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覚醒




「来た」


光の中で誰かの声が聞こえた。

何も見えないけど誰かの気配は感じる。ざわざわと複数の声も聞こえてきた。

光が消えて視界が晴れると俺の目いっぱいに生き物が映ってる! 犬、猫、鳥、猿、形は様々だ。混ざりあったやつもいる。

その中に見知った顔をいくつか見かけた。

御剣、焔、お兄さん。そして・・・・・・先輩。


「お前はなんだ? どこから来た」


目の前のフクロウと猿が混ざったような悪魔が問うてくる。蛇の尻尾がお兄さんを連想させる。


「友達と大切な主様を助けに来ました。ってことで返してくれませんか? そこの紅い人」


先輩を指さす俺をフクロウが笑う。それに連られて他の悪魔もクスクスと笑い出した。


「くくく、成程。お前がシーザスの言っていた眷属か。未熟者が大きな口をきく」

「バシルータ様。丁度よろしいのでないですか? ここで全員殺してしまえば魔王にバレることなく排除できます」


排除? 丁度いい?

なるほどね、どっちにしても俺は殺されるところだったらしい。なら来て良かった。誰かを巻き込まないで済む。


お兄さんに視線を向けると笑顔で手を振ってきた。この人は他と違って驚いてないな。しかも何か言ってる?

駄目だ、口パクじゃ分からない。でも、何かのヒントみたいだ。えっ・・・・・・と、早く連れて逃げろ。かな?

それが出来たら苦労はしない。先輩に近づくのだって難しいんだ。


「やめてください! 春────彼は私とは関係のない。ただの人間です!」


先輩が叫ぶ。でも、誰も聞く耳を持たない。バシルータと呼ばれたフクロウも無言で俺を見てるだけ。

先輩のことなんて無いものとして扱ってるようにも感じる。

理由は分からないけど人間界に行った娘を殺そうとしたり、無視したり、本当に親かよ。人間のお父さん達の方が親らしく振舞ってるぞ。


「そうだな、まずは眷属から殺るか。余興くらいにはなるだろう」


フクロウが俺を指してニタァと口角を上げた。薄く光る眼光に体の毛が逆立って反応する。

全身にヌメっとした感覚が襲ってきた。殺意とは違う。これが舐め回すように見るってことか。不愉快極まりない状況だ。


猿の手に炎が灯る。その炎は質量を増し、巨大な剣を形作った。

切っ先と対峙する俺。イメージ次第で魔法はここまで変わるのか。すっげぇ・・・・・・。


「待ってください。こいつは俺が殺します」


迫り来る炎と俺の間に焔が割り込んできた。こいつの口振りからして助けてくれたわけじゃないらしい。殺す────その言葉は俺の中に深く突き刺さってる。

その言葉は簡単に口にしていいものじゃないんだ。命の価値なんてのは分からない。でも、大切な人を失う悲しみは味わった。

だから────


地面を思いっきり蹴って焔へと突貫する! 焔は目と鼻の先にいる。この距離なら逃げられないはず!

イメージするのは炎。ただただ、燃え盛る炎だ。

炎が宿った拳を焔へと叩きつける! だが、焔に受け止められた。


「良い。許そう。もしお前が弱さを殺せた場合、お前の望みを聞いてやろう」

「そういうことだ。悪いな」


フクロウの声に頷いた焔の蹴りが俺の脇腹に直撃して吹っ飛ばされる。

今の俺は悪魔だ。体勢を整えるくらい簡単だ。空中で体を翻した俺に更に魔法が迫ってくる!

炎の壁を作り雷を防ぐ!よし、何とかなる。俺は焔と互角に戦えるんだ。


「────なんて考えてないだろうな!」


炎の中から炎が突き抜けてきた! 手には炎の槍。それが俺の肩口を貫いて爆発する!

なくなった右腕を睨む。滝のように血が流れて足元には水溜りを作っていた。

不思議だ。あまり痛くない。頭がぶっ壊れてるみたいだ。


「少しだけ情をかけてやる。動くなよ」


焔の手が闇を纏う。アスモデウスと同じ闇の魔法だ。それはどんどん膨れ上がって俺を一呑み出来る程までに大きくなった。


「なあ、1つ聞かせて欲しいんだ。何で魔法を教えてくれたんだ?」


俺の問いに焔は答えない。多分、先輩を助けたいって言ったのは本気なんだ、こいつの目的は分からないけど、それだけは言える。

だったら・・・・・・。


「死ね」


巨大な闇が放たれる。俺に逃げ場はない。生きる方法はこれを正面から打ち破るだけ。

なら簡単だ。負けないイメージをすればいいだけなんだから!


