それぞれの思いに決着を
俺の体は血に濡れている。
誰にも触れないと思ってた。
誰にもわからないと思ってた。
でも手を取ってくれた。
誰かを引っ張れるってわかった。
俺の血にまみれた手でも助けられるって思えたから。
俺は────
「戦える!」
翼を羽ばたかせて神崎に向かう。
迫ってくる腕を避けて顔面に刀を立てる。
だが触れる前に刀は砕けて消えてしまう。
無力化と吸収の能力だ。
距離をとって巨大な砲台を作り出す。
「Burst」
御剣を当たらないようにぎりぎりまで絞って────
「Shoot!」
放つ。
光と闇のレーザーは戦ってる御剣と聖王の間を抜けて神崎を襲う!
やはり魔法は霧散していく。
「ほらよ、お返しだ!」
神崎の背中から生える腕から二種類の魔法の帯。
砲台を盾にして直撃を避ける。
反射かよ。
いや、それはありえない。
だって霧散した。
消えていったってことは確かに吸収されたってことだ。
・・・・・・ってことは吸収した魔力を同じ形で発現させたって考えるのが普通か。
なら遠距離攻撃は駄目だな。
形として目に入る刀もやめたほうがいい。
「Booster」
よし、じゃあ作戦の最終調整を始めようか。
高速で動いて逃げる。
魔法陣を使わないといけない人間と空を自由に飛べる俺じゃ速さは段違いだ。
・・・・・・って言いたいところだが神崎は飛べるらしい。
さすが第三世代だ。
背中の腕を覆うように翼が生えた神崎は俺を超える速さで迫ってくる。
神崎の打撃を受け止めつつ隙を伺う。
こうしてる魔力が奪われる。
早くなんとかしなきゃ。
一本の腕に聖剣の傷口を抉られる。
焼けるような痛みの上に鋭い痛みが走る。
声にならない痛てぇ。
でも我慢だ。
腕に黒鉛を纏わせて複数の腕を掴む。
やはり魔力は霧散していく。
でもゼロ距離だ。
「へっ、Burst」
小さな銃に変化させて神崎に打ち込む!
その全てを吸収された。
何やっても無駄か。
残念だ。
魔力を吸収し強くなった腕は俺の腕を振り払い自由になった。
そして俺の傷口を深く抉っていく。
神崎の拳が腹に、顔面に入る。
衝撃で吹っ飛ばされて教室に転がり込んだ。
「これで終わらせてやるよ。お前の大好きな桜ごとな!」
神崎の背中の腕が光る。
あれ自体が礼装だったのか。
新事実だ。
でも────
光が放たれて爆発する。
「くっくく。ははははは! ざまぁみろ! 俺を怒らせた罰だ! 糞餓鬼が!」
「俺がなんでここで戦うことを選んだのかわからないのか?」
爆発の煙の中で俺の声が聞こえたのが意外だったらしい。
目を見開いて怪訝な顔をしている。
ほんとにわからないんだな。
「わざわざ大切な人を死の危険に晒して無茶な戦いをしたりしない。俺の狙いは────」
教室の目の前の空に二人の男が飛んでいる。
神崎の魔法を受け止めてくれた人だ。
「この二人。魔王とミカエルだよ!」
俺が転がり込んだ教室は俺の教室だ。
ならレナがいる。
だったらミカエル様を呼び込むのは簡単だ。
魔王様は運だけど、悪魔ならこの事態に乗り込んでくるんじゃないのかなって思っただけだ。
「僕はただ暇だったから来ただけだけどね。来なきゃ良かった、めんどくさい」
「私は可愛い娘がいるので。その娘を賭けに使った契約悪魔には後でしっかりお話をしないといけませんね」
うわぁ、ミカエル様の視線が痛い。
でも王様二人を呼び込めた。
これで悪魔と天使の戦闘は更に激しくなる。
「リン、レナ、もう少しだけ頑張ってくれ」
「・・・・・・ん、大丈夫」
「終わったら魔力切れに筋肉痛ですね。死なないことを祈ります」
俺もだな。
筋肉痛と魔力切れ。
明日は寝たきりだな、絶対。
「あとは時間の問題だ。だからいくぜ!」
鋼の翼で飛び出して神崎の頬に一撃。
当然魔力は消えて俺の力だけが通る。
「弱ぇな。お前はよ!」
神崎の猛攻を腕を交差させて耐える。
