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落ちる空、2


放課後。

バタバタとした校内で水奈と駄弁っていた。


「あの、お昼休みのことなんですけど・・・・・・」

「ああ、あれ。適当だよ、適当。あれが噂になって火奈の件が消えてくれたらいいなって思っただけ」

「そうなんですか!? 私てっきり見抜いたのかと思ってました・・・・・・」


ショボンと項垂れる水奈。

こう、感情を素直を表されると適当言ったことに罪悪感を覚えてしまう。

なんか犬みたいだ。

それに狙いが全くないってわけでもないんだぜ。こういう噂が出ることで少しでも火奈から狙いが逸れればって思ったんだ。


「他人の恋心なんかに気付ければ何か変わったのかもな。はは、俺そういうの鈍いらしくてさ、よく分かんないんだ」

「はい、火奈ちゃんが言ってました。あの先輩は恋が出来ない人だって」

「それはそれで文句あるんだけど・・・・・・。」


少し合ってるのが腹立つ。だけど、別に出来ないわけじゃないはずだ。

って、今はそんなことどうでもいいな。


「えへへ。でも、先輩は凄いですね。思いついたことをすぐに行動に移しちゃう。羨ましいです」

「そうかな? ただ馬鹿なだけだよ。だから何も考えずに動いてる」

「それでも、動けるのは良いことです! 私は何も出来ないから・・・・・・」


水奈がまた俯いてしまう。

この子はそういう子なんだ。俯いて、下ばかり見てる。出来れば水奈も何とかしたいところだけど・・・・・・。

そう上手くいかないよな。


「水奈にも良い所は沢山あるだろ? ならそれで十分だよ。あれもこれもって欲張ってたら破裂しちゃうぞ」


水奈の頭を撫でる。

嫌がるかと思ってたが、意外と無抵抗だ。

さらさらの髪が手を包み込んできて気持ちいい。


「お兄ちゃん・・・・・・」


どこか嬉しそうにそう呟いた水奈。だがすぐに手で口を覆って隠してしまう。

お兄ちゃんか。もし、白が苛められてたらどうしよう。

多分、学校に乗り込んででも止めてたな。

なあ、お前はどうなんだ? 家族が苛められてても黙ってるのか?

出会ったことのない兄貴にそう問うた。






何故か会おうとしない水奈と別れて昨日火奈がいた場所に移動した。

そして、昨日と同じように猫と話してる火奈に声をかける。


「よ、また話してるのか?」

「てへへ。うん。猫さんとのお話は楽しいんだ。自由で、何を考えてるか分からないから。猫は────動物は大好き」

「動物の心は読めないんだ。火奈の読心術もまだまだだな」

「うん。動物にはね、心はないんだよ。ただ本能に従うだけ。だからね、何も見えないし感じない。ボクも動物の前では普通でいられるの」


普通でいられる・・・・・・。俺もそう思ってたことがある。いや、今でも思ってるよ。普通の人間でいられたらって。

でも、やっぱりそれは違う。周りの人と違うこと、特別性。そのせいで悩むし苦しむこともある。俺なんかずっと迷ってるからな。

それでも、誇るべきなんじゃないのか。早乙女先輩、凪姉や火野村先輩と出会って悪魔になれたことを、他人の視線が分かるってことを。


「よし、決めた。約束をしよう」

「約束?」


頭に疑問符を浮かべる火奈に小指を立てて言う。


「おう。約束。火奈が求めるならどんな時でも、どんな場所でも助けに行く。その代わり、火奈は少しでいいから頑張ってみる」

「頑張るって何を? 読心術かにゃ?」


両手をグーにして猫の真似をする火奈。

その仕草はとても愛らしい。年相応というより小さい子を見ているかのような、もう一人妹が出来たような感覚だ。


「友達を作るんだよ。ちゃんとした人間の」

「えっ。・・・・・・無理無理無理! だって分かっちゃうんだよ? エッチなこと考えてるのも、嫌なこと考えてるのも。それなのに友達なんて・・・・・・」

「でも、俺とは話してるだろ? 俺なんて変なことしか考えてないのに」

「先輩はね。似てるんだよ、お兄ちゃんに。いつも笑ってて、見てて安心するんだ。だから大丈夫」


お兄ちゃん。水奈もそう言ってたっけ?

