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クーリングオフ?



「もう勝てる気がしない」

「御主人様、間違っています。勝てないのが普通なんです」


机に突っ伏す俺にリンが治癒魔法をかけてくれる。


「でも勝たなきゃいけないんだろ。何とかしないといけない」


────力を見せ付ければいい。


魔王様に言われた言葉だ。

闘技場で勝って俺の強さを戦争を肯定してる人たちに見せるんだ。

そして黙らせる。


「・・・・・・御主人様の考えは前提が間違っている気がします」

「どういうことだ? だって魔王様は────」

「アザゼル様は願いをぶつけろと言いました。それに魔王様も力で黙らせるつもりなら闘技場になんて出さないと思います」


リンの言いたいことがわからない。

だって勝たなきゃ願いも何も無いだろ。

和平を守るためにも強くならなきゃいけないんだから。


「少し休んだらどうですか? 彼女さんも少しは労わないとそっぽ向かれてしまいますよ」


リンが微笑んだ。


リンは焦らないのか? この状況に。

だっていつ死んでもおかしくないんだ。


いつ悪魔が襲ってくるのかもわからないのに。


「御主人様、よく考えてください。魔王様とミカエル様が言ったことの意味を」


魔王様とミカエル様の考え。


そんなのわからない。

戦って勝てばいいんじゃないのか。


「やっぱりわかんねぇ。リンはわかるのか?」

「御主人様は他者を変える力があります。それは御主人様の願いや思い。それが真っ直ぐに伝わってくるからなんです」

「じゃあ、他の悪魔の考えを変えろってこと?」

「そうではありません。御主人様は無駄に考え過ぎなんです。もっと素直になってください」


充分素直だと思うけど。

おっぱいって叫んでる人間はそんなにいないぞ。


「そういうことではありません。あなたの未来ビジョンの話です。あなたにとってのハーレムとは原動力として働けばよろしいのですか?」


リンの質問に体がビクッと反応した。


桜にも言われたことだ。

戦う理由になれってことかって。


それは違う。

違うけど・・・・・・


「最近のあなたは生き急いでるように見えます。あなたの目的は和平ですか? 違うでしょう。責任を感じるのはわかります。ですがそれによって未来を犠牲にしてはいけません」

「うるさい。わかってるから黙って」

「・・・・・・失礼致しました」


それを最後に黙るリン。


わかってる。

そんなことわかってるんだ。

でも・・・・・・。


ああもう! 考えてもわかんねぇ!

決めた。やっぱり動く!


「・・・・・・どっか行くの?」


立ち上がる俺にレナが話しかけてきた。


「頭冷やしてくる」

「・・・・・・死ぬ?」

「かもな」


そう言って教室を出た。




「んで、何で俺のとこにんだよ」


ソファで寛いでる荒野先生が舌打ちする。


ほんとに教師か? この人。


「お願いします。俺と戦ってくれませんか」

「嫌だ、めんどくせぇ」


即答だ。

偉い人は俺なんか相手にしてる暇なんてないんだろう。


「じゃあ俺よりも強い人を紹介してくれませんか。足元にも及ばないくらい強い人を」

「・・・・・・めんどくせぇな。闘技場にでも行け」

「それじゃあ意味が無いんです。だからお願いします!」

「しつけぇな。わかったよ、適当に呼んでやる。今日の放課後演習場に来い。そこにいる奴と好きなだけ戦ってろ」


舌打ちを交えつつ荒野先生が言った。


「ありがとうございます!」


俺は一礼してから教室を出た。




放課後の演習場にいたのは火野村先輩だった。


火野村先輩と戦えってことかよ。

確かにすぐに呼べる適当な人だけど。

それはないだろ。


「アザゼルから話は聞いたわ。あなたは何でこんなことをするのかしら?」

「俺に必要なことなんです」


戦わなきゃいけないフィールドじゃなくて逃げられる場で本気で戦いたい。


ハーレムは決して戦う理由なんかじゃなくて・・・・・・。

俺の目的だから。


誰かと笑らえるために。

力に拘わる戦い方は嫌だから。


「だから・・・・・・いきます。二重起動ツインドライブ────Booster(ブースター)


