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曇る心、照らす悪魔

そこから俺の頭が全力で回転を始めた。

スローで回る世界の中、加速してアスモデウスの顔面を殴る! だが硬い肌を抜くことはない。もっと強く!

腕に黒炎を纏わせる。そしてもう一発! 破裂音と共にアスモデウスの顔面を抉る! まだ足りない。

飛んでくるパンチを両腕でガード受け止めて蹴りを腹に放つ。それは羽を広げて空に逃げられた。

逃がさねぇ。絶対に!


家の壁を走り抜けて屋根へと飛ぶ。そして屋根の上を走ってアスモデウスと対峙する。

放たれる闇の魔法を躱す。右へ、左へ体を折りたたんで。勝つ為に何をするか。勝つ為に!


「行っけえぇぇぇ!」


菊城の声が闇の空に響いた! そして空に魔法陣が広がる。描いた者は分からない。だって人間は魔法陣を描けないんだから。でも────


「信じろ! 俺が飛ばしてやる!」


菊城の声が背中を押す! 魔法陣に足を踏み入れて走る! 足には確かに地面の感触があった。これなら戦える!

向かってくる闇をくぐり抜けて突貫する! そして刀を抜いて真正面から来る闇ごと薙ぎ払う!

別れた闇の先にアスモデウスはいない! 横に飛んで躱したらしい。それを追いかけてまた刀を振るう。


「まだまだ。あの時には程遠いな。ほら、怒りをやる」


アスモデウスが地面に闇を放った。下から聞こえる悲鳴が更に俺の理性を狂わせる。


「あああああああああ!」


勝手に両腕が燃え上がった! 息付く暇なんて与えない! ムカつく笑みを殴る! 殴る! 殴る!

もう二度と殺させない。もう二度と・・・・・・あんな思いはしたくない!


「ははははは!」

「ああああああああ!」


アスモデウスの笑い声が大きくなっていく。それに合わせて闇の攻撃も激しくなる!

体に刺さる闇なんてお構い無しだ。炎が宿る拳で殴り続ける!

闇が俺の右腕を噛み砕く! ゴギャッと嫌な音を立てて激痛が走る。動かなくなった物はいらない。そこの感覚を捨てて更に突貫する!


アスモデウスの腹に拳をめり込ませる。そして黒炎を爆発させた!

爆発の衝撃はアスモデウスの腹を吹き飛ばして血反吐を吐き出させる!

もっと・・・・・・大きな力を────!


第一段階ファースト・ギアァァァァ!」


体を龍の鱗が包む! そして勢い良く奴の頭に頭突きをぶちかます!

迫る闇を体に受ける。全身から流れ出る血が俺に確かな生を感じさせてくれた。それと同時にまだ戦えることを教えてくれる!

俺の拳とアスモデウスの拳がぶつかり合う! 鋼の衝突音が耳に響く。


「ははは! 腹が痛い! 体が痛い! 昔の、あの時の貴様に戻ってきたな!」

「お前はああああ!」


拳を離して更に接近する! そして土手っ腹にもう一発ぶちかます────

当たる直前、俺の全てが止まった。動きも、意識の覚醒も。

全身の血の気が引いてやっと分かった。全身に闇の茨が突き刺さってる。


「ぐっ! まだ、まだああああああ!」


一歩。また一歩。歩き出す。

全身に力が入らない。ちっくしょう。ちくしょう、ちくしょう! 何で・・・・・・こんなところで終わるんだ。何で────!

揺らぐ視界に炎が写った。紅くて、紅くて。真っ赤な炎。それは大きく燃え上がり俺の体を包み込んで女の人の姿を形作る。


「何を焦っているの?」

「先輩、でも俺は・・・・・・弱くて。守れなくて・・・・・・」

「ええ。聞こえたわ、さっきの悲鳴。でもね、それであなたが暴れては相手の思う壷じゃない。落ち着いて」

「でも、先輩。俺もう────」

「まだ時間はあるわ。あと数分。でも、あなたならそれで十分でしょう? あなたの思いの全てを乗せて放ちなさい」


先輩に背中を優しく押された。

この人に太鼓判を押されたんだ。負けるわけにいかなくなったな。


「菊城! お前に賭けるからな!」


そう叫んで羽を生やす! まだ飛んだことないけど何となく体で分かる。

空を飛んで迫り来る闇を躱す! 頬を掠って通る闇が後ろの家に衝突した。

意識はまた覚醒してる。これなら────!


勢いよく突っ込んでアスモデウスの頭に頭突きを繰り出す! 二人して体勢を崩して倒れる。

俺の思いを、俺の大切なこと。あいつと、あいつらと笑える未来。明日が欲しいから!


