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配合種

トイレの鏡には顔の赤い俺が写っていた。

はあ、彼女ができてもこういうのは変わらないんだな。


「俺はヘタレだ・・・・・・」


自分を貶めるように────


「馬鹿で他人の気持ちも察せない」


そして決意を固めるために────


「でも守りたいって気持ちは本物だろ」


呟いた。


「あとハーレムもな!」


鏡に写る俺にニコッと笑って見せる。


よし! いこう。

俺のために・・・・・・そして桜のために!





深呼吸。

そして個室に入る。


「お待たせ。ごめんな、話切っちゃって」

「いえ、私も落ち着くことができましたから」


あれ? いつも通りだ。


その後も話が続くことはなく気まずい空気が流れる。

しかも聖騎士のせいで迂闊に外に出れない。

なんだこの罰ゲーム。


俺から切り出さないからヘタレなんだ。

こういう時は俺からだ。


「さっき、傷ついていくのを見ているだけなんてって言ったよな」

「・・・・・・はい」

「違うんだ、それ。俺は守られてるから。桜や日向、理沙にも。みんなに守られてる。だから俺も守りたいんだ。だから戦いたい」


俺は他人の気持ちはわからない。

だから目に見える恐怖から守りたい。

悪魔だけじゃない。

他のものからも。


「それでは・・・・・・納得がいかないんです。私はあなたの「理由」になりたくないんです。ずっと思ってました。聖騎士になったらどうするのかと・・・・・・。他人のための犠牲になるのかと・・・・・・」

「前の俺ならそれでも良かったと思う。でも今は違うよ。好きな人がいる。目標もある。それを残して死にたくない」


だから────


「だから俺の生きる「理由」になってほしいんだ」


沈黙。

それが答えなのかはわからない。

これで振られたら完全にアウトだな。


「卯月先輩はよろしいのですか?」

「えっ? 理沙? う、うん。一応ハーレムのことは言ってあるけど」


ゆっくり一言ずつ噛み締めるように────


「なら・・・・・・わかりました。その、よろしくおねがいします」


そう言った。


きた?

きたな!

えっ? ヘタレ脱却?

ああ、なんかニヤニヤする。


今なら何でもできそうな気がするぞ。


「うん。じゃあ外行こうか。そろそろ日向たちと合流しなきゃ」

「はい。わかりました」


個室を出て会計を済ます。


そして外に出ると────


「おはよう、桂木君」


御剣がいた。

なんで? とか考えてる暇なんてなかった。

だって────


「なんで、聖騎士の服を着てるんだ?」


御剣の服装は真っ白だ。

聖騎士の赤十字の印が入っている。


────もっと面白ぇ奴だぜ。俺の次の獲物は────


神崎あいつはそう言った。

ずっと女のことだと思ってた。

でもそれはありえないことだったんだ。


だってあいつは聖騎士の格好をしてた。

ってことは仕事で動いてるってことだ。

しかも俺が怒るってことは知り合いって意味。


俺の知り合いで俺以上で魔法が使えるのは悪魔組とレナだけ。

火野村先輩は選択肢に上がらないだろう。アモンを誘うのはリスクが高すぎる。

レナに手を出したらミカエル様が黙ってない。


だったら二択。

リンか御剣。

でもリンは基本的に俺と一緒にいる。

そしたらあとは御剣しかいない。


そして今朝の御剣。

思いついても良かったはずだ。

ほんとに馬鹿だ、俺は。


「なんで聖騎士なんかに? だって御剣は悪魔だろ?」

「うん、そうだね。僕は悪魔を殺すために悪魔になったんだ」

「なっ! なんでだよ!? 言ってだろ、一緒に強くなるって。協力してくれるって!」

「うん、あの頃の君は僕にそっくりだったから。でも今は────」


御剣の剣が俺の首に寸止めされた。


「君に興味はない」

「御剣。お前・・・・・・」


なんで聖騎士なんかに。

配合種っていうのが関係あるのか?


