会談の後に
目覚めると自室にいた。
いつも通りの展開だ。
違うところがあるとすれば死ぬ程痛い筋肉痛と魔力切れによる倦怠感くらいだ。
隣で寝ているリンと理沙を起こさないように起き上がる。
その時、リンの腕が足に触れた。
体に走る衝撃!
声を抑えて痛みに耐える。
その行為が更に筋肉痛を発生させる。
「痛い?」
「起きてたのか。ああ、痛い。死ぬかと思うくらいにな」
起き上がるリンの頭を掴んで力を込める。
「痛くないよ。御主人様は痛そうだけどね」
リンの言う通り体に力が入らない。
っていうか入れると筋肉痛が痛てぇ。
筋肉痛さえ無ければ・・・・・・。
「とにかく朝ごはん作ろう。早くしないと白が起き・・・・・・10時!? もう10時なのか! 寝坊した・・・・・・」
「妹さんはレナさんが食べさせたから大丈夫だよ。もう一眠り出来るね、御主人様」
「そんなことするか。じゃあ隣で寝てる理沙は?」
「ただの寝坊だね」
・・・・・・おい、生徒会長。
それは駄目だろう。
目覚ましにも気づかずに寝ていたってことか。
間抜けか!
「じゃあ早く行こうぜ。遅くなるとまた小言が増える」
「今日の場合、行っても何か言われそうだけどね」
そうか、そうだよな。
昨日のことは絶対怒られる。
ならサボるか。
「御主人様、メールが届きました。アザゼル様からです」
リンから携帯を受け取る。
荒野先生から?
あの人にアドレス教えてないのに。
携帯の画面に浮かぶ「休んだら殺す」という文字。
少しは休ませて欲しい。
「じゃあ・・・・・・行くか」
「了解です、御主人様」
この時は筋肉痛が酷い体で学校に行くことがどれだけ無謀か気づいていなかった。
昼休みを告げるチャイムが鳴る。
その時に俺は校門に立っていた。
「御主人様、アザゼル様から催促されていますが」
「じゃあ迎えに来いって言っといて。痛すぎて死ぬ」
歩くだけで体に電撃が走る。
涙が出てくるくらい痛い。
筋肉痛ってこんな痛かったけ?
「何しているんですか、こんなところで」
学校からヒルデ先生が出てきた。
「筋肉痛が酷くて歩けないんですよ」
「なるほど。それで迎えに来いと言ったのですか」
ヒルデ先生がため息混じりに言った。
おお、もう連絡入ったのか。
すげぇ。
「飛びますからしっかり掴まって下さいね」
「えっ? 飛ぶ?」
白銀の羽を生やして体を屈めるヒルデ先生。
まさかのおんぶ。
肩を貸してくれるとかじゃないんだ。
それにこの年でおんぶは恥ずかしい。
「御主人様、恥は捨てた方が宜しいかと」
リンが持つ携帯に死ぬか選べと書かれている。
やっぱり選択肢はないのか。
「じゃあ昨日の会談の話をするぞ」
教室には荒野先生だけじゃなくミカエル様と魔王様がいた。
荒野先生の口振りから察するに会談は無事に終了したらしい。
「まず和平のことだが一応決まった。魔界からの不満は大きいが和平を願う者も多数いたおかげで目立った障害も無く組むことができた」
「おお、良かったじゃないですか。これで────」
「だが問題が出てきた。まずは人間界のことだ」
「それは俺の判断で────」
「無理だ」
「えっ?」
俺の言葉を遮って荒野先生が気まずそうに続ける。
「配合種の一件が思ったより大きく響いてる。特に龍の力を操って王を利用したお前と今、存在する配合種の中で最強を誇る御剣。これが問題視されてるんだ」
俺と・・・・・・御剣が問題視?
おかしい・・・・・・。
だって────
「俺、悪魔ですよ。そりゃあ人間でもありますけど・・・・・・」
「契約悪魔であることが問題なんだ。二人とも人間だったら礼装を通してでしか魔法を使えない。だが悪魔になり魔法を自在に使えるお前らは驚異でしかない」
昨日の戦いが仇になった。
魔王様たちを利用したんだから当たり前だ。
でも人間界にまで影響が出るなんて思わなかった。
確かに人間に味方をする悪魔は驚異だ。
魔法を使えて身体能力もそれなりにある。
しかも龍の力まで備えてるんだから。
これは諦めるしかないこと。
そうとしか考えられない。
「・・・・・・でも一つだけ方法がある」
魔王様が一枚の紙を俺の机に置いた。
それには「闘技場エントリー」と書いてある。
「出ろってことですか?」
「お前の力を見せてやればいい。龍の力を使って悪魔を黙らせてやれ」
「力でねじ伏せろってことですか?」
俺の質問に笑いを堪らえる荒野先生。
こういうことじゃないのか?
