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悪魔と人



夜の自室で俺はAVを見ていた。

なかなかに完成度が高いものだ。

女優の足が綺麗で黒いニーソックスが映える映える。

結局脱がされるのが納得いかないけどな。


「ん? またそんなの見てる」


先に寝ていた理沙が起きて近づいてきた。


「起こした? ごめん。もうすぐ終わるからちょっと待ってて」

「彼女が隣で寝てるのにエッチなビデオ見るなんて。ちょっと複雑ね」

「そういうものなのか? よくわからないけど」


寄りかかってくる理沙と肩を合わせて一緒にテレビを見る。

凄い恋人っぽい状況だ。

テレビはAVだけど・・・・・・。


「・・・・・・変えようか」

「そうね。そうしましょう」


チャンネルを変えると魔法の使い方という番組がやっていた。

おお! 興味あるぞ!

でもこういう話は自然と悪魔の話とか出てくるから血生臭くなるんだよな。

これも変えるか。


『悪魔の存在が認識される前に魔法が使われていたって本当ですか?』


チャンネルが変わってお笑い番組が映った。

今、なんて言った?

悪魔の存在が知られる前に魔法が使われていた?


「戻していい?」


理沙の答えを待たずにチャンネルを戻す。

駄目だ、さっきの会話はもう終わってる。

今は人間の持つ魔力と動物の持つ魔力の違いなんていうものをやってる。


「どうしたの? 顔色が悪いわ」


理沙が顔を覗きこんできた。


「いや、なんでもない。お笑いに戻そうか」


テレビはくだらない漫才を映し出す。


人間が魔法を使えるようになったのは二年前って言われてる。

それが嘘だった?

なんで嘘をつく必要があるんだ?


でもそれなら二年で悪魔とある程度戦えるまでに魔法を使えることに説明がつく。

もっと前に魔法の研究をしていたなら。

もっと前に・・・・・・魔法の存在を知っていたなら。


なんか怖いな。


「理沙、キスしようか」

「えっ! き、キス!? ちょっと早くないかしら? デートもあまりしてないし・・・・・・」


明らかに動揺する理沙の唇に唇を重ねる。


「大丈夫。そんなに怖いものじゃないだろ」

「もう、馬鹿。・・・・・・そういう問題じゃないわ」


恥ずかしそうに顔を逸らす理沙を愛しく感じて抱きしめる。


今日の昼、ヒルデ先生が言ってた。

人間界は和平に加わらないって。

それは話し合いが出来る程落ち着いた状況じゃないからだよな?

大丈夫だよな?


俺は何も知らないけど。

悪魔だけど人間界ここにいられるよな。


「ごめんな。ほんとにごめん」

「どうしたのよ、いきなり。でも大丈夫よ。きっと大丈夫」


テレビを消して部屋の明かりが完全に消えた。

そして暗闇の中でもう一度キスをした。




いつも通り、5時半に目覚ましが鳴る。

それを止めて体を伸ばす。


昨日の夜に感じた得体の知れない恐怖。

悪魔や天使のことは勉強した。

でも知らないことだらけだ。


「今回は・・・・・・いや、今回も逃げられることじゃないよな。よし、俺の目的のために文句は言ってられないか」


隣で寝ている理沙の頭を撫でてキスをした。

うん、恥ずかしいな。

バカップルって言われるのもわかる気がする。


火野村先輩に聞いてみようか。

先輩でもわからないかもしれないけど、聞いてみる価値はあると思う。


物音を立てないように部屋を出た。




「あなたは知らなくていいことよ。知る必要もないわ」


俺の質問に赤髪の女の人、火野村桜花ひのむらおうかはそう答えた。


リンと一緒だ。

多分これが俺の恐怖を増幅させている。

なんで隠すんだろう。


「配合種のことも人間界の魔法のことも隠して、俺にどう判断しろって言うんですか? まさか、本気で未来だけ信じろって言うんですか?」

「違うわ。でもあなたは知ってはいけないことなの。あなただけじゃないわ。人間は知らない方がいい」


わけわからない。

知らない方がいい?

知らなくていい?

それは・・・・・・違う。

知らなきゃ前に進めない。


ヒルデ先生は言ったんだ。

罪を受け入れて和平に導くか選べって。

ということはまだやり直せる可能性があるんだ。


だから────


「教えて欲しいんです。未来を信じるために。人は間違ってないって思うために」

「・・・・・・そう。なら、教えてあげるわ。これを見なさい」


先輩が魔法陣から取り出した本には新聞を切り抜いたようなものが張ってあった。

それに書いてあるのは「遂に成功! 人間と魂の合成!」という見出しとこれを合成魔獣キメラの作成に利用できるって内容だ。


なんだ、これ。

人間と魂の合成ってなんだ?

