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放課後




焔が消えて数十分が経った。青さが戻りつつある草原の中、俺は寝っ転がって空を見上げている。呑気なことをしてる場合じゃないのは分かってる。

でも、俺にだって家があるんだ。そろそろ帰って飯の支度をしないといけない。だけど・・・・・・どうやって帰るのか分からない。

焔は普通に帰ってったから念じれば帰れるのかと思ったけど、そんなことなかった。帰り道があるのかとも思ったけど、それもなかった。


「あー! どうすればいいんだよ!」


叫んでみても何もない。当然だ。誰もいないんだから。だが、暫くして。俺に近付いてくる足音が聞こえた。


「何やってんだ?」


半裸の男が顔を覗き込んでくる。お前かよ・・・・・・。焔が戻ってくるなんてありえないか。そういえば・・・・・・、こいつって魔法を使えるんだよな。だったら帰れるかもしれない!


「ここから出れなくてさ。知ってたら教えて欲しいんだけど」

「知らね。昔ならともかく今の機械は分からねえ」

「だよな。分かるわけないよなぁ。じゃあ一緒に考えようぜ。帰る方法」


半裸の男に笑い、そして考える。帰る方法。あと魔法の使い方を。

暫く時間が経った。多分、30分ぐらい。俺達は未だに草原の真ん中で座り込んで考えている。

念じても駄目。帰り道もない。やっぱり悪魔の魔法じゃないと駄目なのか?

魔法といえば・・・・・・。


「そういえば、お前も魔法なんだっけ?」

「ああ。お前には分からない高度なものだけどな」

「沢山の人の魔力からできた魔法なんだろ? それはもう分かったんだ。でもさ、お前を作った人って俺なの?」


例えば、こいつを作ったってか発現したのが俺だとしたら・・・・・・俺のやる気に影響がある。いい意味で! こんな凄いやつ出せるなら魔法なんて簡単だからな! 何でも出来そうな気がするぜ!

