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厄日



「はい、桂木くん。復習しようか」

「悪魔には幻想種ファンタズマってのと普通種ノーマルってのがいて、幻想種は人間のイメージで作られる。そして普通種は性的な接触を持って普通に産まれる悪魔のこと」

「うんうん。それで?」

「悪魔の一族は名ばかりのもので、長の力の譲渡はほ血筋に関係なく可能。更に言えば複数の能力を持つことも出来る」

「よし、よく覚えたね。次行こうか」


「何やってんの? お前ら」


御剣に頭を撫でられてる俺を見て白泉が引き気味に言った。

俺だって好きで撫でられてるわけじゃない! 御剣が勝手にやってくるんだ。


「だって、ほら。出来たら褒めないと」

「男に撫でられても嬉しくないやい! 先輩連れてこい! 先輩」

「じゃあボクが撫でてあげるよ。なでなで」


今度は火奈に撫でられる。そういうことじゃないんだよ・・・・・・。やるのはいいけど、やられるのは何か恥ずかしいんだよな。


「火奈もいいから。で、次だっけ?」

「うん。幻想種のことだね」

「はいはい、幻想種ね。幻想種は人間の大多数のイメージが固まって出来た生物のことで、その体には限界がない。だから強くなろうと思えば幾らでも強くなれる。そして、普通種と比べても全体的な能力が高いことが特徴である・・・・・・と。主に先輩と焔がそうなんだよな」

「うん、そうだよ。だからお父様に目をつけられたんだ。」

「強いってのも考えものなんだな。それだけで戦えって言われるなんてさ」

「悪魔は力が全てだからね。さあ、次にしよう」


御剣が手に持ってる本のページを捲る。

俺はと言えば昨日暗記した本の内容を口にしてるだけだ。こういうことは知識として身に付けといた方がいいんだって先輩が言ってた。


「次ね、次。あー、生物の「生」は魂と器があって初めて機能する。ものを感じ取る魂が無いと体が動かないし、実際に動く体が無いと魂が無意味な物になってしまう。一般的な「死」は器から魂が離れることを言うことで、蘇生した場合や転生した場合は該当しない」

「じゃあ最後、契約と転生の違いは?」

「魂の権利の有無。契約ってのは「魂を売り払う行為」を言って行った瞬間に魂の所有権を失くしてしまう。ただ、転生は出来ずコレクションか餌として使うかの二択しかない。そして転生ってのは「強制的に魂を変化させる行為」のことを言う。拒否権なんて無くやられたら受けるしかない。これで合ってるだろ?」

「うん。よく出来ました」


また火奈が俺の頭を撫でる。何で息が合い始めてんだよ。

諦めて大人しく受ける俺に御剣が問うてきた。


「分からないこととかある?」

「強いて言えば何も分からない。特に転生と契約の違いが」

「うーん。じゃあ例えばね、桂木くんが僕と契約するとしよう。その瞬間に桂木くんの魂は僕の物になるんだ」

「それは分かるんだけどさ。魂の所有権って話だと転生と同じじゃないのか? 結局は悪魔の言う通りに動くわけだし」

「そうじゃなくてね。契約の場合、人間────桂木くんは魂をお金として使ってることと同じなんだよ。だから成立した後に魂は体から抜けて文字通り悪魔の物になる」


マジかよ・・・・・・。ってことは水奈は後少し遅かったら死んでたかもしれないってことになる。

体から抜けるってことは器、つまり肉体は死ぬってことだ。死んでまで叶えたい願い・・・・・・か。そんなものあるはずないよな。


「逆に転生は人間を殺さない。これも例えだけど。僕が桂木くんの目の前に突然現れて悪魔になれーって転生させたら桂木くんは悪魔にはなってしまうんだ」

「読んだ時も思ったんだけどよ。迷惑な話だよな。特に拒否権がないって辺りが」

「まあね。だからこそ魔界では犯罪行為として扱われてるんだよ。しかも転生が成功した瞬間から主従関係は確率してしまってるから命令には絶対従わないといけない。捕まったら普通には生きていけないね」