「僕は明日の会談で魔王を殺す。その前に・・・・・・君を殺そうか。君の「感情」は厄介だからね」


御剣の声が低く冷たく感じた。


何かあってからじゃ遅いんだよな。

御剣・・・・・・俺は────


「お前には誰も殺させない」


絶対にだ。

わかんないけど、色んな人が苦労して掴んだチャンスなんだ。

無駄にするわけにはいかない。


「桜、逃げろ。早く」

「ですが・・・・・・」

「早く!」


少しして桜が遠ざかっていった。


二重起動ツインドライブ────第一段階ファースト・ギア

「こういうのは好きじゃないんだけどね。炎帝の憤怒(フレイム・ソウル)


御剣の周りに渦巻く炎。


前にも見た。

配合種の力・・・・・・だと思う。

でも負けない。

絶対に!


剣と刀がぶつかり合う。

このままじゃ勝てない。

なら────


Booster(ブースター)!」


背中に生える鋼の翼。


高速で空を駆け回り御剣を翻弄する。


空高く舞い上がり腕に黒炎を纏わせて急降下。

加速していく俺の体と力。

その全てを御剣にぶつける!


雷帝の憂鬱(ライトニング・ソウル)


御剣の姿が消えた。


目標を見失った俺の拳は空を切る。


それだけじゃなく止まらない勢いは俺の体を地面へと叩きつける。


Burst(バースト)!」


鋼の翼から小型の銃に変化した。


見つける。

近くにいるはずだから!


人、人、人。

違う。姿が見えないなら────


空に雷鳴が轟いた。

それと同時に光が振り降ろされる。


「なっ! いつの間に!」


光は銃を弾いて俺の首へと当てられた。


「残念。死んで」

「誰が死ぬか!」


龍の鱗が覆う手で雷の剣を掴む。

痛てぇ。馬鹿みたいに痛てぇ!


「でも・・・・・・負けるかぁ!」


黒炎が雷を喰らい尽くして刀身を壊す。


「負けねぇ。絶対に・・・・・・お前だけには!」

「本当に君は厄介だ。たった1ヶ月でここまで強くなるなんて」


御剣の剣が白い光に包まれる。


聖帝の傲慢(セイント・ソウル)。これで決めるよ。これ以上君の相手はしてられない」


鋼の翼を生やして空を飛ぶ。

そして────


Burst(バースト)


巨大な砲台を作り上げる。


片方の銃身は御剣にもう片方は空へと掲げて────


Shoot(シュート)


魔力の帯を放出する。


2つの風は御剣を押しつぶして雲を切り裂いた。

多分、巻き込まれた人はいない。多分な。


「やっぱり避けてるよな。御剣」

「下の人を気にしたのが間違いだったね。その一瞬の躊躇いが僕に逃げ道を与えたんだ」


後ろから聞こえる御剣の声と首筋に感じる鋼の冷たい感触。

速い。鋼の翼より速いってどういうことだよ。


「さよなら。君と過ごした時間は・・・・・・息抜きにはなったよ」

「残念だけど今日は無理だな」


「そこで何をしてる! 悪魔の翼か」


魔方陣を使って聖騎士が近づいてきた。

ほら、予定通りだ。


「さっきの上に放った風魔法。聖騎士を呼ぶためだったんだ」

「まあな。俺は馬鹿だけどそれくらいの作戦なら立てられる」


しかもここは東京だ。

ってことは強い聖騎士も揃っていると思う。


「じゃあ僕は消えるよ。次は・・・・・・殺すから」


魔方陣の光と共に御剣の姿が消えた。


さてと、あとは俺の用事だ。


「お前も悪魔だな。ここで死ぬかすぐに消えるか選べ」


近づいてくる聖騎士。

その聖騎士の首を掴んで────


「ここら辺で一番偉い聖騎士に会わせろ。じゃなきゃ────」


首を掴む手に力を込める。


こういう方法は好きじゃないけど時間がない。

少し手荒な方法を使うしかない。





「ほんとに馬鹿じゃないんですか! 教会に直接喧嘩を売る悪魔がどこにいるんですか!?」


あれから30分。


教会にヒルデ先生とレナが駆け込んできた。

やっと来た。

やっと知れる。


「戦乙女、ブリュンヒルデ。ミカエルの子、レナ。連れてきました。これで教えてもらえますよね? 円卓の騎士団ナイツ・オブ・ラウンドのガレスさん・・・・・・でしたっけ?」