鋼の翼を生やして空を飛ぶ。


「わかったわ。これもあなたの為なのね」


先輩の体が黒く変色していく。


アモンの力。

先輩も本気で戦ってくれる。


俺の本当の思い。

それを知るために・・・・・・


空を駆ける、




演習場の中に爆発音が響く。


俺と先輩の魔法がぶつかってあって散っていく音だ。


巨大な砲台から出す魔法を全て相殺される。


突っ込んで行くも軽くいなされる。


一回も当たらない。

どれだけ速く動いても。

どれだけ強く放っても。

全てを弾かれる。


「うらあぁぁぁ!」


刀を先輩の首目掛けて振るう。


「これは以上は無駄よ。続ける理由がないわ」


刃を掴んだ先輩がなだめるように言った。


「あなたに無くても俺にはある!」


刃に黒炎を纏わせて先輩の腕を焼く。


黒炎は先輩に呪いの跡を残して消えていく。


これで身体能力の低下が起きる。


これで・・・・・・勝てる。

ジークフリートには無理だったけど先輩ならあの人程実力は離れてないはずだから。


「あなた、力に溺れてるわ。勘違いしてる。そのままじゃ暴走するだけだわ」


先輩の目は同情に満ちていた。


「溺れてる? どこがですか? ちゃんと操れてる!」

「じゃあこの呪いは何? あなたの意思で使ったの? あなたは呪いのイメージをしたの?」

「それは・・・・・・しましたよ。魔法が使えてるんだ、当たり前じゃないですか!」


実際は違う。

使えるようになっていたから使っただけ。

イメージじゃなくて命令で使ってる。


「龍の力って意志があるのよ。もし、その意志が魔法を発現させているならあなたは────」

「違う! そんなことない! だって俺は・・・・・・守りたい人がいる。それは・・・・・・忘れたことなんて」


先輩の声を遮って叫ぶ。


忘れたことなんてない。

だから迷ってない。

力に溺れることなんてないんだ。


ずっと想ってる。

俺に出来ること、俺が守りたい人のこと。

だから────


俺の体が先輩の温もりに包まれた。


先輩の体は柔らかくてさっきまでの力が嘘みたいに感じる。


「何であなたは背負うの? 私は信用できないの? 傍にいるって言ったじゃない。少しくらい私にも弱いところを見せて欲しいわ」


先輩の声は聞いたことのないものだった。


いつもと違う。

普通の女の子の声だ。


気を張ってない。ただ、普通に心配してくれてる。

そんな感じがする。


「・・・・・・一週間。どんなに頑張っても勝てなくて。でも勝たなきゃって思って・・・・・・。力が欲しくて。ずっと、ずっと願ってた。忘れてたんです、全部。何の為の勝利なのかわからなくなるくらい勝ちたかった」


無意味な建前なんか作って、弱さを隠してたんだ。

だから────


「独りよがりの強さに意味なんてないわ。私が強くしてあげるわ。だって私は・・・・・・あなたの主だもの。あなたの為に私の全てを捧げるわ」


先輩の声は意志の強い、いつもの声に戻っていた。




「なんですか? これ」


次の日の朝。

先輩にリストバンドのような物を渡された。


「魔界で流行っている魔力の制御装置よ。それを私が少し手を加えて重りにもしたわ」


つまり魔力を抑えつつ筋力アップさせる道具?

筋力の方はともかく、何故魔力を抑える必要があるんだ?