迫る闇を思いっきり殴り飛ばす! 俺の手には黒い炎が揺らいでいる。これが俺の1週間の成果。名付けて・・・・・・黒炎だ。


「お前、どこでその魔法を知った」


焔は目を見開いて驚いてる。へへ、ざまあみろだ。これは昨日のトレーニングの成果。お兄さんに徹夜で教えて貰ったんだ。


「圧縮って言うんだっけ? この魔法の使い方。まだ付け焼刃だけどさ、何とか使える様になったぜ」


────魔力は多く使えば使うほど強く、魔法は小さく発現させればさせるほど強い。

昨日の夜、お兄さんはそう教えてくれた。そして手に魔法を宿す方法を習った。

どうだ? 俺はたった1週間で魔法を使える様になった。未完成とはいえ、応用も出来る。少しは強くなれたんだ。

なのに、先輩はずっと目を伏せている。無視されて、拒まれて、自分まで全部拒否してる。


「ふざけんな────ふざけんなよ! 何で諦めるんだ! 戦いたくないんだろ! 殺したくないんだろ! だから人間界で暮らしてたんだろ! それは大きな力で押さえられたら諦める程度の気持ちなのかよ! 違うんだろ。なら諦めるなよ! あんたが、先輩が戦いたくないって言うなら俺が守る。もっと強くなって、先輩を守るから! だから・・・・・・だから────!」

「黙れええええええええ!」


突然焔が叫び突貫してきた! 焔の拳を、蹴りを躱して応戦する。


「お前に何がわかる! 何も知らないお前に、俺達悪魔の何がわかるってんだよ!」


焔の叫びは大きくなっていく。それに連れて猛攻はより激しさを増す。

でも、こっちだって負けてられない! 炎を圧縮して猛攻を受ける。だが焔の魔法はそれを容易く貫いてきて残った片腕を飛ばされた!

無防備になった腹に蹴りがめり込んで壁へと叩きつけられる。全身に走る衝撃が俺の意識を暗転し、闇へと誘う。


「俺達は力が全てなんだ。強い奴が得て、弱い奴が奪われる。諦めるな? 笑わせる。弱い奴が何をしたって無駄なんだよ。何をしたって奪われる。なら、何もせず絶望に身を任せた方が少しはマシな死を迎えられるだろ」


歯を食いしばって消えかける意識を繋ぐ。頑張るのが無駄? それは違うだろ。

視界が暗くなる。でも、意識は冴えていく。周りの呼吸音が、風の音が、焔の敵意。その全てを肌で感じられる。


────迷わなくてもいいんだよ。


凪姉の声が聞こえた。この人に背中を押してもらえるなら何でもできる気がする。

凪姉がそう言うなら、俺はもう迷わない。


「それでも俺は先輩を諦めない。そして、お前も一緒に連れて帰る」


俺の体を黒炎が包んで爆発した。






何が起こったのか分からない。ただ、俺の腕が再生してる。

そして、服が着物に変わっていた。腰には刀が指してある。少しイメージとは違うけど侍のような格好だ。

体が軽い。これなら一気に先輩の所まで行ける。


一瞬、この場にいる誰もが驚きの息を漏らした。当たり前だ。何故かは知らないけど、俺は今先輩の目の前にいる。

誰も認識出来ないほどの速さで俺が動いたんだから。


「先輩、帰りましょう。お父さんが心配してますから」


刀を抜いて先輩の手にかかってる鉄飾りを砕く。ついでに隣にいる御剣のもだ。


「春、あなた・・・・・・」

「すいません。俺もよく分からないんで質問には答えられないんです」


この力が何なのか、一時的か、永久的か。それさえも分からない。ただ、俺の中の何かが切れた。

そんな気がする。


「チッ! 逃がすか!」


焔が炎の剣を手に飛んできた! それを刀で迎え撃つ! 魔法の余波とともに衝撃を周りに散らす得物! 互いに睨み合って焔が言う。


「お前は────お前だけは殺す! 理想を抱き、甘さを与えるお前だけは!」

「俺だって、お前から逃げるつもりはねぇよ! ぶっ飛ばして・・・・・・連れ帰る!」


おと焔は部屋の中を駆け回って剣を、刀を、魔法を、ぶつけ合う!

まだ追いつけない。まだ弱い。さっきの瞬間移動はもうできないのか!?

悪魔になった俺に毛が生えた程度の身体能力が焔には勝てない!


────魔法はイメージだ。お前の力に想いを乗せろ。

声が聞こえた。あの半裸の男の声。そういえば、お前もいたんだっけな!

想いを乗せる。負けたくない思い。俺の今考えてる望みを!


刀に黒炎が宿って焔の炎を飲み込む! まだまだ、魔法に打ち勝っただけじゃ勝てない!

追撃の一撃! 焔の腕を落として切り伏せる!


「チッ! てめぇ!」


残った片手から放たれた魔法を顔面で受けとめて吹っ飛んだ。それでも追撃の手は緩めない!

即座に立て直してまた突っ込む!