サラッと恐ろしいことを言う御剣。

俺はといえばその恐ろしい転生を経験してるんだが、命令なんてされたこともない。

先輩が優しいのか。それとも俺を転生させた凪姉が影響してるのか。何にも分からない。


「じゃあ桂木くん。明日までにここを覚えておいてね。僕はそろそろお昼休みが終わるから戻るよ」

「おう。ありがとな」


教室に戻っていく御剣を見送って本へと目を移す。

うへー、何やらぞろぞろと文字が書き連なってる。これはまた眠くなりそうだ。


授業中、御剣に借りた本に目を通していた。

生物の魂と器について。

生物の肉体には限界が存在する。もし肉体が限界に達した場合、魂が肉体を喰らい自壊してしまう。そして他種族の人を悪魔に転生させた場合、魂が悪魔のものへと変化する。だが、肉体自体は元の生物のまま。つまり、人間のままのため死んでしまう可能性が純粋な悪魔と比べて高い。

要約するとそんな感じだ。


魂だけが悪魔に変化した結果、肉体がその変化に追いつけないってことだな。慣れない体で無理矢理魔法を使うから死んじまう。

これからは考えて使わないとな。使う機会があるかは置いといて。


放課後になって、俺と桜だけが残った。

理由は前の話を聞くためだ。聞こうとする度に何故か逃げられる。


「今日は聞かせてくれるよな?、」

「何のことでしょうか。身に覚えがありませんが」

「いやいや、何か話があるって言ってたじゃん。それでさ、あの時────」

「日向と仲直りする気はないのかと聞こうと思っただけです。ですが、よく考えたらその必要はありませんでしたね。あなた達の性格を考えたら」

「違うだろ。すっげぇ言いにくいんだけど────」

「もういいって言ってるじゃないですか。それでは部活がありますので」


教室を出ていく桜。

言えるわけないよな。実は聞こえてましたなんて。

────私はあなたのことが好きです・・・・・・か。

その言葉は俺は日向に言おうとしていて。俺達三人の関係を崩すものだったことに今更ながら気付いたんだ。





「んで、何で俺がお前の相談に乗らなきゃならんのだ」


その日の夜。

俺は白泉に電話をかけて放課後のことを話した。


「だってさ、焔とか御剣に言っても無意味だろ。こういうの。白泉しか頼れないんだよ」

「普通に断りゃいいじゃん。お前が好きなのは如月なんだろ」

「でも桜だぞ。幼馴染みだし、それに嫌いってわけじゃないし」

「ほんっとお前肝心なところはヘタレるよな。」


外からは百合さんと和樹さんの言い争いが聞こえた。

玄関で大声を出したことが原因らしい。

まあ時間が時間だからな。近所迷惑だ。


ごめんなさい、2人とも。




居間に入ると日向と白がトランプをしていた。

なんで2人で大富豪?

つまらないだろ、それ。


「お兄ちゃん、帰ってこれたんだ。百合さんが怒ってたよ。また明梨にたぶらかされて! って」


白が俺を見て苦笑いした。


「たぶらかされてって・・・・・・。なんか違うと思うけど。まあいいか」

「それよりトランプやろうよ。私得意なのよね、大富豪」


明梨さん、あなたは楽しそうですね。

俺はまったく楽しくありませんよ。


「遠慮しときます。風呂入るんで」

「そうだ。じゃあついでに桜ちゃん連れてきて。トランプやるから」

「日向が行けよ。さっきのことで気まずいから」


自業自得だけどな。


とにかく1人でボーッとしたい。

理沙のこととか考えたいから。


「えー。もう、わかった。じゃあ春くんもお風呂上がったらトランプだよ」

「はいはい、わかりましたよ。じゃあ入ってくるから」


って言っても途中まで一緒なんだよな。

部屋に戻らなきゃいけないから。


部屋で寝間着を取って出ると日向がいた。

まだ桜を迎えに行ってないみたいだ。


「どうしたんだ? 桜は?」

「うん、道場行ってるみたいでいなかったんだ」

「ふーん。じゃあなんで俺の部屋の前にいるんだ?」

「えっと・・・・・・なんとなく、かな。じゃあね」


桜が部屋に走って戻っていってしまった。

なんなんだ、一体。

それに紙落としてったし。


日向が落としていった紙を拾って広げると汚い字で婚約書と書いてあった。


婚約書?

婚約書って婚約の証明書みたいなものか?


中にはまた汚い字で水無月桜と書いてあって、婚約相手の名前は・・・・・・。


「俺かよ。まあ桜の男友達は俺しかいないけどさ」


そういえば小さい頃はこんなの書いて遊んでた気がする。

懐かしいな。日向も笑い話にできると思って持ってきたのか?