龍の力は消え去って俺の腕に直接ダメージがくる。
だけど何度も纏い直す。
ガードが剥がれて窓ガラスに叩きつけられる。
ぎりぎりだな。
でも終わった。
神崎の目から血が流れ始めた。
神崎も異変に気づいたらしい。
目を擦って目を見開いている。
「なんだこれ・・・・・・?」
俺を掴む手から力が抜ける。
落下する俺の体をリンが支えた。
「容量不足。つまり限界だ」
「あん? 容量不足? 聞いたことねぇぞ、んなもん!」
「そりゃないだろ。普通の人間には縁がない言葉で現象だからな」
ぎりぎりの体で精一杯の笑みを作る。
できるだけ感情を煽るように。
「この状況を見ればわかるだろ。空に舞ってるアモンの炎。ぶつかり合って消えていく光と闇。俺の纏う龍の力」
その全てをあいつは吸収していった。
貪欲に。
そして強欲に。
「強くなっていくお前の魂に体が悲鳴を上げて壊れていくんだ」
「んなことあるわけねぇ! 俺は唯一の成功作品だ。弱点なんて。限界なんてねえ!」
「あるんだよ、限界は。誰にだってな。たとえ魔法の知識が無くたってわかるはずなんだ。吸収の危険性は」
だってそれは筋肉だとか。
そういうトレーニングと一緒だから。
何事もやりすぎは良くないって話だ。
神崎の出血は酷くなっていく。
放っても死ぬレベルだ。
「違う・・・・・・。俺は・・・・・・。だってあの写真は俺が写っていて。お前じゃない。俺を指して唯一の成功作品だって・・・・・・。最高傑作だって言ったんだ・・・・・・」
血を吐きながら何かを呟いてる。
吸収が働いてるから刀で切り伏せることも出来ない。
どうしようもない。
「春、なんとかできないのですか? これでは流石に可哀想です」
「桜・・・・・・。本当は・・・・・・お前も・・・・・・俺のものに・・・・・・。全部、お前の・・・・・・せいで・・・・・・」
近づいてきた桜に反応して神崎の腕が動く。
まあ確かに同情はする。
さっきの言葉を聞くに最高傑作ってのは間違いみたいだし。
刀を作り握る。
腕が痛てぇ。
大丈夫かよ、俺の腕。
折れてたら嫌だぞ。
刀を心臓あたりに当てる。
刀身は砕けない。
力も弱まってるんだ。
「死ね、死ね・・・・・・。お前が・・・・・・死ね。俺は・・・・・・お前のせいで・・・・・・」
「何を言ってるかわからないけど俺は生きるよ。大切な人がいるからな」
刀は神崎の体に沈んで貫通した。
刀を抜いて糸の切れた人形のように倒れる神崎を見送った。
体に力が入らない。
もう駄目か。
ほんとに俺の体はポンコツだ。
もっとトレーニングしないとな。
なんてかんがえて鋼の音が響く空を見上げた。
「絶対に帰ってこい。御剣」
僕の体は魂に濡れている。
それは誰にも見えない黒い心だと思っていた。
誰にもわかってもらわなくてもいいと思っていた。
でも手を伸ばしてくれた。
一緒にいたいって笑ってくれた。
僕はまだ生きていいって教えてくれた。
だから僕は、僕の親友のために────
「生きて帰る!」
雷鳴と共に空を駆ける。
光速とも言える速さで距離を詰めて聖剣を振るう。
「私も君と同じ。第二世代だ。ならわかるだろう? 君と私の差が」
聖王の腕が鋼のように硬く変化して聖剣を弾く。
即座に距離をとって剣を構える。
第二世代────魂との配合種のことを指す言葉だ。
特別な能力を持つ人間の魂を体に吸収させることによって魂にその能力を使えることを誤認させる。
つまり自分意識を偽って特別な力を使う配合種のことを言う。
僕の場合は「帝王の大罪」という能力。
そして彼はおそらく体を鋼のように硬く変化させる能力。
僕の戦闘スタイルとの相性は悪いけど負けられない。
空を駆け回り炎の魔法陣を描いて牽制する。
動ける範囲が限られている聖王はその身で受け止める。
爆発する炎を聖王ごと両断する。
耳に響く鋼の音。
「太陽の聖剣」
聖剣の炎は鋼を砕いて肉を切り裂いた。