そもそも魂ってのは体に宿るものだろ。


「人間の体に別の人の魂を混ぜたのよ。器自体に魂を塗りこんだって言ったらわかるかしら?」


はっ? 塗りこんだ?

何言ってるんだ?

意味がわからない。

わかりたくもない。


この記事の年号はもう三十年も前のものだ。

つまり、悪魔は三十年前には人間界にいたことになる。

じゃあ魔法の存在が二年より前に知られてた可能性は高くなった。

たとえ公の場でなくとも・・・・・・だ。


「何やってるんですか? 悪魔って。人間を攫ってこんなことやってるんですか!?」

「ち、違────」

「こんなの! おかしいです。沢山殺して、沢山犠牲にして。最後には用済みだって殺すんですか!? そんなのおかしいじゃないですか!」


わかってる。

全員がそうじゃないことくらい。

先輩は俺を助けてくれた。

先輩のお兄さんだって。


でも抑えきれないんだ。

人間を沢山犠牲にして結果的に殺して利用できる?

そんなのふざけてる。


先輩は黙って聞いてるだけだ。

まるで俺の全部を受け入れるかのように。


「すいません。熱くなりすぎました。でも・・・・・・これだけは許せません」


紙を握りしめて力をいれる。

紙はグシャッと音がして潰れていく。


「頭を冷やしてきます。失礼しました」


軽く一礼して部屋を出る。


「それでいいの。あなたは知らなくていいことだから」


最後の先輩の呟きは血の昇った俺の耳に届かなかった。




朝の通学路。

って言っても今日は遠足だからバス停まで歩くだけだ。


同じくバス停に向かう桜の隣で俺は完全に不貞腐れていた。

あれを見たら悪いのは完全に悪魔だ。

だったら隠す必要ないだろ。


悪魔にそういう奴がいるってことはわかってることなんだから。

って違う! なんで俺は隠されてたことに怒ってんだ。

人体実験はいけないことだ。


それが関係ない他人を攫ったものなら尚更だ。


「春? 聞いているのですか?」

「えっ? ああ、ごめん。まったく聞いてなかった。日向は寝坊なんだよな?」

「その話は終わりました。はあ、体調が悪いんですか?」


心配そうな声を上げる桜。


そんな桜に精一杯の笑顔を作って────


「全然大丈夫だ。初めての東京だから緊張してるだけだ!」

「そうですか。でも・・・・・・」


桜が振り向いて道路を見た。


「バス、行っちゃいましたよ」

「えっ・・・・・・」


ほんとだ。

バスが走ってる。

完全に置いてかれてるじゃん!


「ていうかリンは!? レナも!」

「二人は先に行きましたよ。一緒にいたら遅刻するからと言っていました」


あの2人!

嘘だろ!

っていうかレナはともかくリン!

お前は俺のメイドだろ!

主人置いて先に行くか、普通?


「次のバスっていつ?」

「15分くらい後です」

「しかたない。待つか」




10分経った。

俺たちの間に会話がなくなり気まずい空気が流れ始めてきた。


そして俺の頭には1つの考えが思い浮かんできた。

飛べばいいんじゃないのか?


駅まで飛べばバス代節約になるしどさくさに紛れて桜のお尻触れるしで最高じゃないのか。


あお! ナイスアイディアだ!

よし、じゃあ早速────


「なあ桜。飛ぼうぜ!」

「何を言っているのですか? あと5分でバスが来ますから大人しくしていてください」


あっさり拒否!

でも諦めない。

触りたいから!


「でもバス代節約になるよ。それに渋滞とかもないし」


お尻触れるし!

これを言ったら叩かれそうだ。


「嫌です。そもそも私は飛べませんので」

「俺が抱くから。だから一緒に飛ぼうぜ!」


・・・・・・あれ? なんか変だ。

大丈夫だよな。抱くから飛ぼうぜっておかしくないよな?


「遠慮しておきます。あなたに迷惑をかけたくありませんから」

「迷惑なんかじゃない! むしろ御褒美だ!」

「すみません。少し静かにしてください。その・・・・・・恥ずかしいです」


桜が俯いてしまった。

確かに外で飛ぶとか言うのは駄目だな。

悪魔だってバレる。


「ねえあそこの2人。抱くとか言ってるわ」

「朝から元気だな。若いねぇ」


なんか周りからひそひそ話が聞こえた。

その後にも「御褒美だって」とかいろいろ言ってる。


・・・・・・これって、誤解されてる?