「制御装置があっても問題なく魔法が使えるようになれば魔法を形作るイメージが強くなってる証になるわ。それに龍の力も封じることが出来る」


先輩のドヤ顔は置いといて、言いたいことはわかる。

ていうか一日でこんなの作ったのか。


龍の力に頼ってる俺の戦闘スタイルを改善させて能力アップまでする。

凄いな、こんな方法思いつくなんて。


「では御主人様、私は先に行くね。桜花様も今日は御主人様ではなく私と共に出てください」


制服姿のリンが先輩の手を引っ張ってリビングを出る。


「・・・・・・なるほど。じゃあ春、またお昼に教室に行くわ」


そう言った先輩の姿はもうなかった。


レナもいないし。

理沙と一緒に行けってことか。


「じゃあ俺たちも行くか。洗い物してからだけど」

「う、うん。わかったわ!」


リストバンドをはめながら理沙に声をかける。


って重いな、これ。

両手、両足に付けて歩くのか。

なんか大変そうだ。




「ありがとな、手伝ってくれて」


洗い物が終わって家を出た。


理沙が泊まりに来てから日向と桜が迎えに来ることも少なくなって先輩とかリンとみんなで一緒に行くことが多くなった。


今日は二人だけど。

昨日のリンも言ってたけど、たまにはこういう日があってもいいかもしれない。


「二人でやれば早く終わるわ。そしてゆっくり登校できる。沢山話せるし良いこと尽くめね」

「嫌じゃないならいいんだけどさ。親は大丈夫なのか?」

「ええ。友達の家に泊まるって言ってあるわ」


それで何とかなるんだ・・・・・・。

なんて言うか割と自由な家だな。


「このまま何も起きなければいいのにね」

「そうだな。それが一番いいんだけど・・・・・・」


そううまくはいかないんだよな。

今だってとりあえずトレーニングしてるし。


「そうだ、今度遊び行こうか。なんか、こう適当に!」

「ふふ、デート?」


言葉が上手く出ない俺を理沙が笑う。


「違う・・・・・・気がする。なんか思い描いていたものと違う」

「そう? 私は春らしいと思うわ」


それはどういう意味ですかね?

はあ、デートに誘うくらい出来なくちゃ駄目だよな。


やることは沢山ありそうだ。




「帰ってください! もう・・・・・・私は────」


教室の中からリンの声が響いた。

廊下にいる俺に聞こえるくらいだから結構大きい。


「じゃあまた昼にな」

「ええ。デートの話ね」


理沙とそう約束して別れる。

デートは土曜日────明日に決定した。


授業が午前で終わるから直接遊びに行く予定だ。

今まではずっと家で家事をしたりテレビを見てたから初めてのデートだ。

緊張するな。


でも・・・・・・やっとこのイベントだ!

どこ行くか決めないと。

やっぱりゲーセンか?

無難に映画館でもいい気がする。


ああ、でも初デートだからな。

奮発して遊園地とかでも。

駄目だ、時間が無い。


迷うな。

変に冒険して変な空気になるのは嫌だからやっぱりゲーセンか映画館だよな。


明日のことを考えながら教室に入る。


なんか空気が悪い。

静まり返った教室。


原因はさっきのリンの声らしい。

そしてリンの目の目には・・・・・・


「何でお前がいるんだ・・・・・・。サタナキア!」

「久しぶりだな、人間。そうだな、リリィを返してもらいに来た」


そう答えるサタナキアの顔は焦りに満ちていた。


前に会った時とは雰囲気も違う。

何かあったのか?