「あああああああああ!」


立ち上がって顔面を殴りつける! 炸裂した圧縮魔法がアスモデウスの顔を吹き飛ばす!

そして更に追撃! 反撃する暇なんて与えない。


動かない右手に無理矢理命名を出す。あと少し、あと少しなんだ! だから────

魔法陣が紅く輝き始める。多分菊城が何かやってるんだ。

闇が俺の腹に突き刺さった。死にそうな程痛くて、それだけで体の動きが止まる。

でもこの距離は俺の射程範囲内だ。


「これで逃げらんないな、悪魔!」


腰に隠してある小刀を抜いてアスモデウスの目玉に突き刺す! 飛び散った鮮血が俺の頬を濡らした。


「ははは。いいぜ。まさか人間なんかに目玉を取られるとは思わなかった。本当にお前はあいつに似てる。初めてだ。男が欲しくなるなんてな!」


闇が俺の体を蝕んでいく。あの時と、死んだ時と全く同じ感覚が俺を襲って来る。

それでもナイフは離さない。グリグリと動かして闇に抵抗しても何も反応がない。


「安心しろよ。テメェは殺さねぇ! 永遠に、永久に、俺の家畜として楽しませてもらうからよ!」

「くっ、はは! なら残念だったな。お前は・・・・・・」

「ここで死ね」


菊城がアスモデウスの後ろで炎を振りかざした。それは光のように眩しくて。見るだけで死んでしまいそうな光。

体が熱い。溶けてしまうかと思える程に。純粋な熱が俺の体を焼いてるみたいだ。

抵抗するアスモデウスを掴んで止める。どうせ死ぬなら一緒がいい。


炎がアスモデウスを両断した。飛び散る熱が鮮血を焼いて蒸発させる。不思議と俺に痛みはない。でも、もう限界だ。

白色に戻った魔法陣の上に崩れ落ちる。


「大丈夫っすか? 悪いっす。俺の力は目立つから使いにくくて。それに今回は秘密行動だから出来るだけ出したくなかったんすよ」

「ああ、大丈夫。ちょっと頑張りすぎただけだから」


無理した反動か。もう力が入らない。全身の骨が悲鳴を上げて今にも折れてしまいそうだ。

あと体の熱も抜けない。油断した瞬間に死にそうになる。


「くくく、ははは。もう一人楽しめる奴がいたか。人間にしておくには勿体無い。俺の玩具がんぐになれば面白おかしく生きられるというのに」


近くで倒れてるアスモデウスが笑う。


「お前の面白おかしくってのは・・・・・・殺して、奪って。そういうことだろ。そんなの面白くも、楽しくもねぇ」


震える体を引きずってアスモデウスに近づいていく。力のない手で刀を抜いて心臓の上にかざした。


「そんなの俺達にとっちゃ面白くないんだよ。無数の死の上で成り立った人生なんかいらない。テメェのような悪魔には絶対ならねえ」

「それは・・・・・・あいつも言ってたなぁ。ちくしょう。こんなことになるならもっと見とけば良かった。絶望した顔ってのをよ。同じような腐った理想に殺されるなんて・・・・・・。チッ!」最低の気分だ」

「そうかよ」


俺は誰かを守る為にお前を殺す。

刀を振り下ろして心臓に突き刺した。足掻くことなくアスモデウスは血を流して笑う。

恨み言なんて言わず。ただ死を受け入れていた。






「ほら、肩貸すッス」


アスモデウスとの戦いから五分程経って、俺と菊城は休憩を取るために一旦去ることにした。


「悪い。もう体動かなくってさ。駄目かもしんない」

「何言ってんすか。可愛い妹分が待ってんじゃないすか」

「妹ね。あの二人は俺には勿体無いな。ははは、いつつ。あー、死にそ」


ズルズルと体を引きずって病院へと向かう。

だが、そう簡単にいかないらしい。突然水奈の家が爆発した!

霞む視界に空を飛ぶ焔と御剣。そして、何だあれ!? 土偶みたいなのを捉える。

あれがお兄さんの言ってたアマイモンって悪魔か。見た感じ二人を圧倒していて雑魚としか言えない俺でも力の差が痛いほどに分かってしまう。

そんな中、舞い落ちる火の粉が空に戻っていった。

不思議な光景だ。消えた火が再燃して空に帰っていく。そして集まって人の形を作り出す。

それはとても美しく麗しい。俺の側にいてくれて俺を鼓舞してくれた。


「先輩・・・・・・?」


真っ赤で真っ黒な火野村桜花あくまが空で微笑んでいる。そして絶望の空に真っ赤な希望が灯った瞬間だった。

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