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トレーニング




翌日の昼休み。

俺はまた白い箱の中にいて、トレーニングを開始していた。

昨日とは打って変わって焔は目の前で立っている。実際の所、いきなり戦い始めた昨日がおかしいと思うんだ、俺は。


「違う。イメージをしっかりしろ」

「やってる!」

「やってないから発現しないんだろ。答える暇があるなら集中してやれ」

「集中もしてる! でも出ないんだよ。何が間違えてんだ・・・・・・」


こんなこと焔に言っても分からないだろうな。所詮は俺の問題なんだから。イメージしてるかなんて俺しか分からない。

発現してないんだから焔はやってないって判断するしかないんだ。


1回落ち着こう。目を閉じて炎を頭に思い描く。

ここまでは出来る。当たり前だ。イメージするだけなんだから。これを手から出すイメージ!

手の平に意識を集中させても何も出ない。なんでだ? イメージは出来てると思うんだけど・・・・・・。


────ここに来た悪魔を思い出せ。


突然頭に声が過ぎった。あの男の声だ。アドバイス? 何も分からないけど、やってみるしかない。

俺にとっての悪魔。それはアスモデウス────闇を纏った奴のこと。思い出すだけで腹が立ってくる。俺の無力さが蘇ってくる。

もう、あんなことは二度とやらせない。今度襲ってきた時は勝つ。絶対に!


「やっとか」


焔の呟く声が聞こえた。目を開くと手に炎が灯っている! やっと魔法が使えたんだ。やっと・・・・・・発現した。

でも、なんか普通? 焔のように圧倒的な熱量があるわけじゃない。礼装を通して出した魔法とも違う。

本当にただの炎。それが俺の手の上で揺らめいている。


「これが・・・・・・魔法?」

「ああ。魔法だ。まだまだ弱えけどな」

「でも────」

「もう時間がねえ。さっさと作戦会議やるぞ」


俺の言葉を遮って焔が箱の中から消えた。弱いから? 何か違う。発現させた俺だから分かる。

この魔法は何かが違う。

確かな予感が少しだけ、俺の頭に不安を過ぎらせた。

・・・・・・大丈夫だよな? 何も起こらないよな?