教会の奥にいる聖騎士に向けて声を上げる。


やっとわかるんだ。

配合種のことが隠されていた理由。


「確かにレナ様だ。そしてそちらは本物か?」

「ああ、一応。ですよね? ヒルデ先生」

「えっ? は、はい。確かにヴァルキリーではありますが。というよりどういうことですか?」

「そうか。なら来い。見せてやる」


ヒルデ先生を無視して聖堂の奥の部屋に入る。


ちなみに体が溶け始めて結構痛い。


部屋の中には地下階段があった。

それを降りて大きな部屋に出る。

ここには神の力は働いてないみたいだ。


「なんですか? この部屋」

「・・・・・・実験室」


部屋の中は血で染まっていた。

部屋の端に骨が散らばっている。

これだけでわかることがある。

人間が配合種を作ってた。


「この部屋で人間は配合種を作り上げた」


聖騎士ガレスさんはその大きな体を床に降ろして指で血を撫でた。


「配合種・・・・・・。あれは悪魔の罪だと聞いていますが違うのですか?」

「人間の罪だ。償っても償いきれないほどの・・・・・・」


ガレスさんの言葉に息を飲むヒルデ先生。


ここまでは予想できた。

この部屋に来た時点で・・・・・・だけど。


「30年前の新聞を見たんだ。そこには悪魔が人間を攫って配合種を成功させたって書いてあったんだけど。それは違うのか?」

「配合種は50年前に成功している。お前の言っているのは魂との配合種だろう」


確かに先輩はそう言ってた。

じゃあ────


「普通の配合種と魂との配合種の違いはなんだ?」

普通ノーマルと呼ばれる1世代目は体を動物のそれへと変化させる。異常アブノーマルと呼ばれる2世代目は魔力によって体を作り替える」


ここで言う2世代目っていうのは魂との配合種のことだろう。

普通と異常。

考えたやつの方が異常だろ。


「・・・・・・目的は?」

「本来の目的は人間の進化。神という存在を知った人間の実験だ。他者を取り込んで強くなろうとでも考えたんだろう」


「じゃあなんで悪魔を殺すために使われたんだ?」

「都合が良かったからだろう。実際に能力は強くなる」


ありえねぇ。

都合がいい?

強くなる?

そんな理由で何人殺したんだよ。


「どれ程の人間を犠牲にしたのですか?」

「最大で一人の人間に五百人。最小で十人だ」


「発案者は誰だ」

「1世代目は知らない。だが2世代目は神崎志郎かんざきしろう。現聖王だ」


神崎・・・・・・志郎。

嘘だろ。

まさか────


「神崎始って知ってるか?」

「現聖王の息子だろう。確か最近セラ様の護衛になったと聞いている」


歯が擦れる音がした。

痛いくらいに拳を握りしめている。

あいつはどこまで俺の人生を狂わせるんだ。


「もういいや。ありがとな。配合種のことがわかれば充分だから」


レナとヒルデ先生の背中を押して部屋を出ようとする。


「待て! 1つ俺の頼みを聞いてくれないか」

「何? 死ねって言うのは無理だけど」


あと凄く機嫌が悪いから大抵のことは断ると思う。


「俺を殺してくれ」


カランッと鉄の剣が地面に投げられた。

黄金の剣。

アークって聖騎士が持っていたものと同じやつだ。


「なんでそんなこと考えるんだ? 頑張って生きようとは考えないのか?」

「私には・・・・・・生きる理由がないのです。私はある人に忠誠を誓いました。だがその人は死んでしまった。故に私も────」

「馬鹿言ってんじゃねえよ! なんだよ、忠誠って! 死んでしまったって! それでお前も死ぬのかよ! そんなのただ逃げてるだけだろ!」


ただ叫んでいた。

八つ当たり? そんなのわかってる。

とにかくぶつけたいんだ。

俺の中の怒りとか全部。


「あなたは・・・・・・本当に似ている。感情的になりやすく真っ直ぐだ。眩しいくらいに」


口調の変わったガレスさんは哀しむような目で床を見つめる。


この人は俺を知ってる?

初対面なのに?


「似てるってなんだ? 誰に? もしかして知ってるのか? 父さんを」

「ええ。よく知っています。彼は私の光でしたから」


光・・・・・・。

どういうことだ?