じゃあ風呂上がったら俺が持ってくか。




桜の家の風呂場はでかい。

10人くらいなら入れそうなくらいの大きさだ。


それを貸切なんて極楽気分だ。

鼻歌を歌ってしまいそうになる。

そんな浮かれたことしてる場合じゃないけど。


理沙の告白を思い出した。


どうしようか。

そもそもなんで悩んでるんだろうな。


嫌なら嫌だって言えば終わる話だ。

理沙だって白たちを言い訳にしてるから納得してないだけだと思うし。


理沙は都合のいい女でもいいって言ってたんだよな。

家事や悪魔関連のことを最優先にして空いた時間で会うなら問題ないよな。

それでも理沙は頷いてくれるならだけど。


ずっと彼女が欲しいって言ってたのにできるかもって状況になったら尻すぼみするなんてな。


「うん、もう付き合っちゃえばいいんだ。あんな美人に告白されたんだ。断る理由なんてないだろ」


決まったら腹減ったな。

よし、さっさと出て日向と夜食でも食べるか。


肩の荷が下りて気分が楽になった。


やっぱり考え事は風呂に限るな。




風呂から出て居間に入るとさっきの3人と桜がいた。


「桜いたんだ」

「うん。少し風にあたってたんだって」

「ふーん。そうだ、これ落としたぞ」


日向に婚約書を渡す。


「えっ? あ、ごめん。ありがとう」

「それにしても懐かしい物を持ち出してきたな。婚約書なんて」

「う、うん。そうだね。じ、じゃあトランプやろうよ」

「待ってください。婚約書? なんですか? それ」


桜が日向から紙を取り上げて開いた。


すると顔がどんどん赤くなっていった。

桜がこういうの弱いこと忘れてたな。


「すみません。少し部屋に戻ります」


桜が居間を出ていった。

あれ? いつもなら怒ってることだよな。

どうしたんだ?


「じゃあトランプやる────」


ガシャーンと何かが落ちた音が響いた。


「えっ?」


多分桜の部屋だ。

ほんと今日は厄日だな。


「ちょっと行ってくる。念のためにシップとか用意しといて」

「うん、わかった」


日向に救急の用意をさせて部屋に急ぐ。


「大丈夫か?」


襖を開いて桜の部屋に入る。

部屋の中は封をされた手紙と空き缶が散らばっていて桜は足を押さえてうずすまっていた。


絶対打ったな。

大丈夫じゃなそうだ。


「おい、大丈夫か? 氷とか持ってこようか?」

「だ、大丈夫です」


いや、どう考えても大丈夫ではなさそうだけど。


まあ大丈夫だって言ってるし気にしなくていいか。


「それにしてもなんだこの手紙? ラブレター?」


宛名はないけどハートのシールが貼ってある。

桜が貰ったやつか?

50通くらいあるぞ。羨ましい。


少し読んでやろう。


「待ってください! それは駄目────」

「もう開けちゃったよ。残念でした」


せっかくだから音読してやろうか。

動けない桜に羞恥プレイとかそそるものがある。


結構長いな。

しょうがないから告白の部分だけでも。


「あなたは気づいていないと思いますが私は春のことが・・・・・・えっ?」


なんか地雷踏んだ気がする。


桜は俯いて何も言わない。

絶対やばいやつだ。


厄日だからといって誰かに八つ当たりをしてはいけないな。


これは見なかったことにして居間に戻ろう。


「えっと、ごめんな。じゃ、じゃあ戻るから。痛かったら日向に言ってくれ、シップとか用意してるから」

「春が持ってきてください」

「えっ?」

「春が湿布を持ってきてください。凄く痛いです」


今日は大人しくしてた方が良かったな。


厄日はまだ続きそうだ。




桜の足にシップを貼ってテーピングする。

少しやりすぎか?

まあいいか。


「終わったぞ。じゃあ救急箱置いてくるから」

「戻ってきてくださいね。話したいことがありますから」


というわけで救急箱を置いて桜の部屋の前にいる、

話ってさっきの手紙のことだよな。

どうすんだよ。

とりあえず落ち着かせて無難な方に着地させるか。


意を決して襖を開ける────


あれ? 開かない。

何かが引っかかってるのか?

何度やっても開かない。


「桜、開けてくれ。入れないから」

「すみません。そこで聞いてくれませんか」

「え、うん。いいけど」


襖を背もたれにして座り込む。

背中からも音がする。

桜も同じように座ってるのかな。


「春、手紙の通りです。ずっと好きでした。私と付き合ってください」


桜の言葉は予想していたものと同じものだった。

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