ああ。きっと・・・・・・大丈夫だ。何も起こらせない。


暫くして両手を叩いて焔が言う。


「よし、決まりだ。決行は処刑当日。つまり、6日後だ。いいな?」

「正直、納得はいかないけどしょうがないね。作戦を練る時間も、準備する時間もないんだから。桂木くんもいい?」

「ああ。大丈夫だ! よろしくな、御剣」


俺に振り向いた御剣に答える。結局のところ、これしかない。御剣の言った通り時間が足りなすぎるんだ。

だから、とりあえず修行する。もっと強くなって、もっと・・・・・・。

決行まで6日。俺の修行が始まった。








そして5日の時が過ぎた。決行は明日に迫っている。


「なあ、焔。いよいよ明日だな」


外を見ている焔に声をかけると面焔は倒臭そうに答えた。


「ああ。覚悟は出来てんだろうな?」

「当たり前だ。何とかしないとな。何とかして、先輩を助け出さないと」

「ふん。なら、躊躇うなよ。お前が相手するのは巨大な力だ。お前どころか、俺でさえ勝てない程のな」

「おう。お互い頑張ろうぜ。そして皆で生きて、飯を一緒に食うんだ」

「嫌だよ、面倒臭ぇ」

「なんでだよ。食おうぜ。絶対楽しいって」


「おい、桂木」


焔と話してた俺に声がかけられる。白泉が少しだけ離れた場所で俺を見ていた。

その目には明らかに嫌悪が宿っていて、焔に向けられてることがすぐに分かる。


「どうした? 何かあったのか?」

「バカ、お前。あいつは悪魔だぞ。あんま関わるな」


白泉に近づくと白泉が言った。焔にも聞こえるような声で。多分、白泉に悪気はない。

聞こえてるなんて欠片も思ってないだろう。昨日の理沙の時もだけど、声が大きいんだよな。


「別に。関係なくないか? 確かに焔は悪魔だけどさ。悪い奴じゃないし、クラスメイトだろ」

「そんなん関係あるか。クラスメイトだろうが何だろうが悪魔であることは変わりないだろ。如月が殺されかけたの忘れたのかよ」


忘れるかよ。忘れられるわけないだろ。でもそれは、焔がやったわけじゃない。それに悪魔を否定されると・・・・・・。

俺を無視して白泉は続ける。


「そもそも、悪魔がここにいるのがおかしいんだ。悪魔なら悪魔らしく魔界にいろってんだ。桂木だって言ってだろ? 悪魔は殺さなきゃいけないってさ。だから────」

「悪い。黙ってくれ」


白泉の声を遮って焔の元へ戻る。

なんか不思議だ。白泉の言う通り、俺は悪魔を殺したかった。なのに、今は悪魔に────焔に同情してるんだから。


「なあ、白泉。俺も悪魔なんだ。だからさ、お前の言葉は俺にも当てはまるんだよ。お前が俺を思って言ってくれるのは分かる。でも、なんか分かんないけどムカつくんだ。だから・・・・・・悪い」

「おい、桂木! お前は────」

「悪魔だよ。悪魔になったんだよ。俺は」


それだけ言うと白泉は黙ってしまう。ありがとな、白泉にはいつも助けられてる気がする。

でも、今回ばかりは違う。焔を・・・・・・友達を悪く言うなら、俺は白泉を許さない。


「・・・・・・悪い。言い過ぎた」


白泉が頭を下げる。焔は特に反応する気はないらしい。無視を決め込んでる。

こればかりはしょうがない。悪魔と人間だ。白泉の言ったように恨みもあるし、悪魔にだって色々ある。

分かり合えるなんて・・・・・・思わない。

少しして、焔が鼻を鳴らして言う。


「ふん。くだらねぇ。自分がやったことに罪を感じるなら最初からやるなよ」

「焔! お前もそういうこと言うから────」

「今度は人間の肩を持つのか。お前も中途半端だな。死ぬぞ」

「そういうこと言ってんじゃなくて。ここは人間の世界なんだ。だから────」

「どうでもいい。人間なんざ俺達の餌にしかなれねえ能無しなんだからな」

「なっ・・・・・・。お前もう1度────!」


乾いた破裂音が教室に響く。頬を押さえる焔。そして焔を叩いた桜が叫ぶ。


「ふざけないでください! 戦うことしか、殺すことしか考えてないあなた達に能無しなんて言われたくありません!」

「・・・・・・チッ! とにかく明日、足を引っ張るなよ」


そう言って焔は教室を出ていった。なんか話が変な方向に進んでいく気がする。

俺が余計なことを言ったからか? だとしたら俺が何とかしないと。

自分のやったことの責任くらい自分で取るさ。


「ちょっと待てよ! 色々聞きたいことがあるんだ」


まずは焔だ。

教室を飛び出した。






学校内に焔の姿はなかった。それはさっき下駄箱を見たから確実だ。

じゃあ外だ────って言っても広すぎて探しようがない。

ゲーセン、本屋、遊戯施設。高校生が行きそうな所は全部見た。ちくしょう、どこにいるんだよ!


「お? なーにやってんの、少年!」


いきなり後ろから肩を叩かれた。この声。この仕草。そしてこの神経に触る喋り方。

あいつだ・・・・・・。俺の後ろで笑っている男。神崎始かんざきはじめに言う。


「別に。あんたには関係ないだろ」

「おー、嫌われてるぅ。まっ、気にしないけどね。で、何やってんの? 学生だろ、お前」

「分かってんなら放っといてくれよ。俺はもう、お前の知ってる俺じゃないんだ」

「悪魔になったんだっけ? お前」


神崎の言葉に全身の毛が逆立つ気配を感じる。何で知ってるんだ? そして、知ってて何もしなかった・・・・・・。その意図は?