「嫌に決まってるだろ。第一お前がくれるって言ったんだろ」

「精霊とのハーフは商品になるそうだ。それをくだらん賭け事に使うなとお父様に言われた」

「そんなこと知るかよ! リンは商品じゃない。俺の家族だ」

「わかっている。俺も自分の言葉に責任を持つつもりで来た」


サタナキアがトランクを取り出して開いた。

中に入っていたのは金だ。

トランクケース一杯に詰まってる。


「二億だ。これで買い戻す」

「二億・・・・・・。だ、駄目だ。金でなんか渡さない」

「御主人様、少し迷いましたね。少し残念な思いです」


リンが俺の後ろで小さく呟いた。


しょうがないだろ。

二億って・・・・・・。そんだけあれば白にどれだけご馳走が食べさせられるか。

しかも私立にも行かせられる。

正直、喉から手が出るほど欲しい。


「ならばオーガス・アモンの命でも賭けようか」


サタナキアが出した提案に俺の中の時間が止まった。


「どういう意味だよ、何で先輩が出てくる」

「アモンの悪魔はサタナキアの眷属として生きている。闘技場で見ただろう」


サタナキアとの「ゲーム」

確かに炎を操る悪魔が出てきた。


サタナキアの伝承にもあることだ。

アモンの他にも沢山の悪魔を配下にしているらしい。


「それを開放してやると言ったら?」

「なっ! そんなこと・・・・・・出来るのか?」

「あれは強い力を持った悪魔だが代わりはいくらでも見つかるものだ。だがリリィは違う。精霊とのハーフはリリィ一人しかいないからな」


先輩を・・・・・・開放できる。

先輩は今は自由かもしれない。

でも将来はどうかわからない。


サタナキアの提案は俺にとっても、先輩にとっても有益なものだ。

他とは違う一つの団体として自由に動けるっていうのは大きいから。


でもリンはどうなる?

商品? 奴隷? ふざけんな。

そんなの絶対嫌だ。


「大変嬉しいお話をありがとうございます。ですが俺の考えは変わりません。リンは渡さない」


多分先輩も同じ答えを出すと思う。

だからすいません、先輩。

俺はまた戦います。


「これ以上しつこく騒ぐなら、今度こそぶっ飛ばす!」


リストバンドが黒炎に消える。

それが着物へと変化して刀を作る。


「下手に出てればこれか・・・・・・。いいぜ、来いよ。こっちの方が話も早い。お前を殺して連れて帰ればいいだけだからな!」


俺とサタナキアの視線がぶつかる。


俺の刀とサタナキアの魔法が同時に抜かれて────


光にぶつかった。


「お前ら何やってんだ。ここは戦闘禁止だぞ」


間に立ちはだかった荒野先生が怒気を孕む声を出した。


「一回殴る。ただそれだけです。あいつの何もかもが気に入らない」

「同感だな。お前を見てると殺したくなってくる。人間」

「じゃあ二人とも俺が殺してやる。殺し合いの続きは地獄でやってろ」


俺の腕に光が走る。

鮮血と共に腕が飛ぶ。


サタナキアも同様に片腕を無くしていた。


「続けて死ぬか、今すぐ俺の目の前から消えるか選べ」


圧倒的な力を振るった荒野先生が言った。


「アザゼルが・・・・・・。余計なことをして・・・・・・」

「人間界で暴れるな。お前はガキでも守れるルールが守れねぇのか? なら仕方ねぇな、今すぐサタンに突き出して矯正してもらうか」

「ちっ! 話は後だ。覚えてろよ、人間が」


サタナキアが舌打ちを残して消えていった。


「んで、お前は今まで何してやがったんだ? 人間界で暴れたら聖騎士がでしゃばってくることくらいわかるだろ」


お前はまた同じ過ちを犯すのか。荒野先生はそう言ったように聞こえた。


「すいません、感情的になりました」

「周りを見ろ。守りたい奴を危険に晒して吠えるな。力だけが手段じゃねぇ。あとお前、謹慎な。次やったら退学だ」

「・・・・・・はい、わかりました。ありがとうございます」


落ちた腕を拾って鞄を持つ。


リストバンド・・・・・・速攻で壊れたな。

先輩にも怒られそうだ。


あと腕。

また金がかかりそうだ。


「落ちた腕持ってどこ行くんだよ。お前は自己的に治癒が出来んのか?」


荒野先生がため息をついて俺の腕を取った。


「闘技場に行けば治癒かけてもらえるんで大丈夫です。この一週間で何回か落ちかけたことありますし」

「・・・・・・ああ、もう! 来い! お前の力が狂った理由がわかった。闘技場なんか行かせるんじゃなかった。ったく、ほんっとに面倒な奴だな、お前は!」


荒野先生に首を掴まれて引きずられる。

そして視界が光に包まれた。


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