なんで聖騎士と知り合いでしかも光だなんて言われてるんだ。


駆け寄っていた。

ガレスさんに。

もう殆ど消えてしまった父さんの記憶を求めたのか。

それとも・・・・・・ただ救いが欲しかったのか。


「どういうことですか? 全部教えてください。なんで父さんを知ってるんですか?」

「・・・・・・春、もう駄目。帰った方がいい」

「まだ時間あるだろ。なら────」

「・・・・・・この教会に悪魔が入ったことはバレてるはず。・・・・・・こんな危ない場所監視が付かないはずないから」


セラの言葉で急激に頭が冷える。

配合種の実験室。

確かに監視がつくはずだ。


そしてガレスさんは裏切り者として処罰される。

処刑方法はわからないけど・・・・・・。


前の悪魔、サキュバスを思い出す。

少しずつ削って殺していく。

まるで見せ物のように。


ガレスさんは人間だ。

それはないはず・・・・・・。


でも裏切り者の見せしめになるくらいなら。


鉄の剣を拾って首に当てる。


「ありがとうございます。忘れないでください。周りを見てあなたの信じるものを」


剣を振り上げて────


「もう少し話したかったのに。ごめん、こんな状況じゃなければ」

「いえ、最後に春様に出会えたこと神に感謝しなければいけません」


首を落とす。


体が倒れて血が流れてくる。


なんでだろう。

なんで俺は涙一つ出ないんだろう。


もう何もわからない。


「帰ろう。ここにいたらまずい」

「よろしいのですか? まだ聞きたいことがあるように見えましたが」

「うん。今は御剣の方が大事だ」


俺たちは教会を後にした。





駅で桜たちと合流した。


当然のように怒られて、泣かれた。


「ごめんな。ほんとにごめん」


俺は謝ることしかできなかった。

血に濡れた手じゃ触れることも出来ない。


俺はどうすればいいんだろう。


頭に残るガレスさんとアークさんの最後。


悪魔として戦って殺したアークさん。

その人は最後に「全てが力だけで解決すると思うな」と言った。

あれはきくに残したんじゃなくて俺に残したのか?


俺の欲しい力。

守れる力。


でも俺は迷ってる。


ガレスさん。

あの人は忠誠を誓った人がいるって言ってた。

その人のために命まで投げ出した。

組織まで裏切って。


あんな人もいる。

聖騎士は人間の正義?

わかってる!


俺は中途半端なんだ・・・・・・。

大切な人と笑える未来。

俺は誰かと笑えるのかな。

その「誰か」は俺と笑ってくれるのかな。


やっぱり何もわからない。



というわけでキャラ紹介の2回目。

と言いたいところですが日常枠の人達は殆ど無意味ですし。

悪魔の人達は殆ど掘り下げていない状態ですので簡単な用語集や設定でも作ります。



魔力まりょく

生き物の体に宿る魂の力。これを使って本来ならありえない力────魔法を作り出す。絶対的な魔力量が決まっており無くなると昏睡状態や極度の疲労に襲われる。最悪死ぬことも。

簡単に言うとRPGのMP。

初期案だと使いすぎると死ぬ予定だった。


魔法まほう

魔力によって構築される自然摂理を超えた奇跡。存在そのものが奇跡である悪魔や天使は手から放出出来るが人間は不可能。だが礼装と呼ばれる補助装置を使えばある程度は使用できる。

人間が死んだ時に不要となる魔力は生前思い描いていたものに変化する。これを無意識の魔法と呼ぶこともある。


りゅう、またはドラゴン

神話上に出てくるものと同じ。それが具現化し魂に宿る。その力を得た者は世界を統べると言われてるくらいに強い。

これは初期案だとラスボスだった。

今もそうかもしれないけど。


神、悪魔、天使

これも神話上に出てくるものと同じ。人間による無意識の魔法によって創られた。人間によって偏見や知識の違いがあるため名が同じでも力が違うことがある。


聖騎士教会せいきしきょうかい

人間による対悪魔組織。打倒悪魔を掲げて魔法の研究や戦闘訓練を行っている。強力な悪魔を殺すためなら多少の犠牲を払う「正義」の味方。


はい、こんなところです。

次回はキャラ紹介いけるかな?

それともまた設定を書くのか。

何も考えてない自分が恨めしいです。


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