悪魔を討伐する聖騎士が悪魔だと知ってて黙ってる理由。なんてこと、考えなくても分かる。特にこいつの場合は。


「ああ。でも、だから何? 戦うか?」

「いやいやいや。ちょっと待てよー。戦わない、交渉するだけ」


神崎は楽しみをかみ殺すかのように笑みを浮かべて俺の耳元で────


「上には黙っててやるからさ。俺にお前の女一人くれない?」


そう提案した。蛇のような目。揺れるピアス。その全てが俺の神経を逆撫でる。

こいつは・・・・・・いつもいつも────!


「ふざけんな。お前の言う通りにするくらいなら、戦った方がマシだ」


言い切った俺を神崎が笑う。今度は隠す気がないらしい。盛大に笑い声を上げる。


「ははは! そうきちゃったか。成長したな、嬉しいぜ。でも・・・・・・身の程知らずってのは良くないなぁ」

「身の程知らずかは知らないけど、お前の言うことは絶対にきかない。ろくなことにならないからな」


そう言ってその場を離れる。神崎は俺を笑って見てるだけ。追ってくることはなかった。






気付いたら日は暮れて月が顔を出している。結局焔は見つからなかった。どこにいるんだよ、本当に。

もしかして、この世界にいないんじゃないのか? あいつ、空飛べるし。悪魔の世界に帰ったとかも考えられる。

そうだったら明日に向けてトレーニングしとくべきだった! この一分一秒を大切にしないといけない状況で他人なんて気にかけるんじゃなかったぜ・・・・・・。

帰ろうと背を向けた時、見たことあるような姿が視界に入り込んできた。

紅の髪の人間。それは先輩のようで違う人。特徴的な尻尾を持ってて。ってか先輩の・・・・・・お兄さん?

その人は何かを探してるらしくキョロキョロしてる。そして俺に気付いて微笑んだ。


「やあ、君は確か・・・・・・眷属くんだね」

「春ですよ。桂木春かつらぎはる。眷属なんてふざけた名前じゃないです」

「ははは、そうだったね。ごめん。ところで君は何をしてるんだい? こんな所に用があるのかな」

「こんな所って、住宅街ですよ。人間なんて腐るほどいます。あなたこそ、何で? ここに用なんてないと思いますけど」

「うん。本当は何も用はないんだけどね。ただ、オーガスがお世話になった人間には挨拶したいんだ」


小さく笑うお兄さん。オーガス・・・・・・は先輩のことだよな、確か。ってことは、先輩のお父さん達に会いに行く────ってまずいだろ!

だって、だってさ! お兄さんって蛇の尻尾生えてるんだぜ。絶対バレるって!


「でも、どこだか分からなくてね。眷属くんは分かるかい?」

「いや家の前に尻尾・・・・・・って、あれ?」


お兄さんのお尻に尻尾がない!? さっきまであったのに! なんで・・・・・・?

驚愕した俺を見てお兄さんが自嘲する。


「流石に尻尾があるとまずいからね。隠してるんだ」

「隠せるんですか!?」

「うん。ほら、こうやって腰に巻けば」


お兄さんが服を軽く捲ると腹に蛇が巻き付けてあった! これは・・・・・・なかなか気色悪い。

ゲームで見るようなラミアやナーガとかとは全然違う。蛇の頭が尻尾として付いてるって精神的に辛いものがある・・・・・・。


「ははは・・・・・・、凄いですね。いろんな意味で」

「これで僕も普通の人間として振る舞える。さあ、お父様達に会いに行こうか!」


何故か自信満々のお兄さんに引き攣られて先輩の家へと足を向けた。

先輩がいなくなって一週間。先輩の両親は何を思って、過ごしてるんだろう。

そして、あの人達の前で俺は・・・・・・嘘を貫けるのか。

今の俺には何も分からなかった。

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