いや、普通間違えないだろ。

大丈夫だ、多分。


「でも結構ぎりぎりだろ。俺なら速く行けると思うんだ」


信号とか無視できるしな。


「でも人が見ていますよ。そんなことしたら・・・・・・」

「隠れるから大丈夫だ。桜は気にしなくていい。俺がやるんだから」


桜の腰と足に手を振る回して抱き上げる。

そして少し手を動かしてお尻に当てる。


これぐらいの見返りは貰わなくちゃな。


ジーパンの硬い感触の中に柔らかいお尻の感触がある。


おお、小さな幸せ!

最高だ。

いつかは生で触りたいな。


「っと、じゃあ移動しようか」


近くの公園に入って物陰に隠れる。


バス停にいる人たちがこっちを見てるせいで飛べないな。

まったく何が珍しいんだか。


「あの、春」

「ん? どうした? 虫とか踏んだ?」

「違います。その、手が・・・・・・ホックに当たって・・・・・・」

「ホック? ・・・・・・ああ、ブラジャーか。ごめん、すぐ離すから」


と言いつつ少し堪能したい。

間違ったふりして適当に手を動かせば外れるかな?

ていうか割と薄い服着てんだな。


「御剣だ」


対向車線のバスに乗ってた。

あっちにあるのは・・・・・・教会か?

そんなわけないか。

あいつは1人で無茶するような奴じゃないからな。


それよりあいつらの視線が俺から外れた。

よし、このまま飛ぶか。


「じゃあ飛ぶぞ」

「えっ? 待ってください! まだ心の準備が────」

二重起動ツインドライブ────第一段階ファースト・ギア


鋼の翼を生やして空に羽ばたく。


桜の悲鳴は聞こえないことにした。




「もう絶対飛びません」


駅で桜が涙声で呟いた。


「俺はもう一回飛びたいな」


いろいろ御褒美があったからな。

必死に腕を掴んできたりとか、お尻を撫で回せたりとか。


「嫌です! それに・・・・・・高い所は苦手だと昔から言っていたでしょう」

「まあまあ。苦手いしの克服だと思えばいいだろ」

「良くありません! 大体あなたは昔から私の嫌がることを好き好んでやる節があります」

「そうかな? 意識はしてないんだけど」

「あの後のことを忘れたのですか!?」


桜は怒り狂ったかのように喚き散らしている。

そんなに怖かったのか、空。


「あの後って言われても一緒にいた期間が長すぎてわからないんだけど」

「初めての約束の次の日です! あなたが振った炭酸水を私に渡してきたことを忘れてませんからね」


ああ、あったな。そんなこと。

あれから炭酸系は飲めなくなったんだよな。

懐かしい思い出だ。


「楽しかったな。あの時は。毎日桜に炭酸系渡して笑いまくったな」

「笑い事ではありません! まったく私がどれだけ嫌だったか。あなたにはわからないでしょうけど」


「ふーん。桂木くん、浮気してるんだ」


突然横に現れた眼鏡っ娘────桐生が顎に手を当てて観察するように言った。

いつからいたのか知らないけど怖ぇよ。

しかもしてないし。


「どこをどう見たらそう見えるんだよ。そういう言いがかりはやめてくれ」


今はハーレム計画を中断してるんだからな。

残念だけど・・・・・・。残念だけどな!


「でも手繋いでるじゃない。はたから見たら完全にカップルなんだけど」


桐生が指さしたのは俺の手だ。

うげっ! マジで手繋いでる!


まったく気づかなかった。

いや、おかしいけど。


お尻の感触でテンションが上がりすぎたのか。

しかも目撃者ありとか。

最悪だ。


「駅で涙目の女友達と手を繋いで歩く男子がどこにいるのかなぁ?」


くっ! 悔しいけど言い返せない。

事情を知らない人が見たら完全に恋人同士がイチャついてるようにしか見えないんだから。

俺は嬉しいけどね。

桜は綺麗だと思うし今でも好きだから。


そのためのハーレムでもあるしな。


「違います。春には彼女がいるんですから。私なんか・・・・・・すみません。時刻表見てきます」


桜が走っていってしまった。

はあ、残念だ。


「だって桂木くん。ハーレム大ピンチじゃない?」

「うるせっ。俺は諦めないからな」


・・・・・・って言ってもまだまだ先は長いよな。


きっと何とかなるよな。

うん、大丈夫だ。


何も心配しなくていい。




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