でも、もし違うとしたら・・・・・・。それはそれで楽しそうだ。なんで俺の所に来たのかとか、俺への呪いとか、色々話を聞けるかもしれない。


「また難しい話をさせるんだな、お前は」


男は呟く。難しい話なのか。男の話の時だって混乱気味だったんだ。またあんな話されたら本当にヤバい! 何も理解出来ないかもしれない。


「世界だ」

「・・・・・・はい?」

「俺を生んだものは世界なんだよ」


男の言ったことは俺の想像を遥かに超えるものだった。まったくもって意味が分からん。多分、全部が顔に出てたんだろう。男が嘆息して続ける。


「誰かが死ぬ。誰かが生きる。産まれる。いわゆる「運命」とされることは全て世界の意思なんだ」

「意思? 世界ってことはさ。この星のことだろ? それに意思なんてあるものなのか?」

「ああ、あるぜ。お前みたいなのには神様って言った方が早いだろうな」

「神様とか存在すんの!? 俺達の世界に!?」

「まあな。有名な天照やら月読やら、数え切れない程いっぱいいるぜ」


いっぱいいる。この世界に、この星に。神様がいっぱい! それって凄いことだよな! 折角悪魔になって、色んなものが見えるようになったんだ。会ってみたい。

今は無理でも、いつか・・・・・・。いつか・・・・・・会って、聞いてみたいんだ。その運命ってやつを。俺がどうやって生きて、どうやって死ぬのか。

そして────


「誰かに認めてもらえるのか」

「あ? 何か言ったか?」

「いや、何も。よし! 帰ろうぜ」


両頬を叩いて立ち上がる。考えたって仕方ないんだ。とにかく動いてみよう。

手を前に突き出して目を閉じる。魔法はイメージなんだろ。ここから出るイメージをすれば出れるはずなんだ。

閉じた視界の中に男の声が響く。


「反応しなくていい。ただ、イメージしろ。闇の中の光を。そしてそれを全力で掴め」


真っ暗な世界。そこに一瞬光が灯った。すごく小さくて頼りなくて、でもどこか優しさを感じる。

懐かしさすら覚えるそれに手を伸ばす。もう少しで触れられる。もう少しで────

消えそうな光をしっかりと握りしめる! 柔らかくて温かい。この感触、どこかで感じた。

そう・・・・・・ちょっと前に日向を抱きしめた時に似てるような・・・・・・。

恐る恐る目を開く。晴れた視界に長い金髪が揺れた。


「卵焼き泥棒の次はセクハラ? あなた、私をそんなに怒らせたいのかしら?」


金髪の女生徒────理沙は引きつった笑顔を作る。あぁ、どうやら俺は会ってはいけないタイミングで、会ったら駄目な人にあってしまったらしい。


「あはは・・・・・・。ごめんなさい!」

「あっ! こら、待ちなさい! 逃がさないわよ」


教室を飛び出した俺を理沙が追う。

この後俺に雷が落ちたのは言うまでもないだろう。






月は5月。空は6時を過ぎてもまだ紅く明かりを保っている。校門を出た俺と理沙に誰かが声をかけてきた。


「桂木じゃん。珍しいな、こんな時間まで学校にいるなんて」


俺に喋りかけてくる男子なんて1人しかいない。やっぱり、白泉か。多分部活帰りだ。服が汗でびっしょりになっている。


「焔に魔法を教えて貰ってたんだよ。白泉は今帰り?」

「おう。後輩とファミレス行こうって話してたんだけどな。お前見つけたから来ちまった」

「いやファミレス行けよ。人間関係は大切だぞ。付き合い悪いとか言われ始めたらもう終わりだぞ」

「ははは! 桂木が言うと説得力あるな」


うっせーよ。笑う白泉を小突いてやりたくなったけど我慢だ。多分本気で言ってない。言ってないよな? 信じるぜ、俺は。


「それにしても魔法か。そうだよな。お前、悪魔になったんだもんな」


白泉の目が少し細くなる。体も震えてる。白泉はなんか思うことがある時は言葉に出さないで態度に出す。

白泉なりの優しさなんだろう。俺もだけど言葉に出して何かを伝えるってのは苦手なんだ。

特に慰めるとか、うまく出来た試しがない。だから見守るっていうか、言う前に体が動くっていうか。

何かを言って傷つけるよりは原因を殴って解決させた方がいい。脳筋みたいな考えだ。

でも、こんな所が似てるからこうして付き合えてるんだろう。


「そうそう。悪魔になったの。だから強くならないと」

「ははは、如月を守らないといけないからな」

「別に。日向だけじゃなくて、色んな人を守りたいんだ。そうすれば意味が持てる気がする」

「ふーん。意味ね。力を持つ理由なんて好きな人を守るだけで十分だと思うけどな」

「そういうことじゃないんだよ。よく分かんないけどさ。たまに思うんだ。俺が死んだとして、誰かが悲しむのかなって。もしかしたら喜ぶ人の方が多いんじゃないかって」

「それ、如月達の前で言うなよ」

「・・・・・・分かってるよ、そんなこと」


俺と白泉の会話を理沙は黙って聞いていた。ただ、それは攻めているようにも見える。まだ成長してないのかと、まだあの頃のままなんだって。






暫くして、白泉が肩に手を回して耳打ちをしてくる。


「ところでさ、お前如月とはどこまで行ったわけ?」

「どこまでって。特に何もないけど。結局、告白もしなかったし」

「でもさ、如月も好きだって言ってたじゃん。お前が告れば付き合えるだろ?」


確かに、白泉の言う通りだ。でもそういう問題じゃないんだよ。俺は悪魔になって戦うって決めた。告白するってことは巻き込むかもしれないってことなんだから。

それに俺は・・・・・・。


「もう・・・・・・いいんだよ。なんかどうでも良くなった」

「は? なんだよ、それ。お前────」

「あー! ちょっと用があるんだった。じゃあな!」


白泉の言葉を遮って理沙を連れて走る。

白泉の言いたいことなんてすぐに分かるんだよ。でも、だからと言って飲み込むことは出来ない。

俺は日向を殺したんだ。あれ程守るって決めたのに。約束したのに。出来なかった・・・・・・。

そんな俺に誰かに好きだなんて言える資格なんてない。


突然理沙が俺の手を引いて足を止める。


「待って! どういうこと? 告白って」


息を切らせながら理沙は問うてきた。耳打ちの意味ないじゃないか、白泉!

このことだけは理沙には知られたくなかった。だって理沙は俺が悪魔だって知らない。こいつの前では俺は・・・・・・人間でいられる。

だから────


「別に。何でもない。ほら、帰ろうぜ! 早く帰らないとお父さんに怒られるぞ」


何でもないように誤魔化して、帰路を急ぐ。

悪魔になったことに後悔はない。でも俺は・・・・・・人でいたい。だから少しでも悪魔に繋がる話は避けたいんだ。

多分、俺はまだ迷ってる。全部知らないフリをして逃げたら人間として生きられるかもしれないから。

それが間違ってることも・・・・・・分かってるんだ。

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