「くそっ! いい加減にしろ!」


焔の放った魔法が俺の腹を貫いた。喉に込み上げる血を抑えて笑う。


「やっぱ強いな、焔は。もう少しだと思ったんだけど」


もう、手には刀を持つ力すら入らない。俺を着飾っていた着物も学校の制服へと戻っている。

どうやら俺を強くしていた力も限界らしい。


「何なんだよ、お前は・・・・・・。何で笑えるんだ。死ぬんだぞ! 殺されるんだぞ! それなのにテメェは────!」


口を止めた焔は苦い顔をして舌打ちする。何か思うところがあるのか。俺の腹の炎は消えることなく揺らぐ。


「確かに、死ぬのは嫌だ。でも、だからって全部投げ出して逃げるのはもっと嫌だ。それなら死んだ方がマシだ。それにさ、全部出し切って負けたんだ。しょうがないだろ?」

「そうかよ・・・・・・。なら、殺してやるよ。そして、お前の望みも、願いも全部ぶっ壊してやる」


炎が大きくなって俺の体を飲み込んだ。当然のことだが熱い。でも、涼しくも感じる。不思議だ。この炎を受けてるとまだ戦える気がする。

もっと強くなれる気がする。


「ありがとう。あなたのおかげで目が覚めたわ。私も戦う。もう逃げないから」


突然炎が消えた。そして、後ろから先輩に抱きしめられる。

焔は眉間にシワを寄せて苦虫を噛み潰したような顔をして俺と先輩を睨む。


「今更お前が動いて何になる。遅いんだよ。テメェはいつもいつも! あの時もそうだったろうが!」

「ええ。そうね。あの時も、そして今も私は迷い続けてた。殺すことに怯え、殺されることに恐怖した。でも、同じ状況でもこの子は諦めなかったの。アスモデウスと戦って、あなたと戦って、埋まることのない差を、縮めてみせたわ。それを見て主の私がいつまでも逃げているわけにはいかないでしょう」


先輩の声には力が篭っている。どうやら俺は少しでも力になれたみたいだ。何も出来てない気はするけど、それなら良かった・・・・・・。

それだけで、また力が出てくる。まだ戦える


「先輩。すいません、今は見ててください。焔とは、焔には俺が勝ちたいんです」


先輩の手を握ってまた笑う。先輩は何か言いたそうに、でも黙って俺を離してくれた。

ありがとうございます。焔と対峙して目を閉じる。

魔法はイメージなんだろ。頭に思い描くのはさっきの状態。

来た。また肌が周りを感じ取る。そして誰かの声が聞こえた。


────全力で暴れればいい。


分かってるよ。そんなことは。全力で行くさ。なあ? お前。


『ああ。死ぬ気で勝てよ。じゃねえと俺の腹が収まらねぇ!』

「言われなくても絶対勝つ!」


答える頭の声に答えながら突貫する! それと同時に俺の体を黒炎が包んだ!

抜刀する俺を焔の氷が止めて叫ぶ。


「勝つ? テメェに俺が殺せるかよ!」

「殺せないとしても! お前に膝をつかせることは出来るだろ!」


刀と氷が唾競り合う! 真正面から打ち合っても勝てない。だけど俺程度が思い付く搦手なんてすぐに敗れるだろう。

使えて一回。しかもそこから狙うのは「圧縮」による高威力の魔法だけ。

それさえ決まれば俺でも勝てる。


後ろに飛んで焔と距離を取って刀を投げ付ける! 回転して飛んでいく刀を焔は体を翻して躱す。

────ここ、この一瞬を感じ取れ!


刀と焔が交差する一瞬! そこに突っ込む! 俺に気付いた焔は手に闇を纏う。

俺の顔面めがけて飛び込んでくる拳を身をかがめて避けて床を蹴る! 加速した俺の体は宙を回る刀の目の前へと移動して刀を手に取った。

まだまだ────!


今度は足元めがけて投げる! ジャンプして刀から逃げる焔。また交差する瞬間を見極めて地面を蹴る!

やっぱり俺に気付く焔。勝てないな。でも、これならどうだ?


刀に魔法を放つ! 俺の炎が刀を砕いて鉄の欠片を爆散させた。


「チッ! テメェ!」


炎の爆発と刀の破片が焔の視界を覆って体を傷付ける。ここなら────!


手に黒い炎を圧縮させる。それは炎とは違う形。手を覆い、闇は黒い光となって、小さく、強く、輝きを増す!

焔が爆煙の中を突き抜けてきた! もっと引き付けて、もっと溜めて・・・・・・。


「クッソがああああああああ!」


焔の手に巨大な炎が生み出された! それが一気に小さくなって炎の光となる。

あれが圧縮の完成。だったら今の俺も────!


「絶対負けるかあああああ!」


焔の魔法が迫ってきた。それを横に飛んで避ける!

俺の中で時間が止まった。無防備な焔の体がよく見える。そして、そこまでの最善の道も。


「これで俺の勝ちだ」


焔の腹に魔法をぶち込んだ。

焔の腹にめり込んだ魔法が爆発して部屋の中を覆う。

煙が晴れた部屋に焔が倒れていた。

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