飛び散る鮮血。
その中で聖王の顔は笑みを作っていた。
「第一段階」
血液が聖王の体を覆って鋼に変化していく。
そしてそれは龍の形を作っていった。
「銀鉛の鋼龍。それが私の能力の名だ。初めて使ったよ。これが龍の力か。素晴らしい」
歓喜の声をあげて自分を賞賛する聖王。
鋼を纏う体。
僕の剣は通らないかな。
でも怖くない。
勝てるって確信すらある。
だって僕は本物を知っているから。
僕には本物が味方してくれているから。
鋼の肉体と打ち合う。
剣撃は通らないけど攻撃を弾くことは出来る。
「逃げていれば勝てるとでも? 残念だが私の肉体に限界はない。私は・・・・・・私こそが「成功作」に一番近いものだからな!」
鋼の拳を黄金の剣で受け止める。
「成功作。自分の子をそんな風に呼ぶのは関心しないな」
「期待に応えない失敗作に興味はない。自分を最高傑作だと信じ疑わない。見るに耐えん愚者だ」
「なら・・・・・・あなたが「最高傑作」であると?」
拳を受け流してその場から離れる。
手が痺れて力が入らない。
でもまだいける。
「聖杯というものを知っているかな? あらゆる願望を叶える欲望の杯。有名だろう?」
僕の答えを聞かずに聖王は続ける。
「それはどこにあると思う? 誰が持っていて何処に隠されていると思う?」
「それが唯一の配合種の成功作だと言いたいの? 笑わせないで欲しいね。聖杯なんてものは存在しない」
「違う。存在するのだよ。聖杯は。そしてそれを守護するのは神との配合種。それこそが唯一の成功作だ」
聖王の興奮したような声。
僕にはわからない。
何がそんなに楽しいんだろう。
「神との配合種。これが記録にある最後の実験だ。これの意味がわかるだろう? 前聖王が配合種を禁止した理由そのものなのだから」
前聖王────桂木君のお父さんが配合種を禁止した理由。
気にならないと言ったら嘘になる。
僕の生まれた原因でもあるから。
「でも僕は・・・・・・桂木君を信じるから」
「それもいいだろう。だが────」
下で爆発音が響いた。
それに紛れて聞こえる聖王の声。
それは・・・・・・とても信じられるものではなかった。
「少し考えてみろ。あれは本来ならば存在しない神。禁忌の神だ」
爆発音が途絶えて聖王の声が聞こえる。
でもそんなことはどうでもいい。
さっきの聖王の言葉。
僕よりも過酷で悲惨な「彼」のこと。
最初から全部仕組まれていた。
「なら・・・・・・聖杯は?」
聞かなくてもわかるはずだった。
狂人とも言える彼の行動力の全ては────
「全てを理解したか。それでも君は悪魔として生きるのか? 私と共に聖杯を手に入れ悪魔を滅することも「彼」を助けることになるだろう」
「僕は────」
視界の端に光の魔法陣が映った。
リンさんのオリジナルだ。
「答えを変えるつもりはない。桂木君達と一緒に生きていく」
「そうか。同じ第二世代の生き残りとして多少は理解し合えると思ったんだが」
再度ぶつかり合う聖剣と鋼の拳。
このままじゃさっきと変わらない。
負けるまで時間の問題だ。
────絶対に帰ってこい。御剣────
声が聞こえた。
確かな声。
多分また無茶したんだろうね、桂木君。
じゃあ僕も少しだけ賭けに出てみようかな!
「龍帝の祝福」
僕の体に逆巻く炎と雷の魔力。
最初は桂木君への嫉妬から考えた能力。
でも今は────
「絶対に勝つよ、僕もまだ死にたくないからね」
光速で距離を詰めて炎と共に剣撃を振る舞う。
魔法陣から光剣を取り出して鋼の肉体へと衝突させる。
容易く打ち砕かれた光剣は雷の光を強くして聖王の目を眩ませる。
動きの鈍った聖王の体を黄金の剣が穿つ。
「今度こそ終わりだ。・・・・・・太陽の聖剣」
黄金の剣から放たれた光と炎が鋼の肉体を燃やし尽くす。
「終わった。まだ全部ではないけど。終わったよ、皆」
誰に聞かせるわけでもなく呟いた。




