鹿じゃないの!?」

「はあ。お前、うっせーな。叫ぶことしか出来ねぇの?」

「うっせーのはお前だぁ! 何で俺の質問に何一つ答えないの!? 話が何にも進まねえ!」

「はいはい。消えればいいんだろ。ったく、耳がいてぇ・・・」

「いやそうじゃねえよ! 答えろって言ってんの!」


俺の部屋から出ようとした男に叫んだ。マジで誰なの、こいつ。もうわけわかんねえ。誰か話が通じる人が欲しいよ。通訳プリーズ・・・・・・?


「ふわぁ、眠。あー、じゃあこれだけ教えてやる」


ドアノブに手を掛けたまま、男は続ける。


「信用する相手を考えろ。下手すりゃ死ぬぜ、お前」

「はぁ? 何言ってんだよ、お前! どういう意味だ!」


部屋を出ていった男を追いかけて問う。だが、男の姿は既に消えていて俺の問いは空に消えていった。





なんだったんだよ、あの男。変なことされてないだろうな、俺の体。まだ綺麗なままだよな、俺の体!


「おはよ、桂木くん」

「うん、おはよう────って、なんでえええええ!」


リビングへと入った俺に女の人の声がかけられた! 昨日の夜とは違う。ポニーテールと制服エプロン。そして鍋を手に持っている!


「えっ! えっ! えっ!? 何でいるんですか!?」

「んー? 忘れちゃった? 昨日、君を家まで送って、看病までしてあげたのに?」


そういえば・・・・・・傷が治ってる? これってもしかして────


「治癒魔法。すげぇ! 初めて見た!」


治癒魔法ってのは文字通り、傷を癒す魔法だ。変化し続ける傷の様子をイメージし続けなくちゃ発現しない最高難易度の魔法・・・・・・。

驚いた俺に女の人は自慢げに胸を張る。


「ふっふーん。私の得意魔法。見直した?」

「はい! なんていうか・・・・・・感動ですよ! えっと────」

早乙女渚さおとめなぎさ。3年生だよ」

「早乙女先輩! あっ、俺は────」

「桂木春だよね? 2年の魔法、学年1位の」

「はい。そうです。意外と有名なんですね、俺」


学年1位だからかな。 そうだよ、あんだけ頑張ったんだから。もしかしたら女の子から告白が────


「うん、有名だよ。美少女2人を独り占めしてる奴って」


全然違かった・・・・・・。そういう方向で有名なのかよ、俺って。どおりで先輩達から目をつけられるわけだ。


「はは・・・・・・。ところで昨日のことなんですけど」

「うん。一連の事件の犯人は火野村桜花。彼女程の魔力を持ってる人なら納得もいく」

「じゃあ早く聖騎士に・・・・・・」

「それはやめた方がいいかもね。大人よりも私達高校生の方が魔法を使い慣れてるのは知ってるでしょ? だから足でまといになる可能性の方が高いわ」


魔法が発見されたのは8年前・・・・・・。そして聖騎士協会────つまり、対悪魔組織が組まれたのは3年前。自衛の為に魔法が授業に組み込まれたのが5年前。俺達の方が魔法を使ってる期間が長い。それに、高レベルの魔法を使える早乙女先輩と学年1位の俺。

相手は火野村先輩1人。だったら2人で何とかなるかもしれない。もし、知らせて俺達が省かれたりしたら・・・・・・。死人が増えるだけ。だったら────


「分かりました。俺達2人でやりましょう」


火野村先輩を、憧れを倒す。俺の言葉に早乙女先輩は微笑んで頷いた。








「ねぇ、お兄ちゃん。あの人、凪姉なぎねえに似てるね」


朝食の時に白が言った。因みに俺は凪姉なんて人は知らない。だからか、白の言ってることは分からない。ということで日向に聞くことにした。


「凪姉? うん、知ってるよ。春くん、もしかして・・・・・・忘れちゃったの?」


どうやら日向は知ってるらしい。日向の口振りからして、桜も知ってるみたいだ。じゃあなんで俺は知らないんだ?

まあ、こういうこともあろうかとアルバムを持ってきてる。アルバムを開いてみると確かに見知らぬ女の人が写っていた。もしかしてこの人が?


「これ桂木か? うわっ、真顔ばっか」


アルバムを覗いてきた白泉が言った。ムカつくけど確かに真顔しかない。小さい頃の俺、超無愛想だ。


「わぁ、小さい日向ちゃんすっごい可愛い!」

「えへへ。そうかな」


周りの女子が騒ぎ出した。今はそんなことしてる暇なんてないのに。いつも俺の横にいるこの女の子。この子は誰だ?


「なあ、日向。この人、今どこにいるんだ?」

「えっ・・・・・・。えっと、遠い、所かな・・・・・・」


曖昧に答える日向。引越しでもしたのか? 今は近くにいないらしい。本人に会えば何か分かるかもって思ったんだけど無理みたいだ。


「それにしても懐かしい。この時は父さん達も生きてたんだよな」

「うん。楽しかったね、あの頃は。何も考えないで毎日遊んでたよね!」

「日向は今も考えてないでしょう。毎日寝坊して迷惑をかけて・・・・・・」

「あ、あー! 桜ちゃん春くんと手繋いでる! おませさんだ!」

「なっ! ち、違います! これは────」


人をダシに使うなよって言いたくなったけど、桜の小言は俺も聞きたくない。まあ、こういうことを言うと・・・・・・。


「はあ? マジかよ! 死ね!」

「やっぱ幼馴染みだよなー。あーあ、俺も可愛い幼馴染み欲しい」


周りの男子が騒ぎ出すんだ。ほんと飽きないな、こいつら。逆に尊敬するよ、本当。

1人の男子がアルバムの一端を指さした。


「なあ、桂木。これはどういうことだ?」

「へっ────?」


男子が指さしたのは俺と日向がキスをしてる写真だった! なんだこれは!?


「あー、これあれだね。婚約の時」

「婚約!?」

「うん。皆やったよね? 紙に婚約書って書いて遊ぶやつ・・・・・・。あれ? やらない?」


流石の日向も気付いたみたいだ。周りの空気がおかしい。周りの視線が一気に俺に集まって男子が駆けてきた!


「お前ふざけんなよ! そんなことしたことねぇよ!」

「うん。普通はしないと思うよ、俺は・・・・・・」

「ならなんだよこれ! お前あれか! 恋愛対象じゃないってのはこれがあるからか!」

「いや、違うけど・・・・・・。てか今更だろ、こんなの。俺だって忘れてたし」

「お前はしらねぇよ! もし如月が覚えてて本気にしてたら────」


どこの二次元世界だ! 実際日向も忘れてただろ・・・・・・。

でもこうなったら何しても無駄なのは分かってる。好きなだけ騒がせて落ち着くのを待ってた方がいい。俺の精神的に。

ただ・・・・・・、日向の顔が少し赤いのが気になる。まあ、子供の時とはいえ皆の前でバレたら赤くもなるか。


突然周りの騒ぎが掻き消えた。っていうよりより大きな騒ぎが生まれたんだ。俺の教室に入って来る騒ぎの元凶────


「ここ、桂木くんのクラスよね? いるかしら?」


火野村先輩。いや、火野村桜花が人混みの中から顔を出した。

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