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迷いの中で





次の日。全てが終わり、一時的とはいえ平和が戻った。

昨日の戦いなんて忘れたかのように時は流れて昼休みが訪れる。


「おっはよー!」

「日向! 体は大丈夫なんですか?」


教室に駆け込んで来た日向に桜が問う。日向は昨日の内に目を覚まさず、病院に搬送されたんだ。

命に別状はないとは聞いたけど、あんな風に意識を失った日向を皆心配していた。が、日向の様子を見る限り本当に何も無いらしい。


「春くんも、おはよ」

「ああ、おはよう。元気そうで良かったよ」


違う。そうじゃない。俺が言わなくちゃいけないのは安堵の言葉か? 違うだろ。日向は俺を助けようとして死んだんだ。俺のせいで・・・・・・こうなったんだ。

俺の前にいる白泉が弁当をつつきながら日向に言う。


「よ、如月。もう怪我は大丈夫なのか?」

「うん。大丈夫大丈夫。元気が余って仕方がないくらいだよー!」


いつもと変わらない声。変わらない笑顔。変わらない仕草。それが俺の心に突き刺さる。

殺されかけたんだぞ? なのに、なんで普通でいられる。まだ、恨み言を言ってくれた方が、他の奴らと同じように憎しみをぶつけてくれた方がいい。


『それは逃げることと同じだぞ。最も愚かな行為だ』


頭の中に男の声が響いた。それは、誰にも言われたくない言葉。だって────


「そんなこと・・・・・・分かってんだよ!」

「えっ・・・・・・」


しまった・・・・・・。俺の隣には日向がいる。当然男の声は聞こえない。傍から見たら突然騒ぎ出したようにしか見えない。

日向は困ったように笑って手を頭の上に置く。


「あはは、ごめんね。元気なのは見たら分かるよね・・・・・・」

「違う・・・・・・、そうじゃなくて。俺は・・・・・・」


それだけ言い残して俺は教室から駆け出した。







俺の学校は屋上が開放されている。昼休みには多く人が使って賑わい、放課後には告白の場に使われる。そして今も多くの人間が昼飯を食べていた。

そんな中、俺は1人空を見上げて座っている。

何をすればいいのか分からない。悪魔になったのはいい。でも、その後は誰も何もしないし、する気も無いだろう。

火野村先輩も何もしてこなくなった。凪姉は死んだ。悪魔のことを教えてくれる人なんかいない。そもそも、教えてもらおうなんて思ってないのかもしれない。

だって、教えて欲しいなら火野村先輩の所に行けばいいんだから。その気が無い時点で俺は・・・・・・。


「こんな所でご飯? 1人だと寂しくない?」


俺の上で金色の髪が揺れた。その人は俺から少し離れて笑顔で弁当箱を取り出して言う。


「一緒に食べましょう。私も1人なの」

「すいません。俺はもう済んでるんで、1人で食べてください」

「え、そうなの。じゃあ隣で食べるわ」


まるで光を束ねたような金髪。制服の袖口から出る真っ白な肌。突き出した胸と引き締まった腰は制服の上からでも分かる。

他の女生徒と比べて圧倒的とも言える容姿と、誰にでも平等に接する姿勢は生徒どころか教師すら尊敬の念を抱いてしまう。

その生徒会長は俺の隣で腰を下ろして弁当を広げた。


「久しぶりね。まさか同じ学校に通ってたなんて思わなかったわ」

「俺は知ってましたよ。学校見学の時に見かけましたから」

「なら、声をかけてくれれば良かったのに。そしたら色々教えられたわ」

「中学の時と変わりすぎて戸惑ってたんです。それに、自由行動なんてさせてくれないし」


生徒会長を横目で見てため息を吐く。この人とは中学が同じで色々あって知り合ったんだ。もえ二度と会うことはないって思ってたんだけどな。

俺の思いとは裏腹に生徒会長は楽しそうに弁当をつついてる。何が楽しいんだろう? この人は昔からよく分からない。


「ふふ、でも嬉しいわ。覚えていてくれるなんて」

「忘れられるわけないじゃないですか。あんなこと」


思い出したくもない。でも、忘れたらいけない過去昨日の聖騎士────神崎始かんざきはじめがやったことは絶対に許しちゃいけないから。

息を吐いて頭に上ってる血を落ち着かせる。今更何を言ってもしょうがないんだ。

あれは忘れない。あんなこと二度とやらないって決めたから。


「ねぇ、理沙りさ

「何? 卵焼きならあげないわよ」

「いやいらねぇよ。もし・・・・・・もし、理沙が好きな人を傷つけたらどうする?」


生徒会長の手が止まった。顔からは笑顔が消えている。そして、少しの間無言の時が過ぎて理沙が口を開く。


「春が何を聞きたいのか分からないけど。私なら謝るわ。それでも悔いが残るなら身を引くわね」

「ふーん。そうですか」

「好きな人でも出来たの? もしかして・・・・・・あの2人のどっちかかしら?」


生徒会長の顔に笑顔が戻る。いつかの火野村先輩と同じ面白い玩具を見つけたかのような笑み。こいつ、火野村先輩と似てやがる。話すんじゃなかった・・・・・・。

でも、身を引くか。それもいいのかもしれない。俺は悪魔だし、日向は人間だ。これ以上のゴタゴタに巻き込みたくない。


「違う。あの2人はありえねえ。何年一緒にいると思ってんだよ」

「年月は関係ないわ。ずっと一緒にいるからこそ好きだって言えるかもしれないじゃない」

「あー、そうですか。じゃ、俺は用があるんで失礼します」


手元にあった卵焼きを口に運んで理沙に手を振る。だが、その手を理沙に掴まれて俺の歩みが止まった。


「それ、私の卵焼きなんだけど」


理沙の笑顔は吊り上がって声が低い。やっべ、やっちまった。食べてしまったものはしょうがない。ここは素直に────


「逃げる!」


掴まれてない方の手で理沙の手を弾く。そして、身を翻して全力で地面を蹴った!