なんか悪い気はしない。一応慕われてるってことだからかな。

でも、それだけ兄貴に腹立たしくなってくる。

何で無視してんだよ。何で助けてやれないんだ


「そっか。でも、やっぱり一人は寂しいよ。怖いなら俺が何とかするから。だから、もう少しだけ頑張ろう」

「・・・・・・うん」


小さく頷いた火奈に俺もまた小さく笑う。

少しでも力になれるよう。少しでも勇気を出せるよう。

俺に出来ることを考えていた。






暫くして、火奈と別れた俺は日向の家に来ていた。

理由は一つ。火奈の為だ。

はっきり言って、こういうのは日向が一番適してる。正直、頼りたくない気持ちもあるけど、そんなこと気にしてられない。


「うん。分かった。一年生の教室に行けばいいんだね」


事情を話すと日向は頷いて答えてくれた。

日向のこういう性格は本当にありがたい。絶交だって言ったことも忘れて協力してくれる。


「うん。そしたらさ、後は俺が何とかするから」


後は俺が引き合わせて話させる。それで十分だ。

軽く拳を握る俺の耳にテレビの音が入ってきた。


連続殺人の再来か!? 一家惨殺事件。

そうテロップに書かれている。キャスターの淡々とした説明の後に目撃者のものと思われる悲痛な声が聞こえる。


「空から・・・・・・降ってきたんです! 人が。それを見てたらいきなり隣の人が血を吹いて倒れて────」


意味が分からない。錯乱しているのか、言ってることがめちゃくちゃだ。

空から人が降ってくる? そんなことが有り得るとしたら相手は悪魔しかない。でも、悪魔ならもっと騒ぎになってもおかしくないらはずだ。


「嫌だよ。もう・・・・・・嫌。人が死ぬのも。戦うのを見てるのも、全部嫌」


テレビを見た日向が呟いた。

その目は揺らぐことなく俺を射抜いている。忘れてたわけじゃないか・・・・・・。

ただ、黙ってただけ。それでも協力してくれるって言ったんだ。

なら俺も────


「うん。嫌だな。もうあんなこと、二度と起こらなきゃいいのに」


少しは自分のことを我慢してみようと思った。





翌日の朝。

妙に騒がしい外の声で目が覚めた。

時間は四時。外もまだ暗く瞼は二度寝の為に再び閉じようとする。

だが、外の騒音が強制的に体を現実へと連れ戻す!

流石に頭に来た! 窓から外に身を乗り出して外を覗く。そこから広がった視界は異常に満ちてるものだった。


まず、空が黒い。暗いわけじゃない黒いんだ。

光がない。それどころか雲さえも見えない。それを見て感じるのは「無」

何もない。あの空には空気さえあるのか分からない。

そして、次に目に入るのは雨だ。

何も無い空から降る雨ってのも不思議だけど、空から水が降ってきてる。

それは血の様に肌にまとわりついてきて気持ちが悪い。


何が起こってるんだ・・・・・・?

俺より先に気付いたらしい聖騎士達が町を駆け回って注意を呼びかけてる。

混乱してる俺に先輩から電話がかかってきた。


「先輩! 何が起こってるんですか? もしかして悪魔が?」

「原因はまだ分からないわ。でも、この町に何かがいるのは確かね。それも強力な何かよ」

「強力な・・・・・・」

「昨日のニュースは見た? 空から人が降ってきたって言ってたわよね。あれって、どの辺で起きたことか分かる?」


昨日のニュース。確かに見たけど、そんなに意識してたわけじゃない。

だって、そんなにポンポン悪魔が来るなんて思わないだろ。


「すいません。分からないです」

「そう。まあいいわ。魔法が及んでるのなら、近くにいるみたいだし。春は私が指示するまで家で待機してなさい。私は異常を探すわ」

「え、でも────」

「何も分からない状況で無闇に動くのは危険なの。少ししたら沢山動いてもらうから、今は休んでて」


そう言って切られる電話。

突然変異した世界で俺は何が出来るのか。

その考えは昨日の日向の言葉によってかき消される。

何もしないこと。それが俺に出来る最善なんだから。

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