だって力を見せろって。
「和平を組んでる今、殺す必要なんて無いだろ。闘技場で戦ってお前の願いをぶつけりゃいい」
「昨日のあなたは確かに無茶をしました。ですが私は評価しています。あなたの願い、思い。それがレナを変えたと思いますから」
ミカエル様が優しく微笑んだ。
レナを変えた俺の思い。
それがなんなのかは分からない。
でも昨日のレナは人間を守るために戦ってくれた。
少しだけだけど変わってるんだ。
「わかりました。俺、やります。これが成功すれば人間界と和平を組める可能性が出てくるんですよね? なら迷ってる時間なんてないですから」
「決まりだな。サタン、明日から組んでやれ。こいつと他の奴ら、どっちが早いか競争だ」
「わかっている。じゃあ楽しみにしてるよ、契約悪魔」
魔王様の姿が魔法陣に消えていった。
「私からはレナをお願いします。レナを堕天させたことについては言いたいことがありますが感謝もしています。なので天使を堕天させた罪ともに責任を取ってください」
ミカエル様も魔法陣を描いて消えていく。
「ちょっと待ってください! 責任ってどういうことで────」
「行っちゃいましたね。良かったじゃないですか、ハーレムが一人増えましたよ。しかも天界のお姫様です」
リンが嫌味を含んで笑う。
レナは変わらず無表情のままだ。
どうすればいいんだよ、これ!
ミカエル様直々に責任取れって言われたぞ。
「まあいいか。レナ、これからもよろしくな」
「・・・・・・ん」
素っ気ない返事をするレナ。
こういうところもレナらしいと言えばそうなんだけど。
もう少し愛想を良くしてほしいな。
「じゃあ俺の話も終わりだ。ああ、そうだ。今度また魔法の合同授業やるから、頑張れよ」
そう言って荒野先生が教室から出ていった。
「なんか凄いことになったな」
「当たり前です。御主人様は魔王様と熾天使を利用して戦争を激化させましたから。普通なら殺されてます」
「それが無かっただけ良かったのか。って言っても死刑宣告みたいなものだよな、これ」
闘技場エントリー用紙を見る。
前の時はこんなのは無かったから前とは違う何かがあるって考えた方がいい。
だとしたら死ぬ可能性もあるってことだ。
しかも俺は弱い。
これが一番問題だ。
「大丈夫です。ミカエル様も言っていましたが御主人様には他人を変える力があります。今まで通りの御主人様でいれば死にませんよ」
「そうだといいんだけどな」
リンの微笑みに答える。
今は考えたってしかたない。
俺は俺らしく・・・・・・か。
先輩にも言われたな。
そういえば白泉が言ってたメイド喫茶、今日開店だよな。
なら・・・・・・
「ちょっと行ってくる!」
教室を駆け出した。
「ちょっと待ってよ、桂木君。いきなりメイド喫茶って何?」
少しして教室に御剣を連れてきた。
目的はメイド喫茶に連れていくためだ。
「知らないのか? メイド喫茶」
「知ってるよ。桂木君が好きそうなカフェでしょ。僕はあんまり興味ないんだよ」
「・・・・・・嘘だろ。これを見ろ!」
白泉の机から雑誌を取り出して開く。
その中にはメイド喫茶の写真が写ってる。
少しシワになってるのは白泉が読み返した証だ。
何回見たんだよ、あいつは。
「可愛いだろ?」
「うん、そうだね。僕もそう思うよ」
「行きたいだろ?」
「いや、僕は普通のカフェでいいかな」
なかなか手強いな。
ふっ、だが俺には目的がある。
メイド喫茶に入っていく御剣の写真を撮って人気を落とすという作戦が!
進学校の生徒にはメイド喫茶というのは遠い存在だからな。
悠々とメイド喫茶に通う御剣の姿を見れば妬むはずだ。
「白泉の奢りだぞ」
「・・・・・・うーん、奢りなら少しくらい」
「ちょっと待て! 何で御剣の分まで俺が奢るんだ! イケメンに奢る金はねぇぞ」
俺が雑誌を取り出したからか駆け寄ってきた白泉が叫ぶ。
邪魔しやがって。
いや、プラスに考えよう。
これは仲間に引き込めるチャンスだ。
「まあまあ、そんなこと気にしなくていいだろ。バイトしてるんだしさ」
「お前、俺の安月給で男三人分の飯を賄えると思ってるのか?」
「思ってる」
「無理だよ! 絶対無理だ! 使ったら俺は今月どう過ごせばいいんだよ」
こっちも手強いな。
だからといって俺に奢る余裕はない。
だとしたら・・・・・・
「じゃあ御剣が自分で出すしかないか」
「お前が自腹を切るって考えは無いんだな」
「そんな余裕はない」
「僕は行かなくていいよ、二人で楽しんできたら?」
「それは嫌だ」
遠慮する御剣に即答する。
イケメンを貶めるためなら何でもやるぜ。
自腹を切る以外はな。
「そうだ! じゃあ俺の家で夜ごはん食べていけよ。先輩のフルコースが食べられるぜ」
「・・・・・・遠慮しとこうかな。僕は食べられる自信が無いから」
「ああ、知ってるんだ」
「前に一回食べさせてもらったんだ。・・・・・・すぐに戻したけど」
わかる。
それはわかるぞ。
なんだかんだ御剣も俺と同じ思いしてるんだな。
「じゃあ桂木君、約束しよう。今は無理だけど、いつか一緒にメイド喫茶に行くよ。全部に終わったら・・・・・・一緒に、ね?」
御剣が小指を出して微笑んだ。
指切りか。
子供みたいだな。
俺もよくやるけど。
「おう! 絶対守れよ、その約束」
御剣と小指を絡めて約束する。
「うん、絶対守るから」
御剣の言葉は強くそして決意を噛み締めるように感じた。