「あ、こら! 待ちなさい」


駆ける背中に理沙の声が響いた。






「火野村さん? 転校したらしいよ」


火野村先輩の教室に行った俺に先輩のクラスメイトが言う。突然のこと過ぎて意味がわからない。転校って、そんな馬鹿な話があるもんか。だって、それが本当だったら事前に何か言ってくれるはず。昨日だって、また明日って笑ってたんだから。

考えられることとしては聖騎士にバレたから逃げたってこと。でも、先輩なら返り討ちにできるし、そもそも逃げるなら明日なんて言わないだろ。

電話をかけてみても繋がらない。どこ行ったんだよ、あの人。


「俺はこれから、どうすればいいんだ」

「それは、僕が教えてあげるよ、桂木くん」


近づいてきた男は俺を見て微笑んだ。誰だか分からない。話したことも、見たこともない。なんで俺のこと知ってんだ?

柔らかく微笑む優男風のイケメン。髪は短く整っていて、体は細く引き締まってる。

最近俺はイケメンやら美少女によく出会う。火野村先輩や凪姉。こいつとか、あの悪魔2人。聖騎士にもいたよな、イケメン。

どんだけ俺の劣等感を煽ってけば気が済むんだよ、この世界は! 高嶺の花に囲まれろってか! おい!

無言で立ち惚けてる俺を見てイケメンは不思議そうに言う。


「君、悪魔だよね? 来てくれるかな、話があるんだ」


悪魔。その一言で、空気が変わった。こいつは・・・・・・敵か味方か。もしかしたら、また戦わないといけない。

もう、誰も殺させない。ああ、だから────

俺が殺すんだ。

背中を向けて歩き出すイケメンを追って歩き出した。







連れてこられたのは体育館の裏だ。ここは屋上とは対照的に人が全くいない。たまに不良が溜まるのを見るけど、それくらいだ。


イケメンはずっと微笑んでいる。流石に不気味に感じる。警戒はしといた方がいい。

火野村先輩から貰った礼装は回収してある。刀を持ち歩くことは出来ないけど、ベルトとズボンは礼装に変えといたんだ。

下半身に意識を集中させて、発動の準備だけはする。それを感じたのか、イケメンは両手を空に上げた。


「何もしないよ。ほら、何も持ってない。それに、僕は悪魔だ。君の味方だよ、桂木くん」

「悪魔・・・・・・? その証拠は?」

「証拠って言われても・・・・・・。じゃあ、これでどうかな?」


イケメンが指で魔法陣を描く。そして、その中に腕を突っ込んで剣を取り出した! 俺の刀とは違う。両刃の剣だ。魔法陣ってあんなことも出来るんだ・・・・・・。すげえ。


「僕の武器は剣。西洋でよく見るやつだね。火野村先輩から聞いてなかったのかな? 昨日も戦ったんだけど」

「昨日? そういえば! 助っ人がいるって言ってたっけ? もしかしてそれが────」

「うん、僕だよ。出来るだけ君に姿を見せないように戦えって言われたからね。知らないのも無理ないけど・・・・・・、まさか敵だと思われるとは思わなかったかな」

「ごめん。悪魔が火野村先輩以外にいるとは思ってなかったからさ。神経質になってた」


全身の力を抜いて笑顔を作る。先輩の他に悪魔がいた事にはびっくりだ。でも、少しだけ良かったと思える。俺1人じゃないんだから。


「じゃあ自己紹介だね。僕の名前は御剣悠みつるぎゆう。僕も君と同じで転生したんだ。もう8年前になるかな」

「御剣・・・・・・。御剣って! もしかしてあの御剣か!?」

「う、うん。まあね。よく分からないけど、噂されてるよね。僕」


同じクラスではないけど、よく話には聞く。隣のクラスにイケメンがいるって。手を出した女子は数知れず。食っては捨てを繰り返す男子の敵! それが御剣悠。

初めて見たけどこんな奴だったのか。


「へぇ、確かにこれなら騙せるな。神様ってのは不平等過ぎるぜ、ほんと」

「えっと、一応言うけど。噂の大半は嘘だよ。僕、誰とも付き合ったことないからね」

「・・・・・・えっ? じゃ、じゃあ100人抜きとかは?」

「桂木くんって、意外と馬鹿なのかな? 噂にコロコロ流されるのは良くないことだよ」


ば、馬鹿って言いやがった! イケメンのクセに! 人を馬鹿にしていいのかよ! はあ、人の事言えねえや。俺も似たような状況だし。なんか気持ち分かるぜ、イケメン。


「うっせー。気を取り直して、俺の番だな。名前は桂木春。昨日か一昨日か悪魔になったばかりの新人だ。よろしくな」

「うん、よろしくね。じゃあ早速なんだけど大事な話をするよ。これからの僕達の方針について」

「方針? やることってことか?」

「うん。僕達は悪魔だ。だからね、聖騎士には見つからないようにしないといけない。つまり、どうやって身を隠すかを話し合うんだ」

「ちょっと待てよ。それは火野村先輩を混ぜた方が良くないか? 先輩も悪魔なんだから」

「火野村先輩はもういないんだ」

「えっ?」

「火野村先輩は・・・・・・魔界に帰ったんだよ」


御剣が放った言葉は俺の心に深く刺さり、いつまでも残り続けた。

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